87話 恋をしてもいいかな?
翌日の放課後。
私は、みんなを屋上に呼び出した。
「ん……綺麗な空」
いつかの告白の時とは違い、今は、空は青い。
雲一つない快晴だ。
どこまでも澄んだ青が広がっていて、見ていると吸い込まれそうになる。
「それで、今日はどうしたんですか?」
「遊びの誘い? あーちゃんと一緒なら、私、どこでもいいよ」
「まあ、葵がどうしてもっていうなら、付き合ってあげてもいいわよ?」
みんなを前にすると……やっぱり、緊張しちゃう。
今すぐに回れ右をして、逃げ出したい気分。
「葵」
私の背中を押すように、桜が私を呼んだ。
目と目が合う。
そして、桜は小さく頷いた。
まったく……こういう時だけは、ホントに侍女らしいことをするんだから。
だから、頼りにしちゃうんだよね。
私は軽く深呼吸をして……
覚悟を決めて、口を開いた。
「あのね……今日は、みんなに話したいことがあって」
「話したいこと……ですか?」
「えっと……その、ほら。私、みんなに色々言われているっていうか……今日は、その返事……のようなものをしようかな、って」
「「「えっ!?」」」
三人が揃って目を丸くした。
さすがに、想定外だったらしい。
まあ、私も、昨夜決めたことだからね。
みんなが驚くのも仕方ないか。
「風祭くん、それはもしかして……私たちの告白に対する答え、ということですか?」
「えっ、えっ……あーちゃん、ついに私の想いを受け入れてくれるの!?」
「っていうか、あ、あたしは告白なんてしてないし……あっ、でも、仲間外れはイヤっていうか……」
「えっと……みんな、とりあえず落ち着いて」
「「「落ち着けないから!」」」
「ですよねー」
私が逆の立場だったら、なんて無茶を言うんだ、って思う。
それでも、まずは落ち着いてもらわないと話ができないので、なんとかなだめて、落ち着いてもらった。
静かになったところで、私は口を開く。
「まず最初に、私の恋愛に対するスタンスを知っておいてもらいたいんだけど……」
そう言って、私は、昨日考えていたことを全部打ち明けた。
女装をしていることで、女の子をそういう目で見ていないこと。
ただ、それは言い訳で、本当は拒絶されるのが怖いこと。
それでも、前に進もうと決めたこと。
「そんなことが……風祭くんも、色々と抱えていたんですね。それに気づくことができなくて、私、恥ずかしいです」
「でもでも、前に進もう、っていうことは……恋をするっていうこと!?」
「じゃ、じゃあ……あ、あたしたちの誰かを選んで……!?」
「あ、いや。まだ、そこまでの話じゃないんだけど……」
慌てて訂正しつつ、残りの言葉を紡ぐ。
「その……けっこうひどいというか、わがままというか……私に都合のいいことを言っちゃうんだけど……」
「はい、なんですか? ちゃんと聞きますから……全部、言ってください」
「うん……私は、みんなに向き合わないといけないと思うんだ。ちゃんと答えを出さないといけないと思うんだ。でも、情けないことに、まだわからないことが多くて……だから今は、ちょっとずつ学んでいきたいというか、気持ちの整理をしていきたいっていうか……」
私は、そっと胸に手を置いた。
色々な想いが、胸の内から溢れてくる。
それを、手で掴むように……
そして、みんなに伝えるように……
そっと言葉に乗せる。
「私は、やっぱり怖い。人と違うことは自覚しているから、拒絶されることが怖い」
「でも、みんなのことは信じられるから……前に進むことができると思う」
「私にとって、都合の良い話だよね。みんなのことを利用しているだけなのかも」
「だけど、他にどうすればいいかわからなくて……だから、助けてほしい」
「私が前に進むために、手を貸してほしい」
「ただ、支えてくれるだけで構わないから……一緒にいてほしいんだ」
「それで、いつか答えを出したいから」
「遅いペースかもしれないけど、でも、ちょっとずつでも前に進んでいくから……」
「だから、もうちょっとだけ、付き合ってくれたらうれしいな」
言いたいことを、全部、一気に口にした。
それから、そっとみんなの顔色を伺う。
「ダメ……かな?」
みんなは……優しく笑う。
「ダメなんてことはありませんよ。私は、小さい頃から、ずっと待ち続けていましたから……それが少し伸びたとしても、なんてことありません」
「私、あーちゃんに助けてもらったから……今度は、私があーちゃんを助ける番! いくらでも待つし、困っていたら力になるよっ」
「ま、まあ、葵には恩があるし……イヤなんてことは言わないわよ。納得できる答えを見つけられるまで、仕方ないから付き合ってあげるわ」
みんなの温かい想いがすごくうれしくて……
なんだか、うまく言葉を出すことができなくて……
みんな、ありがとう。
笑顔と共に、心の中で感謝の言葉を口にした。
「つまり、だ」
流れを見守っていた桜が、まとめるように口を開いた。
「これからは、葵の争奪戦が開催される、ということだな」
「どうしてそんな結論に!?」
良い話をしていたよね、私!?
なのに、なんでそんな話になっちゃうのかな!?
「もっと、過激なアプローチが必要ですね。風祭くんのハートは、私のものですよ!」
「あーちゃん、待っててね。私が、絶対にあーちゃんをものにしてみせるからっ」
「葵のことなんでどうでもいいけど? まあ、負けるのはなんか悔しいし? 仕方ないから、あたしも参戦してあげる!」
「みんなは乗り気だった!?」
「風祭くん」
「あーちゃん」
「葵」
みんなが抱きついてきた。
ワイワイガヤガヤと、言いたいことを勝手に口にして……
気がついたら、いつものノリに戻っていた。
真面目な空気はどこへいってしまったのやら……
でも、まあ……
これはこれで、悪くないかな?
むしろ、楽しくて賑やかで……うれしい。
みんなと深く繋がっているような気がして、幸せな気分になれる。
ずっとずっと、こうしていたい。
前に進む、って決めたけど……
今は、もう少しだけこのままで。
ただ、決意表明だけはしておこうと、私はみんなを見て、笑顔で語りかけた。
「恋をしてもいいかな?」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
最初から読んでいただいた方は、感謝を。
これにて、この話は終了になります。
女の子のような男の子がラブコメをして、最後は、自身が一歩を踏み出す。
そんな話でした。
ラブというよりは、コメディ中心だったんですか、どうだったでしょうか?
楽しんでもらえたらうれしいです。
では、またどこかで。




