嘘から始まるラブコメ~オフで会ったソシャゲの相棒が、俺を嫌って顔もあわせない義妹だったんだが……彼女はなぜだか俺と気づかない上にグイグイ来る件について
『くらえぇぇぇ!!』
すさまじい爆発音と共に、俺の必殺スキルを纏った剣がドラゴンに襲い掛かる。俺の一撃は相手の体力ゲージを三分の一まで削ったが、とどめを刺すまでには至らなかった。ドラゴンが反撃とばかりに息を吸い込んで、ブレスを吐く呼び動作に入る。俺はというと、スキルを放った硬直のせいで動けない。まさしく絶対絶命である。俺一人だったならばだ。
『終焉の皇子の一撃を喰らうがいい!! 朽ち果てて死ね、邪龍よ!!』
芝居がかったその一言と共に閃光が走り、ドラゴンの喉元を弓矢が貫いた。そしてそのままドラゴンは先ほどよりもおおきな悲鳴を上げる。だが、相手の体力はあとちょっとほんの数ミリ残ってしまった。ああ、まったくあいつの悪い癖が出たな。
最後のあがきとばかりに、ブレスを吐こうとしたドラゴンを赤い光と黄色い光が包みさらにダメージを与えた。俺の炎のスキルと彼の大地のスキルが連鎖反応をおこして更なるダメージをドラゴンに与えたのだ。今度こそ体力バーはゼロになり、ドラゴンが息絶えた。
『計算通りである!!』
そう、目の前の男はわざわざカッコいいエフェクトがでるから、相手の体力を少し残したのである。こいつが本気を出せば先ほどの一撃で終わったと言うのに……
『フハハハハ、やったな。終焉の皇子グレイスと我が盟友イアソンのコンビに勝てる奴などいないのだ』
『そのセリフは死亡フラグだからやめてくれない!?』
調子にのってキメ台詞を言う彼は俺の相棒であるグレイスだ。黄昏時のような薄いオレンジ色のマントに、最上位レア素材であるブラックオリハルコンをふんだんに使用した闇夜のように漆黒の鎧を身に着け、仮面舞踏会につけるような仮面で目元を隠した金髪の青年である。
厨二病全開の彼とはこのゲーム『七神』で出会い半年もの付き合いになる。訓練クエストでたまたま一緒になって、それ以来行動しているのだ。話し合うし、ノリも合う。ネット上の相棒にて親友と言えるだろう。
お互いリアルの事は何もわからないし、話していない。以前それとなくリアルについて聞いたのだが、それとなく話を逸らされたので、触れないようにしている。だけど、そんな事が気にならないくらい仲が良いのだ。こういう関係も悪くないと思っている。
とはいえ、毎日ゲームをチャットをしているとリアルの事も多少はわかってくるわけで……同じ高校生だとか、わりかし近所に住んでいるとか、俺と同じ様に親が再婚していて、新しい兄妹ができたとか……プライベートでも共通点が多くあるのですごい話があうのだ。とはいっても俺にできたのは妹で、あっちにできたので姉なので多少は違うけれど……
実際会ったことはない親友。そういう関係もいいよねと思い始めていた俺だった。だが、彼の一言がそれを覆す。
『そういえば池袋で、このゲームのコラボカフェがあるらしいな』
『ああ、そうだねーっていっても興味あるやつがまわりにいないからなぁ……スライムゼリーとかおいしそうなんだけどね』
俺もその話は知っていたが、いかんせん行く相手がいない。学校にも数は少ないが友人はいるけれど、こういうのにはあんまり興味が無いのである。いや、以前にはこういうのに興味がありそうな奴はいたのだがとある事情で、仲たがいしてしまっているのだ。
『じゃあさ、よかったら私と一緒に行かないか? 話している感じ、お互い近所に住んでいるだろう』
『え?』
俺は彼の言葉に耳を疑った。そりゃあ、付き合いもそこそこ長いし、話も合うから実際会ってみたいなとは思ってはいたさ。けど、なんというかこいつがリアルを探られるを嫌がってそうだったから、会ったりするのは嫌なのかなと思っていたのだけれど……
『ああ、すまない、調子にのってしまったかな? 確かに私たちは電子の世界のみでの関係、無理にリアルで会わなくても……』
『いや、会いたいな。なんていうか、グレイスはそういうの嫌なのかなって思ってたからさ……びっくりしたんだよ』
『まあ……その……私もこっちとリアルじゃ結構キャラが違うからな……じゃあ、土曜日でいいか? せっかくだしお洒落して来いよ。私の盟友として恥ずかしくない恰好でこい』
『うん、楽しみにしてるね』
そう言って彼はゲームからログアウトをした。慣れない事をして照れているのかもしれない。確かにリアルで『終焉の皇子』とか名乗ってたらやばいやつになるから、キャラは多少違うのだろう。
しかし、あいつの普段の恰好ってどんなんだろうか? お洒落して来いって言っていたが、シルバーチェーンとか髑髏のネックレスとか無茶苦茶好きそうだ。俺はクスッと笑いながらゲームからログアウトする。土曜日か楽しみだなぁ。
その時の俺はこの選択がのちにどんな結果をもたらすか考えてもいなかったのだ。
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あの後、俺はコラボメニューやカフェの場所などを調べて、これを食べたいなどのチャット送ってからログアウトをした。初めてのオフという事で結構念入りに調べてしまった。そして、自分の部屋を出て冷蔵庫へと向かう。集中していた時は気づかなかったが、喉が渇きを訴えている。
階段を下りてキッチンへと向かう最中に、鼻歌が聞こえる。どうやら先客がいるようだ。気まずさから、俺が咄嗟に部屋に戻ろうとする前に、こちらを振り向いた彼女と目が合ってしまった。途端に鼻歌はとまり、スッと表情が消える。
彼女の名前は黛 乃蒼、年齢は俺の一つ下で十六歳の高校一年生だ。キリっとした整った顔に、艶やかな黒髪のクールそうな美少女である。お風呂上りなのだろう、濡れた髪の毛がなんとお艶めかしい。
彼女は俺の義理の妹だ。俺が高校に中学二年生の時に父が再婚をした義母の連れ子である。義理の妹、しかも美少女と同じ家に住んでいるのだ。羨ましいというやつもいるだろう。だが、現実は過酷である。
「よう、乃蒼。風呂上りか? 早く髪の毛を乾かさないと風邪ひくよ」
「そんな風に兄貴ズラされなくてもわかってますよ」
そういうとさっさと彼女は歩いていってしまう。この反応である。今でこそこんな風に嫌われているが元々俺と乃蒼は一緒に暮らし始めた時は結構仲良しだったのだ。よく、一緒にゲームなどもして遊んだり、あの時は進兄さん進兄さんと懐いてくれたのだが……
ある日なぜか、話しかけても素っ気なくなってしまったのだ。やたらと兄貴ズラをしたのが悪かったのかもしれないし、他に理由があったのかもしれない。
俺が溜息をつきながらも彼女の後姿を見送っていると場違いに明るい音が聞こえた。
『七神~♪』
さっきまでやっていた七神のBGMである。やっべえ、スマホの音量消してなかったかと慌てて、ポケットを漁るも、スマホはない。そうだよ。俺は今自分の部屋で充電中じゃん。
俺が怪訝な顔をしていると乃蒼があせったようにスマホの電源を消すのが見えた。まさか……
「なあ、乃蒼……」
俺の言葉が聞こえていなかったのか、彼女は足早に自分の部屋に戻ってしまった。元々彼女はゲームが好きである。仲が良かったときは一緒によくゲームをしていて深夜まで騒いでは両親に怒られていたものだ。たまたま同じソシャゲにはまっていたとしてもおかしくはないだろう。
俺は部屋に戻って、七神を開くとグレイスからメッセージが返ってきていた。
『調べてくれたのか、ありがとう!! 楽しみにしているぞ、盟友よ!!』
『ああ、俺もだ。当日はよろしく』
テンション高めな言葉に俺はスマホをみながらにやける。そういえばこいつにも義理の姉がいるんだよね。ちょっと乃蒼の事を相談してみるのもいいかもしれない。
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「ふーん、それで私の所に来たのね。まあ、ちょうどカットモデルを探してたからちょうどいいわ。失敗しても文句を言わないでね」
「ああ、初めて会う友人だからね。せっかくだしお洒落をして会ってみようと思ってさ。それに輪舞の腕は信用してるよ」
土曜日の午前中に俺は友人の白銀 輪舞の所に来ていた。彼女は俺の幼馴染である。茶色い髪のミディアムヘアーに、派手になりすぎない程度に、自分の魅力を引き上げるメイクをした大きな瞳が特徴な美少女だ。
実家が美容院という事もあってか、お洒落に人一倍興味があるようで、メイクやファッションなどには人一倍のこだわりがある彼女に相談をしにきたのだ。男友達に会うのにお洒落をする必要はないというかもしれない。だけどさ、なんかお互いお洒落をして会おうって話をしたから、負けたくないななどと思ってしまったのだ。
「ふーん、そう言って実はその相手が美少女だった!! なんてパターンを想像してるんじゃないの? 漫画とかにありがちなやつ」
「いや……それは、まあ……少しはあるかもとは思ってるけどさ」
「進はエッチねぇ」
「エッチは関係ないだろ!?」
クスクス笑う彼女に俺は思わず反論をする。いやいや、違うんだって、そりゃあ本当に本当にちょっとだけどさ、そういう事もあったらいいなって思わなくもないけどさ、グレイスとはゲームの中であんだけ楽しくやれているんだ。リアルでも遊んだら絶対楽しいと思うんだよね。
「まあ、そういう事にしておいてあげる。でも、どうしても彼女が欲しくなったら言いなさい。私がなってあげてもいいわよ。なんてね」
「はいはい、もー、からかわないでくれよ。そう言う輪舞の方こそどうなんだよ。この前告白されてなかった?」
俺の言葉に彼女はめんどくさそうに溜息をついた。輪舞は可愛いし、ノリもいいから男子からの人気も高いんだよね。ちょいちょい告白されたけどどうすればいいかしら? とか相談されるのである。
「断ったに決まってるでしょ、私は二次元のが大事なのよ。あ、そういえば、この前の貸してもらったゲーム結構よかったわよ。ありがとう」
「ああ、気に入ると思ってたよ。輪舞の好きな美少年が多めだったろ」
「そうそう、やっぱりああいう男の子が一生懸命に頑張る姿はいいわよね。腐腐腐続きが楽しみだわ」
そういうと彼女は女子がしてはいけないような笑いを漏らす。そう彼女はゲーム好きで腐女子なのだ。こういう彼女をみれるのは幼馴染の特権だろう。一見ギャルっぽい俺と彼女が仲良しな幼馴染をやっているのには共通の趣味があるというのが強い。そして、時々お互いの好きな作品をお勧めしあっているのだ。
カットも終わり、彼女がワックスで俺の髪型をセットする。他人に髪の毛をいじられるというのは何とも変な感じである。
「ほら、できたわよ。あんたって素材はそこそこいいわよね」
「うわあああ、なんかチャラくない? 学校でからかわれそうなんだけど……」
鏡にいるのはツーブロックに、前髪をかきあげた俺がいた。自分で言うのもなんだが確かに普段よりかっこいい気がする。一瞬自分かとわからなかったくらいだ。
「髪を軽くして前髪をセットして上げて、横髪もワックスで流しているだけだかよ。髪の毛を洗ってワックスをとれば前とおんなじような髪型に戻るわよ。だから安心しなさいな。あ、作品としてあげるから、写真撮らせてもらうわね」
「ああ、ありがとう。顔は隠してくれよな」
「もちろん、安心しなさいな。ついでに、次はどんな髪型がいいか教えて。またきってあげるわ。」
そういうと彼女はスマホで俺をパシャリと撮って、俺に渡す。スマホのホルダーには彼女のカットした人の写真がアルバムに入っていた勉強熱心だなぁと感心しつつ、俺は一人の少女の写真で指を止める。
「乃蒼は元気そうか?」
「元気そうって……一緒に住んでるんでしょう。やっぱりまだ仲直りしてないのね……」
俺の言葉に彼女は何とも言えない表情になる。輪舞の家族と俺の家族の仲が良い事もあり、家族ぐるみの付き合いをしていたり、乃蒼もこの美容室を利用していることもあり、ちょいちょい三人でも遊んだりしていたのだが、いつの間にか俺抜きで二人で遊ぶくらい仲良しになっていたのだ。そして俺と乃蒼が疎遠にはなっていた後も、この二人はずっと仲良くしているのである。
「やっぱり、義理の家族だとむずかしいんだろうね……いってぇ」
俺がつい弱気な言葉を吐くと彼女は俺の背中をパンと叩く。
「大丈夫よ、きっと乃蒼ちゃんだってあんたの事好きだもん、今は色々あって心の整理がついてないだけよ」
「そうならいんだけどねぇ……」
ここ最近はちゃんと顔を見て話してもいないんだよなぁ……昨日みたいになぜか顔をさらされてしまうのだ。乃蒼が最近何をやっているかもよくわからない。今日もどこか出かけるのか、鏡の前で何回も髪の毛をセットしていたのを思い出す。彼氏でもできたのだろうか? 昔は俺の事大好きとか言ってたのにね……
「まあ、とりあえず今日を楽しみなさいな。乃蒼ちゃんにもあんたの気持ちはいつか届くわよ」
「ああ、ありがとう」
少しへこんだ俺を慰めるかのように輪舞は俺に言葉をかけてくれた。俺と乃蒼を知る彼女の言葉に気が楽になる。そうして、俺は輪舞にお礼を言って待ち合わせに向かう事にした。
待ち合わせ場所のサンシャイン通りで俺はスマホを取り出す。十分ほど前に到着してしまったので、俺はスマホにつけた目印となるゲームの推しキャラのアクリルホルダーを目立つようにかかげながら、ソシャゲを開いた。
『ちょっと早いがついたよ。デイリーやってるからついたら教えてくれ』
『早いな、今行くから待っていたまえ』
相変わらずの気取った言葉に俺はクスッとする。リアルでもこういう喋り方なのだろうか? いや、リアルとはキャラが結構違うって言っていたな。どうなのだろうか?
「あの……イアソンさんですか?」
恐る恐ると言った感じでハンドルネームで呼ばれた俺は目の前の光景に言葉を失った。スカート部分にレースのあしらわれた黒いワンピースにオレンジ色のカーディガンを着た美少女が俺の目の前に立っていたのだ。それだけなら俺にも春が来たーとテンションがあがるだろう。
しかし、つややかな黒髪にクールな顔には見覚えがある……見覚えがあるじゃないよ、毎日見てるわ!! そう、目の前にいたのは乃蒼だったのだ。
「君がグレイスなのか……?」
「だからゲーム内とは結構違うっていったじゃないですか。というか敬語はもうやめるからな。イアソンもそんなにかしこまった顔をしないでくれよ」
俺の言葉に彼女は、いつもの俺にはみせない少し恥ずかしそうな笑顔で頷いた。あれ、なんでこんなにフレンドリーなんだ?
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「それで、この前のイベントあれはひどかったよな、私の推しキャラももっと活躍すると思ったのに……」
「ああ、そうだな……」
「あ、このオークの串焼きとか結構おいしそうじゃない? よかったら頼んでシェアしない?」
カフェに来た俺達はゲームの事や、メニューに関して会話をしていた。いや、会話というよりも乃蒼が一方的に俺に話しかけているというのが正しいだろう。ていうかさ、本当に俺の事に気づいていないのかこの子……確かに髪型もいつもと違うし、服装もいつもとは違うけど毎日顔あわせてるよね……などと思っていると彼女が俺の顔を見ながら唇を尖らせていた。
「私はイアソンと会えるのを楽しみにしていたんだぞ。なのに、なんでそんなに上の空なんだよ……そりゃあ、性別を偽ってたのは悪かったけどさ……それはもう、謝っただろ。あ、それともあれか? 私が可愛すぎて緊張しちゃったのか?」
攻めるような彼女の言葉に後に彼女はからかう様に喋る。そんな風にコロコロと表情の変わる彼女の姿に俺を疑問が襲う。こいつ本気で気づいていないのか? それとも俺に気を遣わなせないようにしていうのか?
『そんな風に兄ズラされなくてもわかってますよ』
昨日の冷たい言葉が俺の心に刺さる。ああ、そうだ。俺は彼女に嫌われているんだ。乃蒼が俺だと知っていたら、待ち合わせの場所で帰るのだろう。だったら、俺ができる事は決まっている。だったら俺は自分を黛 進ではなく、彼女のゲームの相棒であるイアソンであると演じ切るのだ。
「ああ、グレイスが美少女でびっくりして緊張してるんだよ」
「なっ……お前はそういうことをサラッというな……」
俺の言葉に彼女は顔を真っ赤にする。そのしぐさがあまりに可愛らしくて俺は思わず笑みがこぼれる。
「そういうイアソンも中々いいじゃないか。意外とお洒落にも気を遣っているんだな」
「その言葉そっくりそのままかえさせてもらおうかな。その服装だけだととてもじゃないが『終焉の皇子』には見えないよ」
「ふふ、何を言っているんだい? この格好は私のゲームキャラの鎧やマントと色をあわせているんだよ。さすがに髪の毛の色は染めれなかったけどね」
「『終焉の皇子』の夢女子かな? 可愛いなと思った俺のきもちを返してくれない?」
「精一杯のお洒落をして来いっていったろ」
ああ、確かにこのテンション俺の知っているグレイスだ。彼女は乃蒼だけれど今はグレイスとして会っているのだ。ならば俺もその時間を楽しむべきだろう。
そして、すっかり調子を戻した俺は彼女とゲームの事などで、軽口を叩きあう。とても楽しい時間が過ぎる。ラストオーダーも終わり、デザートのスライムゼリーが出てくる。
「いやー、こんなに話したのは久々だよ、不思議と初めて会った気がしないな。無茶苦茶楽しかった。ありがとう」
乃蒼は本当に嬉しそうに笑顔を浮かべて言った。そりゃあそうだよ。だって、俺達は一緒に住んでるんだからな。とは言えない。確かに楽しかった。疎遠になる前はこんな風に乃蒼と家で気楽に話していたんだけどよな。ここまでくだけた感じではなかったけどさ。だからだろう、俺は思わず疑問に思っていたことが口から出てしまった。
「グレイスにはさ、そういう友達はずっといなかったのか?」
俺の言葉に彼女は一瞬目を見開いて少し、気まずそうに言った。
「いたんだけどさ……ちょっと色々あってどう接すればよいかわからなくなっちゃたんだよな……以前義理の姉がいるって言ったと思うんだけど、その人なんだよ」
「へえー、どう接すればいいかわからなくなったってことは嫌いになったってわけじゃないんだよね?」
そう問いかける俺の声は震えていたかもしれない。だけど本人には聞けないけれど、ずっと聞きたかった事だ。おそらく姉というのはフェイクの情報で俺の事で間違いはないだろう。しばらくの沈黙が俺には永遠に感じた。彼女は「うーん」としばらく悩んでから言った。
「そうだな……別に嫌いじゃないよ。でも、距離感を掴みかねているって感じかな」
「そうか……だったらさ、今度あっちが何か話しかけてきたらさ、ちゃんと返してあげたらいいんじゃないかな? ぶっきらぼうでもいいと思う。お姉さんもさ、話しかけるってことはグレイスと仲良くなりたいってことだからさ」
「兄さん……」
「え?」
「ああ、なんでもない、ちょっとイアソンのセリフがお兄ちゃんぽかったからさ。あとはさ、知ってる人に顔が似てるんだよ……でも、そうか……ありがとう。ちょっと試してみるよ」
彼女は慌てたように手を振って誤魔化す。まあ、似てるって言うか本人だしな……兄さんって言われたの久しぶりだなと思いつつ今日の話で俺達の関係も少しは改善されればいいななどと思った。
「ああ、そう言えばよかったらラインを教えてくれないか? ゲーム内のチャットだけじゃ不便だろ?」
「ああ、ラインか……」
俺はどうすればいいか悩む。乃蒼とはリアルで交換しているんだよな……画面を開いたら俺の正体がばれてしまうだろう。
「ああ、やっぱりいいや、だって、私たちは七神でつながってるからさ。急に引退とかしたら泣くからな」
俺が悩んでいると彼女は冗談っぽくそう言ってスマホをしまう。気を遣わせてしまっただろうか? だけど、お前にばれるわけにはいかないんだよ。
そうして俺はちょっと用事があると伝えて池袋で解散をした。帰り際改札で振り向いた彼女は本当に楽しそうにしていてくれて、今日来てよかったと思ったものだ。
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あの後、俺は少し池袋をうろついて時間をつぶして帰ってきた。もちろん漫画喫茶に入って髪型はいつもの物に戻すのは忘れない。これで……大丈夫だよね?
「ただいまー」
乃蒼はあの後そのまま帰ったらしく、玄関には靴が綺麗に並べられている。きっかけを作るならば今だろう。俺は先ほど彼女から聞いた『そうだな……別に嫌いじゃないよ。でも、距離感を掴みかねているって感じかなぁ』という言葉を信じる事にした。俺は意を決して彼女にラインを送る。同じ家にいると言うのに直接会話をするのではなく、ラインを挟むというのが何とも寂しい。
『ちょっとケーキを買ってきたんだがよかったら一緒に食べないか?』
忙しいのか、既読すらつかない、ブロックされてないよな……俺は気分転換に七神を起動する。するとログインと同時にすさまじい量のチャットがきていた。相手はもちろん乃蒼だ。
『イアソン聞いてくれ、先ほど話した義理の姉から茶会に誘われたんだ。行くべきだろうか?』
茶会って……リアルで一度あってもネットではこのキャラは変えないようだ。それがおかしくてクスッと笑ってしまう。だけど、笑っている場合ではない。
『行ってあげなよ、きっとお姉さんもグレイスと仲良くなりたがってるんだよ』
『わかった……もしも、帰ってこなかったら私の屍は拾ってくれたまえ』
そう返すとグレイスは『ありがとう』というスタンプを残して。ログアウトして去っていった。俺が一仕事終えたとばかりにふーっと深呼吸をするとラインが返ってきた。
『ありがとう、食べたいです』
よっしゃーーーー!! 返信きたーー!! 俺は急いで紅茶の準備をする。たしかあいつはコーヒーよりも紅茶派だったはずだ。お湯が沸いたタイミングで足音が聞こえて、乃蒼が降りてきた。彼女は先ほどのワンピースとは違い、可愛らしいレースのついた黒色のルームウェア姿だった。こんな服ももっていたんだねと一瞬見惚れそうになる。
乃蒼は俺を見てケーキを見て再度俺を見る。まるでどうすればいいかわからないというように……だから俺は彼女にテーブルに座るように促した。
「今、紅茶を淹れるからさ、座りなよ。モンブラン好きだろ?」
「うん……ありがとうございます」
これまでとは違いちゃんと返事が返ってくることに感動して泣きそうになりながらも俺は平静を保って向かいに座る。オフの時とは別人のように、かしこまってはいる上に無表情だが、それでも一緒のテーブルについてくれたことは俺達の関係に大きな変化を与えてくれた。
だが、この変化も、俺がイアソンだという事がばれたら、和解の糸口が見つかった彼女との仲はさらに悪くなるだろう。だから俺は決意をする。
ゲーム上やオフでは黛進ではなくイアソンであると……彼女の義兄ではなく、ただの友人であると嘘をつき続けるしかないのだ。今日の事は誰にも言わないほうがいいだろう。輪舞のやつに報告もしたいが、ぽろっと言ってしまう可能性もあるしね。
「あ、美味しい」
そう言って微笑む彼女はとても可愛らしく、先ほどのオフの時の楽しさを思い出される。本当に可愛いよな……俺は胸の高鳴りには気づかないようにする。だって俺と彼女は兄妹なのだから……
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進兄さんが帰宅してお土産にと、久々にモンブランをもらった私は昔の事を思い出していた。ちょうど初めて会った時もこんな風に進兄さんは私にモンブランをごちそうしてくれたのだ。
私の初恋は遅く、中学の時だった。私が物心のついたころには父はいなかった。交通事故で命を落としたそうだ。私にとっては最初からいないも同然だったし、寂しいと思ったことはあまりなかった。ただ、身近な異性がいなかったからか、男の子が苦手であまり話すことはできなかった。
そんな私が変わったのは母が仕事先の人と再婚を考えていると言った時だった。これまで私を一生懸命育ててくれたのだ。幸せになってほしいし、なるべきだと思う。だけど、その相手には一人の息子がいると聞いて私は少し怖かった。だって、私にとって、男の子というのはからかってくる不快な存在だったからだ。
だけど、その心配は杞憂に終わった。子供たちも含めて食事会をしようというときに二人の仕事でトラブルがあり、二人っきりになってしまった時の事だった。
学校から直接彼の家にきたものの母がいないことに戸惑ってしまっていた。そんな中、彼は……進兄さんは、不安でいっぱいで、どう接すればいいかわからない私に、優しい笑顔を浮かべてこう言った。
「乃蒼ちゃん、モンブラン好きなんだよね? 買ってきたからよかったら食べないかい?」
「いえ……そんな悪いです」
そう言って彼が冷蔵庫から取り出してくれたのは、私が大好きなケーキ屋さんのモンブランだった。近所には売っていないのにわざわざ買ってくれたのだろうか? でも、食べ物なんかでつられるものかと思って断ろうとした瞬間だった。私のお腹はくーっと情けない音を鳴らして空腹をアピールしたのだ。
「いや……これは……」
「俺もさ、二つは食べきれないからさ、付き合ってよ」
顔を真っ赤にしながら言い訳をする私を見て、くすくすと笑いながら彼はそう言った。からかいもせず、紅茶を淹れてくれるその姿は、一つしか違わないというのに、とても大人びていて、苦手なクラスの男の子たちとは全然ちがって私は驚く。
「急に兄って言われても、困るよね。実は俺もいきなり妹ができるかもって言われてどうすればいいかなって色々考えてるんだよね、だからさ、お互いの好きな物とかはまってるものでも、話さない? そんな風にどうでもいい話をしてさ、ちょっとずつ仲良くなっていこうよ。友達になるみたいにさ」
「それでいいんですか……? だって、私たちは友達じゃなくて家族なんですよ、家族なんだから家族っぽくしなくちゃいけないんじゃ……」
「家族っぽくってなんだろうね? それに俺達はいきなり、他人から家族になったんだ。だから、普通の家族とは違くてもいいんじゃないかな。だからさ、俺達は俺達のやり方でちょっとずつ仲良くなっていこうよ」
そう言って、彼はモンブランを口にする。私はそれにつられるようにして、モンブランを口にすると、甘すぎないクリームと濃厚な栗の味が私を満たしてくれる。ふと、視線を感じて正面を見ると進さんが、私を見て満足そうな笑みを浮かべていた。
「やっと、笑ってくれたね。乃蒼ちゃんの笑顔は可愛いね」
「なっ……!? そういう進さんはチャラいですね。そうやって褒めればいいとか思ってませんか?」
いきなり褒められてしまって、私はテンパってちょっと失礼な事を言ってしまった気がする。だけど、彼はそんな私の反応を見て楽しそうに笑うだけだ。その反応に私が拗ねていると「彼はごめんごめん」と言いながら私に話しかけてきた。
「そういえばゲームが好きなんだって? 俺も好きなんだ。一緒にやろう」
「別にいいですけど……手加減はしませんよ」
そう言って、彼はゲームに誘ってくれた。彼はゲーム自体は好きなようだが、浅く広くやるタイプだったようで、一つのゲームをやりこむタイプの私の圧勝だった。でも、負けず嫌いだったみたいで、10回やって10回負けたというのに戦いを挑んできた。
「どうしたんですか? 年上なのにそんなもんなんですか?」
「くっそ、なんだこれ……ちょっと一週間後再戦しない?」
「ふっ、いいですよ、負けたらなんでもいう事聞いてあげます」
「言ったね、絶対勝つからね!!」
私が調子に乗った事を言っても怒らずに、本当に悔しそうな顔でゲームの攻略サイトを見始めた進さんを見て先ほどの大人びた雰囲気とのギャップに私は思わず笑みがこぼれる。ああ、何かこの人いいなと思ったものだ。
母と義父が仕事から帰ってきて、家族での食事が始まった時も彼は私に話を振ってくれたりと色々と気を遣ってくれた。それがすごい新鮮で……なんというか嬉しかったのだ。だから、彼の家を出て帰宅中に母に、こう言われた時も私は迷わず答える事ができたのだ。
「ねえ、乃蒼ちゃん……乃蒼ちゃんはあの二人が家族になったらどう思う? もしもあなたが嫌だったら……」
「大丈夫だよ、お母さん、私はね……あんなお兄ちゃんが欲しかったんだ」
私の言葉にお母さんが安堵したと同時に嬉しそうな顔をしてくれたのを覚えている。だけど、私は気づきもしなかったのだ。私の中に芽生えたかすかな気持ちと、家族になるという意味を。
自分の中の気持ちが一般的な家族への気持ちではなく、恋心だと気づいたころにはもう遅かった。当たり前だけれど、彼は私を妹としかみていなかった。だけど、彼が私を家族として愛すれば愛するほど、それに比例するように私はどんどん惹かれていった。
兄の優しさが苦しかった。私の好きと、兄の好きの種類が違う事が辛かった。結局その状況が辛くて、悲しくて、兄とちゃんと接することができなくなってしまったのだ。
いつもろくに顔もみない私の態度にきっと嫌われているだろうなと思ってへこんでいたら、ある日、輪舞さんに髪の毛を切ってもらっている最中に聞かれてしまった。
「最近進とどうなの? 一緒にいるところをあんまり見ないけど……」
兄から相談を受けていたのかもしれないし、私と兄と近いこの人の事だから薄々勘付いていて、気になったのかもしれない。まさか、一方的に片思いをしてますなどとは言えない私は言葉を濁す。
「ちょっと、色々あって気まずくなっちゃいまして……」
「ふーん、まあ、色々あるわよね、でも、あいつ寂しそうにしてたわよ。また昔みたいに話したいのになって」
「そんな……でも、私嫌われていると思いますよ。会話も素っ気なくしちゃってますし……」
「そんなことないって、この間だって。ソシャゲしながら、このゲームは乃蒼も好きそうなんだから一緒にやりたいんだけどねって嘆いてたわよ」
その言葉で私は胸が熱くなるのを感じた。こんなにひどい対応しかしていないのに、まだ進兄さんは私と話したり、ゲームをしたい思っていてくれているのかと……そして、私は思う。この状況を何とかしたいと……
「素直になれないならなにかきっかけが必要よね。あなた達ゲーム好きなんでしょ? だったらゲーム内で一緒にプレイをして、ちょっとずつ相談するふりして進の事を話して、実は仲直りしたいのーみたいに話してみたらどうかしら? 直接話せなくてもゲーム越しなら少しははなしやすいんじゃない?」
「いや……それはちょっと難しいんじゃないでしょうか……」
輪舞さんの話を聞いて私は苦笑する。彼女は「いい案だと思ったんだけどダメかしらね」っていって残念そうな顔をした。でも、その作戦を一部参考にしてみてもいいかもしれない。例えば現実の私は妹扱いされてしまっているけれど、ゲーム内の私に惚れてもらえれば、リアルで会った時も好きになってもらえるんじゃないだろうかと……
さっそく、私は兄と同じゲームを始めることにした。だけど、ここでも私は一つのミスを犯す。ゲームのキャラを男キャラにしてしまったため、男性だと思われてしまったのだ。だって、耐えられなかったのだ。ゲームのキャラとはいえ進兄さんが私以外の女の子にデレデレしているのが……
進兄さんとのゲームはすごい楽しかった。私が好き勝手やるのをサポートしてくれるし、慎重になりすぎる彼をサポートするのも嬉しかった。なんというか相性があうのだ。彼も同様に思ってくれていたようで、すっかり固定でプレイをするようになった。そして、半年たったあたりで私はそろそろ動くことにする。本当はもっと早い段階で会おうと話をするつもりだったのだけれど、中々勇気が出なかったのである。
まずは、進兄さんにはお洒落をするように伝えておいた。そうすれば兄はオフ会の前に輪舞さんの元へ行くだろう。そして、輪舞さんには次に彼が来たらぱっと見は進兄さんだとわからないくらい変化させてほしいと伝えたのだ。怪訝な顔をされたが、彼女は了承してくれた。
待ち合わせに来た進兄さんはいつもと違いワイルドな感じですごいかっこよかった。私はドキドキする胸を押さえながらも声をかける。
私に気づいた兄は何かを言いたそうにしていたが、スルーしていると私が気づいていないのだろうと思ったのかほっとした顔をしてゲームの時と同じように接してくれた。私が進兄さんに気づかないはずがないと言うのにね。
ああ、でも可愛いって言われた時はやばかったな。多分無茶苦茶顔がにやけていたと思う。そして、その時の言葉はあの人の本心だったと思う。
そして、私は兄と解散した後に誓うのだった。いつか私の気づかないフリもばれるだろう。だけど、私は嘘をつき続けよう。妹ではなく一人の女の子としてみてもらうために。正体がばれるその日まで、黛乃蒼ではなく、グレイスとして彼に接することにした。
『我が盟友よ。よし、今日もダンジョンもぐるぞ!!』
『ああ、いいよ。オフで会ってこっちでもあうって不思議な気分だなぁ』
私はそんな兄のチャットをみながらニヤニヤとしてしまうのであった。
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「ふーん、久々に一緒にデザート食べたのね、よかったじゃない」
『ああ、少しは前進したよ。また昔にみたいに仲良くできればいいんだけどね』
電話越しの声を聞いて私は安堵の吐息をついた。どうやら今日のオフ会はうまくいったようね。でも、てっきり、進の方から「実はオフ会の相手が乃蒼だったんだよー」とか報告が来ると思ったんだけどどうしたのかしら? まあ、二人が多少仲直りしてくれたなら嬉しいと思う。
「そういえばオフ会はうまくいったのかしら? 楽しめた?」
『ああ、最高だったよ。これも輪舞が色々髪形をいじってくれたおかげだよ。ありがとう。やっぱり持つべきものはお洒落な幼馴染だね』
幼馴染という言葉に私の胸は少しぐさりと痛むのを感じた。そう……私たちはただの幼馴染なのよね……
「ふふ、ちゃんとこの貸しは返しなさいよ。それで……相手はどんな人だったの?」
『あー、ゲームの時と同じで無茶苦茶いいやつだったよ』
「ふーん」
その言葉に私は再度違和感を覚える。あれ? なんで乃蒼ちゃんだったって言わないのかしら? オフ会の相手が実は義妹だったていうのが恥ずかしくなったのだろうかしら。それとも、乃蒼ちゃんに口止めでもされたのだろうかもしれない。乃蒼ちゃんから次に進が来た時は思いっきりイメチェンさせてほしいと連絡が来た時にピンときたのだ。ああ、乃蒼ちゃんはついにオフ会をする気になったのねと。
まあ、オフ会で会った相手が乃蒼ちゃんだったと言わないのもきっと乃蒼ちゃんの事を想ってなのだろう。こいつはいつも優しいのよ。他人の事を思いやれる素敵な男の子なのだ。
子供の頃だってそうだわ。私の両親は二人で美容院を経営していることもあってか、家を空けがちだった。いつもは大丈夫だけど、寂しくなる時だってあったの。そんな時に決まってこいつは私を遊びに誘ってくれるのだった。一人で大丈夫だと強がる私に「俺が輪舞とご飯を食べたいんだ」って言って晩御飯に招待してくれたり、色々と助けてくれた。今も両親の仕事にマイナスなイメージがなく、むしろ後を継ごうと思えたのは彼のおかげというのが強いと思う。
『なんだよ、ふーんって』
「いや、何か怪しいなって思ったのよ。もしかして美少女だったとか?」
『えー、あー、まあ、女の子ではあったんだけどそういうんじゃないよ』
私の言葉に彼は気まずそうに言った。まったく誤魔化すならちゃんと誤魔化せばいいのにと。でも、そういう時にすぐ言うのが彼のいいところでもあると思うのよね。それと同時に相手が乃蒼ちゃんとはいえ二人で会って楽しかったという言葉に私の胸が少しずきりとした。
わかっている、進と乃蒼ちゃんは義理とはいえ、兄妹なのだ。そういう関係ではないという事は……でも、私が自分の気持ちに気づいたのは乃蒼ちゃんが彼の家に来てからの話だった。
進の隣にいたのは私だったのに、いつの間に乃蒼ちゃんの方が一緒にいることが多くなって、それで私は自分が嫉妬しているということに気づいたの。
だけど、困った時はいつも私に一番に相談してくれていたし、私は家族ではないけれど、家族以外では相も変わらず一番近い存在だったわ、もちろん、それは偶然なんかじゃない。なるべく彼と一緒にいるようにしたし、高校だって一生懸命勉強をがんばって、彼と同じところに受かった時は本気で泣いたものだわ。
もちろん乃蒼ちゃんの事は好きよ、あの子も良い子だもの、ちょっと自分の世界に入っちゃうところがあるけれど、素直で素敵な子だと思うわ。初めてできた兄ができて嬉しかったんでしょうね。わかるわよ。私だって進が兄だったら絶対幸せだもの。
だから二人が疎遠になった時は本当に心配になった。だから、本当は中学の卒業式に告白をしようと思ったけどやめたの。だって、今の彼はいっぱいいっぱいで、余計な事で負担をかけたくなかったの。
でも、二人の関係が進んだっていうのなら私も一歩進んでいいわよね? 進の事をただの幼馴染だと思っている? そんなの嘘よ。私はずっとあんたが好きだったんだの。ただ、彼は悩んでいて、乃蒼ちゃんも苦しんでいて……そんななか話してもダメだなって思ってたのよ。でも……二人の関係が改善するならもう、いいわよね。私はついていた嘘をやめることにした。
「それじゃあ、実際デートじゃないの? ずるいわね、私に他の女とのデートのお洒落をさせるなんて、幼馴染を何だと思っているのかしら?」
『いや、だから本気で女の子だって知らなかったんだって。でも、輪舞にはお世話になったからね、なんかお礼をさせてくれよ』
「ふーん、じゃあね……」
慌てた声も可愛いと思う。今ならばチャンスだ。このままデートに誘うのだ。もしかしたら彼はびっくりするかもしれない、冗談だと思うかもしれない。だけどね、今なら私の事も少しくらいは考える余裕があるわよね? 私結構待ったわよ? いいわよね、神様。
「デー……デー……」
『ん? なんだって、ごめんよく聞こえない』
言えないわよぉぉぉぉぉ、どれだけこの気持ちを秘めていたと思ってるの? そんな簡単にデート何て誘えるわけないじゃないの!! 乃蒼ちゃんすごいわ、正体を隠しているとはいえよく誘えたわね。尊敬するわ。でも……今がチャンスなのに……この流れならデートに誘ってもおかしくないのに……私ってばなんでいつもこうなんだろう。肝心なところで一歩が踏み出せないのだ。涙が出てきそう……だけど、そんな私を救ったのはやはり進だった。
『あのさ、輪舞さ、この前行きたいって言ってたパンケーキ屋あるよね、あそこが限定メニューをやっているらしいんだ。よかったら奢るけどどう?』
「……行く……絶対行く!! 二人っきりだからね。ホイップクリームも増し増しよ」
『ああ、楽しみにしてるよ。あ、やばい、そろそろゲームの時間だ。じゃあ、後で時間とか連絡するね』
その言葉を最後に通話が切れる。やったぁぁぁぁぁぁ。私はちゃんと通話が切れてからガッツポーズをとって叫んでしまった。近所迷惑かもしれないけど仕方ないわよね。だってそれくらいうれしかったんですもの。
神様はいた。彼からしたらお礼という言葉以外の意味はないでしょうね。でも私からしたらデートなの、デートっていったらデートなのよ。
私はもう少しだけ勇気が出るまで嘘をつく。ただの幼馴染であると彼に嘘をつくのだ。
これは嘘からはじまった。嘘で進むラブコメ
ライアーライアーという少女漫画を読んでて無性に書きたくなったのでかいてみました。いかがだったでしょうか?
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