46話 特訓という名のデート・2
さらに、翌日の放課後。
今度は、ほのかちゃんの作戦が実行されることになった。
空き教室に呼ばれて、私と愛ちゃんとほのかちゃんの三人が集まる。
橘さんと桜は、先生に用事を頼まれたので今はいない。
「私、まだ男装(?)しないといけないの……?」
昨日と同じく、私は男装(?)をさせられた。
また、こんな格好をするなんて……
私は女の子なのか、それとも男の子なのか。
自分の立場に色々と悩んでしまいそう。
「うんうん。けっこういいじゃない。そうしてると、けっこうイケメンよ、あんた」
「うれしくないよ……」
「あーちゃん、BLゲーに出てきそうな感じ……」
「それは褒めているのかな!?」
せめて、乙女ゲームにしてほしい。
え? 二つの違いはなんだ、って?
それは、色々違うんだよ。色々と。
「それで、今日はどうするの?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたわね!」
もったいぶるように、まだ、特訓の内容は教えてくれない。
「今日の特訓は、今までにないほど過酷なものになるわ……」
「今までにないほどって言うけど、まだ一回しかしたことないけどね」
「ヘタをしたら、生きて帰れないかもしれない……」
「そういう風に煽るのって、逆に生存フラグになるよね」
「それでも、駿河先輩は特訓を受ける覚悟があるかしら!?」
「ないならここに集まっていないと思うよ」
「ちょっとそこ、いちいちうるさいわよ!」
いちいちツッコミどころを用意するほのかちゃんがいけないと思うんだ。
「ねえねえ、今日の特訓は? いいかげん、教えてよー」
焦れた様子で、愛ちゃんが答えを求めた。
「いいわ、そこまで言うのなら教えてあげる。今日の特訓……それは、狩りよ!」
狩り?
……モンハンかな?
「どういうこと?」
「要するに、駿河先輩は、昔、男にいじめられたことがトラウマになってるわけでしょ?」
「うん、そうだね」
「いじめられたトラウマを乗り越える方法は一つ……いじめ返せばいいのよ!」
ドーン、と効果音がつくような勢いで、ほのかちゃんが言い切った。
「いじめ返すって……上履きに画鋲を入れたり、ノートに落書きしたり?」
「愛ちゃんの発想、ちょっと古いよね」
「そういうのじゃなくて、物理的に倒すのよ。つまり、ケンカで勝つ!」
「け、ケンカ……? 私、男の子とケンカしないといけないの……?」
「そこら中の男にケンカを売りまくって、薙ぎ倒していくの。そうすれば、トラウマなんていつの間にか克服しているわ。だから、狩り、っていうわけ」
「私、無双しないといけないの……?」
愛ちゃんが、男の子たちをバッタバッタと薙ぎ倒すところを想像……できるわけがない。
「まあ、無双なんて無理なのはわかってるわ。だから、その手前、ケンカを売るところから始めてみましょ」
あ、なんか話が見えてきたぞ。
そのケンカを売る相手、っていうのは……
「本当にケンカを売るわけにはいかないから、代わりに、そこの男装(?)した風祭を相手にケンカを売りましょう。それで、耐性をつけていくのよ!」
やっぱり、そういう展開になるんだ……
私に拒否権は……ないんだろうなあ。
まあ、案は、そんなに悪いものじゃない。
度胸をつけるという意味では、それなりに有効だと思う。
うーん……愛ちゃんのためなら、私も、がんばらないといけないかな。
「というわけで、特訓開始よ! 駿河先輩、そいつにケンカを売って」
「え、えっと……」
愛ちゃんは戸惑うように私を見た。
いいよ。がんばって……というように、愛ちゃんに頷いてみせた。
「い、いくよ!」
男装(?)しているから、愛ちゃんはすでに怯え気味だ。
それでも、意気込んで、私の前に立つ。
「お……おうおうおうっ、兄ちゃん、なにガンつけてんだコラ?」
なぜか、昔の不良っぽくなってしまう愛ちゃん。
それじゃあ、愛ちゃんの方が悪者だよ……
まあ、ケンカをすればいいわけだから、細かいことは気にしないでいいか。
スルーして、とりあえず、じーっと見つめ返した。
「うっ……あーちゃんに、見つめられている……」
「じー」
「今のあーちゃんは男の子……でもでも、この視線は間違いなくあーちゃんのもの、ちょっとゾクゾクしちゃう……」
「じー」
「う、ううん。ダメだよ、私。ここで怯んだらいけないよ……勇気を振り絞って……えいっ」
ぽかっ。
「あいたっ」
叩かれた。
でも、ぜんぜん痛くない。
「あ、う……い、今、男の子に触れちゃった……あーちゃんを叩いちゃった……」
というか、叩いた愛ちゃんの方がダメージを受けているような気がする。
「あーちゃん、大丈夫?」
「わ、私は平気だよ……それよりも、あーちゃんこそ大丈夫? 痛くなかった?」
「大丈夫。大したことないよ」
「でもでも、ホントは痛かったんじゃない? そうだ、いたいのいたいのとんでけー、してあげようか?」
「あっ、それ懐かしいね。昔、愛ちゃんがしてくれたことあったっけ」
「覚えてくれていたんだ……」
「忘れないよ。大事な思い出だもん」
「あーちゃん……」
「愛ちゃん……」
「って、なんで馴れ合っているのよぉおおおおおっ!!!?」
ほのかちゃんのツッコミ、いただきました。
ぜいぜいはあはあと息を荒くしている。
どれだけ全力でツッコミをしているんだろう? ほのかちゃん、芸人体質なのかな?
「駿河先輩は、そいつを倒さないといけないの! 今は敵同士なの! 馴れ合ってどうするのよ!?」
「あ、そういえば……」
「もうっ、当初の目的を忘れないでちょうだい」
うーん?
でも、今は、愛ちゃんは普通に私と接することができていたような……?
なんだろう? ただの偶然かな?
「さあ、特訓を再開するわよ! そいつをボロ雑巾のように、メタメタにしてちょうだい!」
「ほのかちゃん、私怨が混じってない?」
「混じっているわ!」
「認められた!?」
「駿河先輩、セット……ゴー!」
――――――――――
「はあ、はあ、はあ……こ、これ以上は無理だよ……もう限界」
愛ちゃんは息を乱して、膝に手をついた。
強い言葉をぶつけたり、ぽかぽかと叩いたり……
特訓は1時間ほど続いて、愛ちゃんは疲労困憊といった様子だ。
無理もない。
意味もなく私にケンカを売るという罪悪感と……
男装(?)した私に触れるという心の負担で、精神的な負荷はかなりものだ。
これ以上続けるのは、やめておいた方がいいかな。
「ねえ、ほのかちゃん。愛ちゃんもこう言っているし、今日はここまでにしない?」
「えー、まだ、あんたをボコボコにしてないんだけど」
「趣旨が変わってないかな?」
「冗談よ、冗談」
ウソだ。
絶対に本気だったと思う。
「まあ、確かに限界っぽいし、ここまでにしておきましょうか。おつかれさま、先輩」
「お、おつかれさまぁ……はふぅ」
何度か深呼吸を繰り返して、少し落ち着いたらしい。
愛ちゃんは、ぺこりとお辞儀をした。
「ほのかちゃん、ありがとう。私のために付き合ってくれて」
「べ、別に駿河先輩のためじゃないわ。この機会に、風祭をボコっておこうと思っただけだし!」
「ロクでもない言い訳をしないでね? そんなこと言うツンデレは、ぜんぜんかわいくないよ?」
「それで、ちょっとは慣れたかしら?」
「うーん」
考え込む愛ちゃん。
ほどなくして、そっと私に手を伸ばす。
「っ……!?」
が、途中で手を止めて、体ごと後ろに下がってしまう。
「まだまだ、みたいね」
どうやら、まだまだ先は長そうだ。
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