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38話 放課後の学校案内は鉄板だよね

「風祭くん、一緒に帰りましょう」

「あーちゃん、一緒にかえろっ」


 ……悪い夢じゃなかった。ぐすん。


「どうしました?」

「お腹でも痛いの?」

「ううん、なんでもないよ……」


 放課後になり、二人に誘われた。

 これ、どうすればいいんだろう……?


 片方を選んだら、片方の機嫌が……

 まさか、こんなリア充的イベントに遭遇することになるなんて。


「ねえねえ、駿河さん。これから時間ある?」

「よかったら、学校を案内してあげようか?」


 男子が二人、にこにこと笑顔を浮かべて突撃してきた。

 すごくわかりやすい顔をしている。まったく、これだから男の子は。


「えっ、あの、その……」


 愛ちゃんが、しどろもどろになる。

 って、あれ? なんか様子がおかしい。受けるにしても断るにしても、普通に、ハッキリと言う性格をしていると思うんだけど……?


 愛ちゃんはあたふたとして……僕の顔を見ると、なぜか落ち着いた様子で、そっと肩を寄せてくる。


「ごめんね。案内はあーちゃんにお願いしてあるんだ」

「くうううっ、またしても風祭、お前かっ。橘さんだけじゃなくて、転校生まで自分のものにしてしまうなんて!」

「風祭と美少女転校生……うん、これもアリだな」


 一人、変なことを言っていたような気がするけど……

 男子二人は諦めた様子で、そのまま帰っていった。


 それにしても……


「……ふぅ」


 あーちゃん、私の方に逃げてきたような気がするんだけど……うーん?


「と、いうわけで。あーちゃん、学校を案内して♪」

「風祭くんは私と一緒に家に帰り、そのまま部屋に連れ込んで、ベッドで情熱的な時間を過ごす予定なのですが?」

「うん、それは予定じゃなくて妄想だよね?」

「風祭くん、いけずです。私と駿河さん、どちらの味方なんですか?」


 強いて言うなら、私は私の味方でありたい。

 だって、周囲がみんな敵なんだもの。


「まあまあ、そう言わないで。愛ちゃんは、この学校のことをよく知らないだろうから、案内は必要だろうし……優しい橘さんなら、きっと手伝ってくれるよね?」

「やるな、葵。たらしテクニックが上達してきたぞ」

「はいそこ、黙って」

「むぅ……仕方ありませんね。確かに、学校のことを知らないと困るでしょうし……そうと知りながら放っておくなんて、ひどいですし……わかりました。先に、駿河さんの学校案内を優先することにします」


 今、『先に』って言った? 後で一緒に帰ることは確定なの?


「別に、私はあーちゃんだけいればいいんだけどなー」

「こーら」

「ふにゃんっ!?」


 ぽか、と愛ちゃんのかわいいおでこにチョップ。


「ふぇ……あーちゃんがぶったぁ……」

「私に言われたとはいえ、それでも、橘さんは善意で学校を案内してくれようとしているんだよ? それなのに、愛ちゃんのその態度はいけないと思うな。私、間違ったことを言っているかな?」

「うっ……そ、それは、その……」

「愛ちゃんは、素直になれる良い子だよね?」


 うー、と唸ってから……少しして、愛ちゃんは橘さんの方を向いた。


「えっと……その……案内、おねがい」

「はい、承りました」

「うん……ありがと」


 出会った時から、ギスギスしていた二人だけど……

 今は、ちょっとだけ柔らかくなったような気がした。


 学園のアイドルという立場のせいか、橘さんは、同性の親しい友だちが少ないみたいだし……

 愛ちゃんは転校してきたばかりだから、私以外の人はみんな知らないし……


 二人が仲良くなると、ちょうどいいような気がするんだよね。


「ほほう。橘と駿河を手懐けるか……普段から、そういう風にうまく立ち回ることができれば苦労をしないものを」

「私が普段苦労しているのは、9割方桜のせいだからね?」

「え? 今なんて?」


 ラブコメの鈍感主人公みたいに聞き返された。

 この子を本気でグーパンしても怒られないと思うんだけど、どうかな?




――――――――――




 食堂、中庭、図書室……

 愛ちゃんのために、学校の色々なところを案内した。


 桜が、カップルが逢引で使う、普段は立入禁止の屋上を案内しようとしたり……

 橘さんが、これまたカップルで逢引で使う、旧体育倉庫を案内しようとしたり……


 些細なトラブル(?)があったけど、ほどなくして案内は終わった。




――――――――――




 一通り校内を回り、私たちは教室の前に戻ってきた。


「と、こんな感じかな? どう、愛ちゃん。だいたいのところはわかった?」

「うん。ちょっとあやふやなところもあるけど、覚えたよ。屋上と旧体育倉庫の場所はバッチリ!」

「なんでそこは完璧なの!?」

「だってだって、すっごく大事な場所じゃない? ぽっ」

「なんで頬を染めているの!?」

「いつか、あーちゃんと……でもでも、やっぱり最初はベッドの上がいいな」


 うん、二度目はツッコミは入れないからね? スルーするからね?


「それじゃあ、そろそろ帰りましょうか」


 橘さんの言葉に、みんな、窓の外を見る。

 太陽がゆっくりと沈み始めていて、空が赤く染まっていた。


 今は春……を、ちょっと過ぎたくらい。まだ、夏のように日の出は長くない。のんびりしていたら、あっという間に暗くなってしまう。

 この街は治安は良い方だけど、それでも、夜の一人歩きは怖いからね。そんなことにならないように、急いだ方がいいかも。


 ……なんてことを思うんだけど、タイミングの悪いことに、トイレに行きたくなってしまう。


「ごめんね。私、ちょっとトイレに」

「大きい方か? 消臭スプレー、持っているか?」

「小さい方です! って、変なこと言わせないで!?」

「葵が自爆しただけだ。くくく」


 この子、いつかぎゃふんと言わせてやる。


「ぎゃふん」

「心を読まれた!? そして、アッサリと言った!?」

「葵はわかりやすい顔をしているからな」

「それ、本当に表情で見極めているの? 実は、心を読めたりしない?」

「そんな能力があるなら、能力を最大限に活用して、桜は新世界の神になっているぞ」


 この子なら、本当になりそうで怖い。


 って、コントをしている場合じゃない。

 私は、そそくさと男子トイレに向かう。


 女装は公認されているんだけど、さすがにトイレは男の子の方を利用している。もちろん、個室の方を使っているよ?

 クラスの女子たちは、「同じでいいんじゃない?」って言ってくれるけど、さすがに申し訳ない。


 それに……私も、ちょっとだけど、変な風に意識しちゃうから。


「あーちゃん、あーちゃん。私も一緒に行く」

「え? でも、一緒はできないよ」

「なんで? 恥ずかしいの?」

「いや、恥ずかしいとかそういう問題じゃなくて……私は、男の子の方を使わないと」

「え? 意味がわからないんだけど? あーちゃん、男子トイレを利用して興奮する趣味でもあるの?」

「とんでもない言いがかりをつけられた!?」

「いつもここで男の子が用を足して、はぁはぁ……って、鼻血を流しながら妄想しているの?」

「詳しい状況説明までされた!?」

「大丈夫だよ。あーちゃんがどんな趣味を持っていても、私は受け入れてあげるからね」

「ありがとう……って、違うからね!? 私、そんな趣味は持っていないからね!? なんでみんな、私を変態にしたがるのかなぁ!?」

「じゃあ、どうして?」

「どうしてもなにも……ほら、私が女子トイレに入ると、さすがにまずいじゃない?」

「私は気にしませんが」

「桜も気にしないぞ」


 二人は、少しは羞恥心を持ってくれないかな?


「ちょっと、っていうのも変だけど、問題があるでしょ? あーちゃんが一緒だと、なおさらいけないよ」

「なんで? 問題なんてなくない? 女の子同士なんだから」

「え?」

「え?」


 互いに、きょとんとした。


「えっと……愛ちゃん。私、本当は男の子っていうこと、忘れてる?」

「なに言ってるの」


 おかしなこと言わないで、とばかりに愛ちゃんは笑う。

 そして、真面目に言った。


「あーちゃんは、女の子じゃない」

基本的に、毎日更新していきます。

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