4 ダンジョンに来たところで
4 ダンジョンに来たところで
「で、ルシフェルさん、ご相談です!」
「武器、防具屋ってどうやるの?」
「もしかしてリリア殿…何もアテもなく…」
「ルシフェル違うわ!わたしはどんな難局も、知恵と努力と根性で乗り切ってきたわ!」
「わかりました。つまりはノープランだと…」
あは、アハハハハ…
「いいでしょう。着いてきてください。」
「はい、わかりました。」
テクテクテク…
テクテクテク…
ーて、街からめっちゃ離れてるぅー
「あのールシフェルさん、ど、何処まで行くのかしら?随分遠くに来たし、砂漠だし…」
「うーん、何処がいいですかね?」
ーいっぺん奥歯ガタガタいわしたろかあー
「どこでも良かったのですが…ここら辺りにしましょう。」
ルシフェルがそう言って、さっと手をかざすと、砂漠の砂の山が崩れ出して中からピラミッドが現れた。
「これって、隠しダンジョン!?」
「はい、このようなダンジョンは、人間界に多く散りばめて作っています。」
「た、確かにプリマドンナからは大分遠いけど、魔界でも無いのに、こんな場所にダンジョンがあったなんて…それに隠しダンジョンといえば伝説の武器とか防具とか…そりゃあアリアリの場所で…あっそうかそれを取ってきて、街のお店で売ろうっていう魂胆ね。でも…わたしが取ってくるのはいいだけど、仮にもあなたは、元仲間なんでしょう?て、おーい聞いてくれてますかあ!?」
通常ダンジョンには入れば、そこは闇の世界、淀んだ空気、そしてうだるような暑さか、背筋も凍るような冷たさが普通だ…まさに闇の世界…
「て、何これ?めっちゃ明るいし、めっちゃ快適じゃーん!」
ダンジョンの中は、スカイブルーの壁に白い雲が描かれていて、エアコンがなされているのか外の暑さとは無縁に、文字どおり別世界で涼しくて、そして、BGMが軽快にかかっている。港町プリマドンナなどでも耳にしたヒットソングだ。
「あっメフィストファレス様だ!」
「こんにちは!」
「お疲れ様です!」
「いつもお世話になってまーす!」
魔物たちもアロハシャツに、サングラス、ヘッドホンなどを付けて、アイスクリームなどを片手で持ちながら、通り過ぎていく。中には、ハンモックで寝ている魔物もいる。ルシフェルは、人間の姿のままなのに、何故かルシフェルと魔物たちに認識されていることが不思議だ。
「メフィストファレス様、音楽や様々な魔道具ありがとうございました!」
「アイスクリームの機械も。」
「本もありがとうございました!続きが楽しみです!」
おおそうか!よかったな。
だから言ったろ!
作者の先生には手紙を書けよ!それか編集者に直接お願いの手紙を書くんだ。そうすると早く書籍化されるからな。
「はい!」
ー何これ?ー
「ところで、ここのボスは?」
「はい、動くミイラ。ライミさんです。」
「おおそうか。あいつか!あいつなら真面目だからな。」
「いま地下18階にいます。」
「ああ、我を忘れてたわ。18階層もあるの?地下ダンジョンで18階層といえば、かなりの迷宮ね。いいわわかった。ルシフェル…ちょっとわたしはわたしで装備を整え直して戻ってくるから、しばらくここで待ってて。」
「なぜ?」
「メフィストファレス様、この方はもしや人間?」
「ああ、そうだ。勇者だったリリア殿…」
「至急至急!全員通達!」
「人間だ!しかも勇者だ!」
「ダンジョンS難度仕様、開始!」
「システム、オールグリーン!システム起動!」
魔物たちが口々に言うと、あちこちの壁の隠し扉や穴にそれぞれ身を隠した。
すると遥か前方から、光が消えていき、エアコンが切られ、生臭い匂いが立ち込め、いつの間にかBGMが隙間風のようなときどき何かの呻くようなささやき声が聞こえるようになっていた。
ーえーーと何これ何これ?ー
「メフィストファレス様!メフィストファレス様、早く隠れてください。もうすぐ罠を発動します。」
「全身水浸しになったり、コウモリやナメクジ、サソリの大群を離しますから。」
「いくらメフィストファレス様でも気持ち悪くなりますよ、ウジャウジャいますから。後でつかまえて、しまうのが大変です。ただやらないと雰囲気でないので。経費かかりますがすみません…」
「ちっなんで1人でくるんだ、あいつ。せめて4人ぐらいのパーティーでくればコスパがまあまあなのに…」
「勇者のくせに気が利かないな!」
あちこちの穴や隠し扉から囁き声やリリアへと苦情が聞こえてきた。
「待ってくれお前たち。この人間は関係者だ。だから気にしないで、平常に戻ってくれ。」
なーんだ!あわてて損したーーーー。
するとふたたび、灯りがつき、空調と換気が作動し、BGMが変わった。嘘のように居心地の良い空間となった。
ー エーーーーー!なんじゃこりゃー!ー
「すまんな皆んな、騒がせた!」
「いいんですよ、そんなこと。メフィストファレス様にはいつもお世話になっていますので。次期魔王としても呼び声高いメフィストファレス様のことならば…」
あちこちからルシフェルへの感謝や尊敬の声が聞こえた。
「わたしはライミに会いに来たのだ、案内してほしい。」
「はっ!ではこちらへ。おい、そっちの人間もなグズグズするな!置いてくぞ!」
巨大な大ねずみから言われて、思わずリリアは反応した。
「は、はい!すみません!…て、なんで私が魔物に謝らないといけないの?」
「こちらです。」
大ねずみがおずおずと案内をすると、チンと音がして、すーと横に扉が開いた。
「こ、これは?」
「リリア殿は知らないかな?我が魔王軍の魔道研究者が開発した自動昇降機、名づけてエビテーターだ。さっお乗りを。」
ルシフェルに促されて、リリアは素直にエビテーターに乗った。リリアが乗ると大ねずみは、18のボタンを押した、すると扉が閉まり、階下に降りるような感覚を感じた。ふたたびチンと言うと、エビテーターは扉を開けた。大きな部屋の前であった。
「これってラスボスの部屋でしょう?」
「そうだが何か?」
ゴゴゴーーーーー
音ともに大きな扉が開くと、中には巨大なミイラが立ちはだかっていた。
「くっやっぱり!」
リリアは瞬間的に身を屈めて走り剣を抜いて構えた。
「待ってくれリリア殿!頼む、出てきてくれライミよ。」
止めたのはルシフェルだった。そしてルシフェルに応じて、巨大なミイラの陰から、小人のようなミイラが出てきた。
「お久しぶりです、メフィストファレス様。今日は何かご用でしょうか?」
「ああ久しぶりだなライミ、息災か?」
「はっ部下共々息災でございます。」
「もう!これ何、何なの!わっかんない!説明してルシフェル!」
「と言いますと?」
「そんなすました話じゃなくて、ここは何かって聞いてるの!」
「メフィストファレス様、このお方は?」
「この方は…勇者だ、正しくは元な。いまはわたしの大切な客人だ。失礼のないようにな。」
「メフィストファレス様に代わってご説明します。ここは、ダンジョンです。あとちなみに、ラスボスは巨大な魔道具のゴーレムです。」
「そんなの知ってるわよ。でも全然違う!」
「いいえ、どこのダンジョンとも同じです。いえ、少し違いがあると言えば、最新の魔道具や人間界の中にあるダンジョンなので、人間の文化をこの中で学んでいます。特にこれは、メフィストファレス様の統括されている人間界ダンジョンでは一般的です。他にも違いがあるとすれば、メフィストファレス様のダンジョンのルールは、人間が来ないときは力を抜いて過ごせ!、人間が来たときは殺すな、脅かすか気を失わせて外に出せ!、飽きられたら終わりだ演技力演出力を高めろ!、汚くするな衛生に気をつけろ!です。」
「えーとそれは…」
「ダンジョンは、すべて人間に向けたエンターテイメントだからです!わたしたち人間界ダンジョンチーム約500か所はそのことを肝に銘じて日夜取り組んでいます!」
「あーそう…ふーん…へええ…ダンジョンて素敵なところだったんだあ。今までは何だったのかなあ。」
リリアが大きくうなだれて、ため息をついた。