23話 デート
気軽に楽しく遊ぶならゲームセンターがいい。
そんな桜のアドバイスに従い、私たちはゲームセンターにやってきた。中に入ると、賑やかな音楽を放つ色々なゲームに迎えられた。
橘さんが顔を輝かせる。
「色々なゲームがあって、目移りしてしまいますね……どれから遊びましょうか?」
「……」
「風祭くん?」
「ご、ごめんね、ちょっとぼうっとしてた」
ちらっと、後ろを振り返る。
少し離れたところに、私たちを監視しているほのかちゃん。
さらにその後方に、怪しい格好をした桜。
この二人に見張られているせいで、落ち着かないことこの上ない。こんな状況でデートを素直に楽しむことができるのかな……?
「風祭くん」
ぷくーっと頬を膨らませて、橘さんが拗ねるような声を出した。
「今はデートの最中なんですから、他の女の子を見るのは禁止です。私以外、誰も見ないでください」
「ご、ごめんね。でも、誰も見ないのは、さすがに難しいような」
「目をつむれば問題ありません」
「歩けないんだけど……」
「私に掴まってください。ぎゅう、って」
「見るくらいは我慢してね」
「むぅ……いけずです」
意外だ。橘さんって、ちょっと嫉妬深いみたいだ。
でも、橘さんの言うとおりだよね。デートの最中に他の女の子に気をとられていたら、相手はおもしろくないと思う。
ほのかちゃんと桜のことは、できるだけ気にしないようにしないと。
「それじゃあ、改めて……これからどうしますか?」
「うーん」
どうしよう?
ここは、定番のクレーンゲームから攻めてみようか?
それとも、レースゲームで対戦してみようか?
あるいは、もぐら叩きとかちょっとレトロ感漂うゲームにチャレンジしてみるのも面白いかもしれない。
「風祭くん」
くいくい、っと服を引っ張られた。
「どうしたの? なにか気になるゲームがあった?」
「私、あれをやってみたいです」
橘さんの視線の先には、相性占いのゲーム機があった。
「相性占いかあ」
懐かしいなあ。小さい頃、友達とよく一緒にやったっけ。意外と占い結果が当たっていることがあって、一喜一憂したのを覚えている。
「うん、それじゃあ、あれにしようね」
さっそくコインを投入する。
派手な音楽と共にゲームがスタートして、占いの内容を決める選択画面が表示される。
「友情診断、恋愛診断、相棒診断、絆診断、BL診断……色々な内容があるんですね」
「なんか、一つおかしな項目が混じっていたような……」
「もちろん、私たちはコレですね」
橘さんは迷うことなく『恋愛診断』を選択した。画面が変わり、名前、誕生日、血液型の入力を求められる。
「風祭葵……と」
全て入力すると、説明が表示された。
どうやら、五つの質問に答えて、その結果で二人の相性を診断するみたいだ。
「なんだか、ちょっとドキドキしますね」
「うん、そうだね」
「私たちなら、きっと相性は……あっ、はじまります!」
画面が切り替わって、最初の質問が表示された。
その内容は……
『恋人と母親が崖から落ちそうになっています。どちらを助けますか?
1・恋人
2・母親
3・どちらも選べない』
「いきなり重い質問がきた!?」
「恋人と母親……ある意味、究極の選択ですね……」
「恋愛診断に、なんでこんな質問が必要なんだろう……」
とりあえず、迷った末に3を選択した。橘さんも3を選んだ。
『本当にそれでいいの?』なんていう意味深な確認メッセージが表示された後、次の質問に移る。
『今夜の夕食は魚? それとも肉?
1・魚
2・肉
3・なにも食べない』
「軽い! 今度はどうでもいいくらい軽い質問だ!」
「えっと、魚……と」
「橘さん、マイペースだね……」
橘さんのマイペースっぷりにある意味感心しながら、私は2を選んだ。
『あなたはどのタイプ?
1・アウトドア派
2・インドア派
3・かめはめ派』
「意味がわからない!? どういうこと!?」
「私は3で」
「よりにもよってそれ!?」
1と2はいいけど……かめはめ派って、なに? どういうこと? 必殺技を撃っちゃうの?
そして、なんで橘さんは3を選んでいるの?
なにがなんだかわからない。
私は混乱しながら、2を押した。
『今履いている下着は何色? はあはあ……
1・白
2・黒
3・それ以外』
「質問内容が変態じみている!」
「白ですね」
「橘さんは、わざわざ口にしないでいいから!」
この相性占いのゲーム機を制作した人は、ちょっと頭がおかしいと思う。
なんともいえない疲労感を感じながら、私は3を選択した。
『なんか疲れてる?
1・疲れてる
2・疲れていない
3・大丈夫だ、問題ない』
「こっちの考えが読まれている!? っていうか、これは質問じゃないよね!」
「疲れていない……と」
「橘さん、本当にマイペースだね……」
私は1を連打した。
『結果発表です』
最後の質問(?)を終えて、画面にそんな文字が表示された。
そして、待つこと少し。
『二人の相性は ☆☆☆ です。
文句なしのお似合いカップル。
二人の想いは通じ合っていて、心の底からわかりあえることでしょう。
ただ、隠し事には要注意。
ちょっとしたことから、大変なことになってしまうかも?』
「風祭くん、見てください! 私たちの相性、最高ランクの☆三つですよ!」
「うん、そうだね……」
「うれしいです。これで、私たちの将来は安泰ですね」
「むしろ不安でいっぱいなんだけど……」
いったい、どういう計算をして、この結果を導き出したんだろう……?
ツッコミを入れたい気分に駆られるけど、
「ふふふっ、やりました。ちょっと不安でしたが、相性抜群でよかったです。最高です」
笑顔の橘さんを見ていたら、なんだかどうでもよくなってきた。
おかしな相性占いだったけど、これはこれでよしとしよう。
「くっ……お姉ちゃんとあんなに楽しそうにして……爆発しろ、爆発しろ……」
なにやら、後ろの方から物騒な声が聞こえてきた。
振り返るのは怖いので、なにも聞かなかったことにする。
『葵、いい調子だ』
どこかで様子を見ていたんだろう。満足そうな感じで桜から連絡が入った。
『その調子で、もっともっと橘ほのかを煽れ』
「別に、意図して煽っているわけじゃないんだけど」
『それでも、二人が楽しそうに見えるのは間違いない。今の調子でデートを続ければ、本来の目的は達成できる』
「そうかな?」
『そうだ。なので、今の調子を維持すること。以上』
通信が切れた。
「楽しそうに見えたんだ……」
他の人から見たら、私と橘さんは仲良くしているように見える。
その事実に、私はなんともいえない気恥ずかしさを覚えた。
「風祭くん、どうかしましたか?」
「……ううん、なんでもないよ」
今は、橘さんとの時間を大事にしよう。
気持ちを切り替えて、笑顔を浮かべる。
「それじゃあ、次はなにをしようか?」
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