06話 告白。そして・・・
放課後。
私は屋上でラブレターの相手を待っていた。
待ち合わせの時間まで、あと10分。
まだ相手は現れない。
「うーん、今度は誰なんだろう……?」
ラブレターはシンプルなもので、『あなたのことが好きです。放課後、屋上で待っています』という内容以外、なにも書かれていなかった。
名前もなかったから、相手はわからない。
先日は、私のことをよくしらない後輩の男子生徒だった。
なら、今度は?
同じように、私のことをよく知らない人かな?
それとも、知っていて、それでも告白するような人なのかな?
どちらにしろ、私の返事は決まっている。
ごめんなさい、だ。
ギィ……
待ち合わせの時間まであと5分になった時、ゆっくりと屋上の扉が開いた。
そして……
「橘……さん?」
現れたのは、学園のアイドルだった。
「どうして、橘さんがここに?」
「……」
橘さんは何も答えない。
ただ、まっすぐ私のところに歩いてきた。
私の前で足を止めると、頬を染めながら一言。
「手紙、読んでくれたんですね」
「え? それじゃあ、もしかして……」
ポケットからラブレターを取り出した。
「これは橘さんが?」
「はい」
「橘さんが、私にラブレターを……」
驚いた。
女の子からラブレターをもらうなんて、初めてのことだ。
ましてや、その相手が学園のアイドルなんて……
「風祭くん?」
「はっ」
驚きのあまりフリーズしていた。
我に返って、慌てて言葉を紡ぐ。
「えっと、念の為に聞いておきたいんだけど……この手紙はラブレター、でいいんだよね?」
「はい、そうですよ」
「渡す相手は私で間違っていない、よね?」
「間違っていませんけど……どうして、そのような質問を?」
「いや、その……女の子からラブレターをもらうなんて初めてのことだから、なにかの間違いなんじゃないかな、って。ほら、私ってこんな風だから、こういう事態は想定していなかったというか」
「なるほど、そういうことですか」
私の言いたいことを理解したらしく、橘さんは納得するように頷いた。
「安心してください。そのラブレターは風祭くんに出したものです。もちろん、イタズラなんかじゃありません」
「それじゃあ、橘さんは……」
「はい」
橘さんは耳まで赤くなった。
「私は……風祭くんが好きです」
女の子から好きって言われるのは、生まれて初めてのことで……
思わず、ドキッとした。
「……一つ、聞きたいんだけど」
「はい、なんですか?」
「なんで、私なの?」
私は、私を好きになる人の気持ちがわからない。
傍から見れば、私は女の子の格好をしている変な男の子だ。そんな相手に告白する人なんて、普通はいないと思う。
でも、私は何度か告白されたことがある。
私に告白をする人は、主に二種類に分けられる。
一つは、私を本当の女の子だと勘違いして告白する人。昨日のようなパターンだ。
もう一つは……私じゃなくて、私の家を目当てに告白をする人。
自分で言うのもなんだけど、風祭家はいわゆる名家というやつだ。その力を手に入れるために、告白という手段を選ぶ人がいる。
その手の類の人は決して少なくなくて、むしろ多い方で……私の家を目当てに告白する人は度々現れた。
そんな経験を繰り返しているうちに、いつしか、私は告白されることが苦手になって……
なんで私を好きになるのか、相手の気持ちがまったくわからなくなっていた。
だから、聞かずにはいられない。
「なんで、私を好きに?」
「ふふっ」
橘さんは、鈴が鳴るように笑う。
「風祭くんは変なことを聞きますね。理由がないと、人を好きになったらいけませんか?」
「それは……」
「大事なのは、私が風祭くんを好きだという事実。それで十分だと思いますが」
その言葉から、橘さんのまっすぐな想いを感じた。
私が女の子の格好をしている男の子ということとか……
家が名家ということとか……
そんなことは関係ないというように、橘さんは純粋な想いをぶつけてきた。
思わず心が揺れてしまう。
「でも、私、橘さんから嫌われていると思っていたよ」
「え? どうしてですか?」
「今朝、廊下で会ったじゃない? その時に目を逸らされたから」
「あの時はすいません。ラブレターを出した後だったので、恥ずかしくて顔をまともに見れず、つい……」
「なんだ、そうだったんだ」
嫌われてなくてよかった。
少し、ほっとした。
「それで……その、返事をいただけませんか?」
橘さんは、とても不安そうな顔をしていた。
気持ちはわかる。
だから、私は早く答えを返さないといけない。
たとえ、それが残酷な答えでも。
「ごめんなさい」
いつかと同じように、ペコリと頭を下げた。
「私、こんな風だから……女の子と付き合うなんて、考えづらくて……だから、ごめんなさい」
橘さんはどう思ったかな? 今、どんな顔をしているんだろう? 泣いてないだろうか?
橘さんの顔を見るのが怖い。
でも、見ないわけにはいかない。
恐る恐る顔を上げると……
「……そうですか、わかりました」
意外にも、橘さんは普通だった。
いつも通りという感じで、傷ついているようには見えない。
曲がりなりにも失恋したわけだから、落ち込むとか、もっと色々あると思ったんだけど……
もしかして、強がっているのかな?
だとしたら、できる限りフォローしないと。
「あの……本当にごめんね」
「謝る必要はありませんよ」
「でも……」
「だって、私は諦めていませんから」
「え?」
橘さんは、まったく落ち込んでなくて……
むしろ、さっきよりやる気を出して、力強い声で言った。
「こう見えても私、諦めが悪い方なんです」
「え?」
「風祭くんが女の子に恋をしないというのならば、私がそれを直してみせます。本当の女の子の魅力を教えてあげます」
「え? え?」
「そして、私に振り向かせてみせます。私のことを好きだって言わせてみせます」
「え? え? え?」
なにこれ? いったい、どういうこと?
私は橘さんを振ったはずなのに、でも、橘さんは諦めないって……
こんなパターン、初めてだ。どうしていいのかわからない。
そんな私に向かって、橘さんは一歩前に出て……
「……んっ……」
「ひゃあっ!?」
頬にキスされた。
「なっ、なっ、なっ……」
「今日はこれで我慢しますけど、いつか、その唇をいただきますからね」
女の子が言うセリフじゃない。
そう思ったけど、動揺のあまり言葉が出てこない。
「私が風祭くんを矯正してみせますから、覚悟してくださいね」
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