表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/88

49話 特訓という名のデート・5

「……うぷっ」

「あーちゃん、大丈夫?」

「……あんまり大丈夫じゃないかも」


 とりあえず、愛ちゃんに楽しんでもらおうと、リクエストに応えてジェットコースターを5周してみたんだけど……


「うあー……あうー……」

「わわわっ、あーちゃんが死んだ魚のような目に!?」

「回る回るー……世界が回るー……ぐるぐる回るー……あはははー」

「あーちゃんが壊れた!?」


 教訓。

 何事もほどほどに。




――――――――――




「ふう」


 30分ほど休んで、ようやく歩けるくらいに回復した。


「あーちゃん、ごめんね……」

「気にしないで。それよりも、愛ちゃんは楽しかった?」

「う、うん。楽しかったけど……」

「なら、よかった。特訓も大事だけど、愛ちゃんに楽しんでもらうことも大事だからね」

「あーちゃん……えへへ。やっぱり、あーちゃんはあーちゃんだね」

「ん? どういうこと?」

「あーちゃんが好き、っていうことだよ♪」


 なんだろう?

 よくわからないけど……


「っ」


 愛ちゃんの笑顔がキラキラと輝いていて、ついつい、ドキッとしてしまう。


「えっと……つ、次はどこに行こうか?」

「じゃあ、フリーフォール10連発!」

「そ、それはちょっと……」

「あははっ、冗談だよ。あーちゃん、チワワみたいに震えて、かわいい♪」

「か、からかわないでよ」

「次は穏やかなところにしようか? うーんと……お化け屋敷なんてどうかな?」

「うん、いいんじゃないかな」

「じゃあ、お化け屋敷にれっつごー!」




――――――――――




 お化け屋敷といえば、きゃー、とか悲鳴をあげながら抱きつくのが定番だよね?

 あと、暗闇にビクビクと怯えながら、彼氏の手を掴んで歩いたり。


 うまくいけば、愛ちゃんと距離を縮められるかもしれない。

 そんなことを思っていたんだけど……


「あはははっ、見て、あーちゃん。この人、動きがカクカクしてておもしろいよ、あはははっ」


 ゾンビを見て、愛ちゃんは大爆笑していた。


 ゾンビのメイクはすごいリアルで、本物? と疑ってしまうレベル。

 私でも、けっこう怖いんだけど……


 愛ちゃんの心はダイヤモンドでできているのか、おばけと出会う度に笑い声を振りまいていた。


「愛ちゃん、こういうの強いんだ?」

「んー、だって作り物じゃん? 怖がる理由がなくない?」

「そう考えられるのって、すごいよね」

「突然、飛び出してきたらびっくりするけど……それくらいかなあ? あっ、でもでも、つまらないわけじゃないよ? これはこれで楽しいし」


 ふんふーん……と、愛ちゃんは鼻歌混じりにお化け屋敷を進んで行く。


 これは意外な展開だ。

 ラブコメで定番の、きゃーこわーい、ができないじゃないか。

 せっかく、距離を縮められると思ったんだけど……


 でもまあ。


「あーちゃん、あーちゃん! ほらっ、そこに人魂! すっごいリアルだね、どうやって再現しているのかな? 仕組みが気になるー」


 愛ちゃんが楽しそうにしているから、これはこれでいいか。




――――――――――




 お化け屋敷を後にした私たちは、色々なアトラクションを回り……

 本来の目的を忘れてしまうくらい、たくさん笑って、たくさん遊んだ。


 そして、日が傾く。


「うーん。時間的に、次が最後かな」

「えー、まだまだ閉園まで時間あるよ?」

「閉園までいたら、帰りが遅くなっちゃうよ。それはダメ」

「ぶー、あーちゃんのケチ―」

「あ、そんなこと言うんだ? 最後は、愛ちゃんのリクエストに応えようと思っていたんだけど、やめにしようかな」

「あー、ウソウソ。冗談ですー」


 慌てる愛ちゃんが、ちょっとかわいい。


「どこにする?」

「観覧車!」


 定番中の定番の答えが帰ってきた。


「観覧車でいいの? あれ、早く動いたり、横に揺れたり、スリリングな体験はできないよ?」

「私、絶叫系ばかり好んでるわけじゃないよ。ほら。せっかくのあーちゃんとのデートなんだから、最後くらい二人きりになりたくて」

「……ああ、なるほどね」


 こうしている間も、ひしひしとみんなの視線を感じる。

 最後くらいは、こういうのなしに遊びたいよね。わかるわかる。


「じゃあ、観覧車に行こうか? 観覧車なら、さすがにみんなもついてこれないし」

「うん!」




――――――――――




 というわけで、観覧車に乗った。

 窓の外の景色がゆっくりと上昇していく。


「わあー、すごい綺麗……」

「うん、そうだね」


 遊園地と……それと、奥に見える街が一望できた。

 夕日に照らされて、街全体が輝いている。

 まるで宝石みたいで、とても綺麗だ。


「綺麗だね、あーちゃん」


 愛ちゃんがにっこりと笑う。


 その横顔も夕日に照らされていて……

 なぜかわからないけど、顔が赤くなっちゃう。


「あーちゃん、今日はありがとう」


 窓から離れて、愛ちゃんがそう言った。


「あーちゃんのおかげで、すごい楽しかったよ」

「どういたしまして。というか、私も楽しかったから……だから、気にしないで」

「ホント? 私とデートして楽しかった?」

「うん。楽しかったよ」

「……またデートしてくれる? 特訓とか、そういうの関係なしに」

「……みんなと一緒はダメ?」

「あーちゃんと二人きりがいいな」

「……いいよ」

「ホント!?」

「うん」


 私はしっかりと頷いた。


 あーちゃんの気持ちに応えられるかどうか、それはまだわからない。

 でも、一緒に遊ぶくらいなら……

 それくらいなら、許してくれるよね?


 ……私、ずるい子なのかな?


「ねえ、あーちゃん」

「なに?」

「手、繋いで」

「え?」


 愛ちゃんは、じっと私を見つめた。

 その顔は真剣で、冗談などを言っているようには見えない。


「でも、手は……」

「うん……前みたいになっちゃうかもしれない。でもでも、今日は、あーちゃんがここまでしてくれて……私、それに応えたい。がんばれる、っていうところを見せたい」


 よく見ると、愛ちゃんは小さく震えていた。

 でも、逃げようとしないで、私に向けて、そっと手を伸ばす。


 どうする?

 この手を取る?


 でも、また前みたいに拒絶されたら……

 振り払われたりしたら……


「っ!」


 私、なにを考えているの!

 愛ちゃんが勇気を出しているのに、自分のことばかりで……


 私のことなんて、今はどうでもいい。

 愛ちゃんの勇気に、しっかりと応えてあげないと!


「……いくよ?」

「うん……来て」


 愛ちゃんが小さく頷いた。

 それを合図に、私も手を伸ばして……


 そっと、愛ちゃんの手を握る。


「っ」


 愛ちゃんは、ピクッと震えて……


 ……それだけだ。

 手を振り払おうとしたり、悲鳴をあげたり……そういうことはない。

 ぐっと我慢しているだけだけど、でも、耐えることはできた。


「え、えへへ……私、やったよ?」

「うん。えらいね、愛ちゃん」


 愛ちゃんは、我慢しながらも必死に笑い、私と手を繋ぐ。



 ……この時だけは、愛ちゃんのことが愛しく感じられた。

気に入って頂けたら、評価やブクマで応援をいただけると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ