Ⅰ 涙の蝶
初めてきたはずの場所なのに、どこか懐かしい雰囲気がした。
わたしは今日からとある病院に入院することになっている。この国では病気になることはごく普通のことだ。だからーー。
「鏡花、ひさしぶり」
サーッと風が吹いた。わたしの紫の髪が揺れる。髪の向こうに、雰囲気の正体が。
「え、宇宙、、、?」
ーーだから、彼が此処に居る事は不思議ではないのだけれど。
「どうしたの、鏡花がこんなに感情的になるなんて。泣くほど辛い病気だったの?」
なんでここに、宇宙がいるの、、、?
でも、宇宙の言うことも一理ある。彼に言われて初めて自分が泣いていることに気づいた。
「あ、、、」
目の前を蝶がよぎった。これは、、、っ!
わたしの病気は、珍しいことに複数発見された。そのうちの一つが、涙が蝶や光になるのだ。
「なにがそんなに悲しかったんだ?」
ふふっ、小さい頃から一緒に育ってきた宇宙には全部お見通しなんだね。
「わたしも、宇宙もほぼ不治の病になっちゃうなんてなーっておもって」
「あ、バレた?」
わかるよ、わたしだって、伊達に宇宙の幼馴染みしてるわけじゃないんだからね。
でもね、きっと宇宙は気づいてないことがあるよ。だってそれを、わたしは誰にも言ってないからね。
次の日。
宇宙と話していた。楽しいし、それ以外これといってする事もないし。
「あれ、鏡花、羽生えてない?」
ああ、病気の一つね。なんか、その羽を動かすための体力が足りなくなると、一日中殆ど寝て過ごすんだって。病が進行すると、寝たまま死んじゃうんだって。これも治すの難しくって、ドラゴンの羽が必要なの。
「これはね、上手いこと綺麗に生えると、絵に描いたような天使の羽になるんだって!それで空を飛べたらどんなに楽しいことか、、、」
でもそれは、無理かもね、、、。だって翼が生える頃には、わたし、眠ってるから。きっと。
「俺の病気って、言ってなかったよね?」
「え、ああ、うん、、、」
驚いた。宇宙は滅多に自分の話をしないから。それに、自分から話すなんて、、、。
少し会わなかった間に、変わっちゃったんだね。なんか、少し寂しいよ。
「俺の病気は、肌の色素が薄くなって、同時にだんだん自我を失っていくんだ、、、」
「え、、、?」
わたしは言葉を失った。
「自我を、、、失う、、、?そん、な。そんなことって、、、」
「ないわけないんだよ。ふふっ、みっともない」
彼はそう言って、自嘲した。
「治すのに必要なのは、愛する人の一部だよ。例えば、鏡花の、ね」
「え、わたし、、、?」
「うん。その人の心臓とか食べちゃえば、一発で治るし、髪の毛とかでも良いんだけど」
「髪の毛なら、、、」
チラリと、肩越しに自分の髪の毛を見る。藤色の髪はそれなりの長さがある。元々、病弱で髪が長くても邪魔にならなかったから、切る機会がなかった。ただ、それだけ。
「わたしの、、、」
それだけのこの髪に、まさか、これ程の大役が回ってこようとは。
「わたしの髪で良ければ、幾らでもあげるよ。それで宇宙が助かるのなら」
「、、、ありがとう、鏡花。それじゃあ、ありがたく」
「えっ、今から?、、、まあいいけど」
ねえ、今度は、わたしの話も、、、聞いて?