3ー1
夢の中。そうだこれは夢。
もう何度も見ているから、またか、とため息をつく。
自分を俯瞰するようにその光景を見ている。
父親と母親と小さい頃の俺。
街外れの小さなアパートの1Fの103号室、丸い小さなテーブルにおかずを乗せたらぎゅうぎゅうで、決して裕福な家ではなかった。
それなのに、母は幼い俺の口元に箸でおかずを運び、それを咀嚼すると母は喜び父は笑って頭を撫でてくれる。
やがてそれらは血を流しながら腕、足、胴、首が千切れバラバラになっていった。
夢の中の俺は元は人だったそれを眺めながら、ただただ涙を流しながらこちらに振り向き言うのだ。
「お前のせいだ!!!」と。
・・・目を開けると、俺の部屋だった。
正確には先輩が借りている3LDKマンションの一室に間借りしているに過ぎない。だから俺の部屋といっても俺が所有しているわけではない。
着替えて部屋を出てリビングに向かうと、キッチンで藤堂巡査が料理をしていた。
「そろそろ起きる頃だと思ったよ、虎徹くん!ちょっと座って待っててね。もう少しでパスタ出来るからね〜」
藤堂 綾女巡査。明るく優しい人柄で姉御肌、というよりオカンのような人だ。26才、独身。
長い黒髪をポニーテールにしている。
「藤堂巡査、お疲れ様です。ありがとうございます。ですが、そこまでして頂かなくとも食事くらい適当に済ませますよ。」
そう答えるとむっとした顔で温かいココアをいれてくれた。
「あのねぇ!いつも言ってるけど、巡査じゃなくて綾女さん、もしくは綾女ちゃんでしょ?!あと、食事は体の資本。ほっとくとカップ麺しか食べないんだから!滝さんも年頃の子供を預かってる自覚あるのかしら?!」
しまった。藪蛇だったか。
「先輩には良くしてもらってますよ。」
そう言ってココアを一口飲む。冷えた体の中心から温まっていくのを感じる。
「虎徹くんがそう言うならいいけど、少しでも辛いことあったら私のとこに来てもいいんだからね?」
「・・・ありがとうございます。」
藤堂巡査もとい、綾女さんは俺の返事を聞くと料理に戻った。優しい人だ。俺に見返りを求めない求めてくれない。だから、なんて答えるか迷うことがある。
せめて、嫌ってくれたら楽なのに。
料理が出来て、目の前に少し量が多めに作られたカルボナーラとサラダが並べられた。
「いただきます。」
「いただきます。」
カルボナーラの濃厚な卵とクリームな味が口いっぱいに広がる。おいしい。
ちなみに、いただきますを言わないと怒られる。
怒られるのは慣れているのに彼女に怒られると何故だろう、お腹の下の方がきゅっと締め付けられるような感覚がするのだ。
「ねぇ、前から聞きたかったんだけど、なんで虎徹くんは滝さんを先輩って呼んでるの?」
「先輩は仕事の先輩だから、です。」
「そう・・・そうだね。」
綾女さんはパスタを飲み込んで、同意した。
でもその声は悲しげで、寂しげで俺は目を見れなかった。