40話 得意技は不法侵入です
カーテンの隙間から、朝日が差し込む。
朝日は私の目元にかかり、視界が白く染まる。目を閉じてもあまり変わらない。
「うぅ、眩しい……」
私はノソノソと動いて、布団にくるまったまま手を伸ばす。そのまま、手探りでカーテンを……
ふにゅん。
「ふあっ」
「うん?」
今、なにか柔らかいものが……?
なぜだろう。最近、よく知っているというか、この感触を何度も味わっているというか……
「これは……えっと?」
「やんっ」
「柔らかくて、ほどよい大きさで……私の手のサイズにぴったり。なんだろう、ずっと触っていたくなるような、病みつきになるような……」
「あーちゃん、朝から大胆だね……でも、いいよ。来て、あーちゃん。私は、ここで初めてを迎えるんだね……きゃっ」
「……えっと」
今、ありえない声が聞こえたような気がした。
……うん、夢だよね。そんなことあるはずがない。夢だ。まだ夢を見ているんだ。
このまま寝ていよう。おやすみなさい。
……でも、その前に、ちょっとだけ目を開けてみる。
「おはよう、あーちゃん」
「やっぱりそうだよね! 私の妄想かと思っちゃった、手遅れになっちゃったのかと思っちゃった! このドキドキ、なんだろう!?」
「恋じゃないかな?」
「違うよ!」
がばっと布団をはねのけて、愛ちゃんをベッドから下ろした。
ホント、いつの間に入りこんできたんだろう……? 音とか気配とか、まったくしなかったんだけど?
それだけ、私が深く眠っていたのか、はたまた、愛ちゃんのステルス性能が高いのか。
橘さんといい愛ちゃんといい、なんで私の布団に入りたがるのかな? みんな、変態として着々とレベルアップしていないかな? 不安だよ。
「なんとなくわかっているんだけど、愛ちゃんがどうしてこの部屋に入れたのかは……」
「篠宮さんが入れてくれたよ。いい子だね」
「やっぱりね……」
そろそろ、真面目に減給を考えておこう。
「愛ちゃん。とりあえず、一度部屋を出てくれる?」
私はベッドから降りて、愛ちゃんに退室を促した。
「なんで?」
「これから着替えるの」
「そうなんだ、わかった!」
愛ちゃんはにっこりと頷いて……
……部屋から出て行こうとしない。
むしろ、手近なイスに座り、じーっとこちらを見つめてきた。
「なにをしているの?」
「あーちゃんの着替えをこの目に焼き付けておこうと思って」
「お願いだから、そういうことはしないで。愛ちゃんは、唯一まともな女の子というか、そういうところを頼りにしていたんだから、桜みたいなおかしな子にならないで。ホント、おねがいします」
「?」
「必死のお願いが通じていない!?」
「好きな人の全部を知りたい、思い出に残しておきたい。そう思うことは、不自然かな?」
「うん。わりといいこと言ってるように聞こえるけど、それが着替えじゃなかったらもっとよかったと思うな」
「あーちゃんの着替えの脳内記録は、大事に使うね」
「なにに使うの!?」
「ナニに」
「そういうの禁止!」
愛ちゃんって、こんな子だったっけ……?
私の中の昔の綺麗な思い出が、ガラガラと崩れていく。
思い出は美化されるって、本当のことだったんだね。
今、身を持って体験しているよ。
「お願いだから、着替えを見るのはやめてほしいな」
「うーん、わかった」
「よかった……」
「じゃあ、着替えを手伝うね!」
「わかってない!?」
この子、桜とある意味同じで、人の話をまったく聞かないよ!
「はい、あーちゃん。じっとしててね」
「あっ……ちょ、ま、まって……はう」
私のパジャマを脱がそうとして、愛ちゃんが目の前に来た。
近い。
近い近い近い。すごく近い。
愛ちゃんの顔が目の前にあって……うわ、こんなに綺麗な顔をしていたんだ。
それに、ほんのりとミルクのような甘い匂いが……
「んっ」
愛ちゃんが、パジャマを脱がそうと、私に触れてくる。
くすぐったいような、気持ちいいような……
そんな、変な感じ。
これ、クセになっちゃいそう……
「こーら。あーちゃん、じっとしてないとダメだよ」
「そ、そんなこと言われても……」
「くすぐったいの? すぐに終わるから、我慢してね」
愛ちゃんは不器用なのか、ボタンを外すのに苦戦しているみたいだ。
ボタンに小さい指を伸ばして、さわさわと……
意識しているのか無意識なのか、指先が絶妙な加減で体に触れて……
まずいから、これ!
「や、やっぱりいいから!」
「えー?」
私はちょっと強引に愛ちゃんを引き離した。
同時に、ふわふわと頭を包んでいたような熱も消える。
あ、危ないところだった……
色々な意味で危なかったよ、私。
「遠慮しないでいいんだよ?」
「いや、それは、ほら……こ、こういうことは自分でやらないと。じゃないと、いつまで経っても成長できないよ? ね、ね? そうでしょう?」
「あ、うーん……そうかもね。あーちゃんの言う通りかも」
「ほっ」
「じゃあ、お着替えを手伝うのはやめにして、私はここで見ているね」
「それもダメだからね!?」
……愛ちゃんの説得に、30分かかってしまうのだった。
こんなに時間が経っているのに桜が来ないところを見ると、この状況をどこかで見て楽しんでいるんだろう。うん、後でおしおき決定。
――――――――――
「愛ちゃん、もういいよ」
「はーい」
私の合図で、愛ちゃんが部屋に入ってきた。着替えている間、申し訳ないけど、廊下で待っていてもらったんだよね。
愛ちゃんは女の子だから、着替えを見られることは、まあ、ちょっと恥ずかしいくらいで済むんだけど……
でも、愛ちゃんは私を『本当の女の子』って勘違いしているからなあ……
そこの部分が引っ掛かって、着替えを見せるのもどうかと思い、廊下で待ってもらった、というわけなんだ。
「そういえば、愛ちゃんはどうしてここに?」
「あーちゃんを起こしに来たんだよ?」
「でも、今日は学校は休みだよ」
今日は祝日。もちろん、学校はない。
愛ちゃんは、そのことを忘れるようなドジっ子だったっけ?
「もしかして、お休みを忘れていた、とか?」
「やだなー、そんなわけないじゃん。私、そんなおバカじゃないよ? あっ、もしかして、あーちゃんはそう思っていたの。ひどーい」
「そういうわけじゃないんだけど……」
「第一、学校に行くつもりなら制服を着ているでしょう? 今の私は?」
あっ、そういえばそうか。
今の愛ちゃんは私服だ。
淡いピンクのネックニットに、チェックのスカート。
『愛ちゃんらしい』感じがする、かわいらしいスタイルだ。
「ねえねえ、あーちゃんは今日時間ある?」
「えっと……うん。特に予定はないけど」
桜のおしおきを考えないといけないけど、そんなに優先することじゃない。
軽く街をふらりとして、本屋を見て行こうかな、なんて考えていたくらいだ。
「ならなら、一緒に遊ぼう! 今日は、あーちゃんと遊びたいんだ」
「あ、そういうことなんだ」
それで、わざわざ私のところに。
納得して、ぽんと手の平を打つ。
「ね? 今日は私と一緒に遊ぼう?」
にっこりと、満面の笑顔で誘われる。
うーん。なんていうか、こう、昔飼っていたわんこを思い出すな。
かまってかまってー、というように、尻尾をぶんぶん振りながら後を追いかけまわしてくる……今の愛ちゃんは、ちょうどそんな感じだ。
「えっと、うーん」
二人だけなんて、ちょっと寂しいよね。
愛ちゃんは、まあ、二人きりになることを望んでいるのかもしれないけど……それは、また今度ということで。
新しい場所で、新しい友達を作ってほしいし……
「じゃあ、せっかくだから、みんなで遊びに行かない?」
基本的に、毎日更新していきます。
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