74話 体育祭・1
「本日をもって、貴様ら二人はウジ虫を卒業する!」
桜が私とほのかちゃんの前に立って、偉そうに言う。
「貴様らは一人前の兵士だ! その力で、その知恵で、戦場を駆け抜けてこい!」
満足そうに語る桜とは正反対に、ほのかちゃんはげんなりしていた。
そっと、私に耳打ちする。
「ねぇ、なにこれ?」
「桜、昨日、戦争映画を観たから……」
「影響されてる、ってこと?」
「それと、ただ単に私たちを罵倒したいんじゃないかな?」
「あんたの侍女、殴ってもいい?」
「私が先だからね」
「そこっ、私語は慎め!」
「「はーい」」
「今日は戦争だ! 戦いだ! 命を賭けるがいい!!!」
……というわけで、体育祭、本番です。
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幸いというか、みんなは同じチーム。
なんだかんだで、こういうイベントは楽しい。
普段味わうことができない、『非日常』を味わうことができる、っていうのかな。
それは、とても楽しい。
みんなも同じみたいで……
笑顔で、元気いっぱいに、全力で競技に挑んだ。
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時間は過ぎて……
いよいよ、二人三脚が始まる。
「ただいまより、二人三脚障害物レースを始めます。参加者の方は、入場ゲートに集合してください」
「よしっ」
放送を聞いて、私は立ち上がる。
気合を入れるようにハチマキを締めて、靴紐を締める。
「風祭くん、がんばってくださいね」
「あーちゃん、ふぁいとだよ!」
「負けたら飯抜きだ」
みんなの応援(?)を浴びながら、私は入場ゲートに移動した。
「えっと……あっ、いたいた。ほのかちゃん!」
ほのかちゃんを見つけて、タタタと走る。
向こうも私に気づいた様子で、こちらを見た。
「遅かったじゃない」
「ごめんね。すぐに準備しようか」
「……」
「どうしたの?」
ほのかちゃんがぼーっとしたまま、こちらを見ている。
こっちに来てくれないと、足を結べないんだけど……
「なんか、変なことになったなあ……って思って」
「どういうこと?」
「風祭は敵なのに、こうして協力することになるなんて……まあ、あたしがお願いしたことなんだけどさ。こんな日が来るなんて、思ってなかったから」
「うん、私も。ほのかちゃんと仲良くなれるなんて、正直、思ってなかったかも」
「正直ね。ちょっと頭くるわ」
「でも、予想が外れてうれしかったかな。ほのかちゃんと友達になれて、よかったなあ、って思うよ」
「そ、そう」
「照れてる?」
「そ、そんなわけないし! あんた、目が悪いんじゃないのっ」
ホントにわかりやすい子だ。
だからこそ、ちょっと愛らしい。
「ほのかちゃん、こっちに」
「ええ」
ほのかちゃんが隣に並んで、肩をぴたりとくっつけた。
そのまま足を揃える。
「じっとしててね」
「なんか、風祭の言う通りにするのは癪ね。暴れてやろうかしら」
うん。めんどくさいところはそのままだな、この子。
まあ、それも『らしい』って言えるか。
「よし、できた」
大会運営委員から渡されたロープで、私とほのかちゃんの足を縛る。
「準備ができた人は、係の人の誘導に従い、順に並んでください」
「準備はいい?」
「……ちょっと待って。なんか、緊張してきたかも」
「ほのかちゃんでも緊張するんだ」
「そりゃ、するわよ。あたしをなんだと思ってるの」
「ロボット」
「即答!? しかも人じゃない!?」
「冗談だよ。本当は猫かな」
「やっぱり人外!?」
「と見せかけて……」
「見せかけて……?」
「じゃあ、がんばろうね」
「お願いだから答えを言って! 気になるっ、すっごい気になるから!」
いつものくだらないやりとり。
でも、それが『らしい』。
「緊張は?」
「あ……」
ほのかちゃんは、ちょっとだけ頬を染めた。
「……落ち着いたかも」
「よかった」
「あたしのことを気遣って?」
「さて、どうだろ?」
「なんかむかつくわ。やっぱり、風祭は風祭ね」
「褒められていると思っておくよ」
ほのかちゃんと肩を組んで、縛られた足で歩く。
歩調と息はぴたりと合っている。
ここ最近の練習のおかげかな?
それとも……
「競技は今までの練習の成果を見せるためで、勝つ必要はないんだけど……せっかくなら、勝ちたいよね」
「当たり前じゃない」
「がんばろうね」
「足、引っ張るんじゃないわよ?」
「もちろん」
私が笑い……
ほのかちゃんも、小さく笑う。
それじゃあ、いこうか!
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ちょっとだけシリアスな回から変わり、今回は楽しく明るい回に。
やりたいこと、やってみました。
次は、27日更新の予定です。




