42話 隠し事はいつかバレるもの
食事を終えて、再びショッピングモールを巡る。
今度は、橘さんが希望した服を見て回ることにした。
「色々なお店があって迷っちゃうね。どのお店がいいのかな?」
「基本的に、人が多いところがいいぞ。人がいる=人気がある、という証明だからな。多少は混んでいるかもしれないが、そこは我慢だ」
「桜がそういうことを知っているなんて、なんか意外」
「うぅ、葵さまの意地悪ぅ。桜、これでも乙女なんだぞっ、ぷんぷん♪」
「ごめんね……それ、ホントに気持ち悪いからやめて……」
「うむ……自分でやっておいてなんだが、これはないなと思った……」
「ねえ、この店にしましょう」
桜と一緒になってげんなりしていると、店を決めたらしく、ほのかちゃんが手招きをしていた。
後を追いかけると、他のみんなはもう店内に入っていた。私たちも中に入り、服を見て回る。
「あっ、かわいい服がたくさん。それに、けっこう安いし……いいお店かも、ここ」
「ふふーん、あたしが決めたのよ」
いつの間にか近くにいたほのかちゃんが、自慢げに胸を張った。
「ほのかちゃんって、店選びのセンスがあるんだね。なにか基準とかあるの?」
「んー? 特にないわよ。ただの勘」
勘、ときましたか。普通にすごい。
たぶん、生まれ持ったセンスが抜群なんだろうなあ……私は、そういうセンスはあまりないから、ちょっとうらやましい。
「ねえねえ、篠宮さん。あーちゃんって、どんな服が好みなのかな? 悩殺できるような組み合わせを教えてくれない?」
「いいぞ、この桜に任せろ。葵が襲わずにはいられないようなコーディネートにしてやろう」
「わーい。篠宮さん、頼もしいっ」
それ、どういうコーディネートなのさ?
あと、愛ちゃんは、簡単に桜を信じないでね? その子、深く考えないで、『楽しそうだから』っていう理由で動いていることの方が多いからね?
「お姉ちゃん、これはどう?」
「うーん、ちょっと色がきついような」
「なら、こっちは」
「あっ、これならピッタリですね」
こちらの姉妹は、仲良く服を見ていた。
なんだかんだで、姉妹仲は良いらしい。
「お姉ちゃん。こっちは?」
「それ、メンズでは?」
「だからこそいいの! お姉ちゃんが男の格好をして、あたしがその隣に……あっ、鼻血が出ちゃう」
……時々、ほのかちゃんが暴走しているみたいだけど、まあ、うまくやっているみたいだ。
さてと。
せっかくの機会だから、私は私で服を探そうかな? もうすぐ夏になるから、新しいのが欲しいところだったんだよね。
夏物のコーナーに移動して、一着一着、見て回る。
「風祭くん、ちょっといいですか?」
ふと、橘さんに声をかけられた。
「うん、いいけど……あれ? ほのかちゃんは?」
「鼻血が出たとかで、ちょっと店の外のベンチに」
「そ、そうなんだ……それで、どうかしたの?」
「今から試着をするんですが、風祭くんの意見が聞きたくて」
「私なんかでいいの?」
「ふふっ。風祭くんに見せるためのものですから、風祭くんでないとダメなんですよ」
「そ、そうなんだ……うん。そういうことなら」
橘さんは、服とスカートを手に試着室に入る。
カーテンを引いて……
「着替え、見ますか?」
「見ません!」
「ふふっ、残念です」
シャー、とカーテンを締めた。
不意打ちのように、ああいうことを言ってくるから侮れない。
うぅ……ちょっとだけど、ドキドキしちゃった。
「……」
カーテン越しに服を脱ぐ音が聞こえる。
この向こうで、橘さんが下着になって……
って、なにを考えているの、私は!?
変なことを考えたらいけない。無心、無心にならないと。
「ひゃっ!」
「橘さん!?」
悲鳴のような声が聞こえて、私は慌てて試着室のカーテンを開けた。
「あっ、風祭くん……すいません。糸くずを虫と見間違えてしまって」
試着の途中らしく、白い肌が見えている。
それと、スカートは半分脱げていて、下着が……
「ご、ごめんねっ!」
「いえ、気にしていませんから。私のことを心配してくれたんですよね? むしろ、うれしいです」
「で、でもでも、こんなことを……あうあう」
「ふふっ。何度も言いますが、私は気にしていませんよ? ですが……そうですね。せっかくだから、このまま試着を手伝ってくれませんか? この服、一人では着づらいところがあって」
「て、手伝う……って」
あられもない格好をした橘さんと一緒に、この狭い試着室に?
無理っ!
そんなの無理だからっ、絶対に無理です!
「わ、私っ、気になる服があって試着してくるね!」
「あっ、風祭くん」
近くにあった服を掴んで、私は逃げるように別の試着室に飛び込んだ。
――――――――――
「はあ、はあ、はあ……」
まだ胸がドキドキしている。息が荒い。
思い返すのは、橘さんのあられもない姿……
「って、こんなこと考えたらいけないのに!」
いけない妄想を追い払うように、ぶんぶんと頭を振る。
でも、頭の熱はなかなか冷めてくれない。
「うぅ……私は、女の子なんだから……だから、橘さんの着替えを見ても、なんとも思わないはずなんだから」
自分に言い聞かせるように言うものの、効果はまるでない。
もう、ホント、色々とダメダメだ。
「今は顔を合わせづらいし……せっかくだから、この服を試してみようかな」
逃げる言い訳に、適当に掴んだ服だけど、けっこう私好みのデザインだった。白のワンピースで、夏に似合うようなイメージ。
試着してみようかな。
そうしたら、少しは気分が紛れるかもしれないし。
私は軽く深呼吸をして、どうにか気持ちを落ち着けた。
それから上着とスカートを脱いで、下着姿になる。
そして、白のワンピースを……
「あーちゃん、あーちゃん! 見て見て、この服、どうかな!?」
「えっ?」
シャーとカーテンが開かれて、笑顔の愛ちゃんが突撃してきた。
予想外のことに、頭がまっしろになってしまう。
でも……予想外なのは、愛ちゃんも同じだったらしい。
「……ふぇ?」
私の下着姿を見て、愛ちゃんが呆然とする。
……より正確に言うと、私の胸元と下半身を見て、呆然とした。
「……男の子?」
「あっ!?」
しまった。この格好じゃあ、一発でバレてしまう!
慌てるけれど、もう遅い。
私の正体がバレたことは、愛ちゃんの呆然とした顔を見れば一目瞭然だ。
「えっと……あのね、これは、つまりそういうことで……ほら、前に言ったでしょう? 私は、本当は男の子だ、って」
「……」
「でも、愛ちゃんは女の子って完全に思い込んでいて、なんか訂正するタイミングがなくて……騙そうとしていたわけじゃないんだけど……えっと……愛ちゃん?」
どこか、愛ちゃんの様子がおかしい。人形のように感情が見えない。
思わず、手を伸ばして……
「ひぅ……!?」
「えっ……」
パシンッ、と手を払われた。
基本的に、毎日更新していきます。
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