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72話 親子

 気を取り直して、みんなでゲームをして遊んで……

 ほのかちゃんが、脅威の30連敗という記録を達成して……

 ガチ泣き&ガチ凹みしたほのかちゃんをみんなでなだめて……


 そんなこんなで、楽しい時間はあっという間に過ぎた。


「今日は、ありがとう。楽しかったよ」


 そろそろいい時間なので、お暇することにした。

 橘さんとほのかちゃんに見送られて、玄関に移動する。


「また来てくださいね。できれば、風祭くん一人で。あとあと、お泊りセットと子作りセットを持参してくださいね?」

「持参しないからね!?」

「では、私の方で用意しておきますね」

「そういう問題でもないよ!?」


 橘さんは、いつも通りアクセル全開だ。


「今日は、楽しくなかったわけではないというか楽しいというか楽しいような気がしないこともないような気がしたわ」

「すごいめんどくさいよこの子!?」

「楽しかったわよ! 悪いの!?」

「照れ隠しに逆ギレされた!?」


 ほのかちゃんも、いつも通りに見えるんだけど……

 気のせいかな?

 普段と比べると、ちょっと元気がないような……


「では、邪魔したな。次は、高級和菓子を用意しておいてくれ」

「桜は遠慮と謙虚っていう言葉を覚えようね?」

「私は洋菓子、ケーキがいいな!」

「うん。愛ちゃんは、桜に乗らないでくれるかな?」


 こちらの面子は、ほんと、いつも通りだ。


「……またね」


 ほのかちゃんが、落ち着いた声で言う。

 そんな声に見送られて、私たちは橘家を後にした。




――――――――――




 橘家を後にして、歩くこと少し。


「……うーん」

「どうした、葵?」

「ちょっと、ほのかちゃんのことが気になって」


 帰り際に見せた、元気のない顔が気になる。

 ほのかちゃんのあんな顔、初めてみたから……


「気になることがあるなら、確かめたら?」


 愛ちゃんが、さらりと言う。


「そう言われても、そんな簡単にしていいことか……踏み込まれたくない、っていう気持ちもあるだろうし、私が相手だし……」

「そっかな? あーちゃんなら、なんの問題もないと思うけど」

「自覚してないようだが、橘妹は、葵にだいぶ心を許しているぞ?」

「そうなの?」

「だから、やりたいようにやるといい」

「……うん、そうしてみる! ごめんね、二人は先に帰ってて」

「一人で帰れるか? 迷子にならないか? 知らない人に飴玉をあげるって言われても、ほいほいと着いていってはいけないぞ?」

「私は子供じゃないからね!」

「似たようなものだろう」

「桜の中の私って、そんな認識だったの!?」

「最近、子供にランクアップした。それ以前は……それはもう、ひどいものだ」

「気になるけど聞いちゃいけない気がする!?」


 って、いつまでも桜とコントをしていても仕方ない。


「じゃあ、私は連絡をしていくから」

「携帯なの? 直接、会わないの?」

「顔を合わせたら、言えないことが出てくると思うから」


 ほのかちゃんって、そういう不器用な子なんだよね。

 ついつい、苦笑してしまう。


「さてと」


 二人と別れて、スマホを手に取る。

 月を見上げながら、ほのかちゃんの番号をコールした。


「……はい?」

「もしもし、ほのかちゃん? 私だけど」

「わかってるわよ、名前表示されてるんだから。それで、どうかしたの?」

「えっと、ね……私の勘違いならごめんなさい、なんだけど……ほのかちゃん、なにか一人で抱え込んでいない?」


 返事はなくて、沈黙が返ってきた。でも、通話は切れていない。

 話は聞いてくれていると判断して、そのまま話を続ける。


「ほのかちゃんの話、ちゃんと聞くから。私に話してほしいな」

「……余計なおせっかいよ。なんで、そこまでするの?」

「友だちだもん」

「……ばか」


 ぽつりぽつりと、ほのかちゃんが語り始める。


「今日、お父さんと会ったでしょう? どう思った?」

「……正直に答えた方がいい?」

「正直に」

「ちょっと手が出そうになっちゃった」

「ホント、正直ね」


 電話の向こうで苦笑する吐息が聞こえてきた。


「まあ、そう思っても仕方ないと思うわ。お父さん、あんな態度だったし。あたしも、腹が立ったわ。でも……それ以上に、寂しかったかも」


 ちょっと間が空いた。

 でも、急かすようなことはしないで……ほのかちゃんが話してくれるのを、じっと待つ。


「自分の言うことが絶対的に正しいと信じていて、そのことを欠片も疑っていない、とんでもない頑固者だけど……でも、ちゃんとあたしたちのことを考えてくれている、って思っていたの。誕生日にプレゼントをくれたり、賞をとったりした時は褒めてくれたり……父親らしいところもあるの」

「うん」

「なんだかんだで、お父さんはちゃんとお父さんをしている……あたしたちのことを考えてくれている……大事にしてくれている……そう思っていたの」

「うん」

「でも……今日、話をして……本当にそうなのかな、って、信じられなくなっちゃった。あたしのためだ、って言って、望んでもいないお見合いを押し付けてきて……ひどいことも言って……なによ、あれ。あんなの、ひどい」

「うん」

「私の勘違いだったのかしら……お父さんは私たちのことを大事にしてくれている。それは、単なる思い込みで、本当はなんとも思っていなかったり……それが真実なのかしら? そんなことを考えて……忘れられなくて……なんか、どうしたらいいのか、わからなくなって……なんか、まとまりのない話になっちゃったわね」

「気にしないで。私は、ほのかちゃんの考えていることを知ることができて、うれしいよ」


 今、ほのかちゃんの中では、お父さんを信じる心と疑う心が拮抗している。


 私は、どうするべきだろう?

 信じろ、と言うべきか。

 疑え、と言うべきか。


 ……ううん。そのどちらでもない。

 私が伝える言葉は……


「ほのかちゃんは、お父さんと仲良くしたいんだよね?」


 迷っているのなら、簡単に切り捨てられないのなら……つまり、そういうことだ。

 それだけ、相手のことを考えている。


「……うん」

「なら、私に任せて」

「え?」

「私を頼りにして。私を信じて。なんとかしてみせるから」

「そんな、適当な言葉……」

「信じて」

「……」

「期待は裏切らないよ」

「……あたしの期待、重いわよ?」

「どんと来い、だよ」

「……お願い」

「うん、任されました」

「一応……期待してあげる」


 電話の向こうで、ほのかちゃんが小さな微笑みを浮かべているような気がした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

ちょっとずつ、ほのかの内面に触れていきます。

こんなことを考えていたんだなあ、なんて思っていただければ。

次は、23日更新の予定です。

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