終わりと始まり、今と過去
ミフィー君達がすぐ近くにいるのに、唐突にやる気を出してきた魔族達のせいで前に進めない!私は剣で魔族を倒しながらひたすらに前進を繰り返す!急がないと!早く!早くなんとかしないと!
ドンッッ!!!!
前方で爆発が発生した!!空気が押し出され悲鳴をあげている!!その衝撃はあまりにも大きく私に向かってきていた魔族達が吹き飛ぶほどだ!!あの爆発は………ミフィー君!!飛んできた魔族達を切り裂き、爆発の中へと私は飛び込んだ!!
「まったく…………侮っていたな君という男を。」
爆発の中心地では魔剣を持ったミフィー君と、右腕が千切れた昴の姿があった。あの爆発の時に何かが起こって昴の腕を吹き飛ばしたのだろう。
「それにイリナちゃんも来てしまったじゃあないか。流石の僕も、イリナちゃんと魔族の2人を相手どってのらりくらり出来る自信はない。」
魔族………ミフィー君が持っている魔剣を見ると、それは怪しい赤紫色を発し、鍔についた魔眼がギョロギョロと忙しなく動いていた。
「逃すと思ってるの、私が」
「逃すんだよ、君が」
百本近い氷の刃がミフィー君の周りに発生し浮遊する。
「もし君が僕を追わなければ、この刃で彼を殺すようなことはしない。君は止まっているだけでいい。………いやだろう?またパートナーを失うのは」
「くっ………」
「まったくもって不本意だが………はぁ、計画失敗だ。魔剣を手に入れられたら楽だったんだけどなぁ。仕方ないよね」
昴の右隣の空間が避け、黒色の空間が出てきた。あれをくぐればワープできるのだろう。
「それじゃあ宣戦布告しよう。僕達はこれから聖剣を集め勇者領に喧嘩を売るつもりだ。殺されないように頑張るんだね。それじゃ」
ブンッ!
ミフィー君と昴の位置が入れ替わった!
「イリナやれ!」「分かってるよそんなこと!」
ドンンンンッッッ!!!!
爆発と雷がぶつかり電磁波が空を駆け回る!!
「………その能力は見た。もう僕には通用しないよ。今度こそじゃあね」
しかし別のワープゲートを用意していた昴はあっさりとこの場から逃げおうせた。
結果だけ見れば魔族掃討戦は、魔族の壊滅ということで勇者の勝利である。しかし昴の離反と魔王の出現が重なり、これから起きる不吉を暗示しているようで誰も喜ぶことはできなかった。さらにそれだけではない。イリナの元に入ってきたテレパシーによると、カースクルセイドと名乗る者が炎の聖剣を手に街を複数個滅ぼしたらしい。カースクルセイド………たぶん昴さんが加入した組織だろう。
これから起こるのはカースクルセイドと勇者領による、存亡をかけた聖剣の取り合いとなるのだろう。俺はため息をついた。
しかし俺はこの時に気がつくべきだった。話はそんな単純なものじゃなく、もっと複雑に絡み合い混迷を極めていたのだと。
「ねぇ、この村で美味しいものってなんなの?」
俺と一緒に歩く女性から声をかけられる。
「んーー………確か薬草とかだった気がします」
そして、俺?がそれに答える。
「うへぇ、苦そう!じゃあこの村では食事はいいかな………苦いの苦手だし」
「何言ってるんですか。[良薬は口に苦し、諫言は耳に痛し]ですよ。苦いものこそ体に取り込まないと成長できません。イリナさんは自分に甘いんですから、大切ですよそういうの」
「えぇ…………食べたくないなぁ」
そう言うと女性は苦笑いを浮かべた。お説教されているのに、どことなく、楽しそうだった。
「んん!いい景色だねーー。現実じゃこんな景色味わえないよ」
俺?と女性は水に乗っかって上空に来ていた。目の前に広がるのは地上を埋め尽くすほどの雲。雲海だ。落ちていく夕陽の朱色に照らされ西の方は紅く、東の方は蒼く染まっている。心がゾワつくような、体が無意識で震えてしまうような景色がそこにはあった。
「来てよかったね」
そう言うと、女性は俺の方を向いて笑いかけた。
「いつの間にか身長が同じになっちゃったね。目線も一緒だし…………」
俺の視線と女性の目線が同じだ。目と目が合う。俺は恥ずかしかったから視線を外すために右を見ようとしたが視線が動かない。ずっと彼女の綺麗な目を見続けなければならなかった。
「不思議な気持ちだなぁ………人と目が合うって、こんなにドキドキするんだね」
女性は恥ずかしそうに後ろを向いた。
「ねぇ」「うん」「あはははっ!!」「美味しいなぁ。」「綺麗………」「ドキドキする」「うん……」
色々な景色が現れてはたまり続ける。変わり続ける世界。しかしそのどの光景も笑顔が絶えていなかった。俺の目の前にいる女性は、常に笑っていた。喜びが尽きていなかった。
けれど、彼女が笑っていられる世界はいつも途中で終わる。こんな素晴らしい幸福な時間は、同じ景色で、同じ状況で必ず終わってしまうんだ。
寸分違わず配列された兵隊。真っ暗な世界を覆い尽くす暑い雲。そんな中、真っ赤な鎧を着た男が手を伸ばす。それは脳裏を蝕むように眼球を貫き、その恐怖が頭に直接響く。
「いや…………」
声にもなっていない、頭の中で振り絞られた思考。それが俺の心に響いた瞬間…………
ドォォォオンン!!!
燃え上がるような真っ赤な炎が男を舐めとり、目の前を爆発が埋め尽くす。無情に焼き滅ぼす褐赤色。そして、その火炎がなくなった後、
カラン………
黒く焦げた鎧が一個虚しく転がった。
それに、おぼつかない足取りで近づく女性。ゆっくりと、時が止まったかのようにゆっくりと歩み寄っていく。引きずるように……心と足がぎこちない。現実が理解できいないのかもしれない。それがなんなのかわかっていないのかもしれない。
ようやく鎧のところまで来た女性は鎧を手に取り抱き上げた。目の前を埋め尽くす青色の鎧が、熱により鈍く輝いている。丸みのある部分の光り方が……なんとも、泣いているように見える。
シュワッシュワッ
降り止まぬ水が蒸発していく。水はこの場には存在できない。愚かな熱が、全てをかき消してしまうから。
「あぁぁぁあああああ!!!!!」
大きな声で叫び続ける女性。それは、もう何も無くなった大地に広がり続けていく。胸に広がる鈍い輝き……言葉にできない想い。それが叫びとなって体から抜け出ていくんだ。降り止まむ雨音、それがただただ永遠と俺の心に染み込み続けた。
「……………………」
俺は目が覚めるとシャツを脱ぎ捨てた。いつも通り汗でびしょ濡れ。タオルで身体を拭き、それでも気持ち悪さが拭えなかった俺はベッドから這い出し居間へと向かった。




