41話 みんなで遊ぼう
橘さん、桜、ほのかちゃんを誘い、みんなで遊びに行く。
行き先は、駅前のショッピングモールだ。
敷地面積が広くて、ちょくちょく迷子が出てしまうほどだ。
小物から服まで、色々なお店が入っていて、さらにフードコートも完備。一日中いても飽きないんだよね。
「どこから見て回る?」
中に入ったところで、みんなに問いかける。
「私は服を見てみたいです」
「小物が見たいな。かわいいスマホケースが欲しいの」
「お姉ちゃんと一緒ならどこでもいいわ」
「武具が見たいぞ」
「うん、いくらショッピングモールでも、武具なんてないからね?」
ボケた桜に、一応、ツッコミを入れておく。
……こうやって、いちいち拾っているから、桜がボケるのをやめないのかな? 今度、おもいきりスルーしてみようかな?
「じゃあ、服から見る?」
「あ、荷物になりますから、服は最後で構いませんよ。最初は、小物がいいんじゃないでしょうか?」
「いいの?」
「はい。小物なら荷物にならないでしょうし……ほら、近いところに、色々なお店があるみたいですよ」
案内図を見ながら、橘さんが言う。
「……橘さんって、意外と良い人なんだね」
「これくらいで、良い人と言われても……それに、ライバルであることは変わりませんよ?」
「もちろん。あーちゃんに関しては、絶対に譲らないんだからねっ」
小さな友情が芽生えそうになっていた。
この調子なら、本当に仲良くなれるかも。
友だちになった二人の姿を想像して、私は小さく笑みをこぼした。
――――――――――
愛ちゃんの希望通り、最初は小物を見て回ることにした。
色々な店があって、さらに色々な商品があるから、選び放題だ。
「ふんふんふーん♪ スマホ、スマホ、スマホケースはどこかな~♪」
妙な歌を口ずさみながら、小物を見て回る愛ちゃん。ちょっとかわいい。
「ところで、どうしてスマホケースなの?」
「今使ってるの、ヒビが入ってきちゃったんだ。それに、携帯ショップで買ったやつだから、かわいくないの」
「携帯ショップで売ってるのって、デザインより機能性を重視しているからね」
「ねえねえ、これなんていいんじゃない?」
ほのかちゃんが、とあるスマホケースを持ってきた。ネイルアートで使われるようなキラキラのパーツがあちこちにつけられている。
「これ、すごくかわいいでしょ?」
「わー、いいねいいね。かわいい♪」
「ふふーん。でしょ?」
かわいい……のかな?
派手だとは思うけど、かわいいっていう感じはしない。うーん、そこら辺、よくわからないんだけど……私が、本当は男の子だからなのかな?
「待て、駿河よ。これの方がいいぞ」
桜が持ってきたスマホケースは……龍が描かれていた。ヤのつくお仕事の人が背中に入れている入れ墨のような、それはもう立派な龍が描かれていた。
「これもいいね! 目がクリクリしてて、かわいい♪」
「かわいいの!?」
我慢できず、ツッコミを入れてしまう。
愛ちゃんの感性、どうなっているの……? それとも、私がおかしいのかな? 時代に乗り遅れているのかな?
「すでに加工であるものもいいですが、自作という手もありますよ」
そう言って、橘さんは透明なスマホケースを持ってきた。100均で売られているような、とても簡素なものだ。
「えー、自作って、なんか面倒なんだけど」
「まあ、手間はかかりますが……その分、自分好みのものが作れますよ。例えば……ほら、こんな風に」
橘さんのスマホケースは……なぜか、私の写真が貼り付けてあった。
しかも、寝顔。
「なにそれ!?」
「この前、隠し撮りしたものです。とてもかわいらしいので、こうして、スマホのケースに加工しました」
「わーわー! それいいなっ、私もそういうのが欲しいっ」
「欲しいですか? 作り方を教えてほしいですか?」
「うんっ、教えてほしい!」
「イヤです♪ 自分でがんばってください」
「うーっ、ケンカ売ってるの! がるるるるるっ」
「冗談です。ちょっとからかっただけなので。駿河さんはライバルですが、それ以前に、風祭くんラブ同盟の仲間。こういうことでならば、いくらでも力になりますよ」
「ありがとう! えっと、それで……私もあーちゃんの寝顔写真が欲しいな。ダメ?」
「んーっ、これはとても貴重なものなので、さすがにタダというわけでは……」
「家に帰れば、あーちゃんの小さい頃の写真があるよ。それと交換でどうかな?」
「ぜひっ!」
「肖像権を侵害しまくるのはやめてくれないかなっ!?」
ショッピングモールに、渾身のツッコミが響き渡るのだった。
――――――――――
愛ちゃんのスマホケースを探すついでに、みんながそれぞれ欲しいものを見て回っていたら、意外と時間を取られてしまった。
ショッピングモール内に設置された時計の針が12時を差す。
「服は後にして、先にお昼にしようか?」
「はい、そうしましょう」
「さんせーい。私、お腹ぺこぺこだよ」
桜とほのかちゃんも賛成してくれたので、みんなでフードコートに向かう。
お昼時だけあって、フードコートは混んでいた。
ハンバーガー、牛丼、ラーメン、サンド……色々なお店があって、たくさんの人が並んで行列を作っている。
「わー、すごい人」
「二手に別れて、席を確保しておいた方がよさそうですね」
「なら、あたしが確保しといてあげる。四人分でいいわよね?」
「さりげなく私を除け者にしないでね?」
「ぽんこツンデレだけでは不安だから、桜も同行しよう。食べ物は葵のチョイスに任せる」
「ぽんこツンデレ!? なにそれっ、あたしのこと!? ねえ、あたしのこと!?」
桜とほのかちゃんが奥に移動した。
「二人はなにが食べたい?」
「うーん、迷いますね。どれもおいしそうですが……せっかくだから、日頃食べないようなものがいいですね」
「チェーン店は除外かな?」
「いえ、チェーン店こそ日頃食べないので、それはそれでアリかと」
「セレブ発言!?」
「私は、ここにしかないようなものがいいな。チェーン店は飽きちゃったよ……あっ、あれがいい!」
愛ちゃんが指差したのは、ハンバーガーショップだった。
といっても、マク○ナルドのようなチェーン店じゃない。一個、1000円近くする本格的なハンバーガーショップだ。
「あっ、すごくおいしそう」
「風祭くんがいいなら、私はそれで構いませんよ」
「いいの? ありがとう。じゃあ、あそこにしようか」
――――――――――
みんなの分を注文して、桜とほのかちゃんが確保してくれた席に移動した。
「はい、桜とほのかちゃんの分だよ」
「うむ、くるしゅうない」
「まあまあ早かったわね。でも、次はもっと早く取ってこれるようにがんばりなさいよ?」
「うん、君たちは何様なのかな?」
ほのかちゃんが、桜の影響を受けすぎているような気がしてならない。今のうちに矯正しておいた方がいいかな……?
「じゃあ、いただきまーすっ!」
愛ちゃんが元気よくいって、ハンバーガーにかぶりついた。
私たちも続いて、ぱくりとハンバーガーを食べる。
「んっ……おいしい!」
パティは厚くて、肉汁があふれるほどだ。チーズはとろとろで、野菜はシャキシャキ。それらを、ふわふわのパンがしっかりと受け止めていて……うん、本当においしい!
「こういうハンバーガーは初めて食べたけど、チェーン店のものとはぜんぜん違うんだね」
「うんうん! チェーン店のハンバーガーがレベル5だとしたら、このハンバーガーは40くらいあるねっ」
「その例え、よくわかんないんだけど……」
「しかし、桜はチェーン店のハンバーガーも嫌いじゃないぞ? あのジャンク感がたまらない」
「あれはあれでクセになっちゃうよね」
楽しくハンバーガーについて語りながら食べていると、ふと、橘さんが私の顔を見た。
「あら。風祭くん、ほっぺにソースがついていますよ?」
「え、と……んっ……とれた?」
「いえ、まだですよ……そのまま、じっとしてくださいね」
橘さんは、いたずらを思いついた子供のような笑みを浮かべた。
そして、そっと顔を寄せてきて……
ぺろっ。
「ひゃあっ!?」
「ふふっ。これで大丈夫ですよ」
「た、橘さんっ。い、今……!?」
「さあ、続きを食べましょう」
橘さんはくすくす笑いながら、何事もなかったように振る舞う。
うー……私だけ意識して、というか、意識させられて、なんか負けたような気分だ。
こんなことされたら……ドキドキしちゃうよ。
「むーっ、むーっ」
リスのようにほっぺを膨らませる愛ちゃん。
そして、なにを思ったか、指で自分の頬にソースをぺとりとつけた。
「あーちゃん、あーちゃん。ソースがついちゃった、とって♪」
「……今、自分でつけたよね?」
「とって♪」
愛ちゃんも、意外とメンタル強いよね。橘さんに匹敵しそう。
私は、テーブルの上に設置された紙ナプキンを……
「それはダーメ。橘さんがしたみたいにして」
「ええっ!?」
「じゃないと不公平だよ。ほらほら、早く♪」
愛ちゃんが頬を差し出してくる。やっぱりやめる、とか、なあなあにして逃げ切る、なんて展開はなさそうだ。
私は覚悟を決めて……
「……れるっ」
そっと、愛ちゃんの頬についたソースを舐めた。
「えへっ、えへへー……あーちゃんに、ぺろぺろってされちゃった♪」
「お願い……すごく恥ずかしいから、わざわざ言わないで……」
たぶん、私の顔は今、りんごみたいに真っ赤になっていると思う。
基本的に、毎日更新していきます。
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