36話 転校生は幼馴染
慌ただしい朝は過ぎて……
いつものように、私たちは登校した。
「風祭くん、今日はお昼を一緒にしませんか? 私、風祭くんのためにお弁当を作ってきたんです。たくさん練習したので、きっとお口に合うかと。よければ、中庭で二人きりで……ぽっ」
「お姉ちゃんっ、お姉ちゃんっ。風祭は一人で寂しくぼっち飯をするそうだから、お姉ちゃんの素敵な弁当はいらないってさ。だから、代わりにあたしがもらってあげる! じゅるり」
「あー、今日も学校ですかー。ちょーだるいです。だるさMAXコー○ーです。サボっていいですか? 桜、今日は学校の気分じゃありません。今は、バ○ルフィールドの気分です」
……訂正。
以前と比べると、かなり騒々しくなっていた。
私の『いつも』はどこにいっちゃったのかな? ……ぐすん。
過去を儚く振り返っていると、予鈴が鳴った。
「あっ、そろそろ行かないと。遅刻しちゃうわ」
もう下駄箱だから、わざわざ走る必要はない。
でも、一年生のほのかちゃんは、教室が三階にあるんだよね。だから、ちょっとだけ急がないと、下手をしたら遅れちゃう。
ちなみに、三年生は一階。
上級生になるほど優しく、下級生には厳しい学校なんだよね、ここ。
「お姉ちゃんと離れたくないけど……くっ、遅刻するわけにはいかないし」
「またね、ほのかちゃん」
「お姉ちゃん、また後で。そこの、へんてこメイドもまたね」
ほのかちゃんは、橘さんには天使のような笑顔を、桜には普通の笑顔をそれぞれ向けて、階段を昇っていった。
私? 私はもちろんスルーだよ。
……ちょっと悲しい。
ほのかちゃん、ちょっとツンデレすぎないかな? そろそろデレてもいいんだよ?
「おはよう」
橘さんと桜と一緒に、教室に入る。
クラスメイトたちと挨拶を交わしながら、自分の席に着いた。
「おはよう、風祭くん」
「うん、おはよう」
隣の席の園田さんに挨拶をされた。
笑顔で、おはようを返す。
「ねえねえ、聞いた?」
「うん? なんのこと?」
「その様子じゃあ、まだ知らないんだね。ふっふっふ、聞いて驚きなさい! なんと、転校生が来るのっ」
「え? 転校生が? ホントに?」
「うんうん。さっき、ちょっと用事があって職員室に行ってたんだけど、そこで聞いた話だから間違いないよ」
一ヶ月前に、橘さんが転校してきたばかりなのに……
偶然って重なるものだね。
「その転校生は女か? 男か?」
いつの間にか、当たり前のような顔をして、桜が会話に混じっていた。
「たぶん、女の子かな? ちらっと姿が見えたんだけど、髪が長かったから」
「女の子ですか……要注意ですね。風祭くんが、たぶらかされないようにしないといけません」
「私は女の子だから、その気はないよ……っていうか、橘さんもさらりと会話に加わらないでね? 気配も殺して、二人は忍者なのかな?」
「にんにん♪」
ちょっとかわいいと思ってしまった。
「っと、本鈴ですね。では、また」
キーンコーンカーンコーンと本鈴が鳴り、みんな、自分の席に戻る。
ほどなくして、担任の先生が教室に入ってきた。
「はーい。みなさん、おはようございます。みんな揃っていますかー? いない人は手を挙げてくださいねー。って、挙げられるわけないですよね、ふふふっ」
この微妙に寒いギャグをかますのは、担任の大野優子先生だ。
正確なところはわからないけど、まだ若く、たぶん、二十代。
年齢のせいか。それとも、その気さくな性格なせいか、私を含めて、たくさんの生徒に慕われている。
「今日は、なんと、ビッグニュースがあるんですよー」
ショートホームルームで、簡単な連絡をした後、優子先生が笑顔でそう言った。
なんだか、とっておきの秘密を隠している子供みたいな顔をしている。
こういうところが親近感あって、いいんだよね。
「先月の橘さんに続いて、二人目のお友だちが増えることになりましたー。わー、ぱちぱち。みんなー、拍手拍手」
ノリの良いクラスメイトたちは、揃って拍手した。
「気になる転校生の性別は……女の子です!」
男子のテンションが一斉に高くなった。
そんな男子を見て、女子は、うわー、ってなった。
「それじゃあ、駿河さん、中へどうぞー」
先生が、教室の外に向かって声をかけた。
……ん? 駿河?
なにか、聞き覚えがあるような……?
怪訝に思っている間に、扉が開いて、転校生が壇上に登る。
「えっと……こんにちは、駿河愛です」
ぴょこんと、横に飛び出たサイドポニー。
にっこりと、愛嬌のある笑顔。
綺麗というよりはかわいいという感じで、親しみやすさを感じる。
すごくかわいい女の子だ。
クラス全員、ほぉー、と見惚れてしまう。
「昔、この街で暮らしていたことがあるんですけど、小さい頃に引っ越しちゃって……で、両親の仕事の都合で、また戻ってきました。ホントに久しぶりだから、色々変わってて驚いています。わからないことも多いから、色々と教えてくれるとうれしいな。よろしくおねがいします」
かわいい、そして、礼儀正しい。
完璧な美少女転校生に、クラスの男子のテンションは最高潮だ。大歓声をあげて、駿河さんを迎える。
「っ」
ん? 今、駿河さんの顔が……?
なんていうか、一瞬、怯えたように見えたんだけど……なんで? 気のせいかな?
「かわいいね」
「うん、なんか、小動物っぽい」
一方の女子は、まあ、普通だ。
大歓迎というわけでもなく、拒否するわけでもなく、ぱちぱちと、拍手をするくらい。
まあ、こんなものだよね。もしも、転校生が格好いい男の子だったら、立場は逆になっていたと思うし。
「はい、挨拶ありがとうね。よくできました、良い挨拶ですよ。うんうん」
「ありがとうございます」
「じゃあ、駿河さんの席は……」
「先生! 私、あそこが良いですっ」
そう言って、駿河さんが指差したのは……
「え? ここ?」
私の後ろの席だった。
「あら? そんなに後ろでいいのかしら? 黒板、ちゃんと見える?」
「はいっ。私、視力は両方5・0なので!」
人類のレベルを超えている!?
「あらあら。それなら問題ないわね」
納得しちゃった!?
「じゃあ、駿河さんの席は、風祭くんの後ろで」
「はいっ」
とことこと、駿河さんがこちらに歩いてくる。
気のせいか、その視線は私の方に向いている。
「じーっ」
いや、気のせいなんかじゃないよ、これ。
私、明らかに見られているんだけど……
「じぃいいいーーーっ」
駿河さんは私の隣に来たところで足を止めて、じっとこちらを見つめた。
え? なになに? どういうこと?
なんで、こんなに見つめられているの?
「こんにちは」
私が戸惑っていると、駿河さんはにっこりと笑った。
見ている人が気持ちよくなるような、元気な笑顔だ。
「こ、こんにちは?」
「やっと会えたね、あーちゃん♪」
「え?」
今、なんて?
そう問い返すよりも先に……
「私、帰ってきたよ。あーちゃんのために、この街に帰ってきたよ」
そっと、駿河さんは顔を寄せて……
「ちゅっ」
「っ!?!?!?」
唇に触れる柔らかい感触。
二度目の……キス。
「同じクラスになるなんて、やっぱり、私たち、運命で結ばれているんだね! うれしいな、すごくうれしいな」
駿河さんはそう言って、無邪気な笑顔を浮かべた。
その笑顔は、見覚えのあるもので……
「……愛ちゃん?」
「うんっ、あなたの愛ちゃんだよ!」
昔と同じように、愛ちゃんはにっこりと笑った。
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