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第3話 俺登校したらてんやわんや説

 香ちゃんの人生を全うに生きて行く為には、学校に行く必要がある。だから俺は、学校の準備をしていた。

 壁に貼ってあった時間割表を見て教科書類を入れてゆく。

 入れていけばいくほど学校への登校に近付いていくわけで、教科書一冊一冊ごとに鞄も気も重くなってゆく。

 だが、ここで教科書が少なすぎることに気がついた。

 時間割表を見る限り、時間割の三分の一も無い。授業用のノートと思われるものも、圧倒的に足りなかった。

 ……………学校に置いてあるのか?

 それを踏まえて数えてみても、少ない。

 少なすぎるのだ。

 ……………まぁいいか。

 軽い鞄を持って、重い足取りで階段を降りてゆく。

 歩くたびにスカートかひらひらなって怖い。

 決して中のパンツが見られたくないとかそういう女々しい考えじゃない勿論。ホントにそんな女々しい考えではないんだ。

「行ってきまーす!」

 と言い、家を出た。

 頭装備 無し 体上装備 布の服 体下装備 腰巻

 という最弱装備で外界へと旅立つ事にした。




 =========================================





 家の前の住宅街の道を抜け、大通りまでやって来た。

 この大きな道路を境として戸間中学区は分かれている。そこの北が俺のいる学区、南が香ちゃんのいる学区という分け方になっている。

 そして、俺はその大通りに面した南側の道を歩いている。

 家の前の細い道とは違って、大通りなだけあって人が多い。

 それ故に、人の視線が気になって気になってしょうがない。思わずスカートを抑えてしまう。

 こんな薄い布一枚で冬を過ごすなんて、女の子は、とてつもない精神力の持ち主である。女の子になった今なら辛さがわかる。

 やっとの思いで、学校の門が見えてきた。

 やっぱり二つの学区が統合された学校なだけあって、登校してくる人数が多い。でも、女子生徒も多いので、スカートの怖さは多少和らいだ。

 それでもやっぱり男なのにスカートをはいていという事に関して精神力がごっそり持っていかれる。

 こんな腰巻脱ぎ捨ててあの暖かかったズボンに履き替えたいよ!

 …………でも、ダメなんだもんな。

 そこで、とある男子生徒とすれ違った。

 すれ違っただけでもすぐにわかる。何度も何度も横顔も後ろ姿も見たからな。

 かつての俺の親友、日野竜司ひのりゅうじである。

「あ、あの!」

 思わず体が動いてしまった。勢いで、声をかけてしまった。

 竜司とは小学三年生からの付き合いで、それからずっと一緒にいたんだ。

 でも、俺は受験して、あいつと別れて、それきりだ。それからは一度たりとも会ってない。

 久しぶりの再会に胸が踊ってついつい声をかけてしまった。

「ん?君、誰?どこかで会ったっけ?」

 そうだった。今は姿が違うんだった。話しかけても俺だとわかるはずがない。俺じゃないもの。

「えっと、あの、え、えと、ひ、人違いです!すいません!」

 そういい、颯爽とその場から逃げようとした。

 けれど、肩を強く掴まれて、引き戻された。

 男の時だったら怖くないのだろうけど、今は非力だからか、力が強く感じる。

「ちょっと待ってよ。全然人違いって感じじゃなかったじゃん。思い切って声かけた感じだったじゃん」

 こうして見ると、竜司はイケメンな気がする。そういえば、小学生の時も何故かいつも女の子がそばにいた気がする。

 やっぱり、力の差が怖いのかな。竜司の顔を見るだけで、心拍数が上がって、苦しくなる。

 胸が痛くてなって、心なしか顔も熱い。

 …………やっぱり、女の子の体だとかつての親友でさえも怖く感じるのか…………

 肩の手を払ってその場から消えるように走り去った。竜司の俺を呼び止める声さえも、無視して。

 今は声を聞くだけでも怖い。胸がドキドキして、苦しくなるんだもの。

 顔に熱を感じながら、駆け込むように登校した。




 ======================================





 玄関まで来て、下駄箱まで来た。

 まだ動悸が止まらなくて落ち着かないから、急いで靴を取り出して投げ捨てるようにして靴を置いた。

 急いで靴を履いて、突然、足に異物がある感覚に襲われた。

 そしてその感覚は、段々とはっきりとした鋭い痛みに変わっていった。

 チクリ、というよりも、グサリ、という感覚の方が近い。

 なぜなら、俺は痛みを感じる前に靴を履き切って、足に全体重を乗せてしまったからだ。

 靴を脱ぎ捨てると、それは、画鋲だった。

 …………画鋲?

 靴にテープでしっかりと固定されていた。

 靴下を見ると、白い靴下に赤い日の丸が出来ていた。画鋲にも、しっかりと、べったりと血が付いていた。

 保健室に行くべきだろうか。

 そんなことを考える暇もなく、四人組の女の子達に囲まれてしまった。

「少し来なさい」

 そう言われた。

『少し来なさい』と言った女の子は、全力で校則に反した茶髪のゆるふわパーマで『学校のマドンナ』という肩書きが似合いそうな風貌だった。

 ホントにそうなのかわからないけど、俺達五人の周りだけ人が避けてくように通り過ぎてゆく。

 誰一人として、俺達に目を合わせようとしない。

 ある人は怖がり、ある人は関わらないように通り過ぎてゆき、ある人は今日もかといった顔で通り過ぎて行く。

 正に十人十色の面持ちで通り過ぎて行った。

 そして、女の子について行った先は、女子トイレだった。

 …………連れションか?

 もしそうだとしたならば、女子生活1日目の俺にはハードなミッション過ぎる。

 まず、女子トイレで用を足す事でさえ心が折れかけるのに、ただ用を足すことを通り越して連れションですか!?そう思った。

 入り口で躊躇っていると「早く入りなさい」と中に入れられてしまった。

 中では、重量級のゴツい女の子と、さっきのマドンナと、『付き人』という肩書きが似合いそうな女の子の三人がいた。一人は外で待っている。

 ここで俺はようやく気づいた。

 …………………あ、これいじめだわ。と。


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