68話 がんばるから
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
「失礼します」
ほのかちゃんに連れられて保健室に入る。ツンと、独特の薬品の匂いがした。
先生は……いない。誰も常駐していない、なんてことはないだろうから、なにかしらの用事で一時的に席を外しているんだろう。
「どうしよっか?」
「仕方ないから、勝手に治療させてもらいましょ。消毒薬とか絆創膏くらいなら、探せば簡単に見つかるでしょ」
「いいのかな?」
「いない方が悪いのよ」
きっぱりと言い切って、ほのかちゃんは消毒薬と絆創膏を探し始めた。引き出しを開けたり、棚をカパカパ開けたり、やりたい放題だ。
私は、反対側の棚を……
「あっ、こら! 風祭はおとなしくしてなさい、怪我人なんだから」
「あ、うん」
勢いに押されて、反対できなかった。
言われるまま、おとなしくイスに座る。
「ふぅ」
今頃になって、傷口がじんじんと痛み出してきた。血もたくさん出ているし、けっこう深くやっちゃったのかも。
「お待たせ」
無事に見つけたらしく、消毒薬と絆創膏を手に、ほのかちゃんが戻ってきた。
「足、出して」
「うん」
右足を差し出すと、ほのかちゃんが目の前で膝をついた。
「たぶん、染みるわよ」
「っーーー!!!?」
傷口に消毒薬がかけられて、ビリビリとした痛みが走る。
染みるっていうことはわかっていたんだけど……うー、この痛み、なれないなあ。
なんていうか、歯医者の治療と似たような痛みだよね。なにをしても痛いというか、本能的に恐怖を覚えてしまうというか。
「大丈夫?」
「う、うん……なんとか」
「痛い……?」
「……ちょっと」
本当はすごく痛い。
でも、そんなことを口にしたら、ほのかちゃんが気にしちゃうかもしれない。だから、真実は少し、ウソを多分に織り交ぜて答えた。
「もうちょっと終わるから我慢して……ほら、あと少し」
「んっ!」
「……はいっ、終わりよ」
消毒が終わり、傷口をガーゼで拭われる。
綺麗になって、傷口がハッキリと見えて……うわっ、ちょっとグロテスク。
「あとは絆創膏を……うん、これでいいわね」
ぺたりと、絆創膏を貼ってもらい、治療完了。
終わってみると、不思議と痛みが引いていくような気がした。治療をした、っていう認識が、痛みを和らげているのかもしれない。
現金なものだよね。ちょっと違うか。
「どう……?」
「少し楽になった感じ。ありがとう、ほのかちゃん」
「べ、別にこのくらい……その、あたしのせいだし……」
ほのかちゃんが暗い顔になる。
「ごめんなさい……あたしのせいで、こんな傷を……」
「いいよいいよ、気にしてないから」
「でも、ひょっとしたら跡が残っちゃうかもしれないし……」
「足だから、そんなに目立たないよ。大丈夫」
気にしないで、というように笑いながら答えるけれど、ほのかちゃんの顔は晴れない。それどころか、ますます曇ってしまう。
「ほのかちゃん……?」
「……あの時、あたしをかばったわよね?」
「えっと……うん、まあ」
ウソをついても仕方ないので、正直に答えた。
「なんで?」
「なんで、って言われても……」
「あたし、風祭に色々してきたのに……それなのに、なんで……」
「理由はないよ? 体が勝手に動いた結果だから。それに……」
にっこりと笑い、続きを口にする。
「この前も言ったよね? 私は、ほのかちゃんと友だちになりたい……友だちだと思っている、って」
「ええ」
「だから、だよ。友だちのことを助けるのは当たり前でしょう?」
「そんな理由で?」
「そんな理由だよ」
「……なんか適当じゃない?」
「そういうものじゃないかな。いちいち、全部のことに理由を求めていたらキリがないよ。ある程度は、こんなものだ、って適当に考えて割り切らないと」
「あんたがそれを言う」
くすくすと、ほのかちゃんが小さく笑う。
よかった、やっと笑顔になってくれた。
やっぱり、ほのかちゃんは元気な方が似合うよね。うん。
「えっと……ごめんなさい」
「うん? だから、かばったことなら……」
「ううん、そうじゃなくて……風祭の言うことを聞かなくて、休憩に入らなかったこと。あの時、ちゃんと休んでいたら、足がもつれるようなことはなかったと思うし」
「それは……」
うーん……ちょっと否定できないかも。
「あたし、焦っていたのかも。早くうまくならないと、早くあんたと息を合わせられるようにならないと……そうしないと、作戦が失敗しちゃう。お見合いをして、結婚させられちゃう……って」
「それは……焦るのは仕方ないんじゃないかな?」
私がほのかちゃんと同じ立場なら、当たり前のように焦っていると思う。たぶん、今のほのかちゃんの何倍も慌てているんじゃないかな?
私、危機意識が足りなかったのかも。
もっとほのかちゃんの立場になって考えてみて……強く、意識しないといけないのかもしれない。
でも、今、そのことについて謝るのは、なにか違う気がする。
私がすることは……
「じゃあ、これからがんばろうよ」
「え?」
「がんばってがんばってがんばって……もう、これ以上ないくらいにがんばって、絶対に成功させよう。大丈夫。私とほのかちゃんなら、きっと良い感じになれると思うんだ。だから、安心して。ううん……私のことを頼りにしていいよ」
「……なによ、それ」
思わずという感じで、苦笑するほのかちゃん。
ただ……肩に入っていた余計な力が抜けたように見えた。
今はとても自然体で、落ち着いているように見える。
今のほのかちゃんなら、もう大丈夫かな? あれこれ、私が言う必要はない。
ただ一つの言葉をかけてあげるだけでいい。
「ほのかちゃん」
「なに?」
「がんばろうね!」
「ええっ」
笑顔を見せて、私たちは握手をした。
心機一転、がんばろう!
えいえいおーっ!!!
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ちょっとだけほのかがデレましたw
もうちょっとしたら、さらに?
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