07話 一緒に登校しませんか?
翌朝。
いつものように、私は桜と一緒に通学路を歩いていた。
「はあ……ふう……」
「朝からため息なんてついてどうした? 便秘か?」
コケそうになった。
「あ、あのねえ……いきなり変なことを言わないでちょうだい」
「なら、痔か?」
「……この子は、なんでこんな性格になったのかな」
「主のせいだと思う」
「私のせいにしないで!」
「桜の責任は主のもの。主の責任は主のもの」
「新しいジャイアニズム!?」
朝から色々な意味でテンションが下がる。
「それで、どうした?」
「なんでもないよ。ただ、学校に行くのが憂鬱なだけ」
「ん? どうかしたのか? 葵は学校は嫌いじゃなかっただろう」
「嫌いじゃないよ。むしろ、好きかな」
勉強や運動はあまり得意じゃないけど……
友達やクラスメイトと一緒に色々なことをするのは楽しい。だから、学校に行くのは好きだ。
好きなんだけど……
「橘さんのことを考えると、ちょっと……ね」
「ああ、なるほど」
昨夜のうちに事情を説明しておいたので、桜は納得した様子で頷いた。
「橘さん、どうするつもりなんだろう……」
橘さんは、諦めない、矯正してみせる、って言っていた。
いったい、何をするつもりなんだろう?
わからない……わからないから不安になってしまう。
嫌なことを考えてしまい、気分が落ち込み……結果、今の状態だ。
「気が乗らないなら帰るか?」
「それができたらどんなに楽なことか……」
「さぼりたくないのならば、桜に任せろ。合法的に学校に行けない体にしてやるぞ」
「サラッと恐ろしいことを言わないでくれるかな!? 何をするつもりなの!?」
「ナニを」
「ああもうっ、朝から主に全力でツッコミを入れさせるんだから、この侍女は!」
はあ……と、ため息をこぼした。
それから、思考を切り替える。
先が見えなくて不安だけど、でも、学校をさぼるわけにはいかない。
ここで逃げていても仕方ないし、明日になれば同じ問題に直面する。
ならば、やることは一つ。。
不安を抱えながらも、学校に向かうしかない……ということだ。
「おっ」
「どうしたの? なんか、楽しそうな顔をしているけれど」
「橘伊織を発見」
「え?」
桜が指の先を見ると……いた。
曲がり角の手前に橘さんがいる。
「どうやら、葵を待っていたようだな。ふふふっ、これは面白いことになりそうだ。修羅場というやつが見れるかもしれない」
「お願いだから、もうちょっと本音を隠すようにしてね? でないと、私の神経がピンチだから」
「スマホを用意して写真を……いや、動画の方がいいな。葵がダメになったら、その動画を上げてゆーちゅーぱーになって、それで食い扶持を稼ぐことにしよう」
「たまに思うんだけど、桜はよく主にそんな口がきけるね。普通ならクビになるよ?」
「おっと、この桜を脅す気か? だが、桜は横暴な権力には屈しないぞ。徹底的に戦ってやる」
「別に、脅すつもりはないけど……」
「桜は、葵だからこんなことを口にしているんだ。他の人なら、こうはいかない。それだけ、葵のことを信頼しているんだぞ」
「桜……それらしく良いことを言って、うやむやにしようとしてない?」
「その通りだ!」
「堂々と元気よく肯定された!?」
この子のメンタル、鋼鉄でできているのかな?
一度でいいから心臓を見てみたい。
「あっ」
バカなやりとりをしている間に、橘さんが私たちに気づいたみたいだ。
笑顔でこちらにやってきて、ぺこりと頭を下げる。
「おはようございます」
「あ、うん……おはよう」
「こんなところで会うなんて偶然ですね。よかったら、一緒に学校に行きませんか?」
「いや、偶然もなにも、明らかに待ち伏せしていたような……」
「こんなところで会うなんて偶然ですね。よかったら、一緒に学校に行きませんか?」
「だから、偶然なんかじゃ……」
「こんなところで会うなんて偶然ですね。よかったら、一緒に学校に行きませんか?」
この子、強引に押し通すつもりだ!
意外と押しの強い性格なのかもしれない。
「こんなところで会うなんて偶然ですね。よかったら、一緒に学校に行きませんか?」
「エンドレス!?」
まだ続いていたよ! 押しの強さより、根気の強さにびっくりだよ!
「うん、わかったよ……一緒に行こうか」
「ありがとうございます。早起きは三文の徳と言いますが、その通りですね。風祭くんと会えて、三万円くらい徳した気分です」
微妙な数字……
あと、妙なことを連想してしまいそうなので、そんなに具体的な数字は出さないで。お願いします。
基本的に、毎日更新していきます。
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