61話 成功確率は5%
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
この作品の投稿を始めて、今日でちょうど二ヶ月になります。
二ヶ月……よく続いたなあ、と思います。
まだまだ続くので、お付き合いいただければ、と。
これからもよろしくお願いします。
「うまくいかない可能性がある、っていうこと?」
「そうですね」
私の問いかけに、橘さんは難しい顔で応えた。
「それはどうして?」
「あれから、色々と考えてみたんですけど……どうも、ほのかの案……ニセの恋人を作ってお見合いを破綻させるという作戦は、甘いというか、足りないというか……考えれば考えるほど、うまくいく気がしなくて」
「そうかな? そんなに悪くない手だと思うけどなー」
愛ちゃんが橘さんの意見に反対する。
私も、愛ちゃんに賛成。ありがちといえばありがちなんだけど、効果はあると思うんだよね。相手に恋人がいたら、お見合いなんて成立しないだろうし……
そのことを告げるけれど、橘さんは難しい顔をやめない。
というか、ますます難しい顔になった。
「確かに、一般的に見れば悪い手ではありません。それなりに……というか、極めて有効な手段かと」
「じゃあ、どうして?」
「ウチの場合、一般のカテゴリーに入らないと思うので」
「うん?」
僕と愛ちゃんは揃って首を傾げた。
ただ、桜とほのかちゃんは、橘さんの言いたいことをなんとなく理解したらしく、同じように難しい顔をした。
「なんていいますか……父さんは、ちょっと規格外なところがありまして。一般の常識に当てはめない方がいいと思うんです」
「……こんなこと言うのなんだけど、けっこうな変わり者なの?」
「変わり者というか、頑固者というか……」
困ったような感じで、やれやれと橘さんは吐息をこぼした。
「父さんは合理的というか、些細なことは気にしません。目的を達成することを第一に考えて、それ以外のことは、障害にならない限りは無視します」
「と、いうと……?」
「ほのかに恋人がいたとしても、『ああ、そうか。なら、見合いまでに別れておくように』……というような感じで、バッサリと切り捨てるかと。うまくいく確率は……そうですね、5%くらいでは?」
唖然とした。
娘の恋路をそんな風に扱うなんて……それ、親のすること?
「いくらなんでも、そこまでするの……? 悪く考え過ぎ、っていうことは……」
「……ないわね」
今度は、ほのかちゃんが否定した。
橘さんと同じく、実の父親のことはよく理解しているらしい。その光景が思い浮かんでいる様子で、とても苦々しい顔をしている。
「まあ、そうね……確かに、お父さんならそう言うかもしれないわ。っていうか、間違いなくそう言うわね」
「そ、そんな人なの……?」
「「そんな人ね」」
ぴったりと声を揃えて、姉妹はそう言った。
「別れろって言われたとして、もしも、それに従わなかったら……?」
「どのような手を使っても別れさせようとするでしょうね。知っていますか? 世の中には、別れさせ屋というものが存在するんですよ」
こわ。
「そ、そこまでするの……?」
「するんですよ、ウチの父さんは」
「家のためというか、仕事のためというか……会社のためならなんでもする人だから。仕事の鬼って、ああいう人を言うのよね」
なんていうか……話を聞いていて、ちょっとイライラっとしてしまう。
仕事はとても大事なんだろうけど……でも、そのために娘を生贄にするなんて。
そこまでして、いったい、なにが得られるんだろう?
「それじゃあ、あーちゃんに恋人のフリをしてもらっても意味ないんじゃない?」
「あまり効果的ではなさそうだな」
「そうだよね……」
「殺るか?」
「やりません」
桜が言うと本気に聞こえるから困る。
……いや、ひょっとしたら、本気なのかもしれない。
こんな物騒な侍女、しっかり管理しないといけない。主はどこだ。
私だった。
「まあ、普通ならそうなるだろうけど、今回はなんとかなると思うのよね」
「あら? ほのかなりに考えが?」
「今回の作戦の味噌は、相手が風祭っていうところね」
「味噌じゃなくて肝だよね」
「味噌汁にしておいしくいただくのか?」
「うっさい、ちょっと言い間違えただけじゃない!」
普通、そんな言い間違えはしないと思うんだけど……うん、スルーしておこう。さらにツッコミを入れたら、色々な意味でどツボにハマってしまいそう。
「と、とにかく! 風祭が相手ならなんとかなると思うの」
「なんでー?」
「ほら。お父さんは、お姉ちゃんを風祭とくっつけようとしてるわけじゃない? 一応、その企みは今も続いてるわけで……だから、風祭が相手なら文句言わないと思うの。相手がお姉ちゃんからあたしになるだけで、特にマイナス面はないし」
「でも、それだとほのかちゃんのお見合いが橘さんにシフトしない?」
「大丈夫。あたしのお見合い相手、17以上はおばさんだからダメ、っていう人だから」
「うわぁ……」
歳が倍以上離れていて、なおかつロリコンなんて……とんでもない見合い相手だ。
私だったら、即効でお断りを入れて、金輪際関わることがないように、ありとあらゆる手段を講じていそう。
でも、そんな相手でも、橘さんのお父さんにとっては重要らしく……娘とお見合いをさせようとしている。
なんかなあ……橘さんのお父さんは、ホント、なにを考えているんだろう? もうちょっと、娘の、ほのかちゃんのことを考えてあげてほしい。
「風祭に恋人のフリをさせて、父さんを納得させる! それで、今回のお見合いはお流れになる! で、話が風化したところで風祭を捨てる! 完璧な計画ねっ」
捨てるとか言わないで? なんか、複雑な気分になっちゃうから。
「確かに、それならうまくいくかもしれませんが……」
「結局のところ、問題を先送りにしてるだけじゃないか? そのうち、また見合いが来ると思うぞ」
「桜の言うとおりだよね。その辺りの対策は?」
「考えてないわ!」
堂々と言われて、思わずコケそうになった。
「か、考えてないの……?」
「そんな先のことまで考えてられないわ。今は、目の前のことを片付けないと。この危機を乗り切らないと、『先』を考えても仕方ないじゃない?」
「それはまあ、そうなんだけど……」
うーん……気のせいかな?
ほのかちゃんは抜けているところがあるけど、でも、こういうことに関してはわりと考えているっていうか、綿密な計画を立てる方だと思っていたんだけど……
今は、目を逸らしているというか、気にしないようにしているというか……考えることを放棄しているような気がする。
まあ、ただの印象だから、断定はできないんだけど……気のせいかな?
「というわけで、この話はここまで! さあ、特訓をしましょう!」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
仕事が忙しくなってきたため、明日から隔日更新になります。申しわけありません。
隔日ですが、なにもない限りは、更新は必ず続けます。
次の更新は、11月1日になります。




