第5話 女の子の治癒力って凄い説
今回は少しだけ短いかもしれません。(変わらないかも)
俺は、どこだか分からない真っ暗闇にいた。
嫌、いるかどうかは分からなかった。暗すぎて自分の体も見えないし、地面がある事すら分からない。
とにかく、何も認識出来ない真っ暗な世界が目の前に広がっていた。
………………どこだろう、ここ。
声を出そうと思っても、出せないし、腕を動かそうとしても、腕の感触がない。
腕が無いわけじゃないんだけど、曲げれたかどうか分からない、そんな不思議な感覚だった。
そこに突然、厳かな光に覆われた俺の体があらわれた。
「君は、誰?俺に会ったことあったっけ?」
その俺の体は俺にそう言う。
……………嫌々、待ってくれ。お前は俺と14年間を共に過ごしてきた俺の体だろ?
その問いかけも、声に出せず、虚しく体の中のどこかへ消えてゆく。
そして、ぼんやりとした光に覆われた香ちゃん、一ノ瀬香ちゃんがそこに現れた。
「貴方は誰?なんで私の姿をしているの?」
香ちゃんは俺にそう言う。
………………待って。香ちゃんの体は今俺が使っているずだよな?なのになんで、香ちゃんがここにいるんだ?
こいつは偽の香ちゃんじゃないのか?香ちゃんの本物の体は俺が今預かってるんだから。
………………その可能性なんて、少ないよな。だって、香ちゃんの人格がここにあるんだもの。
もし俺の方が本物だとしても、香ちゃんの人格の方が本物ってことになった方がいいよね。
「君、誰?」
俺の体は問う。
俺の体に俺の人格が入ってるのか?だとしたら俺の人格が二つ存在する事になる。
だったら、片方は偽者ってことか?
「貴方は、誰?」
香ちゃんは問う。
香ちゃんの体を勝手に使って勝手に俺の所有物にしていた。
「君、誰?」
俺は問う。
「貴方は誰?」
香ちゃんは問う。
「誰?」「誰?」「誰?」「誰?」
二人は問う。
もしもあの二人が本物だとしたら。
もしも香ちゃんの中の俺の人格が幻想で、いつか消えてしまうとしたら。
俺は何をして過ごせば良い?
俺は何を考えて生きて行けば良い?
俺はーーーーーーーー。
二人は真っ暗な暗闇の中のどこか遠くへゆっくりと進んで行った。
でも俺の体は感覚がないから、追いかけることは出来ない。もう追いつく事なんて出来ない。
俺は誰で、どういう存在なんだろう。
俺は誰で、俺はーーーー。
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窓から差し込む斜陽が眩しい。
顔に突き刺すように差し込んでいる光が、フワフワとした意識の俺を、ハッキリとした意識にしてくれる。
「………まぶ、しい…………」
白いカーテンに囲まれているが、病院という訳ではなさそうだ。
カーテンの隙間から見える壁には色々な張り紙が貼ってある。
立って歩こうと思って足を地につけて歩こうとしたら、右足に力が入らず、ふにゃり、と倒れ込んでしまった。
「だ、大丈夫!?」
突然、若い男の人らしき人に声をかけられた。
声のした方を見ると、若い眼鏡の男性がいた。否、男性というよりお兄さんという方がピッタリな気がする。
なかなかのナイスガイだった。まぁ俺には関係のない事だけど。
「だ、大丈夫、です」
またこの感覚だ。怖くて震えて、口が渇いて、心拍数が上がって、胸が苦しくなる。
こんな感覚、この体になってからだ。男の時は無かった。
多分、本格的に怖いんだろう。本能的に怯えてるのかな。
「ほ、ほん、とに、大丈夫、です」
言葉がたどたどしくなって、呼吸が荒くなる。
ホントに、大丈夫か?
「そう?あのね一ノ瀬さん。一つ聞きたい事があるんだけど」
「な、何ですか?」
真剣な顔でずいっと顔を寄せてきた。
心拍数が上がって、また胸が苦しくなる。
何でこんなにこの人に怯えてるんだ?
何でこんなにドキドキするんだ?
何でこんなにこの人に釘付けになるんだ?
「君の足、何でそんなに早く修復していってるんだい?」
…………はて?
この香ちゃんの体はそんな超人的な能力を持っているのか?
「君の右足、もう治ってるんだ」
………………は?
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俺はどうして気絶したかを聞いていた。
それは、とても簡単だった。ただただ血を流しすぎた貧血だった。
確かに、あそこまでの血溜まりを作ってしまえば、貧血になるに決まってる。
そして、本題の治癒力の件である。
「どう?足は痛い?」
真剣な顔でそう聞かれる。
「痛くは無いです」
さっき、力がが入らない感覚はあった。
しかし、痛い訳じゃないんだ。
「で、どう?なにか心辺りは無いかい?」
そんな事聞かれても困る。
俺でさえも驚いているんだから。
「いや、自分でもわからないです」
まず俺今日この体入ったばっかだから分からないことが多すぎる。
「そうだよね。ごめんね、色々聞いちゃって」
そう言って俺に優しく笑いかけた。
その笑いでさえも、俺は怖くてたまらない。
胸が、きゅんっ、て、苦しくなるんだ。
「いえ、良いんです」
見たいけど、見るとどうしても目を逸らしてしまう。
この人に見られると、どうしても俯いてしまうんだ。
すると、ガラガラ、と突然ドアが開いた。
「大丈夫か!?」
と、入って来たのは、竜司だった。