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82話 一仕事終えて

 ほのかちゃんと幸三さんが、柔らかい顔をして話をしている。

 私は邪魔かな?


 そっと、音を立てないように部屋を後にした。


「ふう」


 部屋の外に出て、吐息をこぼした。

 ちゃんと足に力を入れていないと、そのまま崩れ落ちてしまいそうだ。


 なんとか乗り切ることができた。

 そして、それなりのハッピーエンドを迎えることができた。


「……緊張したあああああっ」


 大企業のトップだけあって、幸三さんの威圧感、迫力はすごいものだった。

 対峙しているだけで、心がすり減っていくような気がした。


 そんな人を相手に口論をして、しまいには、おもいきり頬を叩いて……

 私の精神的なHPはもうゼロ……ホント、疲れました。

 まあ、自分でしたことなんだけどね……


「でも……よかった」


 お見合いを白紙にするだけじゃなくて、親子の仲も修復することができたと思う。

 思う限り、最善の結果だ。

 ここに辿り着くことができて、本当に良かった。


「おつかれさまです」

「あ、橘さん」


 気になっていたらしく、部屋の外で様子をうかがっていたらしい。

 大体の成り行きを把握している様子で、橘さんは、私を労うように柔らかい笑みを浮かべた。


「盗み聞きはいけないよ?」

「すみません。でも、どうしても気になってしまって……」

「まあ、だよね」


 それは仕方ないと思うので、苦笑する。


「わかってるかもしれないけど、一応、報告しておくと、どうにかなったよ」

「そうですか……ほのかと父さんが仲直りしたことは、なんとなく聞こえてきたんですけど……よかったです」

「幸三さんは、もう二人の意思を無視したお見合いなんて、しないと思うよ。安心して」

「はい。まあ、私は風祭くんと結ばれることを望んでいるので、いつでもお見合いOKなんですけどね」

「ほのかちゃんのお見合いも白紙になったから、これで万事解決だよ」

「スルーされました……いけずです」


 だって、スルーしないと、どんどん暴走するんだもん。


「風祭くん」

「うん?」

「……本当に、ありがとうございました」


 突然、頭を下げられて困惑してしまう。


「え? え? どうしたの、いきなり」

「ほのかのために色々とがんばってくれて……最後は、見事に助けてあげて……ありがとうございます」

「あまり気にしないで。私が好きでやったことだから」

「でも……風祭くんがいなかったら、たぶん、解決していないので……全部、風祭くんのおかげです。私はなにもできませんでした」

「うーん、かもしれないね」

「手厳しいです」

「橘さんたちは、もっとわがままになっていいと思うよ。言いたいことを言って……本音をぶつけていいと思うよ。人だから、言わないとわからないこともあると思うし」

「そう、ですね……そうかもしれません」

「今なら、幸三さんもちゃんと話を聞いてくれるよ。きっと」


 部屋を出る前に見た幸三さんは、『父親』の顔をしていた。

 あれなら、娘の本気の訴えを無視するようなことはしないだろう。

 安心してもいいと思う。


「じゃあ、私はそろそろ帰るね」

「えっ、帰るんですか? ほのかも父さんも、風祭くんに色々と話したいことがあると思うんですけど……」

「えっと、まあ……色々やらかしちゃったから、今はちょっと気まずいというか……」


 ほのかちゃんが泣くところを見てしまったし。

 幸三さんに至っては、おもいきり頬を叩いてしまったし。


 ちょっと時間を置いた方がいいような気がする。


「というわけで、またね」

「今度、時間のある時に遊びに来てください。その時は、家族全員で歓迎しますね」

「うん、そうするね」


 橘さんと笑顔を交わして、家を後にした。




――――――――――




「こらぁあああああああぁーーーーーっ!!!」


 家を出て少ししたところで、そんな声が聞こえてきた。


「ひゃあっ!?」


 振り返ると同時に、頭に衝撃が走る。

 うぅ、痛い……何事?


 顔を上げると、息を切らしたほのかちゃんがいた。

 何度か深呼吸をして、息を整えてから、びしっとこちらを指差す。


「ちょっと風祭! 勝手に帰るなんて、どういうことよっ」

「えっと……あの場は、若い二人に任せたようかな、なんて」

「お見合いに同席する親みたいなこと言わないの! 第一、お父さんは若くないし」


 さりげなくひどいことを言うね。まあ、真実なんだけど。


「勝手に帰ったりしないでよ。あたしは、あんたに……たくさんたくさんたくさん、たーーーくさんっ、言いたいことがあるんだから!」

「えっと……それは、文句とか罵倒とか?」

「どうしてそうなるのよ!?」

「ほのかちゃんだから?」

「否定できない自分に気がついた!」


 ナイスリアクション。

 ほのかちゃんは芸人になれるかもしれない。


「でもまあ、時間も時間だから」


 思っていたよりも時間が経っていたらしい。

 来る時は青かった空も、今は赤く染まっていた。


「また今度、おじゃまさせてもらうね。その時は、今日みたいな話じゃなくて、もっと楽しい話をして遊びたいんだけど……いい?」

「し、仕方ないわね……それに付き合ってあげる」

「またね」


 さようならをして、私は家路に……


「風祭っ!」

「なに?」

「……ありがと」

「うん、どういたしまして」


 照れくさそうにしながらも、ほのかちゃんがお礼を口にした。


 これで、いつも通りだ。

 明日から、今までと変わらない日常が戻ってくる。


 そう思っていたんだけど……人生、なかなかうまくいかないらしい。

 あるいは、今の私にとって、こちらが当たり前なのかもしれない。


 この次は、いったいどうなることやら。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

今回は、ほのかの話のエピローグ的な位置でしょうか。

次回もエピローグ的なもので、もうちょっと続きます。

次回は、13日更新予定です。

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