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Face of the Surface (小説版)  作者: 悟飯 粒
魔王との邂逅編
18/92

チンピラやんこんなの

登場人物

飯田(いいだ)狩虎(かこ):あだ名はミフィー君。暫定的に主人公。

・イリナ:最強の勇者。悪も許しません。

黒垓(くろがい)白始(はくし):狩虎の監視役。ワープできる。オーラ!(自己紹介)

 ここで忘れちゃいけないのは、俺達は地中から出てきた魔物を追って地下深くまで来ているということだ。ピクニックじゃあない。いつ魔物が襲ってくるかも分からない状況で、あだ名をつけて遊んでいるわけにはいかないのだ。


 バゴーン!


 まぁ、イリナがいたら緊張感が薄れるのも仕方ないかな。不意打ちを決めようと背後から出てきた魔物の攻撃をかわすと、イリナは魔物の顔を掴んで壁に叩きつけた!なにが怖いってこいつ自身が発光してるから、魔物が襲いかかっても魔物の影がイリナにかかることはなく普通は攻撃に気がつかないのだ。それなのに動物的な勘で攻撃をかわして反撃しているのが最高にクレイジー。人間離れもいいとこだ。


 「そっちから来てくれて助かるよ。」


 イリナは壁に叩きつけた魔物を解放し、笑顔で胸ぐらを掴んだ。


 「ご、ごめんなさぃい!」


 丸い岩石に手足をくっつけただけの姿をした魔物は両手を合わせて謝り倒していた。地上侵略を高らかに宣言していたのに、イリナが前じゃあ懇願の嵐だ。仕方ないよ、イリナって強いし怖いもん。隙を一切感じられないから、目の前にいるだけで首を絞められているように感じる。


 「そのさ、あんたらって何匹いるの?」

 「な、何体って!一応魔物なんだから匹じゃなくて頭で数えろ!」

 「うん?」

 「…………たくしゃんです。」


 怖気ついたな。恐怖のあまり滑舌が緩くなってる。


 「たくさんって言ったってさー、子供じゃあないんだから数値に出して言ってよ、数値で。約何匹って感じで、わかる?」

 「そ、そんなこと言っても…………聖剣から生まれた魔物なんでよくわからんしゅよ。」


 イリナが俺の方を「聞いた聞いた!?」って感じで目を光らせながら見てくる。


 「じゃあやっぱりここが大地の聖剣の隠し場所なんだよ!よく当たるんだよねぇ私の勘って!」

 「はいはい凄い凄い。」

 「なに?負け惜しみ?」

 「流石イリナさん!やっぱすげえなぁ俺たちのリーダーはよぉ!」

 「かぁっ!最強の勇者は格が違うっすわ!」


 俺と黒垓君は全力でイリナを褒め称える。演技とはいえ、さっきイリナは全力で拗ねたからな。ここでまた拗ねられたらたまったもんじゃないから、頑張ってヨイショしなきゃ!


 「こ、ここに聖剣はないぞ!」


 だのに、頑張って機嫌を良くしてるってのに、魔物が余計な一言を言いやがったせいでイリナの雰囲気が険しくなる。


 「でもあんた聖剣から生まれた魔物なんでしょ。ぶっ殺されたいの?」

 「言葉遣い言葉遣い。一応みんなのお手本なんだからね。」

 「…………嘗めてんの?」


 うーん…………まぁ、ぶっ殺すよりはいいか。


 「………あーー、あれじゃないっすかね。聖剣は強すぎるあまり周りに影響を与えるって王様が前言ってたっすよ。」


 …………なるほど?


 「つまりどういうことだってばよ。」

 「大地の聖剣の魔力が大地に広く染み込んで、岩石を魔物に変えたんじゃないっすか?…………そうだとここの空洞も説明できるじゃないっすか。」


 つまり………ここの岩盤が魔物に変化して移動したから空洞になったってことか?…………こんなに広いのに?都道府県一つは入るぞこの大きさ。


 「ふっはっはっはっ!100年前の勇者との戦いで我らの同胞は半分ほど消えてしまったが、しかし言い換えれば半分残っている!我が貴様らをここまで誘導している間に仲間は穴から地上に出て侵略を始めたってわけだ!貴様らがワチャワチャ遊んでいるのが悪いのだ!ふははっはははははは!!ぶっ!?」

 「……………ニコッ。」


 魔物の口を掴んでニヤつくイリナ。あっ、これ絶対やばいやつだ。


 「イリナやめろ!お前今こいつのこと握り殺そうとしたろ!」


 魔物を掴んでいるイリナの手を両手を使って離そうとするが、勇者最強の握力と腕力を俺1人がどうにかできるはずもない。ビクともしないんだけど!


 「ぜんぜーん?私は優しいからこんなやつを圧殺しようだなんて思わないよ。ちょっと首を逆方向に曲げてあげようかなって。」

 「ひとまず殺すって考え方に移るのやめろ!よくないよそういうの!」

 「えーー…………でも、私の人生では悪党を生かしておいていいことなんてなかったよ。こいつら自分の考えが全てだから、それ以外の考え方を寄せ付けないんだもん。」

 「そういうのもあるけれど、こいつは情報源なんだからすぐに殺すなよ!この魔物の弱点とか知っときたいじゃん!」

 「全部砕けば良くない?」

 「そういえばお前はそういうタイプだったな!全部解決できちゃうもんな!力だけで!」


 脳筋でオッケーなんだもんな!最強だから!


 「………んーとだな、わかった。ちゃんと言うよ。こいつを殺して悲しむ奴がいるかもしれないだろ?そういうのを考慮して殺すのはやめようよ。俺はイリナに誰かを殺してほしくないんだよ。」

 「………………」

 「大切な人を失って一年も失意の中にいたお前が誰かを殺したらさ…………その想いが嘘みたいになるだろ。良くないよ、うん。良くない。力のあるお前だからこそ、誰かを失ったお前だからこそ、誰も殺さずに解決するべきだ。」

 「…………でも、こういう奴らは生かしてもまた同じことをして人を傷つけるよ。私はそれをよく経験してる。力のない人達を助けるには力のある悪を滅ぼすしかないの。力って一方的だからさ。」


 イリナの目は揺らがない。彼女のこの発言には芯がある。いままでたくさん迷って、たくさん失敗して辿り着いた彼女なりの答えという芯が。だからイリナは強い。人を傷つける存在を完全なる悪と見做して葬ることができる。そこには一切の隙がないのだ。


 「正しいよ、正しい。イリナは正しいことを言ってる。間違いない。正義と悪があったら正義を優先するべきだ、それは全力で間違ってない。」

 「……………」

 「でも俺はさ………その…………今のイリナが誰かを殺したらいずれ後悔すると思うんだ。悪や正義の前に命があるってことを………そんな当たり前のことに痛感した時に、多分、耐えれなくなる。だから殺してほしくない。」


 俺が言ってることはとても当たり前のことだ。アニメやマンガがありふれた現代だとなおさら、俺達子供はそれをよく考える。命ってなんなんだろう。正義と悪ってなんだろう。普通ってなんだろう。考えて考えて、自分なりの答えを見つけて、でも違う気がして別の答えに辿り着いて、それもまた違う気がして別の答えだったり元の答えに戻ってきたりする。…………イリナはその考えの先にいて、誰かを守る為に実際にその手を血で濡らし続けてきた。だから彼女の考え方はとても現実的だ。洗練された答えと言ってもいい。その答えがイリナを支え続けている。……………でもそれはイリナが[最強だったから]だ。


 「力は一方的だからさ、いままで[失うことのなかった]イリナでは辿り着けなかった答えがあるはずなんだ。[失ってしまった]イリナを支えるべき別の答えが…………だから、殺さないで欲しい。」


 揺らぐことのないイリナの目を俺は見続ける。そしてイリナの視線が地面に向けられた。


 「………難しいこと言うね。それに甘ったれことも。君、魔族なんでしょ?そんなんでよく今までやってこれたね。」

 「魔族だろうと勇者だろうと関係ないよ、ただ1人の人間として忠告してる。」

 「………………分かったよ。ふっ!」


 イリナは魔物から手を離すと壁を殴った。その威力は凄まじく、壁が崩落してまた巨大な穴が空いた。


 「まだ腑に落ちないけど、ひとまず殺すのは禁止にするよ。…………長話ししすぎたね、上で魔物達を止めに行こうか。」


 俺達は黒垓君の白色の扉をくぐり地上に戻った。

 地上は岩石型の魔物が大量にひしめいていた。目に入る全てが魔物だ。たしかにあの大空洞ほどではないけれど、かなりの数だ。普通の勇者なら裸足で逃げ出す量だろう。


 「…………ミフィー君。大口を叩いたんだ、殺さずにこれを止める手段は考えてあるんだろうね。」

 「こういうのは基本、1番強い奴を倒せば戦意喪失するもんだ。」


 俺は地下で捕まえた魔物に話しかける。

 

 「あの中で1番強い魔物はなんだ?」

 「そ、それは………全員が合体した姿(しゅがた)です。だ、だがその姿を見せたが最後!貴様らは全滅だぞ!はっはっはっ…………」

 「グォォオオオオオアアアアアアアアア!!!!!」


 巨大な雷の龍が5匹出現すると魔物達を睨みつけた!龍から発せられる電気は周りを感電させ、空間を虹色に発光させる!


 「じゃあそうするようにさっさとあいつらに言いな。チンタラしてたらぶち殺すから。」

 「は、はい…………」


 解放された魔物は仲間達の元へと向かい俺達を見ながらヒソヒソと喋っていた。合間合間でイラついていたイリナは地面を踏みつけ、その衝撃で破裂する大地の音にビクつきながら魔物達は会話を続ける。…………恐喝するチンピラと被害者の図だよこれ。


 「あ、あの…………やっぱり地上侵略はやめるということで、はい、決着つきました。」


 3分後、魔物達での協議が終わったのか俺達に捕まっていた魔物が結果を伝えに来た。


 「はぁ………私1人に怯えるぐらいならこんなことするなよ。言っとくけど、私なんかよりも怖くて強い炎帝って奴がまだいるんだからね。よかったね、最初に現れたのが私達で。」


 魔物達はイリナが空けた穴に大挙して逃げ帰っていった。


 「…………あれ、君は?帰らないの。」


 しかしこの魔物は帰らずに俺達の側から離れない。


 「そ、その………我を弟子にしてくれないでしょうか!」


 そしてイリナに土下座をした!


 「イリナさんの元で修行して強くなって、もう一度胸張って地上侵略したいんです!我を弟子にしてください!」

 「え、えぇぇ…………」


 最強の勇者に弟子入りしようとするなんてすげー根性だなこの魔物。俺はニヤニヤ見ながら感心していた。

 まぁ、イリナに弟子入りなんて建前だけどな!本当はこの男が持っている魔剣の近くにずっといることで簡単にパワーアップするのが狙いだ!くっくっくっくっ!あわよくば魔剣を盗んでこいつら皆殺しにしてやるぜ!魔物は土下座しながらニヤついていた。


 「弟子入りは構わないけど、地上侵略はやめてよね。その素振りを見せたら容赦なく殺すからね。」

 「はい!よろしくお願いします師匠!」


 こうして魔物が仲間入りした。…………なにこれ。




 「勇者と魔族と魔物で出来たパーティーだ。俺の想定よりも楽しいことになってるよ。」


 次の授業の準備を終えた俺は教科書を開いて欠伸をした。ここ最近、授業中はノートや教科書に小説のネタを文字や棒人間で書き殴ってるせいで酷いな…………落書き帳かよ。


 「君の夢の話?楽しそうで何よりだよ。」

 「ああ、楽しそうでよかった。このままイリナが笑顔だったら俺はそれだけで満足だ。」

 「………………」

 「………………」


 周りから談笑が聞こえてくる。授業の合間の開放感を楽しんでいる生徒達の雰囲気は喜びで満ち溢れている。とてもいいことだ。


 「…………このままってわけにはいかないのかい?」

 「…………無理だよ、分かってるだろ。」


 俺はノートにボールペンを走らせた。シャーペンだと芯がへし折れるし、先が丸まったり、スラスラ書けずにイラつくからボールペンで書くようにしてるのだ。黒色の線が走りその先へと向かう。


 「いずれ俺達とカースクルセイドがぶつかる。その時…………[やつ]と戦うのは宿命なんだ。」


 その時にイリナはきっと炎を克服し、心の闇を取り去るはずだ。

 ボールペンが止まった。線は止まり、その先を描くことはない。


 「これは過去に打ち克つ物語だ。」


 俺はノートを閉じた。



〜表面世界にて〜


 「1日考えたんだけど、私的にはね、やっぱり彼はカイの関係者だと思うんだよね。」


 大地の聖剣の情報収集の為に村人に話しかけているミフィー君を見ながら、私は黒垓君に話しかける。


 「………でも魔族っすよ彼。」

 「でも勇者でもあるわけじゃん?ここで私はこう考えたわけよ。魔族が勇者の力を手に入れたんじゃなく、勇者が魔族の力を手に入れたんじゃないかなって!天才でしょ!」

 「んーーどうっすかね。それなら勇者領の中心が彼を知らないはずはないと思うんですけど。」

 「そこはまぁ、何かすごい秘密があるんだよきっと!」


 昨日の彼の言葉はとても優しかった。人を傷つけることを恐れているとても優しい言葉………そんなことを魔族が言うとは思えない。魔族はいつも残虐なことをする。人間を武器にしたり、ボロ雑巾のように殺したりするのだ。信じられないよ彼が魔族だなんて。


 「というわけでね、今日一日、彼を観察して秘密を探ろうと思うの!」

 「まぁオラ的には助かるっすけど、そういうのは本人にすぐに聞くのが1番すよ。」

 「えーー…………そういう秘密って隠すでしょやっぱり。聞いたって意味ないよ。」

 「案外簡単に答えてくれるかもしれないっすよ。秘密なんて蓋を開けてみたらどうでもよかったりしますからね。」

 「そうかなぁ。…………まっ!コソコソ何かをするのって楽しいからいいよ!スパイみたいでさ!」

 「単純っすねー。」

 「シンプルこそ1番なんだよ!…………ん?」


 ミフィー君がこっちにサインを送ってくる。なんだ?どうしたどうした、まさか重要な情報でも聞けたのか?私は急いでからの元へと向かう。


 「どうしたのミフィー君。」

 「………かわって。」

 「ん?」

 「俺と代わってくれない?俺って人見知りすごくて知らない人に取材するの恥ずかしすぎて全然出来ない………」

 「えっ………君がひ、人見知り?なんの冗談?全然笑えないんだけど。」

 「いや、ほら、俺の顔とか首見てよ。すごい汗でしょ。」


 た、確かに………マラソンを完走したみたいな汗かいてる!でも彼が人見知りだって!?そんなのありえないでしょ!初日から私に飛び蹴りかましてきたような奴だよ!


 「と、とにかく代わってくれ!全然喋れない!」


 仕方ないから私が村人に話を聞くことにした。相手はとてもおっとり、ゆったり喋るおばあちゃんだった。これといって有益な情報は得られなかったが、いきなりミフィー君の性格を知ることができたぞ!

ゆったりと追い詰められていく。それは手がゆっくりと首に延びるように………その冷たい指の体温を感じる。

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