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04話 ラブレター

 結局、家を出たのは8時5分。


 途中で三回信号に引っかかったけれど、全速力で走ったおかげで、なんとか5分前に学校に到着した。

 ちらほらと他の生徒も見えるから、ここまで来たら焦る必要はない。

 呼吸を整えながら、ゆっくり歩く。


「はあ、はあ、はあ……よかった、間に合って」

「桜の日頃の行いのおかげ。泣いて感謝するがいい」

「なんでそんなに偉そうなの?」

「は? 桜は偉いに決まってるじゃないか」


 何をおかしなことを言っているんだコイツ、みたいな目を向けられた。

 うん、桜こそ何を言っているんだコイツ。


「泣きません」

「では、激怒しながら感謝するがいい」

「どういう状況!?」


 やけに偉そうな桜は、息一つ乱していなかった。

 ここまで一緒に全力疾走してきたはずなのに……うーん、謎だ。


「ふう、朝から疲れた」

「これに懲りたなら、明日から生活態度を改めろ」

「桜は自分の性格を改めようね?」

「さて、今日の時間割は……」


 ジト目で睨むと、桜はサラッとスルーした。

 ピクリとこめかみが震えたけれど、なんとか我慢した。

 偉い、私。


「まったく」


 疲労感を覚えながら、私たちは校舎の中に入った。

 そのまま下駄箱の前に移動して……


「あっ」


 靴を履き替えようとしたところでフリーズした。

 隣にいる桜が不思議そうな顔をする。


「どうした? 下駄箱のかぐわしい匂いに興奮でもしたか? でも、朝からこんなところで発情するのはやめてくれ」

「うん、桜の頭は熱がこもってバグっているのかな?」


 この子は、毒舌を吐き続けないと生きていけないんだろうか? マグロの親戚かな?


「ほら、これ」


 下駄箱の中に一通の手紙が入っていた。

 下駄箱に手紙……実にベタな展開だ。

 この手紙がどういったものなのか、考えるまでもない。


「なるほど」


 隣から私の下駄箱を覗き込んだ桜は、納得したように頷いた。

 同じく、手紙の内容を察したんだろう。


「果たし状か」

「斜め上の思考回路をしているね!?」

「下駄箱に手紙といえば、果たし状が定番だ」

「まあ、ある意味定番だけど……でも、他にもあるでしょう?」

「不幸の手紙か」

「発想が怖いよ!?」

「人気のある男子と付き合いはじめた女子を妬んで、『別れろ』『ブス』『死ね』などの手紙を入れるのはよくあることだ」

「そんなよくあるはいやー!?」

「あれ、違うのか?」

「おかしいっていう自覚症状がない!?」

「なら、ダイレクトメールだな」

「とことん意味不明になった!? っていうか、それ本気で言っているの!?」

「もちろん冗談」

「え?」

「葵をからかってただけだから。気にしないで」

「こ、この子は……」

「サーセン」


 主を主と思わない態度。本当に、桜は私の侍女なんだろうか?

 たまに、真剣に悩む時がある。


「それにしても……はあ、また告白か」


 ちょっと憂鬱。

 贅沢な悩みって思われるかもしれないけど、告白されるのは苦手だ。

 できることなら、なにも見なかったことにしたい。


 でも……そういうわけにもいかないよね。

 その気がなくても、ちゃんと返事をするのが筋だろう。


「その手紙はどうするつもりだ? 扱いに困るなら、無視するのも一つの手かと。あるいは、目の前で燃やすという選択肢もあるぞ」

「どうしてそういうひどい発想が出てくるの?」

「葵の思考をトレースしただけだ」

「責任をなすりつけられた!?」

「おっとすまない。葵なら高笑いしながら燃やして、燃えカスを踏みにじるな。思考を完璧にトレースできていなかったようだ」

「私をどれだけひどい人にしたいの!?」

「単にからかっているだけだ。本気にするな」


 この子殴りたい。


「まったく……とにかく、無視なんてしないよ、ちゃんと返事をしてくるから」

「いつ?」

「えっと……なるべく早い方がいいと思うから、今日の放課後かな」


 軽く手紙を見ると、放課後に会いたいと書いてあるから、ちょうどいい。


「一人で大丈夫か? 一緒についていくか? 一回につき5000円だぞ?」

「とことん図々しいわね、桜は」

「それが桜の持ち味だ」


 誇らしげに言う桜。

 いや、ハッキリいってマイナスポイントだと思うけど……

 まあ、本人がそれでいいなら、いいんだけどね。


「私一人で大丈夫だよ。桜は先に帰っていいからね」

「オッケー」


 話が一段落したところで、ラブレターを鞄の中にしまい、上履きに履き替えた。

 はてさて、どうなることやら。


基本的に、毎日更新していきます。

気に入っていただけましたら、ブクマや評価などをどうぞよろしくお願いします!

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