39話 大事なことを言い忘れると、大体、厄介なことになる
尿意が限界に近づいていたので、ひとまず、トイレを先に済ませて……
それから、改めて話を再開する。
場所を中庭に移して、愛ちゃんに問いかけた。
「私が女の子、って……どういうこと?」
愛ちゃんは、なにを言っているのか理解できないというように、不思議そうな顔をした。
「ん? どうもこうも、あーちゃんは女の子だよね? どうしたの、いきなり? 変な夢でも見て、混乱しているの?」
「え、いや、でも……あれ?」
女の子、って言われることは普通にうれしい。
私は、常にそうありたい、って思っていたし……女の子にしか見えないくらい、きちんと『女の子』をしている、っていうことだよね?
うん、それはうれしい。
うれしいんだけど……なんか、すごい複雑です。
「えっと……でも、私、男の子だよ……?」
「あははっ」
「一笑された!?」
「今日のあーちゃん、ギャグが冴えているね。おもしろいよ。橘くん、座布団一枚持ってきて」
「誰が座布団運びですか!」
「なら、篠宮くん。座布団持ってきて」
「座布団は持ってないが、そろばん板ならあるぞ。使うか?」
「なんでそんなもの持っているの!?」
そろばん板っていうのは、昔に使われた拷問器具だ。
三角形の木を並べたもので、罪人などをその上に正座させて、さらに足の上に置く……っていう、想像するだけで足が痛くなりそうな怖い道具。時代劇なんかで、たまに見かけることがあると思う。
「葵を起こす時に使えないかと思い、この前、アマ○ンで取り寄せておいた」
「アマ○ンはそんなものを取り扱っているの!?」
「ちなみに、売り上げランキングは、総合で7位だ」
「すごい人気! 世の中、色々とおかしいよ!?」
って、いけないいけない。また話が脱線しちゃった。
こほんと咳払い。
それから、改めて愛ちゃんと話をする。
「あのね、ギャグとか冗談じゃなくて、私は男の子なんだよ? 忘れちゃった?」
「もー、まだそんなことを言うの? 私をからかいたいの? それとも、本当に悪い夢でも見ちゃった?」
「いや、だから、本当に私は……」
「エイプリルフールはもう過ぎたよ。騙されたりなんかしないよ? あーちゃんは、立派な女の子じゃない」
あれぇー? どうしてこうなった?
「……風祭くん、これはどういうことなんですか?」
「えっと……」
なぜかわからないけど、愛ちゃんは、私を本当の女の子と思っているらしい。
なんで、そんなことに?
考える。考える。考える。
原因を探るため、色々な記憶を探る。過去の記憶も掘り返してみる。
「……あっ」
「なにか心当たりが?」
「えっと……橘さんは、私が小さい頃から女の子の格好をしていたこと、知っているよね?」
「はい。私と初めて出会った時も、かわいらしい姿をしていましたね」
「だから、愛ちゃんと遊んでいた時も女の子の格好をしていたんだけど……なんていうか、その……私が本当は男の子だって、教えたことないんだよね」
つまり、私のせいだった。
小さい頃に出会った女の子=私という認識が今に続いていて……
私が男の子、なんていう情報はまだインプットされていないんだよね。
橘さんも、似たような状況だけど……
転校する前に私のことを聞かされていたみたいだし、あの告白まで一ヶ月のタイムラグがあったから、私が女装していることは自然と知ったんだろう。
「……これ、どうしたらいいと思う?」
「……ライバルに塩を送るような真似はしたくありませんが、やはり、本当のことを教えるべきではないかと。女の子と勘違いしたままだと、風祭くんの前で駿河さんが着替えをしたりするようなこともあるかもしれませんし、それは許せません」
「……私怨が混じっているみたいけど……うん、そうだよね」
愛ちゃんが私のことを勘違いしているなら、ちゃんと正してあげないと。
……でも、私が女装してて、本当は男と知ったら、愛ちゃんはどんな反応をするんだろう?
受け入れてくれる? それとも……
「葵」
ぽんっと、桜に軽く背中を押された。
「ぐだぐだ考えてないで、やることはやれ。情けないぞ」
「……もう。時々、侍女らしいことをするんだから。そういうところ、反則だよ」
「惚れ直したか?」
「惚れてはいないけど、お給料アップしてあげる」
「桜が惚れた!」
はいはいと適当に桜をあしらいながら、愛ちゃんのところに戻る。
真面目な顔をして、真剣に言葉を紡ぐ。
「あのね……聞いて、愛ちゃん」
「なに?」
「これは冗談でも私の勘違いでもなくて……私は、本当に男の子なの。ウソなんてついていないよ、本当のことなの」
「もう、さっきから、どうしてそんなことを言うの? あーちゃんは、こんなにかわいい女の子じゃない」
かわいい……えへへ、うれしいな♪
って、喜んでる場合じゃない、私!
「えっと、本当なんだよ? ウソじゃないんだよ?」
「あ、わかった。そういう遊びなんでしょ? 私のことをからかって……ドッキリ? カメラはどこ?」
うーん、ダメだ。ぜんぜん信じてくれない。
かくなる上は……
「愛ちゃん、ちょっとごめんね」
愛ちゃんの手を取る。
そして、その手を……
「え、えいっ」
私の胸に当てた。
まったく膨らんでいない、平な私の胸を触れば、さすがに愛ちゃんも理解するだろう。なにしろ、大草原のようになにもなくて、断崖絶壁なのだから。
……自分で言っていて、悲しくなってきちゃった。
「わっ、わわわっ」
「わかった? これが、本当の私なんだよ」
「あ、あーちゃん。いきなり、おっぱいを触らせるなんて……あうあう、さすがに恥ずかしいよ。こ、ここでしちゃうの? 初めてはベッドがいいけど……う、うん。あーちゃんが外がいいっていうなら、私はいいよ……来て」
「なんの話!?」
「私とあーちゃんの初体験だよ?」
「話が斜め上どころか、異次元の方向に跳んでいるよ!?」
ここまでしたのに、愛ちゃんはまったく気づいてくれない。
この子、なんて鈍感なんだろう!
「葵。こうなったら、最終手段だ」
「え、どうするの?」
「スカートとパンツを脱げ。そうしたら、一目で……」
「できるわけないでしょうっ!!!」
全力で拒否した。
確かに、葵の言うとおりにすれば、さすがの愛ちゃんも理解するだろうけど……
でもでも、人前でそんなことできるわけないじゃない。まして、外でなんて。
「駿河さんに理解してもらうのは、今は諦めるしかないのでしょうか?」
「うーん、そうかも」
「あら? 今、気がついたのですが……駿河さん」
「うん、なーに?」
「風祭くんのことを女の子と思っていて……それでも好きということは……駿河さんは、女の子が好きな人なのですか?」
あ、そっか。
愛ちゃんが私の性別を勘違いしているなら、そういうことになる。
果たして、答えは?
「うーん、ちょっと違うかな」
肯定も否定もせず、そんな返事を口にした。
「女の子がいいとか、そういうことは考えてないよ。私は、あーちゃんだから好きになったの」
「他の女の子を好きになることは?」
「わからないけど、ないんじゃないかな? こんな気持ちになったの、あーちゃん以外にいないし。私が好きなのは、あーちゃんだけ♪ あーちゃんのことが大好きなの」
そんなに一途に慕われると、ちょっと照れてしまう。
「では、もしも、風祭くんが男だとしたら?」
「あーちゃんは女の子だよ?」
「仮定の話ですから」
「そんなこと言われても、あーちゃんは女の子だもん」
ふと、違和感を覚えた。
愛ちゃんは、私が本当は男の子だということに気づいていないわけじゃなくて……
『認めたくない』のでは?
なぜか、そんなことを思った。
「うーん、これはお手上げですね。駿河さんの考えを変えさせることは、なかなかに難しそうです」
「葵、どうするつもりだ?」
「えっと……しばらくは、このままでいいんじゃないかな?」
「放置しておくのか? 騙したままにする、と?」
「人聞きの悪いことを言わないで。良いタイミングがあれば、ちゃんと説明するよ? でも、そんなチャンスはなさそうだから……今は、このままでいいかな、って」
「……逃げてるわけじゃないだろうな?」
「違う……と思うよ」
本当のことを知られて、愛ちゃんがどういう反応をするか?
嫌われてしまわないだろうか?
そのことを考えると、怖い。
でも、だからといって、大事な幼馴染を騙すようなことはしたくない。
「これだけ説明してもダメなら、様子を見るしかないでしょう?」
「……まあ、そうだな。葵の決定だ、渋々、従うことにしよう」
「渋々じゃなくて、普通に従ってね?」
……これは、単なる勘なんだけど。
私が本当は男の子だっていうことは、今はまだ、愛ちゃんに教えない方がいいような気がするんだよね。
教えたら、愛ちゃんになにか大変なことが起きてしまうような……そんな、イヤな予感がするんだ。
基本的に、毎日更新していきます。
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