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Face of the Surface (小説版)  作者: 悟飯 粒
魔王との邂逅編
19/92

そして腕まくり

登場人物

飯田(いいだ)狩虎(かこ):しゅ、主人公?あだ名はミフィー君。

・イリナ:最強の勇者。あ、ある?

黒垓(くろがい)白始(はくし):狩虎の監視役。お、オラ?(自己紹介)

 「たとえばあれよ、これから先の自分の人生に無関係だって分かっていても、ついつい店員に言うのが恥ずかしくってメチャクチャ体調悪いから少量で済ますためにお子様ランチを頼みたいのに頼めないあれに似てるの、わかる?」


 ミフィー君は体育座りをして顔を埋めた。

 

 「特に女性と喋るのが苦手なのよ。」

 「…………私女性だけど。」


 私は自分を指さした。


 「イリナは良いんだよ、単純だから。」

 「ふ、ふざけてるでしょ!私は単純じゃないですけど!?複雑怪奇だっての!」

 「そういうところだよなぁ………」

 「まぁまぁ2人とも、ここはゆっくりとしゃべりましょうよ。」

 「俺はゆっくり喋ってるんだけどなぁ。」

 「だ、だって馬鹿にしてきてるんだよこの男!ここで怒らずにいつ怒るんだよ!」


 村での情報収集を終え、私達は村から離れた小さな丘で作戦会議をしていた。まぁ作戦会議といってもミフィー君が「俺人見知りだから。」って言って情報収集のほぼ全てを私に任せたことを私が追求してるだけなんだけど。だって許せないじゃん!自分の仕事はちゃんとまっとうしなきゃいけないんだよ!


 「………イリナはさ、夢で見てたから性格とか分かってるんだよ。何言ったら怒るのか、喜ぶのかをある程度理解できてるから会話ができる。でもそういうのを全く知らない他人と喋るのはさ…………どんな地雷を踏むか分からないじゃん?だから怖くって上手く喋れないんだよ。」

 「嘘だぁ!君が私を喜ばせてることなんて今までなかったでしょ!」

 「だって喜ばせるつもりなかったし。」

 「えぇえええ!?人間関係で1番大切なのは相手を喜ばせることだよ!!」

 「俺の人間関係のモットーは[罵倒できる人間と仲良くしろ]だからさ。人と会話してて真っ先に思いつく言葉って罵倒なのよ。…………そういうのもあるから、相手を怒らせるような気がして人見知りなの。」


 …………そうかな?私、そんなに罵倒されたことない気がするんだけど。怒るのはたくさんあったけど。


 「どう思う黒垓君。」

 「なにがすか?」

 「嘘ついてると思う?彼。」


 黒垓君はミフィー君の話を終始無表情で聞いていた。彼はいつも笑顔で人の話を聞いているのに変な感じだ。


 「んー………嘘ではないと思うっすよ。実際、飯田さんの喋り方は常に一歩引いてますからね。」

 「え、そう?」

 「オラと喋る時は場の雰囲気に合わせて会話をしてるだけっすからね。深いところまではなるべく触れないように、そっちに会話が流れないように配慮してるのがよくわかるっすよ。当たり障りのない一般的な会話………徹底してるっすよ。」


 彼のミフィー君を観察する目はとても冷たく鋭かった。ああなるほど、なんで彼を監視役にしたのかがちょっと分かった気がする。彼は人の言動から性格を読み取るのが得意なんだ。盛り上げ上手は人を知るのも上手だ。


 「しかも陰口とかも言わないんすよ。………陰口をするってのはバラされたくない秘密の共有をすることに他ならず、その人と心的な距離を詰めるきっかけになる。飯田さんはそれを徹底的に排してる。自分の秘密、偶然知ってしまった他人の秘密、そして怒り、恨み、悲しみ、喜びなどの感情すらも誰にも言わない。オラからすればあれは人見知りってよりも人間不信っすよ。」


 す、すげー…………プロファイリングとかよく分からないけれど、そういう分野のスペシャリストなのかな彼は?


 「…………じゃ、じゃあなんで彼は私達の思い出を小説にしたんだろう。秘密を共有したくないのならば小説なんて書かないよね。」

 「ええ、そもそも人に何かしてるのを知られるのも嫌なはずっす。……………特別な思いがあると思いますよ、その小説には。」


 やっぱり何かあるんだ。ミフィー君が小説を書いたのには何か理由がある。彼はそれを隠したがっているけれど、私はそれを知りたい。彼を知るために。

 ミフィー君は昨日弟子入りしてきた魔物と遊んでいた。魔物は岩石でできた腕を振り回してミフィー君に突撃し、ミフィー君は魔物よりも弱いから吹っ飛ばされてボコボコにされている。…………遊んでるのかこれ?


 「そういえばさ、この魔物に名前つけようよ。」

 「名前はもう決まってるよ。うんちもどき。」

 「だから我にその名前をつけるのをやめろと言ってるんだ!」


 ああ、だから怒って殴ってたのか。うんちもどきはミフィー君に馬乗りになって殴り続けていた。


 「じゃあ略して[ウンモ]で良いんじゃない?」

 「よくない!全然良くない!」

 「師匠の命令は絶対だよ。」

 「ひゃい………。」


 私に睨みつけられて涙目になるウンモ。こいつ本当にメンタル弱いな。ミフィー君みたい。


 「…………私思うんだけどさ。」


 私はミフィー君に語りかける。


 「昨日私に言ったことあるじゃん。あれってさ、君の経験談?」


 昨日からが私に対して言ってきたことには重みがあって、一蹴できない凄みがあった。彼には何かあったのだろうか。誰かを失い、悲しむようなことが………


 「ないよそんなもの。」


 しかしミフィー君は顔色変えずに私の言葉を遮った。


 「普通の高校生がそう簡単に身近な人を失うようなことって起きないから。…………友達も少ないし、彼女とかもいたことないしなおさらないな。俺に限って言えば誰かを失ったことはない。」


 私はいまだに彼のことがわからない。黒垓君のいうように、彼は自身の過去を徹底的に隠している。狩虎が過去を隠すなんて変な話だけど…………でも、そんな隠したがりな彼のことでも一つだけわかることがある。


 「ただ、夢に出てくるイリナを見ていたらさ、そう思ったんだ。心にぽっかり空いた穴を、誰かを殺すことで埋めてしまったら悲しみが増すだろうなって。………それだけだよ。」


 彼は優しいのだ。私がいままで出会った人間の中で誰よりも優しい。でもその優しさが彼を縛り付けているような気がして…………彼を見ていて私は少し苦しくなった。


 「そっか………ありがと。」

 「俺のわがままを通しただけだ。感謝する必要はないよ。」


 ミフィー君は空を見上げた。雲が月を隠して薄らと地上を照らしている。


 「…………今日はもう遅いし、明日また情報収集しようか。」

 「うい。」


 私達はなんとなく空を見続けた。流れ星が見えた気がした。多分気のせいだ。




 足音が聞こえる。大軍を引き連れた猛者の足音。その大きな歩幅は自信を表し、その赤く輝く剣は力を示す。身を隠す分厚い鎧は力に溺れぬ狡猾さを、率いる大軍は権威を。足音が聞こえる。それは勇者を破滅へと向かわせる音か?それとも…………


 「…………………」


 俺は目を覚ますと服を脱ぐことなく自室を出た。その気怠さを拭うためにもうすぐにでもシャワーを浴びたかったからだ。拭う程度じゃ落ちることはない。清めるには洗い流す以外方法はないのだ。まだ外が暗い時分、俺はシャワーを浴びると居間へと向かう。




 「顔色が良くないよ。」


 授業が終わり昼休み。俺は弁当を食べながらノートを眺めていた。その線はドンドン雑になり暴れ散らかしている。赤ちゃんが書いたように酷い。


 「ちゃんと寝てるんだけどなぁ。宏美からアイマスク貰おうかな。」

 「………………」


 俺はノートをめくり文字を書く。ただただ書く。そして口が寂しくなった時に食べ物を食べ、また書く。その繰り返し。


 「友人として忠告するけど、引き返すなら今だよ。」

 「もう無理だ、物語はすでに始まっちまってる。俺がどうしたところで止められやしない。」

 「物語を止めることはできなくても結末は変えられるはずだ。君の身の振り方だけで。」

 「いいや変わらない。急激に物事は変わらない。それが流れってやつだ。」


 俺はそれだけ言うとノートを閉じた。




 表面世界にて


 「今日こそは大地の聖剣のありかを突き止めるよ!」

 「おーー。」

 「………元気ないなぁ。もういっちょ!」

 「おーー!!」


 俺達はなぜか山登りをしていた。この地域で1番高い山だ。標高は1600mもある。かなり高いぞ!俺はバテながらもなんとかして先頭で優雅に歩くイリナに追いつこうと必死だ。


 「こんなんで音をあげてたら勇者になれないよ!ほら頑張って頑張って!」

 「インドアなんだって俺!山登りとか小学校の遠足以来してないっての!」


 しかもめちゃくちゃ標高低いやつね。ただのピクニック!そんなものしか経験してないのに1600mの山をそんな簡単に登れるか!


 「見なよ黒垓君とウンモなんて息すら上がってないよ!君だけだからねヒーヒー言ってるの!」

 「だってぇ!俺弱いって言ってるじゅわーーん!」


 黒垓君助けてくれぇ!このままじゃ死んじゃうよぉ!懇願の眼差しで黒垓君を見ようとした時、彼にテレパシーが入ったようだ。立ち止まり一瞬だけ険しい顔をして交信を終えた。


 「どうやらカースクルセイドの活動が活発化してるみたいっす。勇者領全域で村を襲っているようで、迎撃にオラも駆り出されてしまったっす。申し訳ない。」

 「本当?私達も行った方がいいんじゃない?」

 「イリナさん達はここを守ってくれてれば大丈夫っす。それでももしヤバくなったらテレパシーが入ると思うので、聖剣集めに集中してください。」


 そして黒垓君は白色の扉の中に消えていった。


 「…………これってあれだよな、俺が戦闘に加わるの嫌がってるよな。」

 「うん、間違いなくね。」


 まぁ魔族を戦闘に参加させたくなんかないわな、いつ裏切るかわからないんだから。しかしイリナがいた方が絶対有利だよなぁ………


 「………今入ってきた情報だと、グレンが私の代わりに戦ってるみたい。」

 「ぐ、グレンさんが?じゃあまさか亜花君も?」

 「そうみたい。」

 

 うっわ地獄じゃん。あんな子が全力で戦ってるところとか見たくないんだけど。しかし、自分の家が魔族に襲われる可能性があるのに戦わなかったあの人が今回戦うことを決めたってことは…………実はかなりピンチなのでは?


 「………俺を置いて参戦してきてもいいんだぞ。」

 「え!?いや、全然そんな気はないよ!」


 落ち着きなく周りを見始めたイリナ。多分心配なのだろう。彼女はいつも勇者領がピンチになると颯爽と駆けつけその窮地を救ってきたのだから仕方ない。これはもうヒーローの性だ。


 「私がいなくたってグレンがなんとかしてくれるよ!間違いないよ!だから私達は大地の聖剣をちゃんと手に入れて、戦いが終わった勇者領に得意げに帰還すればいい。それだけ!」


 努めて笑顔を維持するイリナ。…………そっか。


 「じゃあさっさと聖剣を見つけないとな。」

 「そうだね!」


 俺とイリナ、謎の魔物ウンモによる大地の聖剣を探す旅は始まった。といってもある程度の心当たりがあって俺達はこの山を登っている。

 古来より山とは神格化の対象になることが多い。狩猟だったり果樹、水源をもたらし、なおかつ自然災害による畏れすら生む。恵と破壊をもたらすものは神格化される傾向が多いものだ。…………でだ、この地域の山岳信仰はどうやら山自体を神格化しており、山に足を踏み入れることを禁止しているらしい。いままで大地の聖剣が見つからなかったのも、この山岳信仰のせいだと考えれば納得がいく。


 「我らはこの山を崇拝しており、近づけば近づくほど力が増すのを実感するのだ。」


 と、仰るウンモさん。我ながら酷い名前をつけたなと思うが、大地の聖剣の魔力によって生み出された彼がこの山に近づいただけで強くなれるというのなら、やはりこの山に大地の聖剣があると考えるのが丸いだろう。ここがこの周辺で1番高い山なのも、魔力によって巨大化したからとか………ありそう。ありそうじゃない?

 俺達が登っている山が揺れた。最初は噴火の予兆かと思ったけれど、どうやらそんな生易しいものじゃなく、俺達の足元、この山が動き始めていたのだ。眠っていた人間が目を覚ましてゆっくりと起き上がるように、斜面は険しさを増していく。


 「大丈夫ミフィー君!」

 「な、なんとかしがみついて…………うおっ!?」


 山の動きが激しくなり俺は振り落とされた!イリナならともかく、クソ雑魚身体能力の俺が300mの高さから落ちたら1発で死ぬ!ど、どうにかしないと!


 「世話が焼けるな………もうっ!」


 イリナが山肌を高速で駆け降り、空中にいる俺に標準を定める。そして飛び出し俺を空中でキャッチすると、そのまま地面に着地した。膝と肘を使って緩和してくれたから俺には衝撃はいかなかったが、そもそも飛び出した時の速度が新幹線クラスに速いイリナが300m近く落下したのだ、着地した岩盤が粉砕されイリナの体はめりこんだ!


 「大丈夫?」

 「ありがとう、おかげで俺は全然大丈夫だけどイリナは?怪我してない?」

 「これぐらいじゃあ怪我をしようにもできないよ。心配ありがとう。」


 頑丈すぎるだろ…………イリナはめり込んだ身体を引っこ抜くと、動き始めた山の頂上を眺める。


 「山が動くってことは、あの山自体が魔物なのかな?」

 「んーー…………多分。」


 大地の聖剣の影響によって周辺の岩盤が魔物化したように、あの山も魔物化した可能性は十分にある。しかし考え方によっては違うかもしれない。たとえばそう、ウンモのパターンだ。


 「でもウンモがあの山に取り込まれちゃってるな。」


 動き始めた山にウンモが取り込まれ吸収されちゃってるもん。どっちかっていうとあの山は大量の魔物が合体してできた成れの果ての可能性が高い。


 「全長1600m、質量は7〜8000tの魔物かぁ。………イリナ任せた。」

 「いや、流石の私も瞬殺はできないよこれ。」

 「え、できないの!?イリナなら出来そうじゃんワンパンでぶっ壊すの!」

 「私にそれ相応の体積と質量があるのならばともかく、身長1.7mの体重0.05tだよ。無理無理。全壊は不可能。」


 数字にして考えると大地の聖剣を守る魔物と考えて良さそうだな。問題は山自体が動いているから、聖剣があの山の中にある可能性が高いってことだろうか。山を破壊し切るとなると2人でなんとかできるものじゃない。しかも俺が弱いばかりに実質1人換算だ。


 「…………案外こういうのは君の得意分野なのかもね。」


 山を眺めながらイリナが呟いた。


 「私の力は生物を殺すことに特化してるけど、君の力は物を破壊することができる。雷じゃあ岩を破壊できないけれど、爆発なら粉砕できる。やってみたらどうかな、君の力でこの山を掘削し切ろうよ。」


 なるほど?たしかにそういう考え方もあるな。しかしこの大きさを壊しきるっていうのは流石になぁ。


 「…………やってみるか。」


 俺は袖を捲った。

あとちょっと………あとちょっと…………

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