69話 家に来ない?
いつも読んでいただき、ありがとうございます
少しの時間が流れて、一週間後……
私とほのかちゃんは、いつものように中庭に移動して、みんなの前で特訓の成果を披露した。
「「いちっ、にっ! いちっ、にっ!」」
軽快なリズムで走る。転んだりつまづいたり、そんなことはない。
そのまま最後まで……しかも、かなりのハイペースで……私たちは走り遂げた。
「「「おーっ」」」
パチパチとみんなが拍手をする。
「すごい進歩ですね……一度も転んでいないし、それに、かなりの好タイムですよ」
「一週間前はダメダメだったのに、すごいね。さすが、あーちゃん。ほのたんも、なかなかやるね」
「なにかチートでも使用したか? チートはほどほどにしないとBANされるぞ?」
みんな、口々に褒めてくれる……一名、訳のわからないことを言っているけれど、無視無視。構えば構うほど調子に乗るからね。
「一週間、なにもしないで過ごしたわけじゃないからね」
「ふふーんっ、けっこう……ううん、かなりがんばったんだからね」
保健室の一件の後……私たちの間に絆が生まれたような気がした。
相手を信じて、体を預けることができる……っていうのかな?
息がぴたりと合うようになって、ミスは大幅に減った。
一週間が経つ頃は、ほとんどミスをしなくなっていて、後は、タイムの向上を図るだけだった。
うまくいって、本当によかった。
怪我の功名、っていうやつなのかな?
ちょっと違うか。
「練習の間、ほのかちゃん、絶対に諦めなかったから」
「まぁ、これくらい、あたしにかかればちょちょいのちゃいよ!」
噛んでいた。
色々と台無しだ。
「これなら、一位とまでは言わないけど、上位に食い込めるんじゃないかな?」
「うむ、可能性はあるな。よくやった」
「桜は偉そうだね……」
「葵と橘妹は桜が育てた」
「なにもしてないのに言い切られた!?」
「あーちゃんは私が育てた」
「便乗!?」
「ほのかは私が育ててません」
「お姉ちゃん!? そこは育てた、って言うところでしょ!?」
ダメだこの子たち、早くなんとかしないと。
……無理か。
手遅れだよね、うん。
「とにかく、本番は明後日。なんとか間に合った、っていうところかな?」
私とほのかちゃんの息を合わせるという目的なら、たぶん、達成している。
今なら、うまく恋人のフリもできるんじゃないかと思う。
ただ、せっかくここまで練習したんだから、体育祭で良い成績を残したいよね。
ほのかちゃんも私と同じ気持ちらしく、やる気を見せていた。
「ふふーんっ、あたしたちが一位をとってみせるわ! あたしの前に立ちふさがるやつは、みーんな、排除してあげるっ」
殺る気かもしれない。
「さあっ、風祭! 練習の続きをするわよ」
「そのことなんだけど、今日はここまでにしない? っていうか、もう練習は終わりにしない?」
「どういうことよ?」
「これ以上は、一日二日練習したくらいじゃあ、あまり変わらないと思うんだ。秒単位で成績を上げていくことになるからね。でも、それは大変だし……それよりは、明後日に備えて体を休めた方がいいよ」
「そうですね、風祭くんの言うとおりかもしれません。風祭くんもほのかも、ここのところ、ずっと練習ばかりしていたでしょう? この辺りで休息をとっておかないと、本番でダメになってしまいますよ」
「うーん……そう言われると、確かに……」
「ならば、練習はここまでだな」
「あーちゃん、あーちゃん。ヒマになったなら、デートしよ? 遊ぼ?」
「それなら、みんなで遊ばない?」
ほのかちゃんが意外なことを言う。
みんなって、私も含まれているんだよね?
ナチュラルに遊びに誘ってくれるなんて……
最初の頃を思うと、だいぶ仲良くなれたような気がして、うれしい。
息が合うだけじゃなくて、ちょっと、態度も柔らかくなってきたんだよね。
ほのかちゃんも、色々と思うところがあるのかな?
今度、時間があれば色々なことを話してみたいな。そうしたら、もっと仲良くなれるような気がする。
「さんせー! みんなで遊ぶに一票っ。遊園地いこっ」
「遊ぶのはいいんですけど、体育祭を目の前に控えて、遊園地はちょっと。疲れますよ?」
「じゃあ、水族館っ」
「似たようなものでは……?」
「ならなら、映画館!」
「ナイスチョイスっ」
「二人で盛り上がっているところ悪いんだけど、私、お小遣いがピンチで……」
この前、愛ちゃんと遊園地デートした時に、大半を使っちゃたんだよね。
もうちょっと待たないと、お金がない。
しばらく待ってくれるなら、それはそれで構わないんだけど……
「なら、ウチに来る?」
「え?」
「あたし、ゲームはたくさん持ってるから。テレビゲームだけじゃなくて、ボードゲームとか珍しいカードゲームもあるし……外で遊ぶだけじゃなくて、たまには、家で過ごすのも悪くないんじゃない?」
「あら。ほのかにしては、まともな提案ですね」
「お姉ちゃんに、ディスられているような気がするわ……」
「いやですね。そんなことをするわけが……ありますけどね!」
「お姉ちゃん!?」
ほのかちゃんがガーンとショックを受けていた。
橘さん、ほのかちゃん相手には、わりと容赦ないよね。
まあ、言い換えれば、姉妹だからこその距離感というか、親しみやすさを出している、って感じなんだけどね。
「桜はどう?」
「うむ。問題ないぞ。ゲームと聞いて、心が踊る」
「そういえば、桜はゲーム好きだっけ」
桜の部屋は、古今東西、色々なゲーム機が山積みされているんだよね。
数十年前のレトロゲーから、最新機種まで盛りだくさん。ついでに、ゲームソフトは棚にいっぱい。びっしりだよ。
よくもまあ、あれだけ集めたものだと感心しちゃうよ。
……ゲームは教育に悪い、ってよく聞くけど、桜の性格が悪いのもゲームのせいなのかな?
よくよく考えて見ると、ほのかちゃんも、微妙にぽんこつだし……
「どうした、葵? その目は、なにか失礼なことを考えているな?」
「そ、そんなことないよ」
まあ、みんなでわいわいと楽しくゲームで遊ぶっていうのも、悪くないよね。
珍しいカードゲームっていうのも、ちょっと興味があるし……
それに、都合の良いことに、明日はちょうど祝日だ。朝からたくさん遊べる。
「じゃあ、お邪魔してもいいかな?」
「ええ。最高のもてなしで歓待してあげる!」
「……それ、意味が被っているよ?」
「ついでに言うと、日本語がおかしいですね」
「さらに言うなら、色々用意するのは家の人で、ほのたんじゃないんでしょ?」
「う、うるさいわねっ!」
締まらないなあ……
まあ、それが私たちらしいとも言える。
とにかくも。
そんなわけで、明日の祝日、私たちはほのかちゃんの家にお邪魔することになった。
……よくよく考えてみたら、橘家にお邪魔するのって、これが初めてだ。
ちょっと緊張してきた。
粗相のないようにしないと。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
甘い展開を期待させるような内容に。
ですが、基本的にギャグなので、そんな展開は薄いです。
あと、たまに真面目になります。
次の更新は17日になります。




