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Face of the Surface (小説版)  作者: 悟飯 粒
彼らは新人類編
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史上最低のスタートライン

登場人物

飯田(いいだ)狩虎(かこ):あだ名はミフィー君。主人公?

・イリナ:最強の勇者。主人公。

黒垓(くろがい)白始(はくし):王様の護衛部隊、ガーディアンフォースのひとり。一人称はオラ。オーラ!

 今日俺が学んだことは魔物に聖剣を持たせてはいけないということだった。めくれあがり上下が反転した大地を走りながら俺は真剣に思う。ビルのように大地に直角に突き刺さる岩盤、白色の雲が浮かぶ青色の空とその上にある地平線………空中にできた白色の足場を蹴飛ばし魔剣を引き抜き、俺は今回の事件の元凶に斬りかかった。



 ~1時間前~


 「俺達を正式に部隊化したいなって思うんだよね」


 ようやく温まってきた身体の芯。しかし末端冷え性の俺は両手を強く揉み込み真の暖かさを得ようと努める。俺あれなんだよね、末端冷え性どころか低血圧だから平温が低いんだよね。35.8°cとかそこらへん。炎使えるのにね。


 「そしてカースクルセイドを倒す最先端部隊として活動したいわけ。その方が重要度の高い情報や任務をもらえるじゃん?」

 「はぁ、そうっすか」


 焚き火でマシュマロを焼きながら、黒垓君は気の抜けた返事をした。


 「そっすかじゃないよ!黒垓君ならそういう無理が通ると思ったから言ってるんだよ!協力してよ!」

 「確かにオラは王様を守る部隊の1人っすよ。大切な人員なのは間違いない。オラほどの逸材はそうそういないと断言できる。最高に天才っすからね」


 そこまで褒めてないけどね。一人称がオラのくせにかしこぶってんじゃないよ。チンに改めな。


 「しかし飯田さんとかいう激烈なお荷物がいる部隊を最重要部隊に推薦できるほどじゃあないっすよ。飯田さんの評価、マイナス5億万とかそれぐらいなんすから」

 「…………いやもう俺あれよ、マジで天才だから。俺以上の理解力ある人間とかそうそういないよ。人を思いやる気持ちも半端ないし………今世紀俺を超える人間とか現れるはずないから」

 「一人称が俺のくせに天才ぶるのやめた方がいいっすよ。ダサすぎ。吾輩とかそこら辺にしないと」

 「吾輩は猫である。名前は狩虎である」

 「虎なのか猫なのかはっきりして」

 「ウサギです」

 「なんなんだお前」


 俺はイリナをガン見する。


 「……………」

 「……………」

 「………その無茶振りやめない?」

 「キライ」


 俺は今度は素足になって、両足の指の隙間に手の指を入れてモミモミする。あーー血が流れてるのがよくわかるぅ。


 「てかイリナの権力もあったらなんとかなるでしょ。君達2人でどうにかしてよ」

 「私はこの勇者領の平民全てから慕われていると言っても過言ではないよ」

 「うん、そう思うよ」

 「その平民全てがミフィー君のことを嫌ってるんだよね」

 「何かの間違いじゃない?だって俺、カイを殺してイリナを絶望のどん底に叩き落としただけだし」

 「そして青ローブを殺したように見せて実は生かしていたっての忘れてるっすよ」

 「あちゃーーっ。じゃあ嫌われても仕方ないかぁ!あっはっはっ!」


 うーん、完璧に俺が足を引っ張ってるな。こんなにやる気が出てきたというのに、俺の周り全てがそれを否定してくる。なに、全て自業自得だって?はははっ!間違いない。


 「ひとまず、飯田さんの願いを叶えるのに必要なのは実績っすかね。あんたが今まで残した実績教えましょうか?」

 「いや遠慮しとく」

 「カイの殺害、偽炎帝と昴の取り逃がし、青ローブの取り逃がし、サミエルの取り逃がしっすよ」

 「なーんだなんも手に入れてないやん」

 「批判はちゃんと集めてるよ」


 よくよく考えると俺の状況やばいな。わがまま通すにはそれ相応の危険を冒さなければ話にならない………ちょっと考えを改めるか。


 「じゃああれだ、俺が素晴らしい人間だということを理解してもらう為に街角に立ってボランティアをしよう!」

 「えーーボランティアとかって自分の評価をあげるための点数稼ぎの行動でしかないよ。やめた方がいいよミフィー君」

 「本当いつも思うけどイリナって性格腐ってるよな、希望の象徴とか言われてるくせに」

 「無償の慈善活動で世界を変えられるわけがないもん。本当に本当に必要なことはお金や命、全てをかけなきゃ何かを変えることなんてできない。それをわかってない連中を使い潰すのがボランティアって活動なんだよ。あれは金儲けを考える強欲人間の隠れ蓑でしかない。わかってる人はそんなものに頼らない」

 「だから自分は身体を張って敵を倒していると?」

 「イエス。力のない人間の寄せ集めがボランティア。力のある人間の行動は正義。それだけだよ」


 こいつはなぁ………言いたいことはなんとなく分かるけれど、世の中は力のない人間が大半じゃないか。そんな力のない彼らでも悪平等を変えたいって頑張ってるのに…………まぁ、慈善事業やソーシャルビジネスの立場が向上してきた現代で、ボランティアに甘んじるのは最善策ではないのかもしれない。そういう部分を見るとあながち間違いではないのだろう。


 「………じゃあ金でも配るか」

 「それはそれでまずいっすよ」

 「ぬわぁぁあああ!!!いままで人の為になるようなことをしてこなかったからどうすればいいかわからねぇ!!!」

 「人として最低だよミフィー君………ボランティアの次に金のばらまきを考えるなんて、ロビンフッドもビックリだよ」

 「え?よく俺が勇者領から金を盗んでばら撒こうとしてたのわかったな」

 「私もビックリだよ………」


 と、とにかく!何か行動しなければ何も始まらない!ひとまず勇者領の中心地に向かい何かするぞ!俺達は黒垓君のワープ能力を使って中心地、キープタウンへと向かった。



 「それじゃあ今から飯田狩虎をバラバラに切り裂いて殺しまーす」

 「ねぇちょっと待って!?」

 「なんすか飯田さん。今いいところなんだから黙っててくださいよ」

 「黙ってたらこのまま死ぬだろ!ふざけるなよ!」


 ロープでぐるぐる巻きにした俺に剣を突き刺そうとする黒垓君を止めて俺はジタバタする。


 「飯田さんができる誰かの為になる行動なんて死ぬことだけっすよ」

 「悪辣!いやわかるよ!?俺もその結論に辿り着くぐらいには自分に期待はしてないよ!?でもそこはもうちょっと別方法模索してよ!もしかしたらワンチャンいい善行できるかもしれないじゃん!」

 「えーー無理っすよ。さっきの会話を聞いた感じ、飯田さんに期待しちゃあいけないってわかりましたもん。何も言わずに死にましょう?それが世のためですって」

 「いやだーー!!こんな死に方やだー!もっとドラマチックに死にたーーい!」

 「そのセリフ2度目っすよ。もっと語彙力上げないとやってられないんで頑張ってください」

 「圧倒的で劇的に死にたーーいい!!」

 「変わってないんだよなぁ」


 魔剣の能力で黒垓君と位置を交換し、ロープに拘束されている彼を見下ろす。


 「………………」

 「………………」


 俺は無言で魔剣を引き抜いた。しかしいつのまにか脱出していた黒垓君が、俺の背後にある建物の屋根の上に立っていた。相変わらず神出鬼没だなぁ。ワープ能力にしても、彼の場合はかなり特殊そうだ。


 「じゃあこうしましょう。ここで何でも解決屋を無償で開いて、みんなの悩みを解決したらどうっすか。少しは評判が上がりますよ」

 「えー金にならない労働はちょっと」

 「今の飯田さんにとやかく言えるほどの権限はないっすよ」

 「あっ、はい…………」


 いつのまにか俺の背後に立ち剣を突きつけてくる彼に反論することができなかった俺は、何でも屋をすることになってしまった。




 「心優しい魔王様がみんなの問題解決しちゃいますよー。どうですか、使ってみませんか何でも屋ー」


 気の抜けた声で集客を続けるが、案の定、人は寄ってこない。そりゃあそうだ俺だって近づきたくないもんこんな胡散臭い何でも屋。


 「もっといい感じのキャッチコピーを考えた方がいいよ。心優しい魔王様とか詐欺の匂いプンプンだよ」


 頬杖ついて道路を眺めるイリナがイラつきながら言った。


 「……魔王様がなんでも破壊するよー」

 「詐欺じゃないけどそれただの何でも壊し屋なんだよね。もうちょっと人助けになりそうな雰囲気出してよ」

 「魔王様が死ぬよー」

 「いいんじゃない?」

 「俺を助けてくれないかなだれか」


 困ってることをなんでも解決するって言ったってなぁ。範囲が広すぎるせいでお客さん来づらいよな。もうちょっとサービスの範囲を限定して顧客を絞るか。


 「無料でご飯温めるよー」

 「え、スッゴイダサいんだけど………」

 「言っとくけど電子レンジと同じ原理でご飯温められるからな。食べ物ない?」

 「はい、サルミアッキ」


 黒垓君がサルミアッキを手渡してきた。なんでこんなの持ってんの彼………


 「サルミアッキ温めても美味しくないじゃん。温めたら美味しくなる奴くれよ、肉とか、米とか」

 「はい猿の脳みそ」

 「もうちょっとなんとかならない?」

 「はいシュールストレミング」

 「もうちょっと身近な奴………」

 「クマの手」

 「珍味以外で頼んます………」

 「えーー…………あともう、シャケのおにぎりしかないっすよ」

 「人はこれをパーフェクトと呼ぶ」


 取り出されたおにぎりを貰い、俺は両手でそれを包んだ。そして3秒後、手を開くとそこには湯気が立つおにぎりが!


 「水素を動かすことで中から、炎の熱で外からじんわり温められるからホッカホカよ。はい黒垓君」

 「はぇー超便利。よっ!我らが台所!」

 「炎の魔術師の異名は伊達じゃないぜ」

 「私その異名初めて聞いたんだけど」

 「俺も初めて言った」


 黒垓君ががドンドン出してくれるおにぎりを温め、焚き火でマシュマロを大量に焼いていく。甘いいい匂いだ。いいマシュマロ買ってるじゃん黒垓君。ゲテモノばっかり持ってるくせに。


 「………これならあれができるな、フリーコーヒーのおにぎり版」

 「なんすかフリーコーヒーって」


 おにぎりを食べながらコップを取り出し魔力で水を生み出すと一口で飲み干した。


 「無料でコーヒーを配ることで人が集まり、彼らと会話をしたりしなかったりする。それだけ。たったのそれだけ」

 「えぇぇ………なんか意味あるの?」

 「さぁ?」


 ある程度の想像はできる。相手に思いやりをあげるだとか、なんだとか。しかしこんな草の根活動で何かを変えることはできるのだろうかね?俺は疑問だよ。


 「やってみようぜ。フリーおにぎり」

 「やるって言うけどさ、ここ、屋台も何もないよ。机とかも全然」

 「黒垓君の魔力で持って来れるでしょ」

 「盗んでいいならなんでも出せますよ」

 「…………どっかから借りるか」


 俺は近くのお店に入って店員さんに聞いてみる。案の定ダメだって言われて追い出された。他のお店の人に聞いてみても、やっぱりダメだって言われて追い出される。まぁこれが普通だわな、お店の備品もちゃんとした資本なわけだしね。こんなぶっ壊してばっかりの魔王に貸す奴なんてどうかしてる。


 「………私が聞いてこようか?」

 「いや、いいよ。そうしてフリーおにぎりやっても俺が楽しめない」


 この活動の一番の醍醐味は地道にやることだ。有名人を利用してズルするのは面白くない。俺はめげずにいろんな店に掛け合って机を借りれるように交渉を続ける。


 「…………なんていうか、ミフィー君って変わってるよね」


 狩虎が掛け合っているのを眺めながらイリナが呟いた。


 「…………彼らしいっすけどね」


 マシュマロを頬張り、口を窄めて熱気を放出し、水を飲んだ後に黒垓は言った。


 「認められる為にちょっとずつ努力するのに慣れているんすよ、飯田さん」

 「そ、そうなの?」

 「ん?あーー…………多分ね。所作を見るとそんな感じじゃないっすか」


 たしかに狩虎は人に謝り慣れている。目上の人にヘコヘコするのも板についている。魔王だとは思えない腰の低さだ。

 しかし彼の交渉が身を結んだのだろうか、ニコニコ笑いながら、狩虎はボロッボロの机を持ってきた。


 「喫茶店のお爺さんが捨てる予定の机をくれた!」

 「すっごいボロボロじゃん…………そこら辺の枯れ木を組み立てたって言われても信じるよこれ」

 「ばかやろう、これが良いんじゃないかこれが。綺麗な机で無料のおにぎり配ったら怪しさ満点だろ?これくらいの方が丁度いいんだ」


 俺は机をテキトウな場所におき、フリーおにぎりと書いた紙をそこら辺の壁に張っつけた。近くには温かな焚き火と、それを焼くためのマシュマロを据え置きする。


 「おにぎりとマシュマロ配ってまーす。暇なら来てくださーい」


 10分待っても誰も来ない。そりゃあまぁ、怪しいわなぁ。俺はおにぎりを食べながら街路を眺めた。人々が歩いている。時間の流れにしがみつこうと必死に。彼らは前だけを見ていて、街路の端にある俺らなんて目に入ってすらいない。人の気を留めるっていうのはかなり難しい作業だ。


 「おにぎりくださーい!」


 しかし子供っていうのは周りをたくさん見てるよなぁ。偏見もないから、こんな怪しい場所にも来てくれる。子供3人がお店に立ち寄り大声で言ってきた。


 「はーーい、ちょっと待ってねー」


 俺は両手でおにぎりを温め手渡す。


 「一応水も置いとくよー」


 無我夢中におにぎりを食べながら互いに笑い合う子供達。…………俺が子供の時もこんな感じだったのかなぁ。泣いてる時しか記憶にないや。


 「お母さんやお父さんはどうしたの?今は君達だけで遊んでるの?」

 「うん!ルイ達はここで遊んでるの!」


 ポニーテールの女の子、この中で1番年上なのかな?ルイちゃんは笑っていた。


 「パパとママは今仕事なの!魔物退治だって!」

 「へーー!勇者なのパパとママは!」

 「うん!ルイもいつか勇者になりたい!」

 「なれるさルイちゃんなら。はいマシュマロ」

 「ありがと!」


 マシュマロを焼いている子供達を眺めながら俺は考える。この世界の子供に1番人気の職業は勇者なんだろうな。悪を倒すんだからそりゃあそうか。ヒーローだもんなぁ。


 「………実は俺さ、教師とかに結構興味あったんだよね」

 「………君が?」

 「うん。似合わないだろ?」

 「最高に」


 恥ずかしさを紛らわす為に俺は水を一杯飲んだ。喉から胃へと冷たいものが流れていくのを感じた。


 「世の中の教師の大半はバカで、子供の頃に遊び呆けていたから本当の学びかたを理解できていない。………そんな奴らが大切な子供の将来に関わろうとしてるんだぜ?それなら俺が教師やった方がまだマシだなっておもったのよ」

 「真面目だねぇ。………でも今は興味ないんでしょ?」

 「ないねぇ。だって給料安いし、休日少ないし、朝早いんだもん。学校はバカな大人を閉じ込めるための牢屋だと俺は切実に思っている」


 教師やるぐらいなら普通の企業に就職するよね。それか予備校の教師になって知名度あげて荒稼ぎとか?とにかく、薄給の公務員になる気にはなれないなぁ。


 「昔っからそんなこと考えてたの君」

 「そりゃあなぁ。大切な俺の将来だし」

 「ぷっ、君が将来を語るなんて変な話だよね」

 「ちゃんと自分の過去に向き合ってるから将来を語れるんだよ。………で、イリナは?将来これになるとかってのあるの?」


 イリナは持っていたマシュマロを口に放り投げ、何度か咀嚼した後に呑み込んだ。そして空を眺め……一言。


 「ないなぁ。私が何になりたいのか私には分からないの」

 「………そっか。まぁ、俺を殺したら分かるようになるんじゃないかな。俺のせいで行き詰まってるだけなんだからさ」

 「君を殺したぐらいで私の進路が決まったら世話ないよ」

 「いやほら、俺は人を導くのが得意だからさ」

 「死にたがりの言葉じゃないよ」


 イリナはニコニコと笑いながらマシュマロを口に入れた。


 「………そうだユピテルさん連れてこようぜ。黒垓君扉出してよ」

 「約束もしてないのに勝手に呼び出したら迷惑じゃないっすか?」

 「魔王は人の迷惑を考えないのです。ほらほら出してよ」

 「まぁ………飯田さんが怒られてもいいのなら………」


 黒垓君は渋々扉を作り出して中に消えていった。そして10秒後、ユピテルさんと一緒に出てきた。


 「………常識を欠いたやつだ。殺されたいのか」

 「まぁそれは認めるんですけど、子供達の面倒を見て貰いたいなって思いまして」

 「子供?………わっ!」


 おにぎりとマシュマロを食べていた子供達がユピテルさんに抱きついた。


 「俺とイリナはこれからちょっと用事があるんで、その間に子供達の相手してあげてください」

 「お、おい待て!流石に無責任だろ!」

 「そりゃあまぁ魔王ですからね。無責任の極みですよ。後は任せました!」


 俺は黒垓君が作り出した白色の扉を通り別の場所に飛んでいった。

た、たのしぃ………

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