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Face of the Surface (小説版)  作者: 悟飯 粒
魔王との邂逅編
15/92

好きだよね、肉じゃが

登場人物

飯田(いいだ)狩虎(かこ):あだ名はミフィー君。きっと主人公。

・イリナ:最強の勇者。体に盾でも貼り付けてるのかな?

黒垓(くろがい)白始(はくし):よくわかんにゃい。

「ということで!皆さんを安全安心に勇者領に送る為に遣わされた黒垓白始っす!クロちゃん以外ならなんとでも呼んでいいっすよ!」


唐突に現れた黒垓君は、見ていて気持ち良いほどの笑顔で笑っていた。


「………よ、よろしく。」「よろしくねー。」


しかし俺からすれば唐突すぎるから苦笑いで答える。イリナはこういうのに慣れているのか普通に挨拶している。


「あーー!飯田さぁあん、緊張してるっすね?オラのことは昔っからの友達だと思って気軽に!互いにバカにしあう感じで仲良くいきましょう!」


うっわーー陽キャって感じ。俺はもうあれよ?黙々と一人でゲームしてたいタイプだから根本的に合わないわ。苦手だなぁこの子。


「そして流石はイリナさん!オラのサプライズに対しても全然慌ててないじゃないっすか!最強の勇者は格が違うなぁ!」


そしてイリナを褒めることも忘れないと。やっぱり友達付き合いがいい陽キャだなぁ。グループに1人欲しいタイプだ。


「イリナは黒垓君のこと知ってる?」

「うーんと、一応聞いたことはあるよ。王様直属の兵士だとかなんだとか…………」

「そうなんすよ!王様を守る[ガーディアンフォース]の1人なんす!実はこう見えてかなりの実力者なんすよねぇ。って誰がチビっすか!」


そしてかますセルフノリツッコミ。うーーむ、これは陽キャとかそういう括りで表現してはいけないほど、感じの良い人なのでは?

160cmぐらいの小型な男の子、黒垓君を眺める。王様を守る勇者………この見た目からは想像もつかないがかなり高い階級なのだろう。どんな戦い方をするんだ?


「………で、安全安心に連れて行くって言ったってミフィー君は歩けないんだよ。魔剣が勝手に発動しちゃって人と位置を入れ替えちゃうから。」

「簡単すよ、ワープすりゃあいいんす。」


黒垓君は白色の扉を作り出すと、そこに自身の体をツッコミ手招きした。


「さっさと来てください。王様がお待ちですよ。」


そして白色の扉の中に消えていった。彼の魔力はワープ能力なのか…………たしかにこれなら人と出会うこともないな。俺達は扉の中に入っていった。



ガラスの床って好きだろうか。俺は大っ嫌いだ。スカ○ツリーの展望デッキにあるガラス床の上に立てなかったぐらいだ。別に下が見えるから無理だというわけではなく、俺がそこに乗った瞬間にガラスが割れて落ちるのではないかっていうリスクが怖いのだ。俺は見えている危険にわざわざ足を突っ込むのが好きではない。できることなら永遠と地に足をつけて生きていきたいほどに、俺は危険が大っ嫌いだ。


「…………………」


そして、つまりだ、何を言いたいのかというと、勇者領の中心地、しかも最高戦力が集まった場所に、無策で乗り込まなければ良かったなって今俺は非常に後悔している。俺を取り囲むように勇者の重役達が睨みつけながら取り巻いているのだ。ワープゲートを通った先にこの景色ですよ。どうすんのこれ。逃げていいですか?


「あ、あの………急に催してきちゃって。」

「ダメに決まってるでしょ。我慢してよ。」

「いや、本当に漏らすかもしれない!」

「その時は自分の水の魔力でなんとか誤魔化してよ。」


無慈悲!


「ほーう、これがイリナの新しいパートナーで、しかも魔剣を使ったっていう子か!面白いのう!」


俺達の前、玉座に座っていたお爺さんが大きな声を上げた。あの人が王様なのか…………ん?あれ?なんか変だな。


「…………ふむ、ワシの体の違和感に気がついたか。そうじゃ、ワシは指が6本あるんじゃ。」


王様は右手を上げるとたしかに指が6本あった。なるほど、変だなって思ったのはそこか。…………本当にそこだけか?なんかまだ気持ち悪いな、あの人の体を見てると。雰囲気が普通じゃないから俺の精神が当てられてるのか?


「良い洞察力じゃ。ワシ的には合格なんじゃが、他はどう?なんか異論ある?」

「王様、さすがに一目見ただけで合格はまずいですよ。」

「うーーむそう?人なんて簡単に嘘つくんだから、見た目の印象だけで良いとワシは思うんじゃけどなぁ。」


周りの重役が諫め、それに口を尖らせる王様。うーーん軽いぞこの人。大丈夫なのか王様として。


飯田(いいだ)狩虎(かこ)君………だったね。私達が君をここに呼び出したのは他でもない、君が危険かどうかを判断する為だ。」


俺の右隣にいる重役が話しかけてきた。この人が今回の司会進行係なのだろう。


「魔剣を操れたということは、君は魔族だと判断されているわけだ。そこは自覚しているのだろう?」

「…………はい。」

「よろしい。………私達的には魔族を勇者領の中心、しかも希望の象徴であるイリナ君の横に置いておくのは相応しくないと思っていてね。ここで君の魔力と階級を確認し、判断しようと思っていたんだ。君を生かすか、それとも…………その先はその時に言おう。」


俺の魔力と階級を判断するだって?つまり、それを見れる人がいるってことだよな?確か俺の夢にいたのは………


「慶次君、彼の魔力と階級を見てくれ。」

「はい、分かりました。」


王様の隣に座っていた、慶次と呼ばれる男が立ち上がり、青色の瞳を光らせ俺を見てきた。慶次さん………この勇者領で王様に次ぐ権力を持った青年だ。彼の魔力は[全てを見通す目を持つ]こと。彼の目からすれば他人の思考、性格、魔力を見ることもできるし、透視もできる。頑張れば未来や過去も見えるらしい。かなり凄まじい魔力を持った人なのだ。そんな人が俺を見てきている。下手なことは出来ないな………


「…………飯田さんの階級は最高幹部、魔力は[爆発]ですね。」


慶次さんは今俺から拾い上げた情報を澱みなく伝えていく。


「イリナさん的にも心当たりがあるんじゃないですか?飯田さんが凄まじい速度を出していたのを。あれは爆発による推進力で加速していたからなんですね。」

「あーーなるほど。道理で身体を壊していたわけか、魔力によってスピードは出せても身体強化していたわけではないんだもんね。」

「そういうことです。」

「…………ん?あれ、じゃあ水の魔力はなんなの?てっきり私は水の魔力を持った魔族だと思ってたんだけど。」


イリナの発言で周りがざわついた。


「………[爆発]ではなくて[水蒸気爆発]なのではないか?それならば水を操れるのもなんとなく理解できる気がするが…………」

「いえ、もっと単純です。飯田さんは魔力を2つ持っています。魔族側の[爆発]の魔力と、勇者側の[水]の魔力を。ただのそれだけです。」

「つ、つまり勇者であり魔族だというのか!?」

「そう考えるのが妥当そうですね。」


勇者の重役達は俺らを置いて討論を始めた。


「…………あ、じゃあ光剣も使えるってこと?」

「さぁ?持たせてみたら?」


イリナが取り出した光剣を持つ。…………うん、拒絶反応はないな。使えるっぽいぞ。俺はイリナに光剣を返すと重役方をボーッと眺めた。


「しかし魔族側の魔力が大きすぎるせいで、勇者側の魔力の性質が引き出せてない状況ですね。彼の身体能力が弱いのも、水の出力が低いのもそれが原因です。」

「し、しかだな………魔力を2つ持つ人間なんて聞いたことがないぞ。それも勇者と魔族という違う性質だろう?ありえん!」

「それじゃあ私が嘘をついたと言うのですか?」

「そ、そういうわけではないが…………」


うーーん、白熱しそうだな。


「イーリナちゃーーん。久しぶりーー!」

「近寄るなクソジジイ。」


いつの間にか背後に忍び寄っていた王様がイリナに抱きつこうとしたら、イリナの裏拳が見事に炸裂してひっくり返った。…………王様は、その、あれだ。変態だ。そのせいでイリナに軽蔑されている。


「連れないなぁ、こんな下らない話なんて無視してワシとデートしよデート!」

「ジジイになんか興味ないんだよ私は。」

「年寄りはお金あるよー。そこが魅力じゃ。」

「金なんかで買えるほど安くないよ私は。」


そしていつもこんな感じの会話をしている。生で見るのは初めてだが、なるほど、たしかにこれなら嫌われても仕方ないな。


「全然ワシに振り向いてくれないんだからイリナちゃんは本当にお堅いのぉ。そう思わん?」

「俺に話を振らないでくださいよ………俺ならお金だけもらって逃げ出しますかね、ひとまず。」

「あくどいのぉ!そういう性格大好きじゃワシ!」


ろくな人間が好きじゃないな。


「しかし今回の本題はそっちじゃないんじゃ。魔剣の方を見せてくれんかの?」

「魔剣ですか?…………はい、どうぞ。」


俺は魔剣を引き抜き王様に手渡した。


「ガッハッハッハッ!!鞘に収まってる時から感じとったが禍々しい気を放っておるのぉ!!こんなに禍々しい状態は初めて見た!!」


王様が触ってから魔剣の目が更に3個に増えて蠢く!うおっ、キッモ!


「しかも開眼までしとるとは…………魅入られたの、お主。」


そう言って王様は俺に魔剣を返した。


「喋れぬ生きた剣など使いづらいじゃろう。ワシが細工して会話できるようにしておいたから、ちょっと会話してみぃ。」

「え、そんなアニメちっくなこと出来るんですか!?」

「そりゃあワシは王様じゃからな!ファンタジーみたいなことは腐るほどできるぞ!」


うーーむ、メタイ。俺は魔剣をジーッと眺めた。相変わらず魔剣には口はないが、これでも喋れるようになってるんだもんな。信じて話しかけてみるか。


「好きな食べ物って肉じゃが?」

「………………」


いや、喋らないじゃん。


「し、質問が悪かったかな?」

「いや、ワシがそんな細工をしなかっただけじゃ。」

「なんでだよ!」


俺は魔剣を地面に叩きつけた!


「本当に信じて剣に喋りかけるのかなーって、ちょっと疑問に思っちゃっての。出来心じゃ、すまん。」

「1ミリも悪気感じてないでしょその謝り方!もっと誠心誠意こめて土下座しろ!」

「それにしても話しかけられるからって[好きな食べ物って肉じゃが?]って考えられる?」

「私のセンスからしてあり得ないよね。初めて会った人と会話を広げる時にしょっぱなに[君ってあれだよね、ゲーム好きそうだよね]って言うタイプだよね、絶対。」

「うるせぇえ!!馬鹿にしてんじゃねぇぞ!!今時の人は大抵ゲームしてるからこれで話題広がるんだよ!!」


魔剣の好きな食べ物聞きたかっただけなの!肉じゃが好きそうに見えたから聞いちゃったの!許してくれないかな!?


「すまんすまん、今度こそちゃんと細工をしてやろう。」


そう言うと王様は魔剣を持ち上げ、左手を光らせながら表面を撫で俺に渡した。


「…………本当に細工しました?」

「おう、ちゃんとしたぞ。嘘だったらワシを殺してもいい。」

「………………水餃子派?それとも焼き餃子派?」

「……………………」

「死ねクソジジイ!!!」


俺は魔剣を振り回して王様に斬りかかった!


「待て待て!本当に細工をしたんじゃって!今のはお前の質問が悪かったんじゃ!もっと答えやすいのにしろ!」

「そうだよ!どっちも美味しいんだからどっちでもいいじゃん!ちなみに私は揚げ餃子派!」

「お前のどっちでも良いは揚げ餃子以外を下に見てるからでる発想なだけなんだよ!俺からすれば重要なの!買う餃子の皮が違うんだから!」


俺は剣を振るのをやめて魔剣に向き合った。答えやすい質問か…………


「…………俺のこと好き?」

「………………………」

「まだそれほど仲良くないでしょ君たち。」

「まだそういう距離感じゃないの!?死線をくぐり抜けたじゃん昨日!」


他人以上友達未満レベルの関係性なの俺達!?


「……………最近お気に入りの音楽は?」

「…………スティービーワンダーのPart-Time Lover.」

「うぉぉおおお喋った!!喋ったぞこいつ!!めっちゃ恥ずかしそうに喋りやがった!!渋い趣味してんなぁ!!」


めちゃくちゃ嬉しい!固まってて開けられなかった蜂蜜の容器を、温めることでなんとか開けれたときと同じような感動をしているよ俺!つうか最近お気に入りの曲も答えづらいだろ!よっぽど音楽に精通してるやつじゃないとすぐには答えられないぞ!


「すげーー!後でウォークマン買ってやるからな!」

「盛り上がっているところ悪いが、議論が終わった。」


司会進行役の重役が俺達の会話を遮った。


「私達の間で君の今後を決定した。君は今後、イリナ君と一緒に行動しカースクルセイドよりも先に聖剣を集める任務についてもらう。」


…………多分、今一番危険な任務じゃないですかねそれ。


「そしてもし、君が勇者領に意図的に不利益を与えた、もしくは裏切る素振りを見せたと判断した場合、即刻イリナ君や他の第二類勇者によって君を処分することとする。いいかね?」


正直、後半部分の[処分]という言葉を聞いてすぐに「はいいいですよ。」と言う気分にはなれないが、ここは意見を言う場じゃなくて俺の処遇を決める場だ。何を言ったところで意味はない。


「はい、わかりました。」

「飯田さん…………」


慶次さんが俺の目を見てきた。


「あなたがイリナさんを守ろうとする限り、私は貴方を殺すことはしません。それだけは忘れないでください。」

「……………はい。」

「それじゃあすぐにでもイリナさん達は任務に当たって下さい。黒垓君、案内してあげて下さい。」

「はいーーっす!」


俺達は黒垓君が作り出した白色の扉の中に入った。


「………………」

「………………」

「…………で、どうでした?」

「飯田君のことか?」


重役も誰もいなくなった部屋で、王様と慶次の2人が会話する。


「あいつは面白いのぉ。ワシ的には生かしてあげたいんじゃが…………」

「魔族である以上、それは無理ですよ。丁度良いタイミングで切り捨てるつもりです。」

「残念じゃなぁ。」


その言葉を最後に、慶次は部屋から出て行った。

焼き餃子派です。

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