56話 大丈夫ですか? 色々な意味で
評価をいただけました。ありがとうございます。これからもがんばります。
橘さんの件とか愛ちゃんの件とか、ここ最近、色々なことがあったから疲れているのかもしれない。毎日が慌ただしくて、騒がしくて、落ち着いているヒマがないからね。
そのせいで、ちょっと耳がおかしくなっちゃったみたい。
「ごめんね、もう一度言ってくれる?」
「あたしの恋人になりなさいっ!」
「……もう一度、お願い」
「だから、あたしの恋人になりなさいっ!」
「……ごめん、もう一度だけ」
「だーかーらーっ、あたしの恋人になりなさい、って言っているの!!! わかった!?」
うん、ごめん。ぜんぜん、意味がわからないや。
「ほのかちゃん……」
「なによ?」
「もしかして、熱でもある? 体、大丈夫?」
「どういう意味よっ!?」
「じゃあ、またなにか企んでいるの? この前の不辛の手紙みたいなことを、またやるつもり? その場合は、漢字に気をつけてね? ほのかちゃんなら、また、やらかしそうだし」
「さりげなくディスってるんじゃないわよ!」
いやー、あれは面白かったからね。今でも、記憶によく残っているよ。たまに、こうしてほのかちゃんをからかっちゃうんだよね。ほのかちゃんも良い反応をしてくれるから、やめられないというか……
って、現実逃避をしてる場合じゃないよ、私。
「ほのかちゃん……正気?」
「なんで告白をして正気を疑われないといけないのよ!?」
「いや、それは……ねえ?」
「頭の病院を紹介するぞ?」
桜に同意を求めると、そんなことを口にした。
ちょっとひどいかもしれないけど、今回は、桜に同意。
橘さん大好きなほのかちゃんが、私に告白をするなんて……なにか裏があるか、あるいは、どこかおかしくなってしまったと考える方が自然だ。
現に、橘さんも心配そうにしている。
「ほのか、どうしたんですか? 大丈夫ですか? ひょっとして、昨日、『これくらい平気平気』と言って食べた消費期限が半年過ぎたチョコを食べたのが原因で、頭がおかしくなってしまったのでは……?」
なんてものを食べているんだ、ほのかちゃんは。
っていうか、それを見ていたなら、橘さんは、ちゃんと止めてあげようね?
「もうっ、お姉ちゃんまでそんなことを言うんだから!」
「だって……」
「あたしは至って正常よ! 調子がよくて、気分は有頂天よ!」
「日本語、ちょっとおかしいからね?」
「……気分は最高潮よ!」
言い直してもおかしいままだった!?
「ねえねえ、ほのたん」
「ほのたん? それって、あたしのこと」
「そうだよ。かわいいでしょ?」
愛ちゃんは、仇名をつけるのが好きなんだよね。
親愛の証だから、ほのかちゃんにそれなりに心を許しているんだろう。先日、特訓を手伝ってくれたことがきっかけになって、距離が縮まったのかもしれない。
「で、ほのたんは、あーちゃんのことが好きになったの?」
「そんなわけないでしょ」
あれ? 違うの?
「だよねー」
持ち前の勘というか、そういうところは動物的に鋭い愛ちゃんは、なんとなく察していたらしい。ほのかちゃんに返事に、大して驚いていない。
「それなのに恋人になってほしい、っていうことは……ひょっとして、フリをしてほしい、とか?」
「駿河先輩は理解が早いんですね」
「にひひっ、そういう話はおもしろそうで好きだからね」
「それに比べて……」
「えっと……フリって、どういうこと? ちゃんと説明してほしいんだけど……」
「この鈍風祭は(どんかざまつり)……」
「鈍風祭!?」
なにそれ!? 某FPSゲームのバグメッセージみたいだよ!?
「たららたったら~♪ 風祭葵は、鈍風祭の称号を手に入れた」
「いやいやいや! そんな称号いらないよ!?」
ここぞとばかりに桜がボケる。
うん、貴女は侍女を辞めて、今すぐ芸人になった方がいいんじゃないかな? 再就職の斡旋なら、喜んで手伝うからね?
「これって、やっぱりそういうこと?」
「ですね。そういうことです」
「なるほどなるほどー」
愛ちゃんとほのかちゃんは、よくわからないけど通じ合っていた。
「みんなは……まだ、わかってないみたいだね」
「いったい、なんのことですか?」
「ここで説明するのもなんだから、ファミレスでもいこっか。ほのたん、それでいい?」
「はい」
ほのかちゃんって、愛ちゃんには礼儀正しい後輩なんだよね。
私にも、同じようにしてほしいんだけど……うーん、無理かな? ほのかちゃんがデレるところなんて、ぜんぜん想像できないし。
「じゃあ、みんなでファミレスにれっつごー!」
――――――――――
というわけで、ファミレスにやってきた。
橘さんが私の左に、愛ちゃんが私の右に。対面に桜とほのかちゃんという配置だ。
「えっと……二人とも、少し近くない?」
「いえ、そのようなことはありませんよ。これが、適正な距離かと。ですよね、駿河さん?」
「うんうん、いおっちの言う通り! これくらい普通だよ」
「こういう時だけ、仲が良いんだから……」
「ふふっ、風祭くんは女の子なんですよね? 女の子なら、これくらいは普通ですよ? 女の子というものは、いつも誰かとくっついていたいものですから」
「だから、私たちともぎゅうってしようね♪ はい、ぎゅーっ」
うわわわ!? や、柔らかくて温かい感触が……!?
左右から包み込まれるように、ぎゅう、って……
それに、なんだか、ミルクのような甘い匂いがして……うーっ、ダメなのに、どうしても顔が赤くなっちゃう。
右を見れば、愛ちゃんのかわいらしい顔が目の前にあって……
左を見れば、橘さんの綺麗な顔と触れそうになって……
色々な意味で限界かもしれない。
「あたしの話をほったらかしてイチャイチャして、いい身分ねぇ……?」
「ご、ごめんなさい……」
ほのかちゃんに、人を殺しそうな目で睨まれた。怖い。
女の子なんだから、もうちょっと穏やかに、落ち着いた方がいいんじゃないかな?
……なんてことが思い浮かぶけれど、すぐに口を閉じた。たぶん、そのまま伝えたら、本当に殺されてしまう。
ほのかちゃん、マジ暗殺者。
「それで、話っていうのは?」
「その前に、なにか頼まないか? さすがに、なにも頼まないで居座るほど、桜は図太くないぞ」
桜の言う通りだ。なにか注文しないと。
……でもまあ、桜なら、「水で」なんて言って、半日は粘ることができそうだけどね。
「ここの会計はあたしが持つわ」
「いいの?」
「あたしが話を持ちかけたんだし、それくらいは……ね」
「えっと……気持ちはうれしいんだけど、やめておいた方が……」
「なによ? あたしの好意はいらない、っていうわけ?」
「そうじゃなくて……」
「なら、私はチーズハンバーグセットとシーザーサラダと野菜スープとペペロンチーノ! あとあと……フォカッチャとほうれん草のバターソテーに、チョコケーキとアイスの盛り合わせで!」
「桜は、そうだな……とりあえず、メニューに載っている商品、全部持ってきてもらおうか」
「……この二人は、本当に遠慮しないから、やめておいた方がいいんじゃないかなー、なんて」
「遠慮しなさすぎでしょう!!!? っていうか、嫌がらせの域に達してるからね!?」
「ほのか……がんばりなさい」
「お姉ちゃん!?」
橘さんに見捨てられて、ほのかちゃんが涙目になっていた。
「うっ、うううぅ……いいわよっ、払ってやろうじゃない! 女は前言撤回なんてしないのよっ!」
「えっと……桜、愛ちゃん。普通に、ドリンクバーだけにしておこうね?」
さすがにかわいそうだから、二人のことは説き伏せておいた。
「……」
「ど、どうしたの?」
「……あ、ありがと」
涙目のほのかちゃんに感謝された。とはいえ、原因が愛ちゃんと桜にあるから、なんともいえない気分になってしまう。なんていうか……ちょっと意味は違うんだけど、マッチポンプをしたような気分。
この微妙で複雑な気持ち、誰かわかってくれないかな?
わかってくれないよね……はあ。
「すいませーん」
店員さんを呼んで、人数分のドリンクバーを注文した。
それと、ついでにポテトフライを二皿注文しておいた。ほのかちゃんが、『お礼』といって、譲らなかったんだ。私は気にしてないんだけどなあ……
最近、わかってきたことだけど……愛ちゃんの一件に協力してくれたり、こうしてお礼をしてくれたり、ほのかちゃんは意外と義理堅い性格なのかもしれない。
だとしたら、ちょっとかわいいところもあるな。
「私、みんなの分をとってくるね」
「……一人じゃ無理でしょ。あたしも手伝ってあげる」
「うん。ありがとう、ほのかちゃん」
ほのかちゃんと一緒に、みんなの分のドリンクを取りに行く。
途中で、小さな声で、もう一回「ありがとう」って言われた。
なんか、微笑ましい気持ちになる。
「はい、どうぞ」
席に戻り、みんなの分のドリンクを渡した。
「それで……そろそろ、詳しい話を聞いてもいいかな?」
ちゅー、とジュースをストローで吸って、それから問いかける。
ほのかちゃんも同じようにジュースを飲んで……少しの間を置いて、口を開いた。
「さっきも言った通り、あたしの恋人になってほしいの……ううん。正確に言うと、恋人のフリね」
「フリ? なんでそんなことを?」
「あたし……お見合いをすることになったの」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ほのかは書いていて楽しいキャラなので、ついついいじってしまいます。
他のキャラたちも、ついつい意地悪してしまいます。
なんていう不遇のキャラ……
そんなほのかに起きた事件は?
次も読んでいただけるとうれしいです。がんばります。




