鹿の夢
テーマは「夢」で書いてみました。読んでくれると嬉しいです。
夢を見た。目を覚ますと遠くから鹿がじっとこちらを見ていた。大きな角を持った立派な鹿だった。その吸い込まれるような瞳からはなにも感情も読み取れない。この夢はいつもこんな不思議な夢だった。
意識が落ちていく感覚がある。いつもとは少し違う感覚だ。でもいつもと同じような気もする。いつの間にか意識が落ちていき、突然に意識が戻る。そうだ、きっといつもと同じだろう。これは何千回と繰り返してきたことだからきっとそうだ。
目を覚ますと鹿がこちらをじっと見ていた。その姿を見てこれが夢なのだと分かった。でも少し違和感がある。あの立派な角がない。角を落とした不思議な鹿がこちらを見ている。些細な変化だったがこの変化は鹿に対する興味を掻き立てた。立ち上がり、鹿に向かって一歩踏み出す。すると鹿はじっとこちらを見ていた視線を外しどこかへ走り出した。もう一歩踏み出す、もう一歩踏み出す!だんだんと足を踏み出す速度は早くなり、いつの間にかどこかへ走る鹿を追いかけていた。
鹿を追う。鹿を追う。ただ鹿の後ろ姿を追いかける。吐く息の音がなくなる。地を駆ける感覚がなくなる。口に滲む血の味がなくなる。鼻孔に入る香りがなくなる。鹿の姿がおぼろげになる。それでも鹿を追い続ける。些細なことに気を向けずただ鹿を追えという衝動に任せて鹿の後ろ姿を追い続ける。
何を追っている?分からない、でも追わなければ。なぜ追う?分からない、でもあれを追わなければ。ここはどこ?分からない、でもあれを追わなければ。今はいつ?わからない、でもあれを追わなければ。何をしているの?分からない、でもあれを追わなければ。あなたはだあれ?分からない、でもあれを追わなければ。あれを追わなければ、あれを追わなければ!
何も分からない。何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。ただ目の前にあるものを追わなければいけない。追え!追え!追え!理解できない何かがそうさせる!・・・すると目の前の追っていたものが立ち止まった。ゆっくりとこちらを見つめてくる。不思議な瞳に見つめられ、その瞳に追いつくと意識が静かに落ちていく。静かに静かに最期の穢れが落ちていく。
暗闇の中にいることが分かる。狭い狭い暗闇に光が見える。光がだんだんと近づいてくる。もう少しだ、もう少しで光にたどり着くことできる。もう少し、あと少し!もがきながら光がある方へ行くと瞼が開く。そこにはまばゆいばかりの光が見えた!私は大きく口を開いて息を吸う。初めて肺に入る空気の感覚に驚いた!それでも私はこれからを精一杯に生きるために最初の産声をあげるのだ。
テーマは「夢」で書きました。物語を書こうと思ってプロット作成中。