84話 いつまでも続けたい日常は、いつまでも続かない
体育祭が終わり、梅雨が過ぎて……夏が訪れた。
空を見上げると、サンサンと輝く太陽。
ちょっと張り切り過ぎじゃない? って思うくらいに、容赦なく日光を照らしつけてくる。
少し前から夏服に変わったんだけど、あんまり意味ないよね、これ。
こんなに暑いと、生地が薄くなって、半袖になったくらいじゃあ、暑さは防げない。
汗が流れて、ぽたぽたと地面に落ちた。
「ねえ、桜」
「なんだ?」
「帰ってもいいかな……?」
「……うむ。そうするか」
あまりに暑いから、ついつい、登校を諦めてしまいそうになっていた。
桜も賛成してくれた。
顔は相変わらずの無表情だけど、額に珠粒の汗が浮かんでいる。
さすがの桜も、この暑さはたまらないらしい。
心なしか、うんざりしてるように見える。
「おはようございます、風祭くん、篠宮さん」
「二人とも、おはよ!」
帰ろう……と決めたところで、橘姉妹に出会う。
「おはよう……」
「あら? 元気がないですね」
「この暑さだから……ね」
「これくらいでへばるなんて、だらしないわねえ……もうちょっと、しっかりしなさいよ」
「しっかりできないよ……あつすぎるもん。私、暑いのダメ……冬の方が好き、夏は嫌い……」
「葵に同意するぞ……桜は溶けてしまいそうだ」
「二人は、よく元気でいられるね……」
「夏の生まれのせいか、暑さには強いので」
「気合の問題よ。気合があれば、なんでも感じない!」
名言が微妙におかしな方向に改造されているし……
「やっほー!」
愛ちゃんが姿を見せた。
うなるような猛暑だっていうのに、いつも通り……いや、心なしか、いつも以上に元気に見える?
元気よくスキップしながら、私たちのところにやってきた。
「おはよっ、みんな! 今日も良い天気だねっ」
「愛ちゃんは、いつも通り元気だね……」
「うん? 元気じゃなくなること、なにかあったっけ?」
「いやー、だって……
「こんなに暑いでしょう? きつくない?」
「ううん、ぜんぜん」
見れば、愛ちゃんは汗一つかいていない。
というか、暑いとさえ思っていないらしく、ケロリとした顔をしていた。
「ちょっと暑いかもしれないけど、これくらい我慢できるよ」
「これくらい……」
「どういう身体構造をしているんだ……」
「ふふーんっ。気合と根性と、あと、落ち着いた心が要求されるんだよ。二人は、まだまだだね」
ごめん。それ、愛ちゃんには言われたくないかも。
「それじゃあ、学校に行きましょう?」
言われて、みんなで歩き始めた。
ウチの学校はエアコンが設置されているから、学校に着くまでの我慢だ。
……それにしても。
「ねえねえ、今日もみんなで一緒にごはん食べる? たまには、学食に行かない?」
「それも悪くないですけど、お弁当、もう作ってしまったので」
「明日でいいんじゃない? 学食なんて、いつでも行けるわけだし」
「桜は学食をオススメするぞ。弁当を作る手間が省ける。ぶっちゃけ、めんどい」
4月と比べると、ずいぶん賑やかになったなあ……
橘さんに告白されて……
ほのかちゃんと知り合い……
愛ちゃんが転校してきて……
気がついたら、いつもみんなと行動するようになっていた。
みんなと一緒にいるのが当たり前になっていて……
毎日が楽しい。
でも、ふと思う。
これは、いつまで続くのかな……って。
「葵」
そっと、桜が小声で話しかけてきた。
他のみんなは、少し先を歩いていて、こちらに気づいていない。
「ちょっと話がある」
「なに? 変な話だったら、お給料下げるからね」
「……」
「図星!?」
「冗談だ」
「あのね……」
「では、言うが……そろそろ、葵の態度をハッキリさせた方がいいんじゃないか?」
いつになく真面目な顔をして、いつになく真面目な声で、桜が『私の問題点』を指摘した。
「それは……」
「橘伊織と駿河から好意を向けられて……最近では、そこに橘妹も加わったな。気がついているだろう?」
「……うん」
「三人から好意を向けられているのに、なにもしないというのはどうかと思うぞ」
「でも、私は……」
「好意に応えなくてもいい。ただ、答えは出さないといけない。これから、どうするのか。三人と、どういう形で付き合っていくのか。それを示すことが、三人に対する誠意だと思うが」
これ以上ないくらいの正論だ。
今の私は、みんなが向けてくれている好意をスルーして……あえて触れないようにして……
それなのに、一緒にいることを望んでいて……
卑怯だと思う。
桜の言うように、どんな形であれ、応えないといけない。
受け入れるか、断るか。
あるいは、第三の選択を考えるか。
今すぐに、っていうことは難しいけど……
でも、そう遠くないうちに選ばないといけない。
「桜はどうしたらいいと思う?」
「人に聞くことじゃないだろう」
「そうなんだけど……でも、よくわからなくて……ヒントを出すと思って、お願いっ」
「……葵がどうしたいか。それに尽きる。誠意とか義務とか、そういうことは一旦保留にして、どうしたいのか、考えてみるといいんじゃないか。自分の気持ちを整理しろ」
「私の……気持ち」
橘さんは。
愛ちゃんは。
ほのかちゃんは。
みんな、私に好意を向けてくれている。
なら……私は、どうなんだろう?
いつも、触れないようにして避けていたけど……自分のことについては、考えたことがなかった。
三人のことは大事な友だち。でも、それだけなのかな?
もうちょっと踏み込んで、考えてみよう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回から、エピローグになります。
『まとめ』になります。
書きたいことは書いたので、ひとまず区切りつけようと。
あと少し、お付き合いいただけるとうれしいです。
次回の更新は、17日予定です。




