85話 風祭葵は恋が怖い
夜。
自室でのんびりと……できない。
「これから……かあ」
昼間、桜に言われたことを考えて、考えて、考えて……
ぐるぐると頭がこんがらがってしまう。
出口のない迷路に迷い込んだような気分だ。
「どうしたらいいのかな?」
橘さん。
愛ちゃん。
ほのかちゃん。
みんな、私に好意を示してくれている。
橘さんは、昔の思い出を胸に、何度も想いを伝えてくれている。
その度に、保留をしてしまっているんだけど、特に怒らないで……
でも、諦めないで……
まっすぐに、時に大胆に、アプローチを続けている。
愛ちゃんは、再会した時から、ぐいぐいと踏み込んできた。
ちょっと強引なくらいに、迫ってきている。
でも、私がイヤと思う一線は絶対に踏み越えないで、きちんと私のことを考えてくれて……
その優しさに、いつも助けられている。
ほのかちゃんは、最初は、あんな出会いだったけど……
でも、ちょっとズレているだけで、本当はとても良い子で……
先日のお見合いの一件を機会に、想いを寄せてくれていて……明言されたわけじゃないから、勘違いだったら恥ずかしいけど、たぶん、間違いないと思う。わかりやすい子だもん……
一緒にいると楽しい気持ちになれる良い子だ。
「みんなと一緒にいると楽しくて、ずっとこうしていたいな、なんてことを思っちゃうけど……そういうわけにもいかないんだよね」
人の気持ちであれ、関係であれ。
どんなものでも、必ず『変化』は訪れる。
ないとしたら、それはただの『停滞』だ。
意味のない、形のない、空っぽでしかないもの。
私は、変わらないといけない。
「……でも、どうすればいいのかな」
橘さんも、愛ちゃんも、ほのかちゃんも……
みんな、間違いなく素敵な人だ。
一緒にいると楽しいし、笑顔になれる。
友だちとして言うなら、大好きだ。
でも、異性としては?
そうなると、よくわからない。
そもそも……私は、女の子のつもりなんだよね。
「いや……まあ、わかってはいるんだよね。本当は、男の子だ、っていうことくらい」
そこまで目を逸らしているつもりはない。
私は、本当は……というか、最初から疑いようのないくらい男の子で……
ただ単に、家のしきたりで女装しているだけにすぎない。
でもね?
今の今まで、ずっと、女の子として育てられてきたんだよ?
小さい頃から、女の子の格好をして……
スカートをはいて、かわいい服を着て……
それなのに、いきなり男の子に戻って恋をしろ、なんて……
正直、無理だよね。
「別に、強要されてるわけじゃないんだけどね……」
桜もあれこれ言っているものの、無理にしよう、なんてことは考えてないと思う。
あれで、ちゃんと私のことを考えてくれている。
私の意思を無視するようなことはしないはずだ。
……たぶん。
「……男の子らしくならないと、ダメなのかなあ」
しきたりがあるから、女装は続けないといけないけど……
心を切り替えることを、意識しないといけないのかもしれない。
「そうしたら……私も、『恋』ができるのかも」
私が恋をしない理由は、いくつかある。
勘違いをされたり、家目当てだったり……
色々あって告白を何度も断っているうちに、恋愛がよくわからなくなっていた。
でも、本当は……もう一つ、理由があるんだよね。
「……怖いんだよね、私は」
傍から見れば、私は、女装をしている変な男の子。
今は、周囲が受け入れてくれているものの……
下手をしたら、白い目で見られていてもおかしくない。
排斥されても文句は言えない。
そんな立場だ。
そんな私が、恋をするなんて……
どう考えても無理だ。
こんな私と付き合いたい人なんて、普通はいない。
敬遠されて……
距離をとられてしまうのがオチだ。
そんな『常識』を抱いているから……私は、怖い。
『拒絶』されることが怖い。
今まで、ずっとこうして生きてきたのに……
それを否定されたら、私は、なにになるんだろう?
なにが残るんだろう?
否定されたら、そこで終わり。
なにも残らない。
私は……私の存在意義をなくす。
そう思うからこそ、一歩を踏み込むことが怖い。
他人の心に触れることが怖い。
「恋人になるっていうことは、自分の心を見せることでもあるから……私に、そんな勇気はないよ」
結局のところ、私はこんな人間だ。
誰かが困っていたら、手を差し伸べることはする。
でも、自分が困っている場合は、助けを求めない。
裏切られることが怖いと、相手を信じていないから……声を出せない。
……自分のことしか考えていない。
「はぁ……」
ダメだ。
みんなにどう接するか考えていたはずなのに、いつの間にか自己否定してる。
考えれば考えるほど、どんどんネガティブになってしまう。
「ちょっと頭を冷やそう」
バルコニーに出た。
温かくなってきたけれど、まだ夜はひんやりとしていた。
風が髪を撫でる。
「どうした、葵?」
振り返ると、桜がいた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、ちょっと主人公の内面に触れてみました。
今までよりも掘り下げています。
ただ、そんな引っ張りません。すぐ終わります。
次回の更新は、19日予定です。




