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77話 決戦・1

 日付が変わり、土曜日。


 私は、再び橘家を訪れていた。

 ただし、今回は男装してる。

 長い髪はウィッグで隠して、化粧はなし。

 服も、スカートは禁止。男の子のもので揃えた。


「うー、なんか落ち着かないなあ……」


 ズボンがぴっちりしていて、隙間がないというか、締め付けられるというか……

 それに、髪も無理矢理束ねてウィッグの中にしまいこんでいるから、違和感がすごい。


 まあ、本当は私は男の子だから、これがあるべき正しい姿なのかもしれないけど……


「やっぱり、落ち着かないかも……」


 早くスカートを履きたい。

 そんなことを思いながら、橘家のインターホンを鳴らした。


「はい?」

「私……じゃなくて、僕、風祭といいますが……」

「あっ、来たのね」


 インターホンに出たのは、ほのかちゃんだったらしい。

 気軽にそう言って、ガチャリと家の扉が開いた。


「いらっしゃい」

「お待たせ」

「……」

「どうしたの?」

「そういうところを見ると、あんた、けっこう格好……な、なんでもないわっ!」


 ほのかちゃんが、照れたように頬を染める。


 うーん。一応、褒めてくれているんだろうけど……

 うれしくない。ぜんぜん、うれしくないです。

 格好いいより、かわいいって言われたいな。


「どうぞ」


 家に上がり、スリッパに履き替える。


「ほのかちゃんのお父さんは?」

「もういるわ。大事な話がある、って言ったら、時間をとってくれたから」

「そうなんだ……」

「すぐに本番だけど、大丈夫?」

「もちろん。ほのかちゃんは?」

「だっ、だだだ、大丈夫よ」


 ダメっぽい。


「しっかり」


 ほのかちゃんの手を握る。

 私の中の勇気を分け与えるように、ぎゅうっと、強く握る。


「あっ」

「がんばろう」

「……ん」


 ほのかちゃんも、私の手を握り返してくれた。




――――――――――




 ピリピリとした空気が流れていた。

 空気が針のように突き刺さるみたいで、この場から逃げ出したくなる。


 でも、我慢しないと。

 私は軽く息を吸い、気持ちを落ち着かせて、対面のソファーに座る相手を見た。


「……」


 橘幸三さん。

 ほのかちゃんと橘さんの父親。


 一代で会社を起ち上げて、巨額の財を築いた実力は、その風格にも現れていた。

 この前、ちらっと部屋で会った時とは違い、とんでもない迫力を出している。

 まあ、娘が大事な話があるといって男の子を連れてきたら、そうなるよね。


「それで……大事な話というのはなんだ?」


 幸三さんが先に口を開いた。

 気のせいか、牽制するような、鋭い声だ。


 ほのかちゃんはびくっと震えながらも、それでも、幸三さんから視線を逸らさないで、そっと口を開く。


「あのね、その……お見合いのことなんだけど……や、やめてほしいの!」

「取り消せ、ということか?」


 威圧感が急激に増した。

 空気が重い。


 でも、ほのかちゃんも負けていない。

 震えは止まらないものの、言葉を紡ぎ続ける。


「そ、そうよ。あの……取り消してほしいの。私、恋人がいるから……この人と付き合っているの」

「はじめまして」


 ぺこりと挨拶をすると、軽く一瞥された。

 それだけだ。

 というか、ギロリと睨まれている。

 なにもしていないのに、どんどんヘイトが溜まっていくよ。

 幸三さん、敵意を振りまきすぎ。


「男ができたから、見合いをやめろと?」

「そ、そうよ」

「有象無象の一人に、娘をやれと?」

「そ、そこまで先のことは言ってないし……ただ、今はお見合いをやめてほしい、っていうか……それに、その、こいつは有象無象なんかじゃないわ。風祭の人間よ」

「ほう?」


 ここで初めて、幸三さんの興味が僕に向いた。

 ようやく、僕を視認してくれたらしい。


「言われてみれば、写真で見たような気がするな……しかし、風祭の子は、女装をしているのではなかったのか?」

「ま、まあ、前まではしてたけど、今はあたしの恋人だから。そういう変態行為はやめてもらったわ」


 へ、変態行為……


 必死になって幸三さんと話しているから、悪気があって言ってるわけじゃないと思うんだけど……

 ちょっと凹むかも。


「しかし、風祭の子は、伊織に任せていたはずだが……」

「えっと……それは、その、色々とあって」

「伊織ではなくて、お前と結ばれたと?」

「そ、そういうこと」

「ふむ」


 幸三さんは、考えるように小さく相槌を打つ。

 これは、いけるか?


「風祭が相手なら、文句ないでしょ? お父さんも、その気だったんだし……だから、お見合いはなしにしてほしいんだけど……」

「……いいだろう」

「ほ、本当に!?」

「ああ。確かに、風祭が相手ならば文句はない。むしろ、よくやったと褒めてやろう。ほのかが見合いをする必要はないな」

「やった!」


 勝利を得て、ほのかちゃんが思わずという感じで喜ぶ。


 でも……なんだろう?

 イヤな予感がする……


 この人は、こんな簡単に引き下がるような男なのかな?

 もっと手強いというか、自分の考えを曲げないというか……

 こんなにうまくいくなんてこと、ありえないと思っていたんだけど。


「ほのか、お前は見合いをしなくて構わん」

「ありがとう、お父さん!」

「代わりに、伊織に見合いをしてもらうことにしよう」


 ……悪い予感は的中した。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

ついに決戦、ということで、シリアス回突入です。

しばらくこんな感じです。

次回の更新は、3日になります。

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