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2 まずは街にきたところで

2 まずは街に来たところで


「というわけで、この街!この街にまずは暮らします!」

「ここはちょっと大都会すぎなのでは?」

「そこよそこ。わたしの作戦には抜かりないわ!木を隠すならなんとやらよ。私たちはお互いがお尋ね者。目立っちゃいけないの!だから、相手の顔も覚えられないような人が大勢暮らしている大都会がいいのよ!ここ港町プリマドンナがね!」

「なるほど流石です、勇者ムーンルージュ殿…」

そういったルシフェルは、街の至る所で、たくさんのリリアグッズが売られているのを見ていたが、とりあえず触れないことにした。


チチチとリリアが人さし指を振った。

「勇者のキーワードは禁句よ!禁句。わたしはもう勇者を辞めたんだから。」

「わかりました、なんとお呼びしたら?」

「そうね…リリアでいいわ、かた苦しいのは卒業!心機一転。だから、フルネームで呼ばないでね。ただのリリアで通すから。あなたはどう呼ぶ?」

「わたしは、ルシフェルと。ルシフェルとお呼びください。」

「わかったわルシフェル。にしても、あなた人間になれるのね?魔族は誰でも人間になれるのかしら?」

「リリア殿…いいえ全部が全部、人間にはなれません。それにわたしは元々作られた生命です。わたしを作ったファウスト博士が、勇者を倒すには勇者の血が必要と、わたしには人間の血が少々混ざっているからでしょう。」


「へえーどっからどう見ても、人間にしか見えないから…」

ルシフェルは高身長でサラサラの黒髪、スマートでいかにも女性から持てそうなタイプの容姿だ。白い長袖Tシャツに皮のベスト、デニム調の紺のジーンズに長い革ブーツを履いていて、西部劇に出てきそうな出で立ちだ。

一方リリアは、ブロンドヘアーに、やなりカウガールのような衣服でミニスカート、腰には帯刀し、皮のブーツを履いている。リリアは美人顔で、しかもスタイル抜群。ここに来るまでに、通り過ぎる男から何度となく声をかけられ、ナンパされていた。


「これからどうしますかリリア殿?」

「そうね、あなたお金ある?」

「人間界の?ありませんね。」

「そうよね。わたしも出来高支払い制であなたを倒して戻ったら、多額の報酬を貰える約束だったのよ。だからこれだけしか…」

リリアが持っていたのはわずか銀貨3枚だった。宿屋に泊まるにしても、1人最低銀貨5枚は必要だった。


ヒューーーーーー 風が吹いた。


「リリア殿、わたしは特にどこでも生きていられますが、リリア殿はやはり…」

「そう!そうよ!ご飯もいるし、お風呂も入るし、夜ゆっくりお酒を飲んで美味しい温かい料理を食べて、満腹になったら、読書しながらそのままフカフカのベッドでゴロゴロして過ごして、そのままいつの間にか寝ていたい!そして気がついて朝起きると、洗いたての軽やかな衣装に身を包んで、明るいお日様の下へと飛び出していきたい!」


「今までの生活は?」


「うそ、うそよ!ご飯は食うや食わず…お風呂なんかもってのほか!荒業かっていうくらいの滝でシャワーを浴びて、夜は焚き火をしながら魔物に怯えて、時には干し肉、時には草、土の匂いがするなんだか訳のわからないものを食べた!魔物と切り結んではゴロゴロと地面に転がり、いつの間にか疲労で意識不明で昏睡してた!そして覚醒して朝になると、魔物の体液だか泥だかわからないものにまみれたゴワゴワの鎧のまま、どんよりとしたジャングルやダンジョンの中を彷徨っていたわ!」


ヒューーーーーー ふたたび風が吹いた。


「とにかくバイトね!てっとり早くギルドに行きましょう。ちょうどお約束でギルドがあるわ!」

「あっちょっと、そこはまずいのでは?リリア殿待ってください!」


10分後


「あ、あっぶねー!そーだった。ギルドにはギルドの登録しないとダメだった。わたしが登録したら、桁違いのレベルで勇者ってバレちゃう。」

「だからお止めしたのですよ!リリア殿をあのままにしていたら、確実にバレていました。」

「どーしよー。」

「ちょっと良いですか?少しだけじっとしていてください。」

「何々何するの?」

「はい終わりました。」

「えっ何かしたの?」

「いえ少しだけ…」


2人がやり取りしていると…

「なんだと、このジジイ!」

「やめてくだい!すみません主人のことを許してください。」

「だーめーだー!!!このジジイは、俺たちのことを見て罵ったんだ!」

「そうだ婆さん。こんなゴロツキたちに何されようと、わしは良い。ただ勇者様をバカにするのは許せん!誰のおかげで自分たちが安全で平和な街に暮らせているのか!」

路上でたむろしていた柄の悪い冒険者に、老夫婦が何かを言ったようだ。冒険者は体格の良い5人組で、対して老夫婦は2人とも小柄である。


「誰のおかげだってー!ハハハハハ。」

「そんなの自分たちのおかげに決まってんだろ!」

「勇者?魔王?そんなのこの何百年も街には魔物は現れてないし、それなのに、国は魔界やダンジョンに勇者を派遣し続けて、ずっと成果なんてないじゃないか!」

「いい加減全面戦争ぐらいやってみろってんだ!」

「それよりも、俺たち冒険者が街の周りに現れる魔物どもを掃除してやってるから、お前たちが安心して暮らせるんだろう!この老いぼれどもが!」


「おっと危ない危ない。もう少しで蹴られてしまうところでしたね。」

冒険者の1人が、老夫婦を蹴り飛ばそうとしたところを、ルシフェルが片手で止めた。足はビクともしない。

「あ、あんたは?」


「わたしたち?」

老夫婦が声がした方に振り返ると、腕組みしたリリアが立っていた。

「わたしたちは単なる…そう…た、旅人よ。」

「最初に何と名乗ることを決めてなかったですね、やれやれ。」

ルシフェルが呟いた。

「わたしは勇者がバカにされても仕方ないけど…ちょっとムカつくけど…子どもや女性、お年寄りに手を挙げるのは、それ以上にもってのほか許せないのよ、ねっ!」

そういうとリリアは、目にも見えない速さで、腰の剣の柄で、冒険者の腹へと峰打ちした。男は簡単に膝から落ちて倒れた。


「放せよ!このヤロー!」

ルシフェルが捕まえていた男の足を手放した。そして体の自由になった男が、ふたたび向かってきたところを片指1つで吹き飛ばした。男がゴロゴロと転がると後ろにいた2人を巻き込み、そのまま冒険者たちがギルドの壁に激突して、めり込んでしまった。

「あなたどうする?最後の1人みたいだけど。どっちでも選んでいいわ。どっちとやる?」

そこにリリアとルシフェルが並んで立っていた。

男からしたら、これまでに生きてきて感じたことのないプレッシャーを感じた。リリアからは全身からみなぎるオーラのほとばしり、ルシフェルからは禍々しいまでの暗黒の魔の力だ。

おそらくこれを同時に受けるのは、この男がこの世界においては初めての経験者だろう。


勇者と魔王第一の部下、その2人から


男はそれだけで混乱し失神した。周りは、いつの間にか観衆に取り囲まれていた。そして、警らの衛兵が笛を吹きながら走ってきた。

「や、やばいよ。どーしよールシフェル!顔ばれちゃう。」

「それは置いといて、とにかくこの場を逃げましょう!」

「さよなら!オジーサンありがとう!嬉しかったわ!」

そういうと2人は一瞬にして立ち去った。


「あなた…」

「ん、何だばーさん。」

「これ…」



「もう、あんなことが無ければお金落とさなかったのに…グスン…ごめんねルシフェル…」

「わたしは良いのですよ、わたしは…とにかく来た道を辿るしか…」

「わー最悪野宿?野宿ってことかな、やっぱり…」

「後悔してますか?」

「何を?」

「あの老夫婦を助けたことをです。」

「ぜーんぜん!そんなの絶対こーかいしないよ!」

「ですよね![良かった]」

「何でそんなこと聞くの?」

「いいえ、何でも…あっリリア殿あの方達…」


ギルドの前で、すでに夕焼け空の下で、先ほどの老夫婦がポツリと立っていた。

「あっ!オジーサン、オバーサン!どうしたの?どこか具合でも。わたし薬草なら少しあるけど。」

2人の老夫婦は、首を大きく振って深々と頭を下げた。

「さっきはありがとうなお二人さん。わしの一言が原因で。すまないこの通りだ!」

「そんなあ、大したことじゃないから。」

「それでバーサンがここで待つって聞かなくてな。」

「えっ?」

「これをお探しなんでしょう、お嬢さん。」

そういうとリリアが落とした銀貨の入った皮の袋を、老婆が差し出して、リリアの手に優しく握らせてくれた。

「それで、とても言い難いんだが、中身を見せてもらってな。」

「良かったら、お二人とも、うちに来ないかしら?うちはそんなに大きくないけれど、お二人が泊まれる部屋と食事もあるから。」

「すまんな、急ぐ旅かもしれんが。ばーさんが無理にでもお引き留めしろと言ってなあ。言い出したらきかんから。すまんが、ばーさんのために居てくれるだけ居てやってくれんか?」

「何言ってるの!自分から言いだしといて!」

「そっ、そうだったか?で、どうかなお二人さん。」


2人は顔を見合わせた。そして…

「お願いします!お世話になります!」


「ルシフェル…」

「えっ?」

「わたし、良いことするのに、絶対に後悔したことなんて…ないよ!」






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