65話 どうして?
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
気がついたら空は赤く、日が傾いていた。
日が暮れるのが遅くなってきたとはいえ、のんびりしていたら真っ暗になっちゃう。
というわけで、荷物をまとめて学校を後にした。
「風祭くん、寄り道しませんか?」
「もう遅いよ。すぐに暗くなっちゃう」
「ですから、夜の寄り道をしませんか?」
「夜の!?」
「大人の寄り道、でも構いませんよ?」
「余計にまずいような気がします!」
小さい頃、初めて会った時は、こんなことを口にする女の子じゃなかったんだけど……
時の流れって残酷だよね。
「こらーっ、そういうことは、あーちゃんのマネージャーの私を通してもらわないと!」
「でしたら、許可をお願いします」
「却下!」
「ケチですね。独り占めはいけませんよ?」
「私のものは私のもの。あーちゃんのものは私のもの」
「いいえ。風祭くんは私のものですよ。つま先から髪の毛に至るまで、全て、私に所有権があります」
「それはもう有効期限が切れているからね。今は、私のものだもん」
「あのー……二人とも? 私は誰のものでもなくて、私自身のものだからね?」
「あーちゃんは私のものだよ!」
「いいえっ、私です!」
「って、聞いてないね……」
「モテる男は辛いな。うれしいか?」
「うれしくありません。あと、私は女の子だから」
茶々を入れる桜に、私はため息で答えた。
「やれやれ。まだ女と言い張るか」
「だって、本当のことだし」
「脳外科を紹介するぞ?」
「怒るよ?」
「まったく……困った主だ。まあ、橘妹との特訓で、色々と改善されることを願うとするか」
「まさか、そういう意図が……?」
「くくく。二人三脚ならば、ぴったりと密着するからな。女子高生の匂いと体に興奮して、雄の本能を呼び覚ますがいい」
「もう、そんなことを考えていたなんて……」
「橘妹の事情も考慮していたぞ? その上で、葵の役に立ちそうな案を提示したというわけだ」
基本的に、こういうことで桜はウソをつかないんだよね。
だから、ほのかちゃんのことも考えていたということは本当で……うーん、怒るに怒れない。まあ、良い案を出してくれたから、計画に側面があったとしても、そこはスルーしてあげよう。桜の計画通りになるなんて、決まったわけじゃないしね。
「うん?」
くいくいと、服の端が引っ張られた。
振り返ると、なにか言いたそうにしてるほのかちゃんがいた。
「どうしたの?」
「えっと、その……」
ほのかちゃんは、チラチラと桜を見た。
「桜。悪いけど……」
「うむ。ここでどっしりと構えて、話を横で聞いていればいいんだな?」
「違うからね!? 席を外して、っていう意味だからね!?」
「本気にするな、半分冗談だ」
「残り半分は?」
「いやがらせ」
はい。今の発言で、この子の今月の給料、20%カットになりました。
「仕方ないから、桜はあの二人の足止めを担当してやろう」
やれやれと、わざとらしく頭を振り、桜は二人のところに向かう。
まったく……変なところで気が利くんだから。
「ほのかちゃん、これでいい?」
「まあ……ありがと」
「ほ、ほのかちゃんがお礼を言うなんて……!? 明日は、世界の終わり!?」
「怒るわよ?」
「ううん、世界じゃなくて、宇宙の終わり!?」
「そこまで言う!?」
「ごめんね、つい」
「まったく……」
「でも、意外なのは本音かな。私、嫌われてると思ってたから」
「嫌いでも、礼くらい言うわよ。それに、あんたはライバルっていうだけで、嫌いなわけじゃないし」
これも、ちょっと意外。嫌われているとばかり思っていたんだけど……そっか、そういうわけじゃないんだ。ちょっとうれしいかな?
なんだかんだで良い子だし、できるなら仲良くなりたい、って思う。
「それで、どうかしたの?」
「その……聞きたいことがあるんだけど」
そう言うほのかちゃんの顔には、戸惑いの感情が浮かんでいた。
ほのかちゃんがこんな顔をするなんて、珍しいな。
いつも自信たっぷりで、元気で、明るい……そういう印象が強いせいか、戸惑っているところはなかなか見る機会がない。
新しいほのかちゃんの一面を見ることができて、ちょっとうれしい。
「なんで協力してくれたの?」
「え? なんで、って……特訓のこと?」
「それもあるけど、もっと前。あたしの恋人のフリをしてくれる、っていうところ」
「あ、それね」
「その……あたし、最初はあんたに迷惑をかけたし、ケンカ売るようなこと、たくさん言ったし……その後も、褒められた態度じゃなかったし……」
「まあ……」
ほのかちゃんの出会いから今に至るまでを思い返して、ついつい苦笑してしまう。
フォローしようと思ったんだけど、でも、全部ほのかちゃんの言うとおりなので、なにも言うことができなかった。ごめんね?
「本当はイヤなんじゃない? あたしに協力なんてしたくないんじゃない?」
「そんなことは……」
「いいから答えて。あんたの本音が知りたいの」
じっと目を見つめられる。
ほのかちゃんは……どこか不安そうにしていた。
今までの私に対する態度を気にしているから、後悔しているから……だから、気にしているのかもしれない。そう思うのは、私の自惚れかな?
私をじっと見つめるほのかちゃんに、柔らかく笑ってみせる。
「私は、ほのかちゃんの力になりたいよ。迷惑なんて思っていないよ」
「……どうして? あたしがお姉ちゃんの妹だから?」
「うん、それもあるかな。ただ、それだけじゃないよ? 友だちの妹っていうだけで優しくできるほど、私、人はできてないし……困っている人を見捨てられない、っていうようなすごい人でもないからね」
「じゃあ、なんで?」
「これは、私が勝手に思っているだけなんだけど……友だちだから」
「……え?」
きょとんと、ほのかちゃんが目を丸くした。
うーん。私、そんなに驚くようなことを口にしたかな?
……うん、口にしたかもしれない。あれこれ言っていた相手から、友だち、なんて言われたら、普通に驚いちゃうよね。
でも、ウソはついていない。
「ほのかちゃんは違うんだろうけど……私は、友だちだと思っているよ? あ、でもでも、成立していないから、友だちになりたい、っていうのが正しいところなのかな?」
「な、なんでよ……あたしと友だちになりたいなんて、そんなこと……」
「うーん……直感?」
「直感!?」
「ほのかちゃんとなら、きっと、良い友だちになれる、って思うの。だから、友だちになりたいの。で、そんな相手が困っているなら助けたい……っていう、三段論法?」
三段論法とはちょっと違うかな?
でも、そんな感じ。
今のが、嘘偽りのない私の本心だ。
「あたしにあれこれ言われて、腹が立たないの?」
「別に?」
毒舌なら桜で慣れているからね。
ほのかちゃんなんて、まだまだ甘いよ。
「あたしは、あんたと友だちになりたいなんて思ってないし……むしろ、ライバルだし」
「うん、そうだね。でも、先のことは誰にもわからないと思うな」
友だちになれないかもしれないけど、なれる可能性がゼロっていうわけじゃない。
「迷惑、かけるわよ?」
「どんどんかけて」
見知らぬ人ならともかく、ほのかちゃんになら、迷惑をかけられても気にしない。
むしろ、頼られているような気がしてうれしい。
「……変なヤツ」
「かもね。自覚はしているよ」
「ふん」
「質問は終わり?」
「……ええ。もう聞きたいことはないわ」
「じゃあ……はい」
手を差し出した。
ほのかちゃんは、それを不思議そうに見る。
「なによ、この手は?」
「これからよろしくね、っていう握手をしよう?」
「な、なんでそんなことを……」
「イヤ?」
「……ちょっとだけならいいわ」
ほのかちゃんは、ちょこんと、私の小指をそっと握る。
頬を染めて、そっぽを向いていた。
「がんばろうねっ」
「……あんたって、けっこう強引なのね」
「バレた?」
「まあ、それくらいの方が頼りになっていいかもね」
ほのかちゃんが、くすりと小さく笑い……
私も、柔らかい笑みを返した。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ちょっとだけほのかがデレました。
でも、すぐにツンツンします。
なかなか面倒なヒロインですが、温かく見守っていただければ、と。
これからもよろしくお願いします。
次の更新は9日になります。




