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2、街で男のおばさんに拾われた

 

「……やっと外に出られた」


 脳裏に開きっぱなしの状況ウインドウを見ると、高さの座標がかなりあがった。

 今までいた世界樹の間は地下のそうとう深いところにあったらしい。


 空は偽物ではない青空が広がり、鳥や虫が飛んでいる。

 そう思うと、生き物が殆んどいない神殿施設はかなり特殊な空間だった。

 外への鍵を開けてくれた青い女の人が言うには、地下神殿には神官と守護竜しか鍵を開けられないらしい。

 解錠するついでに、解錠方法を教えて貰った。

 施錠はオートでロックされるとか。


 真っ裸問題も、ファリナの王さまがテキトーなお古をくれたし、多少なりとも小銭をくれた。

 まあ、水も食料もいらないので、服以外に金を使う事が思い付かないが、金はあるほうが心強い。

 服もお金もいつか返すつもりだが、それには仕事をしなくてはいけない。


 ……街に行けば、何らかの職があるだろうか? ギルドとか。


 ゲームやアニメで見る、酒場の壁にずらっと貼り付けてある依頼書や、ギルド登録等を想像すると心が踊るものがある。


 ……依頼?


 ふと、今の自分は何が出来るのだろうと考える。

 この世界の職業的には何なのだろうか?


「分類が人ではなく守護竜というのは、今は置いておこう」


 人気のない林道を街に向かって進んでいると、ガサッと音がして、道をウサギのような生き物が駆け抜けて行った。

 俺はその生き物を目で追いかけ、脳裏の窓に情報を要請する。


[ラフター/聴覚の鋭い魔物/臆病/群れで行動する/HP:45/MP:5 /属性:風]


「おおお、まさにステータス」


 HPとかMPとかあるんだーと感心して、ラフターの情報を消した。


 なら、この体のHPとMPはどうなっているのか?


 期待して窓に意識を向けるが、HPは∞で、MPは65535だった。


「……バグってる? 65535ってレトロゲーのカンスト値みたいな数値を」


 さっきのウサギモドキと比較して、13107倍魔力があるってことだな。

 まあ、何の魔法が使えるのか全く情報がないのだが。


 ジーッと窓を見ると、一の桁が減ったり増えたりしている。

 もしかして、この情報窓を展開しているだけで魔力が減るのかもしれない。

 そして、増えるのは多分自動回復だ。

 消費量が回復とトントンならば、この窓は開きっぱなしで大丈夫だろう。


 せっかく魔力があるなら、魔法を使ってみたいものだ。街に行ったら魔道書や呪文を探してみよう。


 ゲームをしている気分でウキウキと道を進んでいく。街に近付くと、空はどんよりと曇り、空気は煙たかった。外よりも街の方が空気が悪い。


 ……大気汚染?


 窓で確認してみるが、SO2とかCOとかいう元素表記がある筈がなく、この世界の専門用語が羅列して、その数値が何を意味しているのかが分からなかった。


 大気が淀んでいるせいか、はたまた宗教上の問題なのかは分からないが、街にいる人は鼻と口を布で隠していた。


 ……ステータスを見ても、俺の数値に変化は無いが、街の人に習って俺も口を隠した方が良さそうだ。


 いろんな店が並んでいる道に来ると、王から貰った金属の破片のような小銭を出して、露天の店から口を覆う布を買った。


 ……これで現地民に紛れ込めるかな?


 ひとまずギルドか酒場だろうと、探して歩いているうちに、人ごみに押し流され、気が付いたら細い路地に入り込んでいた。

 その路地に座り込んで、酒を飲んでいる中年の男らが声を掛ける。


「余所者だな? 何が目的か?」


 もし絡まれても、あのHPだと死なないだろうが、流石に怪我は怖い。回復魔法とか治療院とか知らないのに。


 ひとまず知りたいことは、日雇いの職はあるかと言うことと、呪文などを取り扱う人や店はあるのかと言うこと。

 この世界の常識などない、どういった設定なら怪しまれないのか?


 ……いや、全然思い付かない。一人で街にくる理由ってなんかあるかな?


 返答に困って固まっていると、男たちを無視した形になったようで、イラついて体を揺すったり、威嚇するようにこっちを睨み付けている。

 何か返答して、ここから逃げないと。


「あっらー、こんなところにいたの? 迷っちゃったぁ?」


 振り向くと、路地の入り口に背の高い女の人が立っていて、おおげさな身振りで近付いて来た。


[名称:アラン/分類:人間/性別:男]


 ステータスを見て思わず固まる。

 この世界にも別の性を選択する人が存在するようだ。


「親方が探してたわよぉ? 遅い、何をしてるんかって! 親方怖いんだから、早く行かなきゃ!」


 その女性は、俺の肩に手を回すと道に向かって歩き出す。女性はここいらでは顔が知れているのか、男らは身を引くように視線をそらした。

 女性は男らに向けてにこやかに手を振った。


 俺はその女に肩をがっしりと捕まれ、建物の隙間から細い路地に入り、階段を下りる。


 ……地元のゴロツキっぽい輩から助けられたのだとは思うが、この人はこの人でまた胡散臭い気がする。


 でもまあ、こちらとしては失うものも守るべきものも何も持ち合わせていないので、運を天に任せて女性について行った。


 女は階段の先にある扉を開けて、部屋に俺を押し込んだ。

 そこは椅子とテーブル、そしてカウンターのあるバーのような場所だった。


 女はカウンターに入り、水差しからひしゃくで水を飲むと、こっちを見た。


「なんでつっ立っているの? 今は店を開けてないから、好きな所に座ってイイワよ、ちなみにお水は有料よ」

「座る前に、何故ここにつれて来られたのかを聞いても良いですか?」


 俺は扉の隙間に足を挟んで、扉の前に立つ。

 ヤバイときはすぐに逃げる為だ。


 女は頭を傾げて考えるポーズをして、ニッコリ笑ってこう言った。


「神のお告げよ」


 その答えは正直意味不明だった。

 ボッタクリバーや、金銭目的のほうが理解しややすい。


「……神と話が出来るんですか?」

「いやーね、そんな人いる筈無いじゃない、守護竜じゃあるまいし、私に分かるのは、ふわふわー、キラキラーってしたときに見える光景が、私にとっての神託ってヤツなの」


 助けて貰ってなんだが、この人はちょっと頭がおかしい方なのかもしれない。


「守護竜なら、神と会話が出来るんですか?」


 気になるのはここ、この体の分類である守護竜、そして、神殿で会った青い髪の女性は神と会話が出来るのだろうか?


 女はカウンターに肘をつけて、ニヤニヤと笑ってこっちを見ていた。


「守護竜サマはね、神と会話が出来るし、この世界の情報を何でも知っているのよ。守護竜は世界の根幹で、神の御使いなのよ」

「……うわ」


 胡散臭い話だった。

 御使いとか、脳ミソが全力で拒否をした。


「何でも知っているというのはあやかりたいですね」

「ウフフ、知りたいことがあるのね、分かることなら有料で教えるわよ?」

「……有料」


 俺は上着のポケットに手を入れて、貰った金を全て女性の前に置いた。


「俺の全財産はこれだけですが、これで聞ける事ってどんな事ですか?」

「……うわ、本当に?」


 女は眉を寄せて、虫を見るような目で俺を見た。

 まあこれで、カモには出来ないことが分かってくれただろう。


「その金も、この服も、見知らぬご老人に借りたものなので返さないといけません、何か職を紹介してはいただけないでしょうか?」

「もしかして、その老人は北の国の人だった?」


 北と言われて考える。

 ここが幼馴染みが夢に見ていた世界だというなら、国は東西南北に四つある。

 ファリナ王の名前についているファリナは北国の名前だから、答えはイエスだ。


「ファリナの人だと言っていました」

「なるほどね。だから北の服を着ているのね」

「見ただけで分かりますか、それ」

「分かるわ、だってその布は北の特産だし」


 女はガサゴソと棚をあさり、刃物を取り出すと、素早く俺の手を切りつけた。


「……!」


 奇襲に何の対処も出来ず、腕はスッパリ切りつけられ……た筈だが、手には痛みは無く、服も切れていなかった。


「……模造刀?」


 切りつけられた衝撃はあるのに、痛みは全く無いのが不思議で、俺は裏返しながら腕を見ていた。


「偽物じゃないわよ、ちゃんとした短剣です。でも、その服は防御魔法がかかっているから、剣じゃ切れないわ」

「へぇ……そんな魔法があるんですね」


 布は鎧よりもずっと軽いし、魔法って便利だなぁ。


「ちなみに、この服の値段はいくらくらいだと思いますか?」


 女は上着の裾やマントをめくって、面白そうに俺が着ている服を見ていた。


「魔法がかかってなければ、ファリナでは銀貨二枚ってところかしら? でもね、魔法のせいで値段はつけられないわ」


 ……ものすごく高価な服だったようです。ボロと思ってしまってスミマセン。


「じゃあこれは着ないほうがいいですね、綺麗なままで返さないと」

「いや、着てなさいよ、あなたの全財産では服を買えないわ」


 ……うっかり全裸生活に戻る所だった。


 俺はカウンターに乗せた金属片のような硬貨を指でつつく。

 貰った貨幣は四角のものが四枚、三角のものが七枚で、口を覆う布に三角を二枚を払って、三角は残り五枚だ。


「……こんな金属片に価値があるのも不思議ですね、簡単に作れそうなのに」

「はぁ? 金属なんて作れないでしょ?」

「えっ? 鉄鉱石を高熱で溶かせば出来るんじゃ?」

「は? 石? 魔物じゃなくて?」


 ここで常識の壁が立ち塞がった。

 この世界の金属の素材は魔物なんだろうか?


 思わず三角の金属片を凝視して、脳裏の窓に素材を聞く。

 素材は赤鉄鉱、加工国は西の学舎のようだ。

 ちなみにこういった、絵柄の無いモノはどの国でも使えるが、通貨としては殆んど価値が無いらしい。高額なものは金や白金で出来ていて、ちゃんと絵柄もついているとか。


 ……お金は気軽に作れないように、作成方法が隠匿されているのかもしれない。


 ちなみに、この世界の武器や鎧は魔物の死骸を加工して作られているらしい。

 さっき切りかかられた短剣の刃も、虫系の魔物素材だそうだ。


「あの、神託ってなんですか? ここで俺にしなくてはいけないこととか、ありますか?」

「さあ?」


 いや、首を傾げられても困る。

 俺を連れてきた理由は無いのか。


「良く分からないのよ、最初のフワフワーは十日ほど前よ、その後ずーっとモヤモヤフワフワしていたんだけど、今日になって痛いくらいに光が見えたから追いかけたの、そこに、あなたがいただけ」

「今もまだギラギラしているんですか?」

「あなたに触れたらおさまったわ。だから、私の神託はあなたに会うことだったみたいね」


 ……なんとアバウトな。

 そんないい加減な神託に何の意味があるんだ?


 不審な目で女性を見ていたが、女性はクスクス笑って俺の頭を撫でた。


「あなたって、ホント考えが顔に出ないわね、死んでるのかな? ってくらい、何を考えているのか分からないわ」

「……えっ」


 驚いて自分の顔を触る。

 女の言うように、表情筋が動かないようで、顔で動かせるのは瞼と口だけだった。

 まあ、つい最近まで瞼さえも動かせなかったから、そんなものかもしれない。

 日本では無理して作っていたポーカーフェイスが、この体では自然に出来るのは良いことだ。


「この街でお金を得ようとするなら、どんな仕事がありますか?」

「物々交換の仕事はあるけど、お金を得ようとすると難しいわよ」

「どうしてですか?」


 女はあっけらかんとした笑顔で言った。


「お金は四国でしか価値が無いもの、国を追われたならずものが集まるこの土地では不要なモノだわ」


 この四国というのは、日本の島とは関係が無い。この世界の国は、この聖地を中心に四つの国が取り巻いている、その四国のことだ。


「……えっ、ここは聖地自治区ですよね? お金を管理する組織とか無いんですか?」

「無いわよぉー。たまに余所から行商人が来るから、他国の人との交渉で使うだけね」

「……物々交換は、ちなみに、どんなものを?」

「主に魔物素材ね。武器の素材にできるし、あとは食料ね」

「えーっと、鉱石は? 石炭とか、火がおこせますが」

「あなた、本当に石が好きなのね。石に価値は無いわ」


 ……この世界の燃料は主に木で、他には魔法でも暖をとったりするのに使うが、石炭は発見されていないらしい。

 石の利用法を広めたら一攫千金もある?


 そう思ったら、脳裏の窓に赤文字で警告が走った。この警告は世界樹の葉で服を作ろうとした時以来だ。

 もしかして、未知の文明をこの世界にもたらしてはいけないのかな?


 ……転生特典、現代知識無双はNGでした。


 気持ちは落ちたが、表情には出ないのが幸いだ。


「……スミマセン、アランさんは時間とか暦とかはどこで分かりますか?」

「唐突ね、時刻は百二十ごとに街の鐘が鳴るわ、暦は季節かしらね、広場に掲げてあるわ」


 街の何ヵ所かにあるモニュメントで分かるものらしい。

 俺みたいに、脳内の窓で確認は出来ないのか。


 目を閉じて考えていたら、女性に至近距離からにらまれた。


「しかし……アランって誰の事? 私はアリスンよ?」

「えっ、アランさんでは?」

「違うわー、アリスン! アランって呼んだら怒るわよ!」


 ……これは、窓が間違えているのか、目の前にいる人が詐称しているのか?


「ちなみに、この街に戸籍ってありますか? 街の人の名前や性別や住所を把握できるものなのですが」

「四国にはあるけど、ここには無いわ」


 ……この、窓のステータス情報は戸籍とは別物らしい。


「……失礼とは思いますが、アリスンさん男性ですよね?」


 目を丸くして驚かれた。

 顔になんで分かったのかと書いてあるけど、窓無くても分かりますって、さすがに。


「えっと、声が低いですし、喉に男性特有の膨らみがありますので」

「……ふーん」


 ……いや、最初に気が付いたのはステータス由来だけれど。


「他言したら殺すわよ?」

「はい、他言しません」


 俺のHPは∞なので、恐らく殺されることは無いだろうが、この街での命綱のアリスンさんににらまれたくはない。


 ちなみにアリスンさんが言うには、この自治区には軍も警察も役所もないらしい。

 住む人は自給自足だが、土地使用料や店を開く時は上にお金を払わなければならないとか。

 ショバ代は、屋根のある店舗が一番高額で、次に露天の屋台つき。地面に敷物を敷いて売るのはかなり安いとか。


「なら、森で魔物を狩って、路地で売るのもアリかな」


 何に需要があるかは分からないけど、その辺は店を見て学べばいいし。


「あなたみたいな新顔が露天でモノを売ったら、ゴロツキにたかられるだけよ」

「昼間店を見ましたが、そういった輩は路地にしかいませんでしたよ?」

「だから、そーゆーゴロツキが路地から店を見張っているの」


 店舗は、盗難などの被害にあわないように、ボディーガード代としてゴロツキに金を支払っているらしい。


 ……役所のかわりに、ゴロツキが街を牛耳っている?


「森で採取をしてくるなら、売れるものと、それを交換してくれるところを紹介してあげる、紹介料金は売値の半分ね」

「……高っ!」


 思わず口から本音が出てしまい、俺は口を手で押さえた。


「高くないわ、私があなたの身元を保証するって事込みだからね、何か問題が起きたら面倒を見てあげるし、私の名前を出しても相手が引かなければ、ガーライルって名前を出してもいいわ」

「ちなみに、その、ガーライルさんは、どちらに?」

「今は余所に調達に出ているわ、戻って来たら会わせてあげる、だから、半分ね」


 笑顔で告げられるが、半分持っていかれるのはキツい。

 必要経費を入れたら赤字になりそうな?


 そこまで考えて気が付いた。

 体力無限大、魔力は多分カンストで、水も食料も無く動くこの体の必要経費とは?


 服は刃物では切れないらしいし、もしかして経費ゼロで金が稼げるかもしれない。


「分かりました、この街にいる間は五割を支払います、なので近場で手頃に稼げる素材を教えてください」




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