表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/88

36話 転校生は幼馴染

 慌ただしい朝は過ぎて……

 いつものように、私たちは登校した。


「風祭くん、今日はお昼を一緒にしませんか? 私、風祭くんのためにお弁当を作ってきたんです。たくさん練習したので、きっとお口に合うかと。よければ、中庭で二人きりで……ぽっ」

「お姉ちゃんっ、お姉ちゃんっ。風祭は一人で寂しくぼっち飯をするそうだから、お姉ちゃんの素敵な弁当はいらないってさ。だから、代わりにあたしがもらってあげる! じゅるり」

「あー、今日も学校ですかー。ちょーだるいです。だるさMAXコー○ーです。サボっていいですか? 桜、今日は学校の気分じゃありません。今は、バ○ルフィールドの気分です」


 ……訂正。

 以前と比べると、かなり騒々しくなっていた。


 私の『いつも』はどこにいっちゃったのかな? ……ぐすん。


 過去を儚く振り返っていると、予鈴が鳴った。


「あっ、そろそろ行かないと。遅刻しちゃうわ」


 もう下駄箱だから、わざわざ走る必要はない。

 でも、一年生のほのかちゃんは、教室が三階にあるんだよね。だから、ちょっとだけ急がないと、下手をしたら遅れちゃう。


 ちなみに、三年生は一階。

 上級生になるほど優しく、下級生には厳しい学校なんだよね、ここ。


「お姉ちゃんと離れたくないけど……くっ、遅刻するわけにはいかないし」

「またね、ほのかちゃん」

「お姉ちゃん、また後で。そこの、へんてこメイドもまたね」


 ほのかちゃんは、橘さんには天使のような笑顔を、桜には普通の笑顔をそれぞれ向けて、階段を昇っていった。

 私? 私はもちろんスルーだよ。


 ……ちょっと悲しい。

 ほのかちゃん、ちょっとツンデレすぎないかな? そろそろデレてもいいんだよ?


「おはよう」


 橘さんと桜と一緒に、教室に入る。

 クラスメイトたちと挨拶を交わしながら、自分の席に着いた。


「おはよう、風祭くん」

「うん、おはよう」


 隣の席の園田さんに挨拶をされた。

 笑顔で、おはようを返す。


「ねえねえ、聞いた?」

「うん? なんのこと?」

「その様子じゃあ、まだ知らないんだね。ふっふっふ、聞いて驚きなさい! なんと、転校生が来るのっ」

「え? 転校生が? ホントに?」

「うんうん。さっき、ちょっと用事があって職員室に行ってたんだけど、そこで聞いた話だから間違いないよ」


 一ヶ月前に、橘さんが転校してきたばかりなのに……

 偶然って重なるものだね。


「その転校生は女か? 男か?」


 いつの間にか、当たり前のような顔をして、桜が会話に混じっていた。


「たぶん、女の子かな? ちらっと姿が見えたんだけど、髪が長かったから」

「女の子ですか……要注意ですね。風祭くんが、たぶらかされないようにしないといけません」

「私は女の子だから、その気はないよ……っていうか、橘さんもさらりと会話に加わらないでね? 気配も殺して、二人は忍者なのかな?」

「にんにん♪」


 ちょっとかわいいと思ってしまった。


「っと、本鈴ですね。では、また」


 キーンコーンカーンコーンと本鈴が鳴り、みんな、自分の席に戻る。

 ほどなくして、担任の先生が教室に入ってきた。


「はーい。みなさん、おはようございます。みんな揃っていますかー? いない人は手を挙げてくださいねー。って、挙げられるわけないですよね、ふふふっ」


 この微妙に寒いギャグをかますのは、担任の大野優子先生だ。

 正確なところはわからないけど、まだ若く、たぶん、二十代。


 年齢のせいか。それとも、その気さくな性格なせいか、私を含めて、たくさんの生徒に慕われている。


「今日は、なんと、ビッグニュースがあるんですよー」


 ショートホームルームで、簡単な連絡をした後、優子先生が笑顔でそう言った。

 なんだか、とっておきの秘密を隠している子供みたいな顔をしている。

 こういうところが親近感あって、いいんだよね。


「先月の橘さんに続いて、二人目のお友だちが増えることになりましたー。わー、ぱちぱち。みんなー、拍手拍手」


 ノリの良いクラスメイトたちは、揃って拍手した。


「気になる転校生の性別は……女の子です!」


 男子のテンションが一斉に高くなった。

 そんな男子を見て、女子は、うわー、ってなった。


「それじゃあ、駿河さん、中へどうぞー」


 先生が、教室の外に向かって声をかけた。


 ……ん? 駿河?

 なにか、聞き覚えがあるような……?


 怪訝に思っている間に、扉が開いて、転校生が壇上に登る。


「えっと……こんにちは、駿河愛です」


 ぴょこんと、横に飛び出たサイドポニー。

 にっこりと、愛嬌のある笑顔。

 綺麗というよりはかわいいという感じで、親しみやすさを感じる。


 すごくかわいい女の子だ。

 クラス全員、ほぉー、と見惚れてしまう。


「昔、この街で暮らしていたことがあるんですけど、小さい頃に引っ越しちゃって……で、両親の仕事の都合で、また戻ってきました。ホントに久しぶりだから、色々変わってて驚いています。わからないことも多いから、色々と教えてくれるとうれしいな。よろしくおねがいします」


 かわいい、そして、礼儀正しい。

 完璧な美少女転校生に、クラスの男子のテンションは最高潮だ。大歓声をあげて、駿河さんを迎える。


「っ」


 ん? 今、駿河さんの顔が……?

 なんていうか、一瞬、怯えたように見えたんだけど……なんで? 気のせいかな?


「かわいいね」

「うん、なんか、小動物っぽい」


 一方の女子は、まあ、普通だ。

 大歓迎というわけでもなく、拒否するわけでもなく、ぱちぱちと、拍手をするくらい。

 まあ、こんなものだよね。もしも、転校生が格好いい男の子だったら、立場は逆になっていたと思うし。


「はい、挨拶ありがとうね。よくできました、良い挨拶ですよ。うんうん」

「ありがとうございます」

「じゃあ、駿河さんの席は……」

「先生! 私、あそこが良いですっ」


 そう言って、駿河さんが指差したのは……


「え? ここ?」


 私の後ろの席だった。


「あら? そんなに後ろでいいのかしら? 黒板、ちゃんと見える?」

「はいっ。私、視力は両方5・0なので!」


 人類のレベルを超えている!?


「あらあら。それなら問題ないわね」


 納得しちゃった!?


「じゃあ、駿河さんの席は、風祭くんの後ろで」

「はいっ」


 とことこと、駿河さんがこちらに歩いてくる。

 気のせいか、その視線は私の方に向いている。


「じーっ」


 いや、気のせいなんかじゃないよ、これ。

 私、明らかに見られているんだけど……


「じぃいいいーーーっ」


 駿河さんは私の隣に来たところで足を止めて、じっとこちらを見つめた。


 え? なになに? どういうこと?

 なんで、こんなに見つめられているの?


「こんにちは」


 私が戸惑っていると、駿河さんはにっこりと笑った。

 見ている人が気持ちよくなるような、元気な笑顔だ。


「こ、こんにちは?」

「やっと会えたね、あーちゃん♪」

「え?」


 今、なんて?


 そう問い返すよりも先に……


「私、帰ってきたよ。あーちゃんのために、この街に帰ってきたよ」


 そっと、駿河さんは顔を寄せて……


「ちゅっ」

「っ!?!?!?」


 唇に触れる柔らかい感触。

 二度目の……キス。


「同じクラスになるなんて、やっぱり、私たち、運命で結ばれているんだね! うれしいな、すごくうれしいな」


 駿河さんはそう言って、無邪気な笑顔を浮かべた。

 その笑顔は、見覚えのあるもので……


「……愛ちゃん?」

「うんっ、あなたの愛ちゃんだよ!」


 昔と同じように、愛ちゃんはにっこりと笑った。

基本的に、毎日更新していきます。

気に入っていただけましたら、ブクマや評価などをどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ