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Face of the Surface (小説版)  作者: 悟飯 粒
彼らは新人類編
28/92

ランドセルで笛を吹く

登場人物

飯田(いいだ)狩虎(かこ):あだ名はミフィー君。主人公的な立場。イリナに殺されたい。

・イリナ:最強の勇者。狩虎との接し方が分からない。

翔石(かけいし)飛也(とびなり):飛也君。生徒会の書記をしている1年生。チビメガネの知識王。

原田(はらだ)(ゆき):雪さん。生徒会の会計をしているチビ白髪。言葉数が少ない。

雫石(しずくいし)颯太(そうた):狩虎を監視している。

 「まぁひとまずだ、[ラーメン]と[焼きそば]から考えるか。そっちの方が楽だし」


 宏美が頬杖を突きながら言った。俺を無力化したからって余裕こきやがって。


 「[ラーメン]か[焼きそば]…………どっちがお題かによって結構考え方は変わってきますよ」

 「[焼きそば]だと屋台関連の料理名がでてきそうですもんね。[お好み焼き]とか[味噌おでん]、[わたあめ]もいけます」


 イリナが挙げた例を聞いているとお腹が減ってくるな………


 「……………私は好きです、これ」


 ようやくワードウルフとしてまともな事を言ってくれたのはありがたいんだけど、言ったのが雪さんじゃあなぁ。雪さんが何を好きなのか全然分からん。ミステリアスすぎるのよ。


 「私は餡がかかってる方が好きかなぁ」

 「あんかけ焼きそば!?」「餡掛けラーメンかもしれないだろ?」

 「じゃあ会長は焼きそばですかね?すぐに焼きそばって言ったわけですし」

 「いや普通、餡って言われたらあんかけ焼きそばでしょ!世間一般的に!」

 「え、でもそれ貴方の感想ですよね?データとかないですよね?」

 「うっぜー!!翔石君のひろ○きモノマネうぜー!!かけゆきやめろ!!」

 「こなぁああああ!!!」

 「ゆかないぃぃい!!!」

 「こなゆかないってなんだよ」

 「いや、変な方向に行きそうだったから」


 粉雪キャンセルをした俺は、一度深呼吸をしてからみんなを落ち着かせた。


 「いいか?俺の事前情報はひとまず忘れて、普通にワードウルフをしよう。自分のお題について一言ずつ言っていかない?」

 「いいよー。………私的にはこれを屋台で見たことはないかなぁ」

 「あっ、私もです。そういう地域とかもあるんでしょうけれど、私には馴染みがないですね」

 「僕も見たことないです」

 「…………私も」

 「俺もないです!」


 じゃあ十中八九[ラーメン]と[なにか]だな。そして俺のお題が[ラーメン]だと確定してしまったわけだ。スッポンポンも良いところだ。これでどうやって勝てって言うんだよ。


 「………………」


 しかしここから進まない話し合い。それもそのはずだ、多数派が[ラーメン]だと確定した瞬間に少数派は潜伏ができるのだから。


 「………だから言ったじゃん、やめようって」

 「だからといってここでテキトウに辞めたらつまらないだろ?なんとかして少数派を炙り出すぞ。今までの会話からな」


 …………いや、壊滅的だろこれ。話し合いじゃないからね?どこに粉雪キャンセルする話し合いがあるんだよ。ただ騒いでふざけてただけの無意味な時間だからね?


 「…………あれ?」


 閃いてしまったぞ。もしかして………いや、そんなことある?マジ?いや………え?


 「どうした狩虎」

 「…………なぁ、少数派を見つけるまでこれ続けるつもりなんだよな?」

 「そうだぞ」

 「…………やめね?多分一生出てこないぞ」

 「はぁなんでだよ。話し合いを続ければもしかしたら…………」

 「いやだって、多分俺だもん、少数派」


 考えればわかるというか…………うーーん、どう言えばいいんだろう。


 「俺が[ラーメン]か[焼きそば]かの2択になった時のみんなの挙動がおかしかったんだよ。いや確かにね?俺の情報を無視して大量にある選択肢から選ぶよりも、2択から絞る方が合理的だから、皆が2択に走ったって考え方は分かるのよ。よく分かる。でももし俺が多数派ならさ、皆んながそっちを選択する意味がないのよ。言ってる意味わかる?」

 「…………なんとなく?」


 まぁ分からんよな。順を追って説明しようか。


 「もし別の人と同じお題だって分かったらメチャクチャ嬉しいじゃん。多数派の可能性がグッと上がるんだからさ。ただ、俺が少数派の可能性も捨てきれないから安易に[同じお題です!]って言うことはできない。………そこまではわかるよな?」

 「当然だな」

 「んでだ、ここからが難しいんだけど………みんなさ、[ラーメン]と[焼きそば]以外のお題を積極的に探しに行かなかっただろ」

 「…………あーーなるほどな」


 宏美は理解してくれたようだ。腕を組みながら唸っていた。


 「つまり俺のお題を探る方に注力したんだ。俺と同じお題なら探る必要はないのに、あえて皆んなそうしたわけじゃ?なんでだと思う?そりゃあ決まってる、同じお題じゃないからさ」

 「で、でも、別のお題の人達を混乱させるためにあえてそういう演技をしたのかもしれないじゃないですか。自分が[ラーメン]だと知られずに、[なにか]を炙り出すために」


 イリナの言い分もわかる。俺だって最初はそう思った。どっちが多数派で少数派なのかを悟られないためのフェイク!でもなぁ。


 「それこそが決め手なんだよ。イリナの考えを俺はよくわかる。そしてきっと宏美も、翔石君も、雪さんも………ここまで言えばわかるだろ?」


 俺はゆっくりと息を吸った後に目を細めた。


 「みんながみんな、[ラーメン]か[焼きそば]かを探る動きを見て、[少数派を炙り出すために動いてるぞ]って思ったんじゃあないかな。このワードウルフってゲームを論理的に考えると、片方のお題だけを探る行動ってほとんど無意味だからさ。その違和感を感じ取ったんだろう」


 これが俺の意見だ。まとめるとこう。

 俺のお題と自分のお題が違うことを理解したみんなは、まず自分が少数派である可能性を考慮して俺のお題を深掘り。もし自分が少数派だった場合に多数派のふりをできるようにするためだ。しかしみんなが同じ動きをするから、多数派[ラーメンor焼きそば]が少数派[なにか]を炙り出そうとしていると思い至り鞍替えをした………ってところか。


 「考え方としてはとても面白いな」

 「ですね、悪くないと思いますよ」

 「確かに納得できますね」


 皆んなが頷く。


 「………じゃあ、答え合わせでもするか」


 そしてみんなが口を揃えて自分のお題を言った。


 「ラーメン」「ラーメン」「ソーメン」「ラーメン」「ソーメン」「ラーメン」


 あらーー、ラーメンが多数派だったかぁ。推理が外れちゃったなぁ。


 「へぇ、私と雫石さんが少数派だったんですか。全然分かりませんでしたね」


 そして驚くイリナ。今回は変則的だったのもあるけれど、かなりおかしかったからなぁ。驚くのも無理はない。


 「狩虎の推理は当たってそうだったけどなぁ」

 「まぁこればっかりは運なところあるよね。情報が少なすぎたし」


 それにこのゲームをさっさと終わらせたかったから、お題を開示したくなるような推理を披露したのだ。俺の目的からすれば当たっていようが外れていようがどうでも良い。


 「そもそも根本的な話、多数派と少数派を選別することが一切できなかったのが痛すぎるんだよ。………みんな用心しすぎ!もっと気楽に遊べよ!騙し合いじゃなくてさ、嘘をつかずに互いにギリギリを攻めた質問しろよ!」

 「お前のせいでそれができなかったんだぞ」

 「……………よし!次行こうぜ次!」


 そんなこんなでワードウルフは続いた。俺がランドセルを背負ったままプールで泳いだり、わたあめで射的をするイリナ、盆栽を金庫代わりに使う雪さんなど、奇想天外の連続で面白かったよ、うん。



 「……………疲れた」


 俺はトイレで放尿しながら放心していた。魂が尿と一緒に出て行ってるみたいだ。


 「魔王様は…………今回のワードウルフを見ていて思ったんですけど、怖いですね」


 雫石君が俺の隣に来てションベンをする。


 「少ない材料から推論を作り出しみんなを納得させる。しかもそれは事実とは異なっていると………これってとても怖いですよ。あなた、嘘をつくのが得意なんじゃあないですか」

 「いやいや、俺はいつも嘘ついたらすぐバレるから。あれは推理しただけで、それも外れたっていうただのそれだけさ。ミステリー小説なら売れずに消えてるよ」

 「本当ですかね?」

 「さぁ?俺の知ったこっちゃない」


 俺はチャックを上げると水面台で手を洗う。


 「俺を危険視するのはよくわかるけれど、俺は何もしないよ。勇者を脅かすつもりは一切ない。ただイリナに殺されるためだけに潜り込んだだけさ」

 「…………信じられると思ってるんですか?その言い分」

 「さぁ?俺の知ったこっちゃない。………人を信じるのも疑うのも、結局はそいつ本人の問題だからね。俺がどうこうしたって意味はないさ」


 俺はトイレを後にする。水が滴り落ち、ピチャンと音が鳴った。



 〜表面世界〜


 「勇者の失踪ったってねぇ」


 俺とイリナはあてもなく歩いていた。そりゃあそうだ、どうやって調べればいいのか本当にわからないのだもの。この勇者領全域で失踪が起きてるっつーことはだ、走り回るのは労力の無駄だし、かといって調べるアテもない。正直詰みです。


 「先に言っとくけど、今回の事件にあんたが関わってたらカースクルセイドとか関係なく殺すからね」


 気だるそうにイリナが言う。


 「あのなぁ………俺は勇者領と敵対するつもりなんてないから。戦うの面倒くさいし、怪我とか嫌だし」

 「…………よくそんな考え方で魔族の王やってるよね」

 「魔族だからって常に世界侵略考えてると思うなよ。漫画やアニメの敵が平和な脅かすのは、自分達にとってより良い環境にするためだけなんだからな。ようはクオリティーオブライフ、QOLの向上を目指してるだけ。サラリーマンがホワイト企業に転職するのを目指すのと一緒よ」

 「流石にテキトウすぎない?」

 「俺からすれば大体同じ。どうでもいい」

 「あーーうん、あんたらしいね」


 俺達はただただ歩く。どうしたもんかなぁ。


 「………さっきの話なんだけどさ」

 「なに?ホワイト企業に就職したいのあんた?」

 「そりゃあ就職したいけれど、それとは別。もっと前だ。…………[カースクルセイドとか関係なく殺す]ってところ」


 その言葉にイリナが立ち止まった。しかし俺は止まることなく歩き続ける。


 「他の奴らに殺されるのだけは避けるが、もしイリナ………お前が俺を殺したくなったのならいつでも殺していいぞ。有耶無耶にすることなく、その殺意を純粋に俺に向けてくれ」

 「…………わかった」


 そして歩き始めたイリナは俺に追いついた。


 「思ったんだけどさ、なんで君はそんなに死にたいの?」

 「ん?んーー…………難しい話だな」


 俺は首を傾げた。自身のまだわからない気持ちを言語化する為に、頭を傾けて捻り出す。しかし頭を傾けた程度で出てくるのならば誰も苦労しない。今度は逆に首を傾げて情報を捻り出す。


 「俺は合理的に物事を判断しすぎるんだと思う。俺が死んだ方が世界が幸せになるのなら、まぁ、死んでも良いかなって…………それだけなんじゃないかなぁ」


 多分、俺は自分の人生に絶望しているのだろう。イマイチ生きる意味を見出せていない。自分も他人も客観視……死の平等性をそのまま受け入れてしまっているのだ。


 「…………寂しすぎない?そんな人生」

 「それが寂しいのかどうかも俺には判断がし難いんだ。どっかに心を置いてきたのかもな」


 だから俺は自分の身体を破壊しながら攻撃ができるのだと思う。敵を倒せるのならば腕だって喜んで切られるし、敵を凌駕するための速度を得る為なら脚だって犠牲にする。心があったらこんなことはできないだろうなぁ。


 「なーーにしけた話してんすか」


 俺とイリナの間に白色の扉が発生し中から黒垓君が出てきた。


 「黒垓君じゃーん。久しぶり!」

 「オラも会いたかったっすよーか、狩虎さーん」


 俺と黒垓君は肩を組んで拳を合わせる。


 「君達ってそんなに仲良かったっけ?」

 「全然」「ノリでやりました」


 俺達は離れると会話を始める。


 「で、どうしたの黒垓君。俺絡みでなんかあったの?」

 「よくわかったっすね。狩虎さんに関係した問題が起きてるので、それのご報告に来ました」


 まぁ十中八九俺だってわかるよね。だってこの勇者領に問題を持ち込んでるのは俺なんだからさ。元凶よ俺。


 「えーっとですね。狩虎さんを味方に引き入れるのを全力で反対する派閥ができちゃいまして、そいつらに命を狙われているので気をつけてください」

 「それぐらいなら別に良いよ。予測できてたし」

 「そいつらが懸賞金もかけたらしいっすよ」

 「それも大丈夫、想定内」

 「その派閥の一員がオラなんすよ」

 「それはちょっと予想外かなー」


 しかし黒垓君は戦うそぶりを見せることなく、淡々と会話を続ける。


 「まぁオラの場合はスパイなんで、別に狩虎さんに危害を加えるつもりはないんすけどね。だってほら、王様の護衛部隊っすからね。………近々、彼らがあなたを襲う可能性が出てきたんで忠告に来たんすよ」


 なるほどなぁ、それは困ったな。今の俺の状態で強い勇者に襲われたらなす術なくやられてしまう。


 「それにイリナさんにもこれは知っておいて欲しかったので。彼らが狩虎さんを殺そうとした時、イリナさんはどうするつもりなのか?…………今のうちに考えておいて欲しいっす。それじゃあオラはこれでー」


 そして彼は消えて行った。反対派のスパイやってるんだもんな、俺と一緒にいる所を見られるわけにもいかないのだろう。短い会話だったが実に濃度が高い内容だった。


 「つーーわけだ、俺をどうするかちゃんと決めといてくれ」

 「…………わかった。でもこれだけは聞かせて」


 イリナの視線が俺を射抜く。つぐまれていた口が開く。ああ、覚悟を決めたんだな。


 「なんでカイを殺したの?」

 「……………」


 俺は考えた。2秒、どうするかを必死に考えた。でも結局、俺がイリナのためにできることなんてのは………


 「邪魔だったから殺した、それだけだ」


 こう言うしかないよなぁ。


 「…………分かった」


 そしてイリナは俺から視線を外した。俺もイリナを見ずに前へと進んでいく。2人はただ、前へ…………




 「あのーー我のこと忘れてない?」


 ウンモが俺達の後ろから声をかけてきた。背中に大地の聖剣をくくりつけ、必死に持ちながら。


 「…………忘れてるわけないだろ?」


 やっべ完璧に忘れていた。


 「うん、忘れてるわけないでしょ」


 俺とイリナは互いに見合った。うん、互いに忘れてたねこれ。


 「我の情報だと、この近くの街で勇者が失踪したらしいからそこに向かうのはどうだ」

 「あーーいいんじゃない。あてもないし行こう行こう」

 「やる気出ないけどねー」


 俺達3人は近くの街へと向かうことにした。

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