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76話 明日に向けて

 体育祭は無事に終了した。

 私たちは見事に一位を獲得して、特訓の成果を発揮することができた。

 息はぴったり。これなら、恋人のフリもうまくできるだろう。


 そんな感じで、準備は万端。

 いつでもOK!


 ……ということで、ほのかちゃんのお父さんに合う日が、明日に迫った。


「いよいよ明日だね」


 学校の帰り道。

 みんなで一緒に帰りながら、明日のことを考える。


「うまくいくかな?」

「葵は心配症だな。特訓の成果を信じろ」

「……そうだね。今の私とほのかちゃんなら、恋人らしく見せること、できるよね」

「風祭くんとほのかが恋人……むぅ」

「あくまでもフリだから」


 ふくれる橘さんをなだめる。


「わかってはいますが、やりきれない気持ちもあって……もう、乙女心は複雑なんですよ?」


 また男装をしないといけない私の心も複雑なんだけど、そこら辺も理解してくれたらうれしいな。


「またあーちゃんの男装が見れるんだね。えへへ、うれしいなー」

「いやいや。当たり前のように参加しようとしないで」

「えっ、ダメなの?」

「一応、ほのかちゃんの問題……橘家の問題だから、外部の愛ちゃんは参加できないよ」

「安心しろ。駿河の代わりに、桜が見届けてやる」

「桜も無理だからね? ものすごく関係ないし」

「なん、だと……!?」

「はい、オーバーリアクション禁止。そんな顔をしても、参加できないからね」

「二人は、おとなしく待っていてください。私が、きちんと風祭くんとほのかをサポートしますから」

「橘さんもおとなしくしてて」

「なぜですか!?」

「厄介なことになりそうだから。ほら、あれ。混ぜたら危険、っていうやつ」

「劇物扱い!?」


 橘さんとほのかちゃんがいるところに、私が混ざると、大抵、ロクなことになっていないんだよね。

 だから、悪いけど、明日はおとなしくしててほしい。

 これ、私からの本気のお願い。


「……ねえ、ちょっといい?」


 くいくいっと、ほのかちゃんが私の服の端を引っ張る。

 内緒の話かな?

 さりげなくみんなと距離を置いて、ほのかちゃんの隣に並ぶ。


「どうしたの?」

「その……明日のことなんだけど。つまり、えっと……」


 ほのかちゃんにしては、歯切れが悪い言い方だ。何を迷っているんだろう?

 ううん……迷っているというよりは、怯えている?


 今のほのかちゃんは、迷子になった子供のように見えた。

 頼れるものを見失い、どうしていいのかわからず、途方に暮れている……

 ちょっとしたことで、ポッキリと折れてしまいそうで、見ていて不安になってしまう。


「……明日、どうなると思う?」


 ほのかちゃんのシンプルな質問に、しばし、返す言葉に迷う。


 大丈夫、なんとかなるよ。

 そんな簡単な言葉は求められていないような気がした。


 ここは、本音をぶつけるべきだろう。


「どうだろう……ちょっと、よくわからないかも」

「なによ、それ。頼りない返事ね」

「適当なことは言えないから」

「それは、そうだけど……」

「でもね」


 たった一つ、言えることはある。


「私がなんとかしてみせるからね」


 どういう展開になるか、まったく予想できない。

 できる限りのことはしたと思うけど……

 でも、私は、ほのかちゃんのお父さんのことを詳しく知らないから。

 だから、予想はできない。

 とんでもない事態になるかもしれない。


 でも、なんとかしてみせる。


「約束、したよね?」

「あ……」

「私に任せて、なんとかしてみせる……って」

「あれ……本気だったの?」

「もちろん。ほのかちゃんのためなら、なんでも……は言い過ぎだけど、できることは全部するよ」


 色々あったけど、ほのかちゃんは、今は大事な友だちだ。


 それに、放っておけないというか気になるというか……

 力になってあげたい、って思う。

 私にできることがあるなら、全力で、ほのかちゃんの笑顔を守りたい、って思う。


 こういう風に思うところ、私が、本当は男の子だからなのかな?


「……風祭がそういう風に言ってくれるの、正直、すごくうれしいわ」

「そうなんだ」

「でも……怖い」


 ほのかちゃんの手は、小さく震えていた。

 明日のことを思い、不安になり、怯えていた。


「前にも言ったけど……私を頼ってほしいな」

「あ……」

「私はほのかちゃんの力になるよ。困っていたら、全力で助けてあげる。だから、心配しないで。不安そうな顔をしないで」

「……風祭……」


 ほのかちゃんの顔に浮かぶ不安の色が、わずかに薄れたような気がした。


「明日のことは私に任せて。これ以上、怯えないで」

「……」

「今は、笑ってほしいな」

「無茶言わないでよ……あたしがどれだけ緊張してるか、不安に思ってるか、わからないの?」

「なんとなく、察しはつくんだけど……それでも、笑ってほしいな」

「無茶振りね……」

「だって、ほのかちゃんは、笑顔の方が似合っているから」

「……そういうセリフは、お姉ちゃんか駿河先輩に言ってあげた方がいいんじゃない」

「橘さんに、こういうことを言ってもいいの?」

「ちょっとだけなら許してあげる」


 小さく笑い……ほのかちゃんは、私の肩に、こつんと頭を乗せた。


「ちょっとだけ、こうしててもいい……? なんか……安心できるから」

「うん、いいよ」

「ありがと……」

「頭、撫でようか?」

「……いらないし」

「今、迷った?」

「そんなことないわ……ないもの」


 少しの間、肩に心地のいい重さを感じていた。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

今回の章の明るい話はここまで。

次回から、決戦となります。

二人がどういう結末を迎えるのか。お付き合いいただけたらうれしいです。

次回は、12月1日更新予定です。

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