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7、スクロールの作成

 

 水源地調査と浄化は、小鬼の巣の清掃という事で、ガーライルが全貨四十七枚の報酬をくれた。

 さらに剥ぎ取った角と結晶を雑貨屋の老人に持って行き、銀貨二枚ゲット。


 ……銀貨は全貨千枚に相当かな?


 そう思うと、ファリナの王様は日本円で150円くらいしかくれなかったってことか。ケチめ。


「この銀貨で服を入手したいのですが、どこで売っていますか?」

「ああん? 服なんぞに金を使うのか? その辺のゴロツキを殴って剥ぎ取りゃタダだろうに」


 ……追い剥ぎをすすめられてしまった。


「では、貨幣の適切な用途を教えてください」

「うちの店のものを買え」

「あー、では、魔方陣を書くためのインクとかありますかね?」

「あるぞ、何に使う気か?」


 俺は皿や布に浄化の魔方陣を書いて、水を浄化するアイテムを作りたいと説明をする。


「素材は貸してやるから、今ここでひとつ作成してみろ」


 雑貨屋の老人は、陶器の水差しと羽ペン、そしてインクを出す。

 俺は脳裏窓に浄化魔方陣を表示させ、水差しの底に書き写そうとして、手を止めた。


 ……いや、フリーハンドで正円書くの辛くね?


「コンパスとか無いですよね?」

「聞いたことねーな」

「綺麗な円を書き写す方法ってあります?」

「知らねーな」


 街の時計の裏に書き込まれている魔方陣の円は歪みの無い綺麗なモノだった。

 フリーハンドで適当に丸を書いて、魔法が発動する気がしない。


 俺は店のゴミ箱から、糸と細い棒を借りる。

 糸の先端に輪を作り、反対側に羽ペンを結ぶ。老人に手伝って貰って、水差しの底の中心に輪に通した棒を立て、棒をコンパスの芯に見立てて底に正円を書いた。


「驚いたな、こんなやり方があるのか」

「道具を作れば、ひとりでも書けますがね」


 俺は皿に小さな円を書いて、定規代わりの板で直線を引き、出来た図形に細かな数値と魔法の元素記号を記載した。

 たっぷり一時間(日本では二時間)かけて、浄化の魔法の書き写しが終了した。


 老人は水差しに水を注いで、浄化された水の鑑定をした。魔法陣は正常に働いたようで、水差しの中の水は純水になっていた。


「まさかこの街に魔法アイテムが作れる奴がいるとはなぁ」

「思い付いただけで、作ったのは初めてですよ、しかし魔方陣の記載は手間ですね」


 かといって、光で書くタイプのやつは、発動したら消えてしまうから、繰り返し使うアイテムには不向きだ。


 老人はルーペみたいなもので、水差しの魔方陣をしげしげと見る。


「こいつは西の塔の魔方陣だな、西の王の名前が入っている。ボウズ、この陣をどこで知り得た?」


 ……脳内窓です、それは多分神様のメモ帳です。


 なんて答えるわけにもいかず、お答え出来ませんと、開示を拒否した。


「……チッ、お前、塔からの流れ者だろ、異端魔術でも生み出したとかか?」

「心当たりはありませんね」


 老人は俺の顔をじっと見つめた。

 老人の右目が赤く光る。


[人物対象の鑑定魔法を感知、許可/拒否]


 ……拒否で。


「……おっと、鑑定不可か、弾かれたのは初めてだよ」

「何か、私に関して知りたい事がありますか?」


 顔の筋肉はほぼ動かないので、平然と対応をしているが、鑑定魔法を使った事が対象に分かると知って、内心はかなり焦っていた。


 老人は棚から楕円形の黄色い石を出して、触れと言う。

 多分これも魔法アイテムで、魔力は込められているらしく、ほんのりと温もりを感じた。


「ボウズ、生まれはどこだ?」

「聖地です」


 石は黄色から青に変わる。これは多分、尋問だ。


「聖地から外に出たことは?」

「ありません」

「魔法を誰に習った?」

「誰にも習っていません」

「親も聖地生まれか?」

「違います」

「親は四国にいるのか?」

「いません」


 ……親は生粋の日本人で、この世界とは全く関わりがありません、あと俺の親の情報は俺のステータスには表示されません。


 石は黄色と青の変化を繰り返した。

 質問回数が増えるにつれて、老人の眉間に縦皺が寄る。

 使用回数が減ったらしく、石はどんどん冷たくなり、元からの色だった黄色い光も薄くなった。


「……らちがあかねーな、魔力の無駄うちをした」

「魔力、込めますよ」

「おう、ならやってくれ」

「込めますが、今後嘘発見機を私に使わないでくださいね」


 老人はチラリと俺を見て、バツが悪そうに視線をそらした。

 無言を了承とみなし、俺は嘘発見機に魔力を込めた。


 老人は店内を漁り、平たい石と革の水筒を出す。


「お前に対して詮索するのはやめた、異端過ぎて考えるだけ無駄だ」

「助かります」

「だからこの石と革袋にも浄化魔法陣を書いてくれ。謝礼は古着一着と、魔法陣用のインクを一瓶だす」

「羽ペンも欲しいです、これ、魔法アイテムですよね」

「オオングの羽だな、今それしか無いから売れん」


 ……オオング、はて、心当たりがあるな。


 俺は腰に巻いていた帯布をほどいて、中に入れていた羽を出す。


「……うぉ」


 老人は俺の手から羽を奪って、目を赤く光らせて鑑定した。


「含有値37? 初列かよ……」

「森で拾いました、それで代用出来ますか?」

「過分なくらいだ、ペンに加工してやるから、その間に石と袋に魔法陣を書いてくれ」


 ……ていよく仕事を押し付けられた気がするが、この街での魔法使いは貴重なので恩を売っておこう。


「最初にコンパスを作らせてください、この部屋の廃材をお借りします」


 俺は廃材と魔物の針を利用して、ノギスのような形で羽ペンで円を書く道具を作る。

 いちいち円を書くのは手間なので、二つのアイテムに円だけを先に書き、後はカリカリと細かな元素を書き入れた。


「この、円を書く道具といい、お前さんのしでかすことはホント異端だな」

「うーん、羽ペンで細かな文字を入れるのは真に手間ですね、木に焼き印とかで溝を作って、インクを流すとかやりたいです」

「焼き印?」


 俺は半貨を二本の棒で挟んで、燃焼魔法で加熱し、廃材の木に押し当てた。


「高熱で焼けた部分は焦げて凹むじゃないですか、この窪みにインクを流せたらいちいち書かなくてもよくなりますよね」

「インクを流すとは?」

「こう、全体にインクをかけて、窪みにいれて、表面のインクは平らな板とかでこそぎ落とせばいける気がします」


 魔方陣の元素も数字も差程種類は無いので、金属の刻印みたいなもので窪みをつけられたら、焼かないでもいいかもしれない。


「あ、金属が貨幣しか無いんだった」


 刻印無理じゃん、と、思い付いた案を捨てた。


 作業効率を上げるのは諦めて、ひとつひとつ羽ペンで文字を書き入れる。

 石への記入が終わり、一息つくと、老人はじっと俺を見ていた。


「……お前さん、何の目的でこの街に来た?」

「最初にいいましたよね、借りた服を返すかわりに、今着る服が欲しいのと、借りたお金を得ることです」

「それ以外に目的は無いのか?」

「ありませんねぇ……ああ、水源地の調査の時に、大気汚染は銀の水の呪いだと分かったので、この街の大気汚染も浄化したいかな」

「……はぁ?」


 老人は、ポカンと口を開けて驚いた。


「街のどこかに、呪われた銀の水があるのではと推定しています、ご存じありませんか?」

「……それは」


 お、何か知っているらしい。

 俺は手を止めて、白い髭の老人を見た。


「呪いを発生させているのは、人の御霊だ……」

「はあ、魔物では無いんですね」

「浄化されない銀の水は、時間が経つほど汚れていくからな」


 ……じゃあ、この街の長を探して浄化の許可を得ればいいかな。


「ここ、自治区は自治区だ、国ではない」

「そうみたいですね」


 それでもまあなんとかなるのでは?

 と、楽観して老人を見るが、老人は辛そうな顔をして、じっと自分の手を見ていた。


「ここには、浄化の為に必須な守護竜がいないんだ」

「まあそれは、借りてくればいいんじゃないでしょうかね?」

「守護竜は領地から外に出ることはないよ」

「いえ、私は聖地で北の守護竜と会いましたので、絶対国から出ない、という事では無いでしょう」


 老人は顔を上げた。


「……北の、守護竜がここにいたのか?」

「地下の神殿ですが、王様と一緒にいました、今思えば何をしに来たのでしょうかね?」

「お前は、神殿に入れるのか?」


 ……はい、神殿で生まれたようです。


 とは言える筈がなく、外の扉から入れると、神殿に入った事に同意する。


「実は今私が着ているこの服も、北の王様のお古なのです、なので早くお返ししたいです、何か防御魔方陣が掛けてあるとかで、アリスンさんが値段が付かないと言ってまして」


 老人はガタッと立ち上がり、俺の服をつかんで引いた。


「……うわ、マジかよ、魔方陣に北の守護竜の名が記載されてやがる、北の王と竜がマジでここにいたのか」


 老人はそそくさと部屋を出て、丈夫そうな服と革のマントを俺の前に置いた。


「対価を先に払う、ここで着替えろ、そして返す前に王の服を見せてくれ、魔方陣を記載しておきたいんだ」


 ……これまで盗めとか言って、売ってくれなかった服を、速攻で出してくれました。


 俺は渡りに船だと、その場で王の服を脱いで、老人の用意した服に着替えた。

 老人は王の服を机に広げ、板に魔方陣を写し書いた。

 俺も革袋の浄化魔方陣を文字で埋める作業に戻る。


「……ちなみに、ファリナの王様に服をお返しする場合、どんな手段を用いれば可能だと思います?」

「西に行って、ファリナへの郵便を頼め」

「ここからファリナへは行けませんか?」


 老人は手を止めずに、上の空で答える。


「寒いと竜が飛ばないからな、全国と通じている西に行ったほうが手段は多いだろ」

「ファリナ王は、一瞬でファリナからここに来ましたよ」


 服を借りるのに、王が城に取りに行き、戻るまで日本時間で七分くらいだった。


「守護竜も一緒だったんだろ? 守護竜は各国と聖地を繋ぐ転移魔方扉が使えるらしい」


 ……おお、旅の扉があるとは!


 RPGでよくある固定の場所から固定の場所にワープするものだ。それが神殿にあるらしい。

 ここで嬉々としていると、守護竜だということがバレそうだ。

 俺はため息を吐き、手を動かした。


「なら西に行くしか無さそうですね」

「だな、銀貨一枚あれば竜に乗ってひとっ飛びだ」


 ……竜でひとっ飛び!


 なんて素敵なワードなんだ。

 ゲームでは終盤にしか乗れない空飛ぶ生き物に乗れるなんて!

 手持ちは銀貨二枚と全貨四十七枚だ。アリスンと等分しても、竜で西には行けそうだ。


「……お前さんが西に言ったら、戻ってこんだろうな」

「何故そう思いますか?」

「お前の発想力と魔力がかなりイカれているから、バレれば学舎に取り込まれる」

「学舎とは、学校ですかね、魔法を教えてくれるのでしょうか?」


 ならば取り込んでほしいな、と言うと、頭を叩かれた。


「何故怒りました? 知識は多いほうがいいじゃないですか、自治区の呪いだって解けるかもしれませんよ?」

「取り込まれたら戻ってこられねーよ!」

「そうなんですか、なら、魔力持ちなのをバレないように隠密行動をしますね」

「いや、西には行かんでくれ、魔力なんて、西の門をくぐった時に感知されるから隠せねー」


 ……門に魔力感知するセキュリティがつけてあるとか、この自治区の木の柵と比較するとものすごく発展しているな!


「なら、郵送を誰かに頼んだほうがいいですかね、荷物を預けても良い、信頼できる方は」

「……ガーライルしかいねーよ」

「成る程、お会いしたら頼んでみます」


 お互いの魔方陣の写し作業を終えた。

 俺は風呂敷を一枚購入して王の服を包み、リュックのように背中に斜めがけにして、雑貨屋を後にした。


 ……ようやく服と借りたお金が揃った!


 郵送をガーライルに頼むのは最後の手段にして、先に神殿の転移門について調べようと思う。

 俺はひとり街から出て、神殿に向かった。


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