80話 決戦・4
ほのかちゃんが唖然とした。
幸三さんが睨みつけてきた。
そんな中、私は……すごく頭に来ていた。
怒って、怒って、怒って……
頭に血が登りすぎて、もうどうにかなってしまいそう。
「どうして、ほのかちゃんの言うことを聞いてあげないんですか? どうして、ほのかちゃんの言葉を無視するんですか?」
「子供の戯言に耳を貸してどうする」
「あなたがそういう態度だから……!!!」
「ふん。暴力に訴えるか?」
「それも仕方ないかな、なんて思いますね」
「貴様は、私を甘く見ていないか? 風祭は名家ではあるが、力はない。潰すことはたやすいぞ?」
「潰したいのならどうそお好きに。そんなことは、今はどうでもいいので」
また、家の話をして……この人は、家のことしか考えていないのかな?
「ほのかちゃんに謝ってください」
「なに?」
「聞こえませんでしたか? ほのかちゃんに謝ってください、と言ったんです」
「意味がわからないな」
「自分の暴言を自覚していないんですか?」
「厳しいことを言ったことは認めよう。が、暴言などではない。全て、ほのかのためを思えばこその言葉だ」
もう一発、いっておこうかな?
なにもわかっていないこの人に、さらに怒りが募る。
でも、今度は我慢して話を進める。
「どこがどう娘のためなのか、教えてもらえませんか? あいにく、ぜんぜんっ、理解できないので」
「なぜ、貴様に話す必要が?」
「子供のわがままに付き合うくらいの器を見せてくださいよ。大人なんでしょう?」
「……いいだろう」
どうあっても、話を聞くまで私が引き下がらないことを悟ったんだろう。
幸三さんは、渋々という感じで重い口を開いた。
「……今回の見合いは、家のためになることだ。両家の繋がりを強くすることで、橘家はさらなる繁栄が約束される」
「いわゆる、政略結婚ですか」
「否定はしない。が、それの何が問題なのだ?」
「大問題でしょう。女の子は、普通、好きな人と結婚したいものですよ」
「その結果、不幸になったらどうする? 相手が大した金を稼ぐことができない男だとしたら? 相手が務めている会社が潰れたとしたら? その点、今回の見合い相手ならば問題はない。金に困ることはないだろう」
「そのために、気持ちを殺せと?」
「最初は心がなくても、後から生まれる場合もあるだろう? 見合いの相手は、やや性癖は偏っているものの、基本は誠実な男だ。女に乱暴をするような者ではない。大事にしてくれるだろう」
そういう話をしているわけじゃない。
大事にしようが大事にしまいが、関係ない。
ほのかちゃんが、お見合いをしたくない、って言っているんだ。
なんで、この人は、その声が聞こえないんだろう?
苛立ちを覚えるものの、まだ話の途中だ。
一応、最後まで聞くことにしよう。
「貴様は、金のない生活をしたことはあるか?」
「ありません」
「ならば、わかるまい。あの辛さを、あの苦しみを」
幸三さんの言葉から、深い苦悩が感じられた。
「橘の家は、昔から栄えていたわけではない。私の代でここまで成長したが……それまでは、ひどいものだ。その日の食事にすら困る有様で、常に腹を減らしていた。物はなくて、まともな生活からは程遠い日々を過ごしていた」
ほのかちゃんが、ちょっと驚いたような顔をしていた。
どうも、これは、ほのかちゃんも知らなかった話らしい。
もちろん、私も知らない。
今は頂点を極めつつある橘家が、昔は、底辺をさまよっていたなんて……
「まあ、その辺りのことを詳しく語る必要はあるまい。語りたくもないしな。私は昔、ひどく苦労した、とだけ理解しておけばいい」
「……それで?」
「ここまで言えば、わかるのではないか? 私は苦労をした。なればこそ、我が子にはそのような苦労はさせられない。絶対に、させてはならない」
強い口調で言う幸三さんに、初めて、娘に対する想いが感じられた。
そういうことか。
ようやく、私は理解した。
幸三さんは、昔、私たちが想像もつかないくらい、たくさんの苦労をしてきた。
だからこそ、娘に同じ経験をさせたくない。
お金のある、豊かな生活を送ってほしい。
そのためならば、政略結婚をすることもいとわない……ということかな。
「これは、子を持つ親にしかわからぬ。子供である、貴様には理解できないだろうな」
「そうですね……わかりません」
「ならば、口出しをしないでもらおうか」
「いいえ、口出しします」
「貴様……」
「そんなこと、わかりませんよ。わかりたくもありません!」
幸三さんの心情を理解した、なんておこがましいことは言えない。
事情を理解することはできた、がギリギリ、言っていい線だろう。
で……
その上で、あえて言う。
「あなたの考えていることは、まったくわかりません」
「私が苦労したからこそ、娘には不自由のない幸せな生活を願う……これは、それほど難しい話かな?」
「理解はできます。でも、納得はできません」
湧き上がる想いを、ほのかちゃんの代わりにぶつける!
「お金があれば、不自由のない生活を送ることができます。それはわかります。でも、それが幸せに繋がるんですか?」
「不幸になることはあるまい。苦しむこともない」
「いいえ、不幸になりますよ」
「なぜ言い切れる? 貴様は、所詮、他人だろうに」
「他人だろうが身内だろうが、こんな簡単なこと、誰でもわかりますよっ」
「なんだと?」
「そんなことで、本当に幸せになれると思っているんですか? 断言できるんですか!?」
「当たり前だ」
「なら……どうして、ほのかちゃんは泣いているんですかっ!?」
「っ!?」
初めて、幸三さんが顔を歪ませた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ここから反撃になります。
まあ、最後の最後で反撃スタートなので、
本格的な反撃は次回からになりますが……
またお付き合いいただけるとうれしいです。
次回は、9日更新になります。




