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4、素材を売りに雑貨屋へ

 

 アリスンの店に戻ると、酒場の開店中らしく、アリスンは忙しそうに料理をしていた。

 話し掛けられる雰囲気では無いので、一旦外に出て、持っている三つの素材の売り値を調べることにした。


 露天で魔法結晶を探すが、置いている店は見当たらない。かといって、現物を見せると盗まれそうなので、採取前に価格を知りたいという旨で、結晶を取り扱う店を教えて貰った。


 自分をつけている人はいないかを、窓の探知で確認しながら、細い路地を進む。

 この街の建物は石と白い土で出来た簡素な造りで、殆んどが平屋に見える。しかも、同じような建物が多い。

 店に看板などは見当たらなく、この街に詳しくないとすぐに迷いそうだ。


 ……余所者は護衛をつけないと歩けないだろうな。


 建物の数を数えながら進み、露店商の男が言った店を覗いてみる。

 店の中は暗く、モノが乱雑に置いてあり、お香が焚いてあるのか、煙で視界が悪かった。


「ボウズ、なんの用だ?」


 全身スッポリと布を被って、その上に帽子を頭に乗せている老人が、店の奥から尋ねた。


「魔法結晶の買い取り額を調べていまして」

「おや、結晶を持っているのか? 見せてみろ」


 ……ここで持っていないと言ったら追い出されるだろうな。


 俺は上着のポケットからネテシーの石を出して、老人の前に置く。

 老人はルーペのようなモノを手に、ネテシーの石を鑑定していた。


「クズ石だな、マルナか、ネテシーか」

「あ、ネテシーです。魔力含有値は25のようです」

「……ん、25?」


 男は手のひらを赤く光らせて、空中に丸い円形の模様を出して、石を見ていた。

 どうやらあの赤い模様は鑑定魔法のようだ。


「本当にネテシーの結晶で含有値も25なのか、ネテシーは小さいし、あまり魔力持ちはいないんだがな、これはネテシーのボスか何かの石なのかもな」


 男はボソボソ呟くと、チラリと俺を見た。

 布は薄く透けていて、垂れ下がった目蓋の奥から鋭い眼光が見える。


「こいつを倒したのか?」


 ……いいえ、ネテシーが可愛らしい仕草つきで贈呈してくれました。


 などと言える筈もなく、「森で拾いました」と答える。


「うーん、これだけの石なら、地下の巣の奥深くに隠してあるんだがな、そうか、拾ったか……」

「貴重なら、値段も高いですか?」

「いや、結晶は魔力含有値で値段が決まるから、ネテシーの石の値段は安いよ」


 ……レアかどうかは値段に左右されないらしい。


「他にも石はあるか?」

「いえ、石はそれだけです」

「そうか……」


 嘘ではない。他は角と羽だ。

 プロの話を聞くと、ネテシーの石もネテシーからしてみればお宝レベルらしい。これはネテシーに返したほうがいいな。

 俺はネテシーの石を上着のポケットに仕舞った。


「あの、ひとつ質問いいですか?」

「……なんだ、内容いかんでは金を取るぞ」

「あ、有料なら答えないでください、質問内容は、魔法を使うには、呪文や魔道書などが必要なのでしょうか?」

「呪文よりも、必要なのは魔法陣だ」


 ……魔法を使うのに、さっき見た空中に赤い模様を出さないといけないらしい。


「なんだ、お前、魔力持ちか?」


 無言で頷く。

 魔力があることは知っているが、脳内検索システムしか使い道を知らないのだ。


 男は立ち上がり、がらくたの中から小さな鏡のようなものを取り、俺の前に置いた。


「鏡面に指を置いて、魔力を流してみな、色で保有値が分かる」

「魔力を流す?」

「そこからか……」


 老人は俺の手を取ると、目を閉じてじっとしていた。

 触れた手がじんわりとあたたかくなり、その熱が俺の指先から入り、手をあたためた。

 魔力を流すイメージは、熱の伝導みたいなものらしい。


「同じように、この鏡にやってみろ」


 ……この小さな鏡をあたためるイメージかな?


 俺は鏡に指をあてて、ひんやりとした鏡面に熱が伝わるように念じる。

 指先から何かが流れていくような感じがして、同時に鏡面の色が黒から青に変わり、緑から赤へと変化していく。

 色が黄色になりかけた時、これ以上流すと鏡が熱で溶けるイメージが頭に浮かび、驚いて指を離した。


「……お前」


 老人は口をポカンと開けて鏡を見ていた。

 何かやらかした空気を感じて、内心冷や汗をかきつつ、老人と見つめ合う。

 その時、背後から扉を開ける音がして、誰かが店に入って来た。


「おーい、オヤジ、いるか?」


 振り返ると、見上げる程背が高く、ガタイの良いひげ面の中年が俺の背後に立っていた。


「……なーんだこいつ、いやに若いな」


 熊のような風貌の男は、俺の頭をつかんで顔を無理矢理男のほうに向ける。

 もみ上げから顎まで短い髭に覆われた男は、俺を見るとにやりと笑った。


「新顔だな、どっから流れて来た? 年はいくつだ?」


 ……さっきそこの神殿で生まれたばかりです。


 まあそれを言っても信じてはくれないだろうし、トラブルの予感しかしない。

 俺は頭から男の手をどかそうと、腕をつかんだ所で悲鳴があがった。


「っ……てぇ、イタタ、なんだこいつ、いやに馬鹿力だな!」


 中2男子の感覚で力を入れたらいやに痛がられた。

 俺は男から手を離して、手を見ながらグーパーと動かしてみる。


 ……もしかして、この体は怪力なのか?


 ストレングスとかの数値ってあるかな?

 と、窓を見てみると、俺のSTRは255だった。


 ……うん、これもレトロゲーのカンスト値だ。人に触るときは、壊さないように気を付けないといけないのか。


 少々気になり、熊男のステータスを参照する。


[名称:ラナイス、分類:人間、性別:男、出生地:ファリナ/ノイナ地区、HP:1575、MP:25、STR:125、INT:53、VIT:223]


 ……うわ、この人バイタリティーカンスト気味じゃね? 体力馬鹿?


 両手をパーにして、軽く手をあげた無抵抗のポーズのまま、脳内窓を凝視していると、男がボリボリと頭をかいた。


「……コイツ、もしかして喋れないのか? 口を開けたまま停止してやがる」

「いえ、ラナイスさん、私は喋れます」

「は?」


 熊男は目を丸くして驚いた。

 これはあれだ、アリスンをアランと呼んだときと同じ反応だ。


 ……この人も、偽名で生きているのかな?


 困った時は私の名前を使えと言う、アリスンの顔を思い出す。


「あー、スミマセン、放浪中に街があったので、素材を売りに立ち寄りました、ここではアリスンさんにお世話になっています」

「……ああ? アリスンがなんだって?」


 逆鱗に触れた気がした。

 この熊男はアリスンの恋人とかだろうか?

 さらに困った時の言葉はなんだっけ?


「……アリスンさんは、ガーライルさんを紹介してくださると言っておりましたね」


 その名前を出すと、雑貨屋の老人が吹き出した。

 熊のような男はぐぐっと胸を張る。


「ボウズ、俺がその、ガーライルだ」


 あ、ヤバイ、なんかやらかした。



 ・・・・


 俺はガーライルに首根っこをつかまれて、アリスンの店に戻る。

 店は相変わらず混雑していて、アリスンはこっちの相手をする暇はなさそうだった。


「……仕方ねぇ、アイツの手があくまで待ってやる」


 定位置なのか、ガーライルはカウンターの一番奥に座り、アリスンに注文をしていた。


 ……ここで逃げたら怒られそうだし、かといって座る椅子は無いな。


 俺は店内を見回し、手をあげている客に近寄り注文を聞いて、アリスンに伝えた。


「おおっ? 手伝ってくれる? やーさし! じゃあこれ、あの青い髪の男に」


 アリスンがカウンターに酒と肉炒めを押し出す。俺はその辺の板を借りて、お盆代わりにして、青い髪の男に給仕した。

 カウンターに戻る間に次の注文を受ける。


 ……頭頂ハゲはエールと木の実、ローブの白髪男は骨付き肉二皿と水、隅のカップルはパンと豆のディップ


 受けた注文を脳裏の窓に記載し、給仕済みのチェックをつけていく。

 アリスンの手際はとてもよく、注文を受けた順に、表に給仕済みのチェックがどんどんつくのか面白い。


「おーい、こっちの酒はまだか?」


 調理は無理だが、樽から酒を注ぐくらいは出来るか、と、銘柄をアリスンに確認して給仕する。

 代金は後払いのようで、客が帰る支度をしたら、そのテーブルの注文したものをアリスンに告げる形で役に立った。


 ……これで、料金がキッチリ決まっていたら、レジの代わりも出来るんだけどな。


 帰る客が支払うのは素材や食材だったので、金銭価値が分からずに、会計は全てアリスン任せにした。


 夕食のピークは過ぎたのか、客が引けて来た。

 アリスンは俺の肩をバシバシと叩いて、役に立ったと礼を言った。


 カウンターの隅に座っているガーライルが、グビッと酒をあおる。


「ボウズ、全貨四枚持っている男がエールを七杯飲んで、半貨一枚の釣りを得た。エールはいくらだ?」

「半貨一枚」

「ふむ、エール樽には二十三杯分のエールが入っている、樽の価格は?」

「全貨十一枚、半貨一枚? 卸し値で販売してるのですか?」

「いや、単なる数の問題だ、これで最後、この街には百四十六人の住人がいる、それぞれから毎季全貨四枚の税金を徴収したら、一年でいくら税収がある?」


 ……百四十六掛ける四、季節は七季節だから


「全貨、四千八十八枚ですね」

「わー、アンタ頭いいのねー!」


 カウンターの中から、アリスンの称賛を受けるが、小学生でも出来る算数問題で誉められると微妙な気持ちだ。


 アリスンの拍手から逃げるように、ガーライルのほうに寄る。ガーライルは困った顔をして俺を見ていた。


「魔力持ちで、それだけ計算が出来るなら、西の学舎から追い出されたのか?」

「いえ、私はどこにも所属してはおりませんが」


 ……しかも、体は人間でさえもありません


「この街に何しに来た? 目的はあるのか?」

「あー、実はこの服は借り物でして、代わりを調達したら返そうかと思っています、その代わりの服を求めて街に来ましたね」

「……は?」


 ガーライルは理解不能だと、アリスンに助けを求める。


「アーちゃん、本当みたいよ、それ。その子、全貨七枚くらいが全財産だって」

「……はぁ? 魔力持ちが貧乏な筈無いだろ?」

「だからー、その子ね、魔法使えないんだって」

「は? 測定器破壊レベルの魔力持ちだぞ? こんなのどの国だって放って置かないだろーか」


 ……ああ、やはりあの鏡を壊すところだったんですね、咄嗟に手を離して良かった。


 ガーライルは席を立ち、カウンター脇にボーッと突っ立っている俺の肩に腕を回した。


「ボウズは魔力持ちなんだな?」

「そのようです」

「そして、魔力の使い道は無い」

「ありませんね」


 ガーライルは腕に力を入れて、俺を引き寄せた。


「お前の望み通りに、俺がお前の面倒を見てやろう、だから、ちょっと頼みごとを聞いてくれよ」


 ……あ、これ、なんか面倒ごとな予感。


 ほろ酔いなのか、ニヤニヤと上機嫌で笑う熊のような中年にからまれながら、俺はそっとため息をついた。


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