22話 宣戦布告
「ほのかちゃん、ちょっと遅いね。まだかな?」
ほのかちゃんには、事前に今日のデートのことを伝えてある。
私たちがデートをすると知ったほのかちゃんは、
『二人の関係が正しいか間違っているか、それを確かめるためにデートを見届けさせてもらうわ! 決して気になるからとか邪魔したやろうとか、そういうことは思ってないんだからね!? 勘違いしないでよっ』
そう言って、意気込んでいた。
すごくわかりやすい子だ。
そんなわけなので、絶対に来ると思う。
というか、来てもらわないと困る。ほのかちゃんがいないと、橘さんとデートをする意味がない。
『時間的には、そろそろ来てもおかしくないが……まだ見えないな』
「うーん、どうしたのかな? 橘さん、なにか知らない?」
「いえ、あの子とは別々に家を出たので……電話をかけてみますか?」
「お願いできる?」
「はい、わかりました」
『……いや。その必要はなさそうだ』
桜がそう言った直後、聞き覚えのある声が響いた。
「待たせたわね!」
振り返ると、ほのかちゃんが腕を組んで仁王立ちしていた。
「おはよう、ほのかちゃん。遅いから、ちょっと心配したよ」
「うん、おはよう……って、違う!」
「どうしたの? いきなり大きな声を出して」
「なんで呑気にあいさつなんてしてるのよ! あたしたちは敵同士、慣れ合うつもりなんてこれっぽっちもないんだから!」
「あいさつは大事だよ? それに、私は敵同士っていう感覚はないんだけどなあ」
イタズラをされて困っているのは確かだけど、敵という風に見たことはない。ちょっと変わった後輩の女の子、友達の妹……っていう感じだ。どことなく憎めない感じもするから、親近感もあったりする。
だけど、ほのかちゃんは私の答えを別の意味に捉えたのか、キッと目を鋭くした。
「なにそれ、あたしなんか眼中にないって言うつもり?」
「え? そういう意味じゃなくて……」
「いい度胸してるじゃない。あたしにケンカを売って、タダで済むと思わないでよ」
「タダで済まないっていうと、具体的にはどうなるの?」
「え?」
タダで済まない。
よく聞くセリフだけど、具体的にはどうなるんだろう?
そんな興味を覚えてたずねてみると、ほのかちゃんはぴたっと固まった。
「そ、それは……」
「それは?」
「……ひ、酷いことになるのよ!」
今、理解した。
タダで済まないって言っている人は、たぶん、なにも考えないで発言しているに違いない。
「と、とにかく、今日はそんな話をするためにこんなところに来たんじゃないわ!」
あ、話を逸らした。
「あんたが本当にお姉ちゃんにふさわしいかどうか、この私が見極めてあげる!」
びしっと私に指先を突きつけて、ほのかちゃんは高らかに宣言した。
「あたしが納得しなかったら、今後、一切お姉ちゃんに近づかないこと! いい!?」
どうしよう?
気軽に返答できない内容だけど……
『ここは了承しろ』
迷っていると、桜の助言が聞こえてきた。
ほのかちゃんに聞こえないように、小声で桜に問いかける。
「でも、もしもほのかちゃんが納得してくれなかったら?」
『約束は破るためにある』
「うわ……」
『それに、そんな事態にならない自信はある。問題ない』
「まあ、桜がそこまで言うのならいいけど……」
『……ふと疑問に思ったんだが、葵はどんな結果がベストなんだ?』
「どういうこと?」
『仮に橘ほのかの言う通りになっても、それはそれで構わないのでは? 葵は、橘伊織のアプローチを苦手に思ってるように見えたが』
「それは……」
私を矯正してみせると言った橘さんと離れることになれば、それは都合のいい展開だ。
でも……どうしてだろう?
今は、その展開を素直に受け入れられない自分がいる。
少し前までは、こんなことを思わなかったはずなのに、なんで……
「ちょっと、返事はどうしたの?」
ほのかちゃんが焦れたように私の返事を求めてきた。
気になることはあるけれど……
今は、目の前のことに集中しよう。
私は気持ちを切り替えて、ほのかちゃんに頷いてみせる。
「うん、それでいいよ。ほのかちゃんが納得できなかったら、私は橘さんに近づかない。それでいい?」
「必ずほえづらをかかせてやるんだから!」
メラメラと闘志を燃やすほのかちゃん。
その情熱を、もう少し、別の方向に向けてほしかったなあ。
「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」
話をまとめるように、成り行きを見守っていた橘さんが口を開いた。
「うん、そうだね」
「ふふっ、今日は楽しい日になるといいですね」
「このあたしの目はごまかせないから、覚悟しなさい!」
姉妹で対照的な返事が返ってきた。
今日は、いったいどんな一日になるんだろう? 橘さんの言うとおり、楽しい一日になれば……ううん、せめて、なにも事件のない穏やかな一日であってほしい。
不安を胸に抱きながら、私と橘さんのデートがはじまった。
基本的に、毎日更新していきます。
気に入っていただけましたら、ブクマや評価などをどうぞよろしくお願いします!




