75話 体育祭・2
「位置について、よーい……スタート!」
審判のかけ声と共に、私とほのかちゃんはスタートを切る。
心の中で、『いちっ、にっ。いちっ、にっ』と声をあげながら走る。
練習の成果、ここにアリ。
私とほのかちゃんは、息もぴったりに、最初の50メートルを一気に駆け抜けた。
「ねえねえ、あたしたち、いい感じじゃない!?」
「うん! でも、油断は禁物。がんばろうねっ」
「わかってるわよ!」
最初の50メートルを抜けると、ここからが本番だ。
最初は、三つに並べられた平均台の上を走る。
ただでさえ、足が縛られているのに、さらに不安定な平均台の上を走るという、かなり鬼畜なコースだ。発案者はSに違いない。
「うわわわっ」
「ちょっと風祭っ、しっかりしなさい!」
「ご、ごめんねっ。でも、もう大丈夫だから!」
一回、バランスを崩してしまうものの、咄嗟にほのかちゃんが支えてくれたので、踏みとどまることができた。
ふらふらしつつも、平均台を駆け抜ける。
他の選手は、平均台から落ちたり、極端に速度が落ちたり、かなり苦戦している。
「今のうちに!」
「いくわよ!」
現在の順位は、4位。
なかなか良い感じ。
次は、ネットをくぐり抜けないといけない。
足を繋いだまま、ネットをくぐり抜けるなんて……これまた、難易度が高い。
一人が絡まったりすると、足を繋いでいるせいで、なかなか抜け出すことができなくて……
クモの糸に捕らわれたみたいに、ネットに絡まる選手が続出した。
そんな中、わたしとほのかちゃんは……
「ちょっ、ま、まって!」
「どうしたの?」
「這うように進んでいるから、胸が擦れてちょっと痛いんだけど……」
「……さあ、行くよ!」
「ちょっ、なんで勢いよく進むの!?」
ほのかちゃんの訴えは無視して、おもいきり前進した。
痛い痛い言いながらも、ほのかちゃんはしっかりと着いてきた。
なので、さらに速度をあげて、一気にネットを潜り抜けた。
決して、ほのかちゃんの贅沢な訴えを気にしているわけじゃないからね?
「次は!?」
「えっと……パン食い競争かな」
紐で吊るされたパンが二つ。
足を縛られている状態で、ジャンプして、食べないといけないなんて……一人なら簡単なのに、二人になると途端に難しくなる競技ばかりだ。
この競技を考えた人は、なかなかに意地が悪い。
……もしかして、桜かな?
「ふんっ、こんなもの!」
私たちの今の順位は、2位。
ここで一気に逆転をしたいところだけど……
「せいっ!」
ほのかちゃんに合わせて、私も地面を蹴る。
すると、ほのかちゃんは一発で、ぱくりとパンを咥えた。
「うわっ、すごい」
「感心してないで、風祭もしっかりやりなさい!」
「う、うんっ。えい!」
もう一度、跳んで……ぱくりとキャッチ!
やった! 一発成功だ!
「あむあむ……あっ、くるみ入りのあんぱんね。おいしいわ、コレ」
「呑気に食べてる場合じゃないからね!?」
「えっ、でも食べないと……」
「食べなくてもいいの! 食い意地張りすぎだから!?」
「ちょ、ちょっとふざけてみただけよ!」
ウソだ。絶対本気だ。
ほのかちゃん、とことんマイペース。
――――――――――
バレーボールをぶつけられたり……
落とし穴を避けたり……
課題を用意されたり……
色々な障害を乗り越えて……ラスト、50メートル。
私たちの前には誰もいない。
後は、ただ、走りきるだけ!
「ほのかちゃん!」
「ええっ」
息を揃えて、全力で走る。
転ぶなんてこと、ありえない。
今の私たちは、一つになっているみたいに、ぴったりと呼吸が合っていた。
そして……一気にゴールまで駆け抜ける。
「ゴーーールッ!!!」
審判の声が高らかに響いた。
やった!
私たち、一位でゴールに……
「やったあああああぁっ!!!」
「ふわっ!?」
私以上に喜んでいるほのかちゃんが、笑顔で抱きついてきた。
私を胸に抱くような形で……あわわわっ。
や、柔らかい感触が当たって……当たっているんだけど!?
「やったやったやった! やったわっ、私たち、一位よ! 最高の結果じゃないっ」
「あ、あのあの、ほのかちゃん……」
「なによ、もっと喜びなさいよっ。一位なのよ!?」
「それは、すごくうれしいんだけど……でも、その……そんなに抱きつかれたら……」
「……あっ!?」
そこでようやく気がついたらしく、ほのかちゃんは、みるみるうちに赤くなる。
「こ、この変態っ!」
「理不尽!?」
「ど、どさくさに紛れてあたしに触るなんて!」
「抱きついてきたのは、ほのかちゃんだからね!? 事実を捻じ曲げないで!」
「私刑ね」
「ある意味、死刑よりも怖い!?」
せっかく一位でゴールしたのに、ドタバタしちゃうなんて……
でも……これはこれで、私たち『らしい』のかな?
「ちょっと、なに笑ってるの?」
「ん……楽しかったなあ、って」
「なによそれ」
「ほのかちゃんは楽しくなかった?」
「……そうね。まあまあ、ってところかしら」
そんな、ひねくれたことを口にしながらも……
ほのかちゃんは、にっこりと、満面の笑みを浮かべた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
体育祭の回は、これで終了です。
ちょっと少ない気もしますが、これがメインでもないので、
わりと早く終わらせました。
次回は、29日更新の予定です。




