3 商売を決めるところで
3 商売を決めるところで
「ここだよ。」
「えーここって…」
老夫婦の家は、商店と民家に分かれていた。かなり広い敷地だ。老夫婦の名前は、オルフェオとエバンスといった。
「わしらは…わしら家族は、武器と防具、鍛冶屋を長いこと営んできた。実は3年前に息子が、カインが出て行ってしまって…以来店も閉めて、今はわしら2人暮らしになってしまった。時々近くにいる娘と孫が、心配してやってきてくれるがな。」
「店の離れがわたしたちの部屋です。店のほうの2階は空いてるから、お2人で自由に使ってくださいな。」
料理ができたら呼ぶから、と老夫婦に言われ、リリアとルシフェルは店の2階へと上がっていった。
部屋は4つあり、多分それぞれの家族部屋だったのだろう。
リリアが、息子さんの部屋の前を横切ると、部屋はきれいに掃除が行き届いていて整っていた。カインがいつ帰ってもいいように、との老夫婦オルフェオとエバンスの願いを感じずにはいられなかった。リリアは少し、戦場から帰ったときに、誰からもお帰りと言ってもらえていないことや、帰っていく家も家族もいない自分を寂しく思い、またカインを羨ましくも思った。
「リリア殿どうしました?部屋どちらにします?」
「決めたわ!」
「はい、どちらに?海側か街側か?わたしはどちらかといえば人間を観察できる街側が…」
「着いてきてルシフェル!」
「は、はい!えっ、ど、どちらに?部屋はこちらですよ。リリア殿、リリア殿?」
「オルフェオさん!エバンスさん!」
「ちょうど良かった!リリアちゃんに、ルシフェルくん。ご飯ができましたよ。冷めないうちに召し上がれ!」
「わーい、やったあ!いただきまーす!」
「リリア殿…」
「ぷはー美味しかった!ご馳走様でしたあ。…じゃなくて、オルフェオさん、エバンスさん、聞いてください!」
「あーそうそう、リリアちゃん、どちらのパジャマにする?わたしか娘のだけど。」
「じゃじゃあこちらで…」
「えっわたしのほう?意外に古風ね。じゃあちょっと着てくれるかしら?ルシフェルくんは、息子の方ね。背丈はよく似てるから多分大丈夫。リリアちゃんはちょっと着丈を直すわね。」
「わ、わかりました。」
おーよく似合う! ほんとだ、馬子にも衣装ってやつですかね。アハハハハ…
「そ、そお?ありがと。お、オホン。あらためて、オルフェオさん、エバンスさん、あのおー。」
「そろそろ、お風呂沸いたわね、リリアちゃんお風呂は?」
「えっお風呂!わーい!入る入る!ウッレシーーー!!」
「じゃあどうぞ!」
「お風呂、お風呂、お風呂!うーん最高!極楽極楽!」
エーーーお風呂上がりの牛乳もあるのぉーーーぷはーこの一杯、こりゃあ、やめられませんなあーーーー
「リリアちゃん、ベッドの布団を新しいのと入れ替えてきたからフカフカよ。」
「あ、ありがとうエバンスさん。オルフェオさんおやすみなさーい!よーしルシフェル、今夜は寝よ寝よ!」
ベッドにダーイブ!なにこのお日様のいい匂い…もっ最高!
リリアは、戦場を駆け巡った頃から比較して、こんなにも安らいだことは久しぶりで、そのまま寝てしまった。
次の朝…
「ちっがーう!」
「ルシフェル起きて!ルシフェル!入るわよ!」
ドンドンドンドン…ルシフェルのドアを強引に開けると、ルシフェルの部屋には大きな繭が作られていた。
「ルシフェル?」
リリアが恐る恐る繭に触ろうとしたとき、繭が割れた。中から緑色のドロドロの粘液に包まれたルシフェルが現れた。
「おはようございます、リリア殿。こんなに気持ちの良い朝はありませんね、ハハハハハ。」
正直きもい。繭の周りに手の平サイズの蜘蛛たちが至る所に蠢いている。どこから呼んだのかわからないが。リリアは、改めてルシフェルは魔物だと実感して、さらに、野宿でもいけるクチだ絶対に、だからこいつは…と密かに思った。
「もう!これから繭禁止ね!絶対に!」
「えっ?だめですか?あれ気持ちいいんですよ。暖かいし、栄養たっぷりで肌もすべすべに。」
「だめーたら、だめ!もう絶対にやらないで!ここは人間界なのよ、誰かに見られでもしたら…」
2人が2階から言い合いして降りてくると、その一階で女性2人が立っていた。
蜘蛛がキーキーと一匹だけ、ルシフェルの肩に着いていた。慌ててリリアは素早くルシフェルの部屋へと投げた。蜘蛛は、繭にくっついて止まった。
「オホホホホ…」
「い、今何か大きな蜘蛛のような.」
若い娘が呟いた。
「蜘蛛?あーあーーーそうそう、ルシフェルの飼ってる小鳥のピーちゃんね。あれえ?部屋に戻ったわね。あっえーとどちら様で?」
「初めまして。わたしはメリンダです。この子は、アミと言います。アミ、ご挨拶は?」
「あっ、お、おはようございます。」
「おはようアミちゃん。わたしはリリアよろしくね!こっちは!」
「ルシフェルです、初めまして以後お見知りおきを。メリンダ殿、アミ殿。」
ー 殿?ー
「ところで何か?」
「は、はい。実はお二人にお詫びを。聞けば父と母が助けていただきながら、無理にお泊めしたなんて。それに、お二人が何か言いたいのを遮って邪魔したとも…とんでも無いことを!でも許してください。兄がいなくなり、お二人に長く居ていていただきたかっただけなんです!父母に代わりお詫びします。たいへん申し訳ありませんでした!」
オルフェオとエバンスがガタガタと扉を開けて、店に入ってきて土下座した。
「メリンダや、すまない。昨日、エバンスがとても喜んでいてなあ。いいや、わしもだ。リリアちゃんも、ルシフェルくんも、まるでお前とカインと4人で暮らしていた頃のような…なんとも懐かしくてなあ。許してくれ!悪いのはわしなんだ!」
「リリアちゃん、ごめんね、ごめんなさい!わたし、あなたたちが、少しでも長く、もうちょっといてくれたらって…リリアちゃんが明日旅立ちますって言ったらどうしようって…でも、後からなんて悪いことを考えてたんだろうって後悔して。朝、メリンダたちに来てもらって話したら…怒られて我に返って。ほんとうにほんとうにごめんなさい。ワーーーーー。」
「いいや、悪いのはわしだ!エバンスじゃない、すまんな二人とも。わしをわしを責めてくれ!この通りだ!」
「なーんだ。」
「リリア殿…」
「なーんだ心配しなくて良かったんだ…こんなにして、こんなに想ってくれてたなんて…」
リリアは泣き出した。
「リリア殿?」
「リリアちゃん?」
「ごめんね、ごめんなさい…」
ワーーー
ひとしきりリリアが涙を流すと、すっきりとした笑顔になった。
「オルフェオさん、エバンスさん、メリンダさん、アミちゃん。」
「はい。」
「そしてルシフェル。」
「リリア殿…」
「わたし決めた!これまでお世話になりました。そして…あらためて、今日から私たちのほうからお世話になりたいです!」
「そ、そうかい!」
「ありがとう!」
「いいのかリリアちゃん?」
「今日から、わたしとルシフェルは、この街で、このお店で、武器防具屋として旅立ちたいと思います!」
リリアは深々と頭を下げた。
最弱の勇者の最強のパーティーも宜しくお願い致します。
また、ブクマや星の評価も宜しければお願いできれば…