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9、ファリナ王と転移魔法

 

 聖地神殿の転移門から、北国ファリナに来た俺は、槍を持った兵士ふたりに案内されて、暗い階段を上る。

 地底湖、地下と薄暗かったのに、地上への大扉を開けると、そこはおとぎ話に出てくるような、西洋の豪奢な城だった。


 ……うわ、ファンタジーなお城!


 彫刻で飾られた柱、点々と並べられている燭台は金色で、壁には絵が飾ってある。


 ……ガーライルさん、余所の国はとてもお金がありそうです!


 王は俺とは違い暇は無いようで、城中には謁見待ちの人が並んでいた。

 服装からみるに、金持ち貴族なのだろう。西洋絵画で見るような服を着ていて、北国だからか、襟や裾にフワフワのファーをつけている人が多い。

 中世のヨーロッパな感じ。


 雑貨屋の主人に貰った服は、ここではかなり浮いていた。


 貴族の間に並ぶ気にはなれず、後退して窓の外を覗いてみる。


 窓はステンドグラスのように細かく分けられ、ガラスとは違うプラスチックのような手触りの透明な板が張られていた。

 窓は良く見ると二層になっていて、防寒仕様のようだ。


 城の中は二十度前後なのに、窓の外は雪がちらついていて、景色は雪に覆われて真っ白だった。


「おお、雪が積もってる」


 思わず口に出してしまい、待機していた人達が一斉に俺を見た。

 俺は視線に驚いて、さらに一歩下がる。


 ……服を返却するだけだし、門番に渡せば済む気がする。


 俺は背中から風呂敷をおろし、腕に抱えて門番に話し掛けた。


「……あのー、これを王に渡してください、私はこれで帰りますので」

「はい、却下」

「……えっ?」


 背後から現れた人に首根っこをつかまれて、謁見室に連れ込まれた。

 誰が自分をつかんでいるのか、視界では確認できないので、脳内窓で確認すると、背後にいるのはファリナ王だった。


 謁見室は、中央奥に玉座があり、入り口から赤い敷物が玉座に向かって伸びている。

 壁に設置してある光のスクロールはかなり明るく、豪華な室内装飾が際立って見える。


 こんな豪華な城に住む王は、エリマキトカゲのようなフリルを付けたイメージがあるが、玉座に座るのは、質素な黒いローブに裾に毛皮がついた白いマントをかけた、ガタイの良い白髪の老人だった。


 老人の髪は女性のように長く、頭には黒く細い王冠を被っている。

 王冠というよりは、イエスのつけているイバラの冠のように見えた。


 王座には、神殿地下で冷気を放っていた氷剣が立て掛けてあり、下手をすると氷漬けにされそうで怖い。


 ……HP無限大でも、凍らされたら死んだようなものだよな。怖すぎる。


 心の中でヘマしませんようにと祈りつつ、片膝をつき、下を向いていると、風呂敷を持った兵士が王に風呂敷を渡した。

 どうやら別室で調べられていたようだ。

 ガードが固いのか、俺が疑わしいだけなのか。


 ……まあ、自治区の浮浪者同然の俺がここにいることがもうおかしいんだけどね。


「貸したものを確かに返して貰った、苦労であった」

「その服のお陰で本当に助かりました、ありがとうございました」


 ……魔法がかかってないボロ服だったら、もっと気安くお借りできたのですが。

 なんて皮肉をいう勇気は無かった。


「ああ、そうだ。その服に掛けてある防御魔方陣を、自治区の者が写してましたが問題はありませんか?」

「あるぞ」

「あ、はい、帰ったら焼却処分します、申し訳ありません」

「そう固くうけとるな、下げ渡したものがどうなろうと関与せんよ、ただ、アイツの作った魔方陣は、アイツにしか扱えんだろ、というだけだ」


 ……アイツ?


 頭のなかで、ポン! っと手を叩く。

 水竜ですね! 麗しの、愛しい守護竜様。

 そうか、自分しか使えない魔法陣って作成出来るんだな。

 写しは捨てなくてもセーフらしいし、帰ったら検証してみよう。


「かき写した魔方陣が使えないことを、帰ったら伝えておきます」


 よし、終わりだ。帰宅帰宅。


「……お前は自治区に住んでいるのか? 主人は?」


 終わったと思ったら、質問された。延長か?


「自治区から外に出る手段は無かったので、自治区をうろついていますね、主人はおりません」

「手段って、飛竜も地下扉もあるだろうに」

「転移扉の話を聞いたのは、今日でしたので、今日がはじめての外出にあたります」

「……ふむ」


 王は白い髭を撫でて考え込んでいた。


「ならこれから各国を渡り、王と守護竜に会うのか?」

「……はい?」

「ん? おかしなことを言ったかな? お前は四国の王と七匹の竜を探す役割があるのだろう?」


 ……なんだそれ、初耳。


「よく分かりませんが、守護竜って七匹おりますか? 四国に一体ずつですよね?」

「それは国の守護竜、他にもいるんだ、ちなみにお前もそうだぞ」


 ……そうだった。自覚が無かったので忘れていた。


「他の二体はNo.5の白竜と、No.6の黒竜、黒竜は三百年前から姿がない」

「……あっ!」


 白竜は俺を殺した女で、黒竜は幼馴染みといちゃついていたけしけらんやつだ。敵だ、敵!


「白と黒に会ったことがありました、それを思い出しました」

「……おお」


 周囲がざわめいた。

 この部屋には王と護衛騎士、門番しかいないと思ったが、窓探知で見ると魔術師が五名部屋にいる。


「黒竜はどこにいた? 生まれ変わったのか?」

「場所は説明出来ません、生まれ変わったかどうかも確認はしていません」


 あの黒猫は、幼馴染みの顔や口をベロベロとなめていただけだし。特に話をしたことはないな。

 一度口の怪我を治して貰った。それだけだ。


「それは、会ったと言えるのか?」

「無口な方ですからね(ニャーしかいわない)、怪我の治療が得意な様子でした」

「黒は人を管理する竜だからな、回復に長けていても不思議はない」


 そんな役割を持つ竜だったのか。

 ニャーニャーして幼馴染みにへばりついている印象しか無いから困る。


「白はよく南にいるよな? お前は南に行ったんじゃないのか?」


 白竜と聞くと、心が冷えて寒気が走る。白い眼球、血にまみれた赤い口、そして長い爪。どれをとってもトラウマ級の化け物だ。

 しかし恐怖の記憶は時間経過で薄れているようだ。


「自治区から外に出たのは今がはじめてです」

「……そう、言ったな。そしてお前らは嘘を付けない」


 ……えっ、嘘を付けないって何だ?


 王と話ながら、もう一方で脳裏窓に質問する。


[守護竜の発言は樹木に記載されるため、虚言を発することが出来ない]


 記載されてた! 確かに会話ログがあった!

 しかし嘘が言えないとは思っていなかった。


「場所はよく分からないですが、白竜と黒竜は合体して、六枚羽の白黒の竜に変身したところは見ました。なので、双竜は共にいるはずです」

「竜のくせに推測を言うな、調べれば分かるだろ、時間をやるから樹木に聞け」


 ……検索出来ることを当たり前のように言った!


「調べる前にお聞きしたく」

「何だ?」

「世界の情報網から情報を引き出せるのは、守護竜の機能でしょうか?」

「守護竜だけだと言われているが、西の王は特別に許可されていると聞いた事がある」


 検索は守護竜に最初からついている機能だった! 転生ボーナスとかじゃなかった! 残念!


「お前以外にも謁見しないとならんのだ、早くしろ」

「あ、はい」


 俺は急いで白と黒の居場所を検索する。

 前に調べた時に黒はいなかったが、今調べても白しかいなかった。


「アスラの廃都に白竜がおりますね、火竜と共にいるようです、そして黒竜は検索出来ません」

「そうか、やはりな」


 俺は頭の中でもう一度幼馴染みの居場所を検索するが、こちらも返答は無かった。

 やはり黒猫は、幼馴染みにへばりついてるのか?

 うらめしい、いや。うらやましい。同じ竜なら俺も幼馴染みといちゃつきたい。

 元から彼女は竜や爬虫類に目が無い。俺が竜の体だと知ったら喜びそうだ。


『……しかし、何故コウでなく俺がこの世界に連れて来られたのか』

「んっ? 何か言ったか?」


 しまった、口に出ていた。だけど日本語で呟いたからセーフか!


「スミマセン、話を戻しますね、私が守護竜と王に会わないといけない理由をご存じですか?」


 王はフッと鼻で笑い、俺に向かってシッシッと手を振った。


「お前が聞くのはワシじゃないよ、答えは全てお前らの頭の中にある、だがワシは親切だから恩を売るぞ」

「はい、お願いします」


 王は俺を真っ直ぐに見て、ニヤリと笑った。


「お前の鍵は[緑の魔女]と、[邪神]だ、あとは[女神の約束]だよ、我が愛しのセシルはずっと女神を待っているんだ、会わせてやってくれ、以上」

「はい、服をありがとうございました」


 俺は兵士に先導されて、謁見室を後にする。

 歩きながら窓に重要マークをつけて、三つのキーワードを書き入れた。

 自治区でゆっくり調べよう。


 俺は地下に行き、水竜の巣の扉を開けて貰い、長い地底湖の橋を渡った。

 行きと違って、聖地に帰るのに水竜の許可は必要無かった。

 聖地は守護竜に等しく開かれているらしい。

 俺は扉の前で振り返り、水底を覗くが、水竜の姿は見えなかった。


 ……まだ具合が悪いのかな?


『セシルはずっと女神を待っているんだ』


 先程聞いた王の声が脳裏に響く。


「女神に会えたら連れて来ますね、それまでお体を大切にしてください」


 俺はなにも見えない水底に向かって挨拶をし、聖地神殿に抜ける転移門をくぐり抜けた。



 ・・・・


 神殿から裏門を開けて外に出るとガーライルがいた。

 ガーライルは裏門前に座って眠りこけていた。

 一応ステータスを見て、ただ寝ているだけだと確認し、俺はガーライルを揺すり起こした。


「んあ? お、お前か、お帰り」

「……ずっとここで待っていたんですか?」


 飽きて尋ねると、ガーライルはあくびをしながら立ち上がった。


「とんぼ返りしたのであまりお待たせしては無いと思いますが、日を跨いだらどうするつもりだったんですか? 魔物も出るのに」

「魔物退治なら任せろよ!」


 ……うん、話がずれたな。


 ガーライルは照れ臭いのか、鼻の下を手でこすって、俺の背中をバンバンと叩いた。


「いやー、本当に戻ってくるとは思ってなかった」

「思ってないなら野宿しないでくださいよ、あれだけしつこく約束したのに信じてくれないのは失望します」

「信頼は実績がないとな」

「実績?」

「お前は約束を守るヤツだ、と信じるのに、何も無しではムリだ」

「成る程、確率の問題ですね、約束五回中五回守れば、私の信頼度は百パーセントです」

「……かくりつ? ぱーねんと?」

「いや、こちらのはなし」


 俺はケホンと咳払いをして、街に向かって歩き出した。


「おいおい、歩いて帰んのかよ! アレ使えよ、アレ!」

「アレとは? 何か乗り物とかありますっけ?」


 ドラゴンなら乗ってみたいけど、そんなに遠くでもないから徒歩で十分なのだが。


 ガーライルは神殿の裏門に触れてニヤリと笑う。


「お前が出掛けた時に、この扉から街に飛んだだろ? あれ、やってくれよ」

「また、無理難題を」

「チャチャッとドア開けたら出来るだろ!」

「いや、私は転移されないじゃないですか、私ひとりここに置いていったら、何の為に帰りを待っていたのか分からなくないですか?」


 ガーライルはボリボリと頭をかきむしる。


「……お前は本当に理屈ばかりを言うな、理屈よりも行動だろ? 転移魔法の対象を変えればお前も飛べるよ」

「解錠の魔力が無駄になるところが不本意です」

「待っていてやるから、研究しろよ!」


 ガーライルは親指を立てて、歯を見せて笑う。


『熊が笑いながら俺を脅してくる』

「なんだって?」


 理解されるとさらに絡まれそうなので、日本語で呟いた。

 俺は落ちている木を拾って、脳内窓に転移魔方陣を表示する。

 それと、扉の魔方陣を比較しながら、街までふたりで帰還するにはどこの記載を変えれば良いのか、地面にガリガリと図形を書いて検証した。


 ……何度も使うわけじゃないから、発動したら消えるコピー系の魔方陣でいけるかな。


 脳裏の窓に表示させた転移魔方陣に、目的地とふたりの結晶ナンバーを書き入れる。


「解析出来ましたよ、帰りますか?」


 立ち上がってガーライルを見ると、口を開けて居眠りしていた。


「……寝たまま運んでやれ」


 俺はガーライルの巨体をお姫様だっこする。


「この体、すごく力あるな。熊でも楽に運べそうだ」


 ひとりしゃべりつつ、足下に赤い光で魔方陣を描く。

 転移に名前の入った詠唱はいらないようで、足で魔方陣を踏んだとたん、景色が溶けて指定した街の側の岩場に飛んだ。


「……うわっ!」


 岩の高さ分、Zの座標がずれたようだ。

 高さ十センチくらいだが、空中に転移してしまい、ガクッと落下する感覚が襲う。

 両足を踏ん張って、ガーライルを落とさないように腕に力を入れたら、腕が体にめりこんで痛かったのか、ガーライルは俺の腕から逃れて地面に転がった。


「な、なんだ? どうした?」


 ガーライルは地面に尻をつけて、辺りを見回している。


「ガーライルさんのお望み通り、街まで転移しましたが、傾斜と岩の分だけ数値がずれていたので、ガーライルさんを落としました」

「……うん、分からん、まあ街の裏だな! 前みたいに広場で良かったんだぞ!」


 熊のような男の手を引いて、起き上がらせる。


「考えたのですが、転移先に人がいたらどうなるのでしょう?」

「なに?」

「座標指定の空間転移です、何も無い場所に人間分の質量をねじ込むと、転移先に人がいたらめり込んだりしないかなーと」

「……それは怖いな」


 転移扉は転移先の扉の前に人がいても、扉の材質で押せるから問題は無いが、門の無い空間転移はかなり危険だ。


 ……転移先は、絶対に何も無い場所にしないとダメだ。


 俺は脳内窓の重要項目に書き入れた。



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