62話 特訓は計画的に・1
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
この計画は、私とほのかちゃんが『恋人』をきちんと演じないといけない。
しかし、ほのかちゃんの私に対する印象はマイナスで……
『らしく』見えるように、特訓が開始されるのだった。
「というわけで、最初は私の番ですね。風祭くんとほのかを恋人らしくするという部分は引っかかりますが……まあ、がんばるとしましょう」
「のっけからテンション低いね……えっと、それで、私たちはなにをすればいいのかな?」
「簡単です。じーっと、目を見つめ合ってください」
「目を? そんな簡単なことでいいの?」
「簡単と言いますが、意外と難しいものですよ。論より証拠。さっそく、実践してみましょう」
というわけで、やってみることにした。
「……」
「……」
じーっと、ほのかちゃんと見つめ合う。
視線と視線が絡まり、なんともいえない感覚が湧き上がる。恥ずかしいというか、むずがゆいというか……な、なんだろう、この感覚は?
ただ見つめ合っているだけなのに、どうしてこんなことに……?
「うぅ……」
ほのかちゃんも同じような気持ちになっているらしく、ほんのりと頬が染まっている。
ほのかちゃんの照れ顔、貴重だなあ。ちょっとかわいい。スマホで写真を撮りたいかも。
「良い感じだ。ベストショットだな」
すでに桜が撮影していた。
この子、やりたい放題すぎる。
「はい。それじゃあ、そのまま見つめ合いながら、お互いに名前を呼んでみましょう」
「えっ、そ、そんなことまでするの?」
「はい、残念ながら」
残念なんだ……
相変わらず、橘さんは己の欲望に忠実だなあ。
「えっと、じゃあ……ほのかちゃん」
とりあえずやってみようということで、まずは私から。
ほのかちゃんの目を見つめたまま、その名前を口にした。
「風祭くん。ちゃん、はなしで。呼び捨てにしてください」
「えーっ、風祭に呼び捨てにされるなんて……」
「ほのか」
橘さんが笑顔で迫る。
「私でさえ、まだ呼び捨てにされたことがないというのに、それを先に譲ってあげるというのに……なにか文句が?」
「い、いえ。ありません……」
「よろしい」
橘さん、すごく怖い……
こういうことになると、人が変わるんだよね。将来、ヤンデレにならないか心配です。もしも私が事件に巻き込まれたら、そういうことと思ってください。
「じゃあ……ほのか」
「っ……!?」
ピクンっ、とほのかちゃんが震えた。
顔がみるみるうちに赤くなる。なにか言いたそうに、パクパクと口を開いて……でも、結局言葉は出てこなかったらしく、そっぽを向いてしまう。
あ、首まで赤くなってる。
「こ、これは……けっこう、くるわね」
「そ、そうなんだ……えっと……次は、ほのかちゃ……ほのかの番だよ?」
「わ、わかってるわよ。やればいいんでしょう、や、やれば」
すーはーすーはーと深呼吸をして、ほのかちゃんはゆっくりと口を開く。
「か……かかか、風祭……」
「ダメですよ。ちゃんと名前で呼んでください」
「うぅ……どうしても?」
「どうしても」
「えっと、その……あ、葵……」
うわっ……こ、これは、なんていうか、その……くる。
心にキュウウウ、ってくるよ……顔、赤くなっちゃうよ……
私、ほのかちゃんを意識しちゃっているよ……
「成功しているんですが……やっぱり、色々と悔しいですね。なんで、私は先にこうしておかなかったんでしょうか?」
橘さんが、深い深いため息をこぼしていた。
――――――――――
「次は私の番だね!」
橘さんの次は、愛ちゃんが名乗りをあげた。
前回は特訓をする側で、考えるのは始めてだからなのか、どこか楽しそうだ。
「じゃあ、手を繋いで」
「手を? それだけ?」
橘さんの時と同じく、簡単な特訓だ。
って、そう決めつけるのは早計か。ただ見つめ合うだけでも、色々と大変だったから……手を繋ぐだけでも、苦労するのかな?
「いくよ、ほのかちゃん?」
「え、ええ……ほら、好きにしなさいよ」
そう言われたので、好きに手を繋いでみる。
ぎゅう、っとね。
「あっ」
「ひゃっ……!?」
ピクンと震えながらも、ほのかちゃんは手を離さない。
私も、しっかりと握り、離さない。
ほのかちゃんの手、温かいな……手と手を通じて、ほのかちゃんの体温が伝わってくるみたい。
これ、ちょっと気持ちいいかも。恥ずかしいっていうよりは、心地いいっていう気分。
「はい。そこから、恋人繋ぎにして」
「えっ。そ、それは、指と指を絡める……アレ?」
「そう。アレ」
そこまでしないとダメですか……ダメなんだよね、きっと。
「えっと……ほのかちゃん、いい?」
「……い、いいわよ」
「じゃあ……」
そっと、指を絡めた。
「あぅっ」
ほのかちゃんの顔がどんどん赤くなる。まるで、りんごだ。
きっと、私の顔も赤くなっているんだろうなあ……うー、恥ずかしい。
指を絡めただけなのに、密着感がさっきよりもすごく増して……
なんていうか、こう、ほのかちゃんをすごく近くに感じるんだよね。まるで、ぴったりとくっつているような……そんなこそばゆい感覚。
これ、ダメだ。顔が赤くなるのを止められない。
「あーちゃん、顔赤いね。照れてる?」
「え、えっとぉ……」
「ほのたんも真っ赤だね。意識しちゃった?」
「そ、そんなことないし……うぅ」
必死に否定するものの、ほのかちゃんが恥じらっているのは一目瞭然で……
なんていうか、かわいい、って素直に思う。
普段はツンツンしているけど、なんだかんだで根は良い子だし、やっぱり、かわいい子なんだよね……
ほのかちゃんに対する認識を改める。
それはそうと……
「えっと……愛ちゃん。これは、いつまで……?」
「あと30分!」
「マジで……?」
「マジ♪」
ほのかちゃんが、なんともいえないうめきをこぼすのだった。
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