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50話 恋がわからない

 観覧車を降りて、みんなと合流する。


「ふんふんふーん♪」

「やけにご機嫌だな?」

「えへへー、なんででしょう?」

「うわっ、なんかめんどくさそうなテンションね」

「観覧車に乗っていたようですが……ま、まさか、密室なのをいいことに、風祭くんとあんなことやこんなことを……!?」


 橘さんが私を見る。

 次いで、愛ちゃん以外のみんなが私を見る。

 『二人きりでナニをしていたの!?』っていう感じ。


 うーん。

 みんなが考えているようなことは、なにもしていないんだけど。

 特に話しても問題はない。

 問題はないんだけど……


 でも、観覧車で愛ちゃんと過ごした時間は、宝石箱みたいにキラキラしていて……

 私と愛ちゃんだけの二人の秘密にしたいな……って、ふと思う。


「内緒♪」




――――――――――




 みんなの追求をのらりくらりと避けて……

 そういうしているうちに、本格的に日が暮れてきた。

 赤みがかった空は、紫色に……そして、深い藍色に変わる。

 あちこちに設置された明かりが点いて、影が地面に伸びた。


「それじゃあ、そろそろ帰ろうか。今日の特訓はこれでおしまいっ」

「あーちゃん、ありがとうね」

「ううん、どういたしまして」


 にっこりと笑う愛ちゃんい、私も笑みを返した。


「うぅ……特訓はうまくいったようでなによりですが、しかし、二人の仲が縮まっているみたいで、すごく複雑な気分です……」

「いいじゃない、別にあれくらい。むしろ、二人がくっついたらお姉ちゃんがフリーになって、あたしにもチャンスが生まれるから、万々歳だわ」

「あ、ほのかには欠片もチャンスは生まれませんよ?」

「真顔で完全否定された!?」

「というか、そういう不吉なことばかり言うと、私の半径6400kmに接近することを禁止しますよ?」

「地球外追放!?」

「あら、よくわかりましたね。ほのかの頭でも理解できるなんて……成長しているのですね、ぐすっ」

「そんな喜び方されても、ぜんぜんうれしくないんだけど!?」


 なにやら、橘さんとほのかちゃんは、楽しそうに話をしている。

 姉妹水入らず。

 邪魔したら悪いから、そっとしておこう。


「あーちゃん、あーちゃん。おトイレ行ってくるね?」

「うん、いってらっしゃい」

「……一緒に行く?」

「いきません!」

「ちぇ」


 残念そうにしながら、愛ちゃんはこの場を離れた。

 特訓が終わったからか、いつものアグレッシブな愛ちゃんが戻ってきたみたいだ。


「葵、少しいいか?」

「イヤです」


 桜にそう話しかけられたので、バッサリと断ち切る。


「……侍女の話は聞いた方がいいぞ?」

「どうせ、ろくでもないことでしょう? なら、いりません」

「そうか……そういう態度をとられたら、橘や駿河に葵の恥ずかしい過去を暴露してしまいそうだ。そうだな、おねしょをいつまでして……」

「ごめんなさいぜひとも話を聞かせてくださいだから黙っていてください」

「最初からそう言えばいいのだ、バカめ」


 最近、私と桜の上下関係が逆転しているような気がする。

 誰かなんとかしてください。

 ……なんともできないよね。ぐすんっ。


「仮に、駿河が男性恐怖症を克服したとしたら……葵は、駿河の想いに応えるのか?」

「それは……」

「駿河は、自分のために動いてくれた葵に、ますます好意を持つだろう。男性恐怖症を克服したら、今以上にアプローチをするだろう。それに対して、葵はどうするつもりだ?」

「……愛ちゃんは大事な幼馴染だから。それ以上でも、それ以下でもないよ」


 私の回答に、桜がこれ見よがしにため息をこぼした。


「やれやれ。橘の時と同じような答えを出すつもりか? そういうことをしていると、いつか、背中を刺されるぞ」

「そんなことを言われても……」


 愛ちゃんの想い……それに、橘さんの想い。

 きちんと向き合わないといけないっていうことは、いくらなんでもわかる。


 でも……答えの出し方がわからない。

 私は、まだ『恋』を知らないから。


「卑怯かもしれないけど……今は、時間が欲しいの」


 橘さんと出会い……

 愛ちゃんと再会して……


 私の中で、なにかが変わってきている。

 それは、言葉にできないような小さな、不明瞭なものだけど……

 でも、確かに変わってきているんだ。


 今はまだ、なにもわからない。

 でも、この先は……


「いつか、ちゃんと答えを出すから」

「本当に卑怯な答えだな」

「うぐ……」

「でもまあ、『わからない』で思考を止めなかったことは褒めてやるぞ」


 よしよしと、桜に頭を撫でられた。


 まったくもう。

 私を子供扱いして……


 でも、悪い気分じゃなくて……

 少しの間、私は穏やかな時を過ごした。




――――――――――




「風祭くん」


 ほのかちゃんと話をしていた橘さんだけど、ふと、思い出した様子でこちらを向いた。


「駿河さん、トイレなんですよね?」

「うん、そうだけど?」

「それにしては、遅くありませんか?」

「言われてみると……」


 スマホで時間を確認する。

 正確に計っていたわけじゃないけど、愛ちゃんがトイレに行って、もう10分は経っている。

 トイレが混んでいるとか、まあ、時間のかかる方とか……色々と理由は考えられるけど。

 でも、なんだろう……どうにもこうにも、イヤな予感がする。

 幼馴染ゆえの勘、というやつだろうか?


「ちょっと様子を見てくるね」




――――――――――




 愛ちゃんを探して、広場の方に移動した。

 アトラクションが行われる大きな池の他には、特になにもない。

 休憩用として、いくつかベンチが並べられている程度だ。

 今は他所でパレードが開催されているから、人はみんなそちらに流れていて、ここはほとんど人がいない。


「えっと、愛ちゃんは……」


 確か、ここのトイレに向かったと思うんだけど……


「ねぇ、いいじゃん。そんなつれないこと言わないでさ」

「どうせ一人なんでしょ? なら、俺たちと一緒した方が絶対に楽しいって」

「あ、あの……だから、私は……」

「……愛ちゃん?」


 少し離れたところに、愛ちゃんを見つけた。

 ただ、一人じゃない。

 いかにも軽そうな男二人組に声をかけられている。


 もしかして……ナンパ?


「まったく!」


 こういうところでナンパをするなんて、マナーのなっていない人たちだなあ。

 鏡を見て、家に帰ればいいのに。


 愛ちゃんを助けようとするけれど……

 それよりも先に、男の一人が愛ちゃんに手を伸ばしてしまう。


「ちょっとでいいからさ。ほんの1時間……いや、30分でいいよ。遊ぼうよ……ね?」

「あっ……」


 男は、愛ちゃんの手を取り、強引に連れていくつもりなんだろう。

 そのことに気づいて、愛ちゃんの顔が青くなる。


「この時間しか見られない、オススメのスポットがあるんだよね。特別に教えてあげるから一緒に……」

「やぁっ!?」


 バシィッ、と愛ちゃんが男の手を払いのけた。


 男はポカンとして……

 すぐに、怒りの表情に切り替わる。


「てめっ……なにすんだよ!」

「ひぅっ!?」


 男は手を振り上げて……


「……あなたの方が、なにをしているんですか?」


 間一髪。

 間に割り込んで、私は男の腕を掴んで止めた。

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