3、素材を集めに森に出た
「さて、目当ての魔物はいるのかな?」
アリスンに短剣と採取した物を入れる袋を貸して貰い、俺は街から出て森に出た。
比較的容易に採取が出来る素材を教えて貰い、それをメモに書こうとして、脳裏の窓に記載出来る事に気が付いた。
……日時や場所、ステータス表示だけでなく、メモも出来るとか便利すぎる。
窓で探知も出来るので、俺は地図と半径五十メートルの魔物を表示させた。
モグラに似たもの、ネズミみたいな小さな魔物、そしてウサギっぽい魔物、ラフターが検索網にかかった。
たしか、ラフターは角に魔力があって、ラフターの角は買い取ってくれるらしい。
ネズミは殆んど魔力を持っていないらしく、百匹に一匹程度で頭から魔力結晶がとれるらしいが、確率が低すぎるので無視しよう。
……いや、まてよ、魔力の有無で素材の値段が変わるなら、ステータス表示からMPの高い個体を狩れば良いのでは?
俺は動くのをやめて、低木の下に隠れて、探知から魔力持ちの魔物の検索に勤しんだ。
……あ、いた。MP15のネテシー(ネズミ)
起き上がって、その場所に行くが何も見えなかった。どうやらネテシーは地中に穴を掘って隠れているらしい。
……穴からネズミを追い出す方法? 水を入れる? いや、餌を置いておびきだす?
「いや、水を入れるバケツも、餌も持っていないのだが」
……ゲームみたいに、エンカウントしたら即攻撃してくれたらいいのに。
ネテシーのいる座標の上で、自分の無力さに嘆くこと数分。背後の穴からネテシーが顔を出した。
「……チュ?」
ネズミというよりはリス寄りだ。
灰色のフサフサの毛と、まん丸な黒い目がとても愛らしい。これの頭から石を取るとか残酷すぎる。
しかも下手に動くと穴に隠れてしまいそうだ。
ネテシーの捕獲方法か思い付かず、野生の魔物と見つめ合うこと数分、魔力持ちネテシーは穴に隠れてしまった。
「……前途多難」
その場でしゃがんで落ち込んでいると、足に軽い衝撃を感じた。
見ると、魔力持ちネテシーが足にタックルしていた。
俺は驚いて、手の平を差し向けると、ネテシーは手に乗った。
ネテシーはキョロキョロと周りを見て、ハムスターのように顔を洗う。その姿はとても愛らしい。
……これを殺して、額の石を採取するとか、俺に出来るのか?
冷や汗をかきながら、アリスンの短剣に手をかけると、脳裏の窓に赤い文字が走った。
[警告! 守護竜は土地の長の許可無く殺生を行う事は出来ない]
……は?
土地の長? 殺生禁止?
それって、狩猟は一切出来なく無い?
……土地の長とは?
[その土地を管理する者、四国の王、守護竜の主人]
その後は、国、街、村の長の名前が窓いっぱいに羅列された。
いや、そんな他国の情報いらないでしょ、自治区の長の事を教えてくれ。
[聖地自治区に長は存在しない]
……はい、詰んだ。狩り終了のお知らせです。この体は殺生禁止らしいです。
窓情報にがっかりするも、手のひらの上の愛らしい小動物を殺さなくて良いと知り、少しホッとする。
魔力持ちネテシーは手と口をモグモグと動かし、頬袋からペッと何かを吐いた。
「……石?」
小指の先ほどのサイズの、赤色い透明な石だ。
ネテシーは石を吐き出すと、ピョンっ! と手から飛び下りた。
「ちょっとまて、これ、お前の魔力結晶じゃないよな? お前、死んだりしないよな?」
ネテシーは俺の声を聞いて一瞬立ち止まり、尻尾をあげると、穴に潜って、それ以降は出てこなくなった。
俺は赤い石を解析する。
[魔法結晶、ネテシー、魔力含有値:25]
ネテシーの結晶は買い取りリストに書いてあるので、これで狩猟は完了らしい。
いや、狩猟なのか? 拾い物? いや、多分これは……。
……貢ぎ物
いやいや、ウサギが自分をたべてくれと寄ってくる仏じゃあるまいし、魔物に貢がれるのは変だろ、ナイナイ。
恐らく、木の実と間違えて頬袋に石を入れていたネテシーが、頬袋の整理をしただけだ。
魔物が御供えとか、貢ぐとか、ナイナイ。
心の中であせりつつ、道を進むと、角の生えたウサギが現れ、俺の足元に咥えていた角をポトリと置いて、素早く逃げ去った。
[ラフターの角、魔力含有値7]
小さな角を手に持って、呆然とする。
「……いやいや、おかしいだろ、何で魔物が俺の欲しいものを差し出してくるんだよ?」
思わず口に出すと、バサバサと羽音がして、鳩のような形の茶色い鳥が肩にとまった。
肩では姿が見えにくいので、腕を前に出すと、トトト……と腕を歩いて移動する。
鳥は俺の顔を見て、首を傾げた。
……ご所望はなんですか?
と、いわんばかりの顔だ。
いや、言葉は通じないし、テレパシー能力も無いんだが。
俺は「何も望んで無い」と念じて、腕を高く上げて鳥を逃がした。
鳥の姿が見えなくなるまで空を見上げていると、ハラリと鳥の羽が落ちてきた。
かなり高度から落ちたので、羽を見失う。
俺は探知窓で羽を探して拾った。
[オオングの風斬り羽、魔力含有値37]
……なんか、この羽が一番魔力高い。
俺自身が殺生禁止なら、魔物を手懐けて、テイマーのように使役できないのかな?
俺は近くにいるラフターを探知して、テイム出来ないものかと少しの間にらんでみたが、フツーに逃げられた。
「……いいや、一旦街に戻ろう」
帰路に危険が無いことを探知しつつ、魔物からの貢ぎ物と殺生禁止を考える。
アリスンに聞いた買い取れる素材は、ネテシーの頭部をひらかないと入手出来ないものもあった。
と、いうことは、アリスンは狩りが出来る、もしくは、周りで狩りをしている知り合いがいるのだろう。
それは、俺以外の殺生は禁じられていないということ。
まあそうだ。殺生を禁止されると、肉が食えなくなる。これは生き物としては致命的な決まりだ。そして俺は飲食をしなくてもよい。
……ってことは、俺だけが殺生を禁止されている?
きっと、[分類:守護竜]これが原因だ。
守護竜って何だっけ? アリスンが何か言っていたような……。
そう思うと、窓に文字が流れた。
//守護竜サマはね、神と会話が出来るし、この世界の情報を何でも知っているのよ。守護竜は世界の根幹で、神の御使いなのよ
//……うわ
//何でも知っているというのはあやかりたいですね
//ウフフ、知りたいことがあるのね、分かることなら有料で教えるわよ?
//……有料
「会話ログじゃん!」
もしかして、俺の会話は全て記載されているのか?
えーっと、じゃあファリナ王との会話は?
//こちらに攻撃の意思はありません、攻撃は止めてください
//ほお、神殿に人が入り込んでいるなんて珍しいな。攻撃の意思か無いなら両手をあげて姿を現せ
//……いや……こちらは裸で……女性の前に出るわけには
//裸で神殿に来たのか? それとも、追い剥ぎにあったのか?
//いや、気が付いたらここにいて、衣服は着てなくて、困っているところです
「……うわぁ、全部残っている」
救いは、思考は記録されないことだ。記録は会話だけだ。
いや、会話ログをよく見ると、場所と日時と発言者の名称も表記されているが、まあ、そこは気にしないでいいだろう。
そこまで考えて、はたと口を手で押さえる。
……考えるのはいい、だが、発言はよく考えて出そう。下手をすると一生の汚点になる。
この、取得した会話ログをまとめると、守護竜とは。
・神の御使い
・神と会話可能
・世界の情報を網羅している
情報は多分この頭の中の窓の事だろう。
神との会話は今のところ無いし、御使いと呼ばれるほど神に何かを命じられてはない。
あと青い髪の人も守護竜だと仮定すると
・相手の個体情報を取得できる
・終末予言を知っている
・王に仕えている
おそらくこの、王に仕えるというのが大事なんだな。
土地の長とあるから、ファリナ王ならファリナという北国全土が有効範囲とみてとれる。
あの青い女性は、北国なら制限無くなく活動出来るんだ(推測だが)
もし俺が、アリスンを主に選んだら、活動範囲はアリスンの所有物の中に限定されるのかな?
……なら、主は広範囲の土地を所有している人のほうがいいな。
そして今現在、主人のいない俺の出来ることは、所有者の定まっていないモノを拾うか貰うだけかな?
青い人が言っていた終末予言も、どこかで見た記憶がある。それは多分、幼馴染みの少女の夢だ。
詳細は思い出せないが、世界は力を失って衰退していて、女神の帰還を待っているとか、そんな感じ?
……なら、神の名前はサーラジーンで、女神はフレイか。フレイは既に死んでいるから、女神は幸の事を指すのか?
「篠崎幸はどこにいる?」
口に出して問うが、返答は無かった。
俺は記憶からこの世界の有名人の名前を思いだし、片っ端から検索する。
「一の王はどこにいる?」
[セダン、新王都、セダン城三階、自室]
「ファリナ王」
[ファリナ王都、ファリナ城、二階、謁見室]
「セシル、No.4」
[ファリナ王都、ファリナ城、竜の巣]
「アリスン」
[該当者の中でマーキング履歴無し]
誰がどこにいるのかというのは、マーキングのついた特定の人しか出来ないらしい。
一の王は世界最初の人で伝説の王、ファリナ王は北国ファリナの王様だから、マーキングされているのか。
……なら
「白竜、レアナ」
[アスラ、北部、座標……]
「黒竜、アレク」
これには返事が無かった。
俺を殺して、魂をここに連れてきた白竜は、現在南国アスラにいるらしい。そして、黒猫の姿をしていた黒竜は、幼馴染みと一緒に日本にいる可能性があるかもしれない?
「検索、俺がするべき事項」
……返答無し。
「そこでだんまりかよ」
守護竜は何でも情報を知っているんじゃないのかと、そう発言したアリスンに問い詰めたい。
(人では無いとカミングアウトするつもりはないので、聞かないけど)
「……俺はここで、何をしたらいい?」
街に近付くにつれて、だんだんと悪くなっていく空気を見て、俺は軽くため息をついた。